地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 地方創生について語るとき、人口ほど分かりやすい数字はない。転入者が何人増えたのか、社会増減がプラスになったのか、若い世帯が何世帯移住してきたのか。自治体の成果を説明するときにも、町の将来を予測するときにも、人口はほとんど共通通貨のように使われている。

 それは当然でもある。人がいなければ町は成り立たないし、人口が減れば税収、消費、労働力、学校の児童数、公共交通の利用者まで、多くのものが縮小していく。だから人口を重視すること自体は間違っていない。

 しかし、人口3000人の町が3100人になったとき、その町は本当に100人分だけ強くなったと言えるのだろうか。反対に人口が3000人のままだとしても、買い物を支える店が一軒増え、住宅修繕を頼める事業者が残り、訪問介護を担う人が現れ、地域外から仕事を受注する小さな会社が数社生まれたなら、その町は以前より暮らしやすく、経済的にも持続しやすい場所になっている可能性がある。

 ここから、人口減少時代の地方について少し違った問いが生まれる。移住者を100人増やすことと、地域を支える事業者を10人増やすことでは、どちらが町にとって大きな効果を持つのだろうか。

 もちろん、「100人」と「10人」をそのまま比較して答えを出すことはできない。これは実証研究によって確定している比率ではなく、地域経済の構造を考えるための思考実験である。重要なのは人数そのものではなく、その人たちが地域の中でどのような所得、雇用、消費、生活サービスを生み出すのかという点にある。

人口が増えても、そのお金が町に残るとは限らない

 移住者100人には、当然ながら経済効果がある。住宅を借りたり購入したりし、食料を買い、車を利用し、医療を受け、電気や水道を使い、税金を払う。子育て世帯なら学校や保育サービスを利用し、働く世代なら地域企業の人手不足を補うこともある。

 かつて政府が日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community・継続的ケア付き高齢者居住共同体)構想を検討した際には、単身高齢者100人が一人当たり月約15万円を消費すると仮定した場合、年間約1億8000万円の消費需要が生じるという試算も示された。

 ただし、これは高齢者移住を想定した当時の政策上のモデルであり、現在の一般的な移住者100人にそのまま当てはめられる数字ではない。それでも、100人という人口増加が一定規模の需要を生み出すこと自体は理解できる。

 問題は、その1億8000万円がそのまま地域所得になるわけではないことである。町内のスーパーで食品を購入しても、商品が町外の卸売会社から仕入れられていれば、売上の多くは町外へ流れる。住宅ローンの利息は都市部の金融機関へ支払われ、電気通信料金は全国企業へ送られ、日用品をインターネット通販で購入すれば、その支出も町の外へ出ていく。休日には隣の市の大型商業施設へ出掛けるかもしれない。

 そうすると、その人は人口統計上では確かに町民であっても、消費のかなりの部分は町の経済を通過して外へ流れていく。ここで人口とは別の数字が重要になる。それは、「地域に入った所得のうち、どれだけが地域の中に残るのか」という数字である。

地域経済は「人口の数」だけではなく「お金の流れ」でできている

 環境省が行っている地域経済循環分析では、地域経済を生産、分配、支出という流れで捉える。地域の企業がどれだけ付加価値を生み、その所得が住民や企業へどのように分配され、それがどこで使われるのかを見ることで、地域から所得が流出しているのか、それとも地域内で循環しているのかを分析する。

 この視点に立つと、地方創生の見え方は大きく変わる。人口100人を増やすことは、町という器に新しい水を注ぐことに似ている。しかし器の底に大きな穴が開いていれば、水を注ぎ続けても十分にはたまらない。地域内に商店がなく、住宅修繕を担う企業もなく、仕事もなく、日常生活の多くを町外の企業に依存しているなら、住民の所得は地域外へ流れ続ける。

 一方、地域で必要とされる商品やサービスを供給する事業者が増えれば、その穴の一部を塞ぐことができる。さらに地域外へ商品やサービスを販売する企業が生まれれば、今度は町の外から所得を引き込む管ができる。

 ここに、人口と事業者の決定的な違いがある。人口は主として需要を生み出すが、事業者はその需要を所得や雇用へ変換し、場合によっては地域外から新しい所得を持ち込む装置にもなる。

一軒の店がなくなっても、人口統計には何も起きない

 海辺の小さな町を想像してみる。そこで唯一の鮮魚店が閉店したとしても、翌日の住民基本台帳には何の変化もない。町の人口は昨日と同じ3000人である。

 しかし暮らしは確実に変わる。魚を買うために隣町まで車を走らせる住民が増えるかもしれないし、せっかく隣町まで来たのだから、野菜も酒も日用品もそこで買うようになる場合もある。つまり、一軒の鮮魚店がなくなったことで、魚以外の消費まで町外へ移動する可能性が生まれる。

 さらに、高齢になって自動車を運転できなくなった人にとっては、これは単なる店の閉鎖ではなくなる。「魚をどこで買うか」という問題が、やがて「この町で生活を続けられるか」という問題へ変わるからである。

 もっとも、鮮魚店が一軒閉店すれば必ず他の消費まで町外へ流れる、と科学的に断言できるわけではない。住民の行動は交通条件、年齢、通販利用、他店舗の存在などによって変わる。ここで重要なのは、店舗一軒が持っている価値が、その店の売上高だけでは測れないということであり、人口統計には表れない生活機能が地域には存在しているという点である。

事業者一人は、必ずしも「一人分」ではない

 住民一人が基本的には一人分の生活需要を持って町に加わるのに対し、事業者は複数の住民の需要を束ね、それを所得や雇用へ変えることがある。

 例えば、小さなパン屋が開業したとする。経営者一人が移住してきただけなら、人口は一人増えただけである。しかし、そのパン屋が二人を雇い、近隣農家から食材を仕入れ、町内の電気工事店に設備修理を依頼し、近くの宿泊施設へパンを納めるようになれば、一つの事業が複数の経済関係を作る。

 さらに観光客がそのパンを買えば、地域外から所得が入ってくる。一人の事業者が地域の中に作るものは、一人分の消費だけではなく、人と企業を結び付ける取引関係である。そして、その取引関係が別の取引関係とつながることで、町の中に経済の網ができていく。

 中小企業庁の小規模企業白書でも、小規模事業者は単に雇用や付加価値を生み出す主体としてだけではなく、人口の少ない地域で商業や生活サービスを維持する存在として位置づけられている。これは人口減少地域では特に重要であり、大きな売上がなければ成立しない事業よりも、小さな需要で成り立つ事業の方が、小さな町に残ることができる場合があるからだ。

 ただし、ここには逆の側面もある。小規模事業者は売上規模が小さいため地方に立地できる一方、売上が少し減っただけでも経営が苦しくなる場合がある。人口減少によって顧客数そのものが減れば、小さな店ほどその影響を強く受ける可能性があるため、小規模事業者が地方を無条件に救うわけではない。人口と事業は、互いに支え合う関係にある。

では、10人の事業者なら何でもよいのか

 ここが最も重要なところである。事業者を10人増やせば、それだけで移住者100人より地域に大きな効果を生むわけではない。

 人口3000人の町に似たようなカフェが10軒増えたとしても、町民が飲むコーヒーの量が突然10倍になるわけではない。新しい店に客が移れば既存店の売上が減り、地域全体の需要が増えていないのであれば、売上が事業者間で移動しただけで、町全体としての所得はほとんど増えないこともあり得る。

 経済学では、こうした現象を置換効果として考える。特に人口減少地域では市場そのものが縮小しているため、新規事業者が増えたことと地域経済が成長したことを同一視することはできない。

 では、どのような事業者なら意味が大きいのだろうか。例えば、それまで町外の事業者へ支払っていた住宅修繕を引き受ける会社ができれば、外へ流れていた支出の一部を町内に残すことができる。地域の農産物を加工し、都市部へ販売する会社が生まれれば、町の外から所得を獲得できる。

 さらに、高齢者の買い物配送、空き家管理、移送サービス、訪問介護など、これまで十分に存在しなかったサービスを提供する企業が生まれれば、単なる経済活動を超えて地域の生活機能そのものを維持できる。つまり、事業者の価値は数ではなく、その事業がどこから所得を得て、どこへ所得を流し、どの生活機能を支えているかによって変わるのである。

「経済効果」と「生活を支える効果」は同じではない

 ここで、もう一つ区別しておかなければならないことがある。地域にとっての「効果」とは、そもそも何を意味するのかという問題である。

 地域内総生産が増えることを効果と考えることもできるし、住民所得や雇用、自治体税収が増えることを重視する考え方もある。しかし人口減少地域では、それだけでは十分ではない。高齢になっても買い物や通院ができ、家が壊れたときには直してもらえ、日常生活を続けられるという「暮らしの維持」もまた、地域にとって重要な効果だからである。

 同じ事業者でも、この物差しによって評価は変わる。地域外へ製品を年間数億円販売する会社は、地域所得や雇用への影響が大きいかもしれないが、高齢者の日常生活を直接支えるわけではない。一方、小さな移動販売事業は地域内総生産への影響こそ小さいかもしれないが、自動車を運転できない高齢者にとっては、その町で生活し続けるための重要な基盤になる。

 つまり、地域を強くすることと、暮らしを守ることは重なり合いながらも完全には同じではない。人口減少地域では、この二つを同じ物差しだけで評価すると、金額には表れにくい重要なサービスを見落としてしまう。

 したがって、事業者10人と移住者100人を比べる場合も、単純な経済波及効果だけでは不十分である。所得、雇用、地域内循環を見ると同時に、買い物、医療、介護、交通、住宅維持といった生活維持効果まで含めて考えなければ、本当の地域への影響は見えてこない。

それでも移住者100人には大きな価値がある

 ここまで読むと、「人口政策より事業者支援の方が優れている」という話に見えるかもしれない。しかし、そう単純ではない。事業には顧客が必要であり、人口が減り続ければ、地域住民を主な顧客とする商売は市場そのものを失っていく。

 若い世帯を中心に100人が移住してくれば、住宅、飲食、小売、教育、保育、交通、修繕など、多くの需要が長期間にわたって生まれる可能性がある。町内企業で働けば人手不足の改善にもなるし、テレワークなどによって地域外から所得を得ている人が移住すれば、その所得を地域へ持ち込み、町内で消費することにもなる。

 この場合、移住者は単なる消費者ではない。地域外所得を持ち込む存在でもあり、場合によっては新たな事業を起こす人になることさえある。だから、「移住者」と「事業者」を完全に別のものとして比べることにも限界があるのであり、両者は本来、一つの地域経済循環の中に存在している。

「人口を増やせば店が増える」という順序を疑ってみる

 従来の地方創生には、暗黙のうちに一つの順序が想定されてきた。人を呼べば消費が増え、消費が増えれば店が増え、その店が雇用を生み、さらに町の魅力が高まるという流れである。

 理屈としては自然である。しかし人口減少が急速に進む小さな自治体では、この順序が成立するまで待つことができない場合がある。人口が十分に増える前にスーパーが撤退し、ガソリンスタンドがなくなり、建設業者が廃業し、交通事業者まで撤退すれば、町は生活する場所として少しずつ不便になっていく。

 「人口が少ないから店がなくなる」という関係だけなら、人口を増やせば解決できるように見える。しかし現実には、生活サービスが減ったことで町の利便性が低下し、その結果として移住先に選ばれにくくなるという逆方向の力も働き得る。もっとも、移住先の選択は仕事、住宅価格、自然環境、教育、医療、家族関係など多くの条件によって決まるため、店舗数だけで移住者数が決まるわけではない。それでも、生活に必要なサービスが存在することが、移住先として選ばれる条件の一つになることは十分に考えられる。

 さらに問題なのは、人口減少とサービス縮小が互いを強める循環が生まれることである。人口が減れば店を維持する需要が小さくなり、店が減れば暮らしの利便性が下がり、それがさらに人口流出を促す可能性がある。こうして人口減少が単なる人数の変化ではなく、生活サービスの連鎖的縮小へ移行すると、町の衰退は徐々にではなく、ある段階から急に深くなることも考えられる。

 そうであるなら、人口を増やしてから店を増やすのではなく、人口がまだ一定程度残っているうちに生活を支える事業を維持するという政策にも合理性が生まれる。それは移住政策を諦めることではなく、むしろ将来の移住者が選ぶことのできる町を先につくっておくという発想である。

100人と10人を比較するなら、人数ではなく機能を見る

 最初の問いに戻ろう。移住者100人より地域を支える事業者10人を増やした方が効果は大きいのか。

 科学的に言えば、この問いに一般的な答えは存在しない。100人の所得、年齢、職業、消費行動が異なるのと同じように、10事業者についても業種、売上、雇用人数、仕入先、顧客構成は大きく異なるからである。

 例えば100人の移住者が、一人平均年間300万円の所得を地域外から得ているなら、単純計算では年間3億円の所得が地域へ持ち込まれる。その多くが地域内で使われるなら、町への影響はかなり大きい。

 反対に、10の事業者がそれぞれ地域外へ年間5000万円の商品やサービスを販売しているなら、売上規模だけでも合計5億円になる。さらに地域内で人を雇い、地元企業から仕入れ、そこで得た所得が再び町内で消費されるなら、その経済的影響は最初の5億円だけでは終わらない。

 したがって、どちらが大きいかは100と10という人数では決まらない。決めるのは、地域の外からどれだけ所得を持ち込み、その所得が地域の中にどれだけ残り、さらにどれだけ次の取引へつながるのかという構造である。

 しかも生活サービスについて考えれば、金額だけでも結論は出ない。一人の医師、一軒のスーパー、一人の介護事業者、一軒のガソリンスタンドが失われたことで、人口数千人の暮らしが変わることもある。この意味では、一人の事業者が一人分をはるかに超える地域機能を担うことは十分にあり得るのである。

地方創生の成績表を変えてみる

 経済産業省と内閣官房が提供するRESAS(Regional Economy Society Analyzing System・地域経済分析システム)でも、地域を見るための数字は人口だけではない。産業構造、事業所、従業者、消費、観光など、複数の指標を組み合わせて地域経済を見ることができる。

 2026年には市区町村単位の状況をまとめて確認する地域経済総合分析も追加され、地方を人口だけで評価しないためのデータ環境は以前より整ってきた。そうであるなら、地方創生の成績表そのものも変えてよいのではないだろうか。

 人口が20人増えた町を成功とし、20人減った町を失敗とするだけでは、町の実態を十分には表せない。人口が減っていても、地域外から所得を獲得する事業が育ち、町外へ流れていた修繕費が町内企業へ回り、買い物や交通を支える新しいサービスが成立しているなら、地域の持続可能性は以前より高くなっているかもしれない。

 逆に人口が増えていても、仕事、買い物、医療、教育の大部分を町外に依存し、所得がほとんど地域内に残らないなら、人口統計ほど地域経済は強くなっていない可能性がある。つまり、これからの地方創生では「何人増えたか」という数字だけでなく、その人口によって、あるいは事業によって「町の中で何ができるようになったのか」を見る必要がある。

地域を支える10人とは誰なのか

 結局、移住者100人より事業者10人の方が大きな効果を持つ条件は、かなり限定して考える必要がある。地域内の既存需要を奪い合うだけの10事業者なら、100人の移住者がもたらす新しい需要の方が大きい可能性がある。

 しかし、地域外から所得を獲得する事業者、これまで町外へ流れていた支出を地域内へ戻す事業者、地域住民を雇用する事業者、地元企業から仕入れる事業者、そして生活に欠かせないサービスを担う事業者が10人増えるのであれば、その影響は単純な10人分にはとどまらない。その10人によって、数百人の暮らしや複数の地域企業が支えられる場合もあるからである。

 さらに、「この町なら高齢になっても買い物ができる」「家が壊れても直してもらえる」「働く場所がある」という安心が生まれれば、それは既存住民の転出を抑える要因の一つになるかもしれない。そして、その生活環境が次の移住者にとって町を選ぶ理由の一つになる可能性もある。

 そう考えると、事業者政策と移住政策は競争相手ではなくなる。事業者を育てることが移住できる環境をつくり、移住者が増えることが事業の顧客や働き手を増やす。人口と事業が互いを支える循環が生まれたとき、初めて「人口増」と「地域経済の強化」が同じ方向を向く。

 地方創生で本当に増やすべきものは、人口だけではないのかもしれない。町の中で誰かが困ったとき、「それなら、ここでできます」と答えられる人が何人いるのか。食べること、移動すること、働くこと、家を直すこと、老いることを、地域の中でどこまで支えられるのか。

 人口表には、その数字は載っていない。しかし人口が減っていく時代には、その見えない数字こそが、町があと何年「普通に暮らせる場所」であり続けられるかを決めていくのではないだろうか。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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