地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 地図の上で人口減少率を見ると、町は数字に変わる。5%減った町、10%減った町、15%減った町。同じ程度の減少率を示す自治体が同じ色で塗られていると、それらの町では同じように人口減少が進み、同じように暮らしにくくなっているようにも見える。しかし実際の町を歩いてみると、その印象は簡単に裏切られる。人口が減っているにもかかわらず駅の近くにはスーパーが残り、診療所や薬局にも比較的容易に行ける町がある一方で、ほとんど同じ人口減少率なのに、買い物にも通院にも自動車が欠かせず、公共交通もわずかしか残っていない町があるからである。

 2025年国勢調査の人口速報集計によれば、日本の人口は2020年から約310万人減少し、減少率は2.5%となった。さらに全国1719市町村のうち1558市町村、割合にして90.6%で人口が減っている。10%以上人口が減少した市町村も476に達しており、人口減少は一部の過疎地域だけに生じる特別な現象ではなくなった。人口が減る自治体の方が圧倒的多数になったのであれば、これからの地域分析で重要なのは「人口が減った町か、増えた町か」という単純な分類だけではなく、「人口が減った後にも、どのような生活条件が残っているのか」を見ることではないだろうか。

 ただし、2025年国勢調査について注意しなければならないこともある。現在公表されている人口速報集計は、市区町村別の人口や男女別人口、世帯数などを迅速に把握するための速報値であり、年齢構成や世帯構造などを含む詳しい分析には、今後公表される確定的な集計結果を待つ必要がある。したがって、現段階で2025年国勢調査だけを使って町の暮らしやすさまで断定することはできない。それでも、この新しい人口の数字を入口として、既存の人口構成、交通、医療、商業、土地利用などの情報を重ねれば、なぜ同じ程度に人口が減った町の間で生活条件に差が生じるのか、その構造を考えることはできる。

人口減少率は、町の状態を測る「体温」にすぎない

 人口減少率は地域を知るための重要な数字ではあるが、それだけで地域社会の状態を診断できるわけではない。体温が38度あると分かっても、その原因が感染症なのか、炎症なのか、それとも別の要因なのかまでは体温計だけでは分からないのと同じように、人口が10%減ったという数字は地域に大きな変化が起きていることを示しても、それが住民の日常生活にどのような影響を与えているのかまでは説明してくれない。

 例えば人口1万人だった2つの町が、5年間でともに9000人になったとする。数字だけを見れば、どちらも人口が10%減少した同じ町に見える。しかし一方では住民の多くが駅や旧来の中心市街地の周辺にまとまって暮らし、もう一方では山間部や海岸部、郊外住宅地まで広い範囲に薄く住んでいるとすれば、9000人という人口が持つ意味は違ってくる。人口がある程度集まっていれば、スーパー、診療所、薬局、金融機関、公共交通などが一定数の利用者を確保できる可能性が高まるが、同じ9000人でも広い地域に分散していれば、それぞれの施設が実際に利用できる人口は小さくなりやすいからである。

 ここで重要なのは、人口密度が高ければ必ず暮らしやすく、低ければ必ず暮らしにくいという単純な関係ではないということである。地形、道路網、自動車保有状況、所得、観光客や周辺地域からの利用者などによって条件は変わる。それでも人口密度や人口の集まり方が、生活サービスの維持や行政サービスの効率と関係することは、都市政策や地域経済の研究でも繰り返し指摘されている。人口減少率を見るだけでは、この「人がどこに住んでいるのか」という空間的な違いが消えてしまう。

人は減っても、町の大きさは同じようには縮まない

 人口減少には少し奇妙な性質がある。人の数は減っていくのに、道路や橋、水道管、下水道管、公園、学校、集会所といった町の物理的な大きさは、それに合わせて簡単には小さくならない。

 人口が1万人から9000人へ10%減ったとしても、町の道路が自動的に10%短くなるわけではなく、水道管や下水道管も10%短くなるわけではない。人口が増加していた時代につくられた住宅地が広い範囲に残っていれば、少なくなった住民が、以前とほぼ同じ広さの道路網や上下水道網、公共施設を支えることになる。その結果、条件によっては住民1人当たりの維持負担が大きくなる可能性がある。

 もちろん人口密度と行政コストの関係は単純ではなく、人口が密集していれば必ず行政費用が安くなると断定することはできない。人件費、公共施設の老朽化、地形、自治体の面積、行政サービスの水準など多くの要因が影響するからである。しかし一般的には、人口が広い範囲に分散するほど、少ない住民のために長い道路や上下水道網を維持しなければならない場面が増える。この意味で人口減少後の町の姿を考えるときには、「人口が何人残ったか」だけでなく、「どのくらいの面積に、どのように残ったか」を見る必要がある。

 国が人口減少時代の都市政策として、住宅や医療、福祉、商業などの都市機能を一定の地域へ誘導し、それらを公共交通で結ぶ考え方を重視してきた背景にも、この問題がある。人口そのものを短期間に増加させることが難しいのであれば、限られた人口で生活機能を維持できる町の構造をつくる必要があるからである。

スーパーが残るかどうかは、町の人口だけでは決まらない

 暮らしやすさを考えるとき、もう一つ重要なのが生活サービスを維持できる利用者の規模である。スーパー、病院、診療所、薬局、コンビニエンスストア、銀行、バス路線などは、一定数の利用者がいることで成立している。

 ここで注意しなければならないのは、「人口が何人を下回ったらスーパーがなくなる」という全国共通の境界線が存在するわけではないということである。例えば人口5000人ならスーパーが必ずあり、4000人なら必ずなくなるというものではなく、施設が存在する確率は人口規模とともに変化する。観光客が多い町なら住民人口が少なくても店舗が成立することがあり、隣接自治体から多くの利用者を集める店もある一方で、人口が比較的多くても大型店が隣の都市に集中していれば町内の商店が減少することもある。

 それでも人口規模と生活施設の立地には一定の関係があり、人口が小さくなるほど病院や小売店などが存在する可能性が低下する傾向は、公的な地域分析でも確認されている。この関係が重要なのは、人口減少と暮らしやすさが必ずしも滑らかに変化しない可能性を示しているからである。

 人口が毎年2%減ったからといって、スーパーの便利さが毎年2%ずつ悪くなるわけではない。しばらくは何も変わらなくても、利用者減少、人手不足、経営者の高齢化、設備更新など複数の条件が重なった時点で店舗が閉鎖されることがある。バスについても同様で、利用者が少し減ったから便数が少しだけ減るとは限らず、ある時点で大幅減便や路線廃止が起こることがある。

 人口減少そのものは連続的であっても、住民が利用できるサービスは施設単位、路線単位で存在するため、生活条件は階段を一段下りるように非連続的に変化することがある。同じ10%の人口減少でも、その間に主要なスーパーを失った町と、生活施設が維持された町とでは、住民が感じる変化が大きく異なるのはこのためである。

「何人減ったか」だけでなく「誰が減ったか」を見る

 人口減少率のもう一つの弱点は、年齢構成の変化を隠してしまうことにある。同じ1000人の減少でも、若い世代や子育て世代が多く転出した町と、高齢者の自然減が中心だった町とでは、地域社会に起こる変化は同じではない。

 若年層や現役世代の流出が大きければ、学校の児童生徒、地域で働く人、商店の利用者、自治体の税基盤を支える人口などが縮小する可能性がある。一方で高齢人口の自然減が中心でありながら若い世帯の流入が一定程度続いている地域では、総人口は減っていても、保育、教育、住宅市場、労働力などの状況は異なるかもしれない。人口統計の表では両方とも「10%減」と表示されるが、町の内部で起きている人口動態はまったく別のものである。

 だからこそ、2025年国勢調査についても人口速報値だけで町の将来を判断するべきではない。年齢別人口、世帯構造、住宅の状況など、これから公表される詳細な結果と過去の国勢調査を組み合わせ、どの世代が増え、どの世代が減ったのかを見て初めて、その人口減少の意味が明らかになる。

地方では「何キロ離れているか」より「行けるかどうか」が重要になる

 町の地図を見ているだけでは分かりにくい暮らしやすさの違いがある。それが移動の問題である。

 病院まで5キロという距離は、自動車を運転できる人ならそれほど遠く感じないかもしれない。しかし運転できない高齢者にとって、そこへ向かうバスが1日に数本しかなければ、同じ5キロが大きな障壁になる。反対に10キロ以上離れていても、駅から頻繁に鉄道やバスが運行されていれば、日常生活のなかでは利用しやすい場合がある。

 つまり地域の暮らしやすさを考えるとき、単純な地理的距離だけではなく、目的地までどの程度容易に到達できるかという「アクセスのしやすさ」を見る必要がある。高齢化が進む地域ではこの問題がさらに重要になる。自動車を運転できている間はスーパーや病院が多少遠くても大きな問題にならなかった人が、免許を返納した途端に買い物や通院が難しくなることがあるからである。

 公共交通が縮小すれば、その不足分が家族の送迎によって補われる場合もある。統計の上では単にバス路線が減っただけに見えても、実際の地域社会では、子ども世代が親の通院や買い物のために時間を使うことで移動を支えていることがある。このような負担まで考えれば、交通は単なる移動手段ではなく、その地域で暮らし続けられるかどうかを左右する生活基盤なのである。

町境を越えると、人口の意味まで変わってくる

 自治体別の人口統計を見ていると、もう一つ見落としやすいものがある。人の生活は市町村境で完結しているわけではないという事実である。

 人口8000人の町があったとしても、隣に人口の大きな都市があり、鉄道や自動車で20分程度で行けるなら、大規模な病院や商業施設を町内に持たなくても生活が成り立つ可能性がある。ところが同じ8000人でも、周囲を山に囲まれ、まとまった都市まで1時間以上かかる町なら、町の中または近隣地域で維持しなければならない生活機能は多くなる。

 両方の町が5年間で同じ10%人口を減らしたとしても、前者は隣接都市の商業、医療、雇用などを利用できるのに対して、後者は自分たちの人口で多くの機能を維持する必要がある。そう考えると、「人口何人なら暮らしやすい町なのか」という問い自体があまり適切ではないことが分かる。

 住民にとって重要なのは行政区域の中に何人いるかではなく、日常的に移動できる範囲の中に、どれだけの人、仕事、病院、店、公共交通が存在しているかである。地域を分析するときには市町村単位の人口だけを見るのではなく、隣接都市との関係や通勤・通学圏、医療圏、商圏まで考える必要がある。

そもそも「暮らしやすさ」とは何なのか

 ここまで考えると、もう一つ慎重にならなければならない言葉がある。それが「暮らしやすさ」である。

 暮らしやすさは、人口のように一つの数字として直接観測できるものではない。スーパーまでの移動時間、病院への到達時間、公共交通の運行頻度、住宅費、所得、災害リスク、教育環境、福祉サービスなど、さまざまな条件の組み合わせによって生まれる概念である。しかも何を重視するかは人によって異なり、子育て世帯なら学校や保育施設が重要かもしれないが、高齢者なら医療や買い物、公共交通の重要性が高くなる。

 したがって、人口減少率と暮らしやすさを直接結び付けて、「人口が減ったから暮らしにくくなった」と断定するのは科学的には慎重であるべきだろう。人口減少と生活条件の変化の間には、人口密度、年齢構成、交通、施設立地、自治体財政、周辺都市との関係など、多くの要因が介在しているからである。

 逆にいえば、ここに地域分析の面白さがある。同じ人口減少率の町を比較して、医療へのアクセス、買い物へのアクセス、公共交通、人口密度、年齢構成などを重ねていけば、「人口が減った町」という一枚の地図からは決して見えなかった地域の違いが浮かび上がってくる。

人口減少に強い町は、「人口が減らない町」とは限らない

 人口減少という言葉には、町が少しずつ衰退していくような響きがある。しかし人口が減少しただけで、その町が直ちに暮らしにくくなるわけではない。重要なのは、減少した人口に合わせて町の構造や生活サービスをどこまで組み替えられるかである。

 人口が減っているにもかかわらず、人口増加時代につくられた公共施設やインフラを同じ形で維持し、住宅地が広い範囲に残り続ければ、限られた住民でそれらを支える負担は大きくなる可能性がある。一方で住宅や生活サービスを一定の地域に集め、周辺地区から公共交通などでアクセスできるようにし、さらに隣接自治体と医療や商業などの機能を補完できれば、人口減少そのものを止められなくても、生活条件の急速な悪化を抑えられる可能性がある。

 人口減少に強い町とは、必ずしも人口を増やすことに成功した町ではないのかもしれない。人口が減ったという現実を前提として、それでも住民が買い物をし、病院へ行き、移動し、必要な行政サービスを受けられる構造へ変化できる町こそ、人口減少時代に強い町だと考えることもできる。

国勢調査の地図には「暮らしやすさ」は描かれていない

 2025年国勢調査の地図を開けば、日本の大部分の自治体が人口減少地域として現れる。しかし同じ色で塗られた町の間にも、これから先の暮らしやすさには大きな差が生まれるはずである。

 その差を知るためには、人口減少率の隣に年齢構成を置き、さらに住民がどこに住んでいるのかを重ね、スーパーや病院までどれくらいの時間で行けるのか、鉄道やバスがどの程度残っているのか、隣接する都市とどのようにつながっているのかを見ていかなければならない。そこへ道路、上下水道、公共施設を維持する行政側の条件まで加えていけば、同じ人口減少率の裏側にある町の違いが少しずつ見えてくる。

 国勢調査は、町の未来を自動的に教えてくれる予言書ではない。そこに記録されている人口は、地域を理解するための最も重要な基礎数字の一つではあるが、それだけで生活の姿を説明できるものでもない。

 同じ10%減という数字の向こう側で、ある町ではスーパーの灯りが残り、バスが駅へ向かい、診療所へ比較的容易に通える一方で、別の町では同じ10%の人口減少が、買い物のための長い自動車移動や、家族による病院への送迎として現れているかもしれない。その違いを生み出しているのは人口減少率そのものではなく、人口の集まり方、年齢構成、施設、交通、周辺都市との関係といった、数字の背後にある地域の構造である。

 国勢調査が数えているのは、そこに住んでいる「人の数」である。しかし人口減少時代に私たちが本当に知りたいのは、その人たちがそこでどのように暮らし続けられるのかということである。人口が同じだけ減った町を比べる意味は、どちらが勝ち、どちらが負けたかを決めることではない。同じ人口減少という条件のもとでも、生活を維持できる町と難しくなる町の違いを探し、その背後にある構造を見つけることにある。人口減少時代の地域分析とは、人口という一つの数字と、人々の日常生活との間に横たわる、目には見えにくい距離を測っていく作業なのである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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