地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 夕方になると、町のスーパーの駐車場に車が一台、また一台と入ってくる。入口には買い物かごが重なり、店内には野菜や鮮魚、肉、牛乳、総菜、弁当などが並んでいる。住民はそれぞれ必要なものを選び、レジで代金を支払い、夕食の材料を持ち帰る。あまりにも日常的な光景であるため、私たちはスーパーがなぜその場所で営業を続けられるのか、普段はほとんど意識していない。

 しかし、人口減少と高齢化が進む地方では、これまで当たり前に存在していた店舗が、将来も営業を続けられるとは限らない。住民が減れば地域全体の購買需要が縮小する可能性があり、人件費や電気料金、物流費が上昇すれば、人口がそれほど減っていなくても採算が悪化することがある。さらに、経営者の高齢化や後継者不足によって、一定の売上が確保されている店舗でも閉店を余儀なくされる場合がある。

 では、スーパーを一店舗維持するには、何人の住民が必要なのだろうか。この問いについて調べると、「食品スーパーには人口1万人~3万人程度の商圏が必要」という数字が出てくる。国土交通省の資料にも同様の数値が掲載されているため、一見すると人口1万人がスーパー存続の境界であるかのように思える。

 ところが、この数字をすべてのスーパーに適用すると、地方の実態を十分に説明できない。人口数千人規模の地域で営業する小規模な食品スーパーと、広い駐車場を備えた大型食品スーパーでは、設備も従業員数も必要な売上高も異なるからである。重要なのは、単純な人口の大小ではなく、その店舗がどのような需要を獲得し、どの程度の経費で営業しているかという経済構造である。

「人口1万~3万人」という数字の本当の意味

 国土交通省の「利用人口と都市機能」という資料には、売場面積2,000~3,000平方メートル規模の食品スーパーについて、周辺人口1万人~3万人という商圏規模が示されている。同じ資料では、売場面積1,000~1,500平方メートル規模のドラッグストアについても、同程度の周辺人口が一つの目安として挙げられている。

 ただし、この数字の性格を正しく理解する必要がある。資料に掲載されている商圏人口は、国土交通省が全国のスーパーの財務諸表や閉店事例を統計分析し、損益分岐点として算出したものではない。都市再構築戦略検討委員会における流通分野の専門家の説明を基に整理された実務的な参考値であり、資料自体も、人口規模と都市機能の対応は概略的なイメージであって、具体的な条件によって差が生じると注意している。

 したがって、「2,000~3,000平方メートル級の食品スーパーでは、周辺人口1万人~3万人が商圏の一つの目安になる」という説明には資料上の根拠があるが、「人口1万人未満の地域では食品スーパーは経営できない」という結論にはならない。まして、1万人と3万人の中間が2万人だからといって、スーパー一店舗の標準的な必要人口を2万人とすることもできない。数値の中間を取ることと、経営上の損益分岐人口を推定することは、まったく別の問題である。

 さらに、この目安には、統計的に推定された信頼区間や、全国の店舗に共通する最低人口としての意味はない。スーパーの出店を規制する法的な人口基準でもなく、店舗立地を検討する際の参考情報として扱うのが適切である。

「人口6,000人にスーパー2店舗」はなぜ考えられるのか

 仮に人口6,000人の地域に、地域密着型の個人スーパーが二店舗営業していたとしよう。人口を店舗数で単純に割ると一店舗当たり3,000人となるため、先ほどの1万人~3万人という目安とは大きな差が生じる。しかし、この状況は経済理論上、必ずしも矛盾しない。

 最初に確認すべきなのは、行政上の人口と、実際の商圏人口が一致するとは限らないことである。地域外から買い物客が訪れる場合もあれば、住民が隣接する市町村の大型店で日常的に買い物をする場合もある。観光地であれば観光客や別荘利用者の需要が加わり、幹線道路沿いの店舗であれば通勤者や通過交通による購買も考えられる。反対に、地域の人口が6,000人いても、その大部分が地域外で買い物をしていれば、地元店舗が獲得できる需要は小さくなる。

 また、二店舗が存在するからといって、6,000人の住民が3,000人ずつ均等に分かれて利用しているわけでもない。生鮮食品は近所の店、加工食品や日用品は大型店というように購入先を使い分けることもあり、一人の住民が複数の店舗を利用することも一般的である。スーパーが獲得する売上高を考える際には、客の人数だけでなく、来店頻度、購入単価、商品構成、競合店との購買の分担を把握する必要がある。

 さらに重要なのが、店舗の規模と経営形態である。売場面積300平方メートルの地域スーパーと、2,500平方メートルの郊外型食品スーパーでは、必要な設備投資や在庫、人員配置、冷蔵・冷凍設備、駐車場などの規模が大きく異なる。経営者自身が店頭に立つ店舗と、多数の従業員を雇用するチェーン店舗とでは、経費の構造も同じではない。

 ただし、小規模店舗は必ず低コストで運営できると考えるのも誤りである。大型チェーンには大量仕入れによる価格交渉力、共同配送、情報システムの共通化、広告宣伝費の分散といった利点がある。一方、個人スーパーでは仕入単価や小口配送費が割高になりやすく、経営者や家族の長時間労働によって営業を維持している場合も考えられる。設備が小さいことによる費用の削減と、規模の小ささから生じる不利な条件の両方を評価しなければならない。

 したがって、人口6,000人の地域で二店舗が営業しているという状況が確認されたとしても、それだけで「3,000人あれば一店舗経営できる」とは言えない。地域の需要構造や店舗ごとの収支を確認し、営業していることと十分な利益を確保していることを区別する必要がある。

全国統計から見える小型スーパーと大型スーパーの違い

 スーパーの規模によって営業実態がどの程度異なるのかを考えるうえで参考になるのが、全国スーパーマーケット協会、日本スーパーマーケット協会、オール日本スーパーマーケット協会の三団体による「2025年スーパーマーケット年次統計調査」である。

 この調査では881社を対象として286社から回答を得ており、回収率は約32.5%だった。回答企業には少数の店舗を運営する企業から多数の店舗を保有する企業まで含まれているが、回答率が100%ではないため、回答企業と非回答企業の間に経営状況や店舗規模の違いが存在する可能性には注意が必要である。また、調査に参加した企業の回答店舗に基づく集計であり、国内すべての食品スーパーを無作為に抽出した統計ではない。

 店舗の平日における一日平均来店客数は、全体平均で1,753.8人だった。売場面積800平方メートル未満では1,148人、800~1,200平方メートル未満では1,602.1人、1,200~1,600平方メートル未満では1,741.7人、1,600平方メートル以上では2,252.8人となっている。店舗規模の大きい区分ほど平均来店客数が多い傾向が確認できるものの、これらは実際に営業している回答店舗の実績であり、利益を確保するための最低来店客数ではない。

 また、この来店客数は商圏内の異なる住民の人数を表しているわけではない。同じ人が一週間に何度も来店することがあるため、平均来店客数1,148人の店舗について、周辺に1,148人の住民がいれば営業できるという解釈は成立しない。商圏人口と延べ来店客数は、明確に区別しなければならない指標である。

 さらに興味深いのが、売場面積一平方メートル当たりの年間売上高である。2025年調査では全体平均が133.7万円だったのに対し、800平方メートル未満の店舗では204.4万円、800~1,200平方メートル未満では138.2万円、1,200~1,600平方メートル未満では114.7万円、1,600平方メートル以上では107.5万円となっている。小規模店舗群ほど売場面積当たりの売上高が高いという傾向が見られ、800平方メートル未満の区分では44店舗の有効回答が集計されている。

 ただし、この数字から「小型スーパーは大型スーパーより経営効率が高い」と断定することはできない。売場面積当たり売上高が高くても、仕入費用や人件費が大きければ利益が少なくなるからである。また、売場面積が小さい店舗には都市部の高密度な商圏に立地する店も含まれるため、人口密度の低い地方の個人スーパーと同じ条件で営業しているわけではない。小型化によって売上密度が高くなるという因果関係まで、この統計が証明しているわけではない。

 加えて、この調査は営業を継続している店舗の実績を中心に把握している。すでに閉店した店舗の売上高や費用構造を同時に比較したものではないため、存続している店舗の平均値だけから閉店の境界条件を推定すると、生存者バイアスが生じる。統計が示しているのは店舗規模別の営業実態の違いであり、どの規模の店舗がどの人口で存続できるかという普遍的な法則ではない。

大型スーパーには年間数十億円規模の売上が必要なのか

 店舗の規模による違いを考えるため、先ほどの売場面積当たり年間売上高を使って試算してみよう。2025年調査における1,600平方メートル以上の店舗の平均値は、一平方メートル当たり年間107.5万円である。この数値を単純に当てはめると、売場面積2,000平方メートルで年間約21.5億円、3,000平方メートルで年間約32.3億円の売上高になる。

 もちろん、これは平均的な売上密度を一定と仮定した参考計算であり、これだけ売らなければ倒産するという意味ではない。実際の必要売上高は商品構成、粗利益率、人件費、賃料、物流費、設備投資などによって変わり、同じ面積の店舗でも地域によって大きな差が生じる。

 それでも、2,000~3,000平方メートル級の食品スーパーが、年間数十億円規模の売上を持つこともある施設だという点は理解できる。これに対し、小型の地域スーパーでは売場面積や在庫、従業員数などを抑えた経営が可能な場合があり、同じ売上高を必要とするとは限らない。

 もっとも、店舗面積を半分にしたから固定費も必ず半分になるわけではない。食品を販売する以上、レジ、冷蔵設備、衛生管理、仕入れ、搬入、廃棄物処理といった基本的な機能が必要であり、経費には店舗規模を縮小しても残る部分がある。規模の小さな店舗ほど、限られた売上高でこうした基本的な経費を負担しなければならないという問題も生じる。

スーパーに必要な人口を決めるのは、売上と損益分岐点である

 スーパーの存続可能性を考えるには、人口と売上高の関係だけでなく、売上高と費用の関係を調べる必要がある。経営学や管理会計では、売上高から商品仕入れなどの費用を差し引き、固定費を回収した結果、利益がゼロになる売上高を「損益分岐点売上高」と呼ぶ。

 スーパーの年間売上高は、商圏人口、住民一人当たりの購入額、その店舗が獲得する購買割合、地域外からの需要などによって左右される。一方、営業利益は売上高から仕入原価、人件費、物流費、光熱費、賃料、減価償却費などを差し引いた結果として決まる。つまり、人口が同じでも購買需要の獲得率や費用構造が異なれば、損益分岐点を超えられるかどうかは変わってくる。

 ここで、人口6,000人の仮想地域を使って考えてみよう。住民一人当たりの年間食料品購入額を30万円と仮定すると、地域全体の年間購入額は18億円になる。ただし、これは計算のための仮定であり、特定地域の実際の支出額を示したものではない。

 仮に地域内の二店舗が、この18億円のうち合計50%を獲得し、売上を均等に分け合っているとすれば、二店舗の合計年商は9億円、一店舗当たりの年商は4.5億円となる。さらに、売上高から仕入原価と売上に比例する営業経費を差し引いた限界利益率を22%、一店舗当たりの年間固定費を9,000万円と仮定すると、年商4.5億円から生じる限界利益は9,900万円となり、営業利益は900万円になる。

 ところが、人口が同じ6,000人でも、地元二店舗への購買残留率が40%に低下すれば、一店舗当たりの年商は3.6億円となり、先ほどの条件では年間1,080万円の営業赤字になる。逆に購買残留率が60%まで高まれば、一店舗当たりの年商は5.4億円となり、営業利益は年間2,880万円になる。

 この試算では、人口、住民一人当たりの購入額、利益率、固定費を同じ条件にしている。それでも、地域内の店舗にどれだけ購買が残るかによって、黒字にも赤字にもなる。スーパーの経営を決めるのは人口そのものではなく、実際に獲得できる売上高と、それを得るために必要な経費との関係なのである。

 ただし、これらは理論を説明するための仮想的な計算であり、地方スーパーの平均的な利益率や固定費を示したものではない。実際の分析では、食料品購入額の範囲、店舗別の販売構成、粗利益率、廃棄損失、人件費、経営者の適正な報酬などを確認しなければならない。また、営業利益が黒字でも、設備の更新や借入金返済に必要な資金を十分に確保できるとは限らない。

小規模なスーパーほど経営に余裕があるとは限らない

 ここで、もう一つ重要な統計を確認しておきたい。2025年スーパーマーケット年次統計調査の経営指標には、企業の売上規模別の営業利益率と損益分岐点比率が掲載されている。

 このうち、年間売上高30億円未満の企業群では、売上高営業利益率の平均が0.18%、損益分岐点比率の平均が99.46%となっている。損益分岐点比率とは、現在の売上高に対して利益がゼロとなる売上高がどの程度の水準にあるかを示す指標であり、一般に100%に近いほど売上減少への余裕が小さいことを意味する。

 ただし、0.18%と99.46%はそれぞれの対象企業について計算された平均値であり、特定の一店舗の損益構造を示すものではない。損益分岐点比率99.46%についても、対象企業の平均的な傾向を表すのであって、すべての企業が売上高を0.54%失えば赤字になるという意味ではない。また、これは企業の年間売上高による分類であり、売場面積800平方メートル未満の店舗だけを対象にした統計ではない。

 それでも、小規模企業群の中には利益の余裕が限られた経営が多く含まれる可能性を示す数字として重要である。人口が少ない地域でもスーパーが営業できることと、そのスーパーが長期にわたって安定的に経営できることは、明確に区別する必要がある。

 とりわけ個人経営の店舗では、経営者や家族が長時間働き、十分な報酬を受け取らないことによって営業が維持されている可能性もある。帳簿上の利益が確保されていても、設備更新費や将来の人件費上昇まで考えると、事業を継続する余力が不足している場合も考えられる。地域のスーパーが存在しているという事実だけでは、その経営が持続可能であることまでは証明できない。

市町村人口と商圏人口は同じではない

 地方のスーパーを分析する際に注意したいのが、市町村の行政区域と、消費者の買い物行動によって形成される商圏の違いである。行政上は人口6,000人の町であっても、隣接する自治体から多くの買い物客を集めていれば、実質的な商圏は町の人口より大きくなる。反対に、人口2万人の自治体であっても、住民が隣接地域の大型店を日常的に利用していれば、地元店舗が獲得できる購買需要は小さくなる。

 地方では自動車による移動が一般的な買い物手段となっている地域も多く、道路条件や店舗への所要時間が商圏の形成に大きく影響する。自治体の境界を越えて移動できる幹線道路沿いの店舗と、山間部や交通条件の悪い地域にある店舗とでは、同じ距離に住む消費者であっても来店しやすさが違う。

 そのため、地域のスーパーについて調べるなら、店舗から自動車で10分、15分、20分程度の範囲にどれだけの人口が分布しているかを確認し、同じ範囲に存在する競合店舗や道路網も調べる必要がある。ただし、10分や15分という時間自体がすべての地域に共通する商圏の境界ではない。実際の利用圏を分析するための便宜的な区分であり、地域の交通事情や買い物行動に応じて設定し直すべきものである。

 さらに、人口の年齢構成や世帯構成、所得水準、観光需要、別荘利用などによって、同じ人口でも食品に対する購買需要は変わる。例えば、観光地では居住人口だけでは把握できない売上が発生する一方、住民の高齢化が進む地域では自動車を利用できる人の割合が変化し、店舗への来店行動そのものが変わる可能性がある。

 したがって、人口8,000人の自治体だからスーパーの存続が危険で、人口2万人の自治体だから安全だという判断は適切ではない。地域人口は重要な基礎指標だが、それだけで経営の成立条件を決定することはできないのである。

人口減少で失われるのは、店舗数だけではない

 スーパーの存続を考える際には、経営上の採算性と、住民の生活利便性を分けて評価する必要がある。人口が減少した地域で複数の店舗が一店舗に集約されれば、残った店舗の売上が増え、経営効率が改善する可能性はある。しかし、その一方で、近所の店舗を失った住民の買い物距離が長くなり、自動車を利用できない高齢者の生活が不便になる可能性もある。

 農林水産政策研究所が2024年に公表した2020年の推計では、65歳以上の食料品アクセス困難人口は全国で約904万人となり、65歳以上人口の25.6%を占めていた。75歳以上では約566万人、同年齢層の31.0%に達している。

 この推計における食料品アクセス困難人口とは、食料品を扱う店舗まで直線距離で500メートル以上あり、かつ自動車の利用が難しい65歳以上の人を、国勢調査などの情報から推計したものである。対象店舗には食品スーパーだけでなく、食肉店、鮮魚店、青果店、コンビニエンスストア、ドラッグストアなども含まれる。

 ただし、904万人という数字は、実際に買い物ができないと回答した人数ではなく、店舗までの距離や自動車利用の条件に基づく推計値である。また、店舗が500メートル以内に存在していても、十分な品ぞろえがなかったり、道路の勾配や身体的な事情によって来店が難しかったりする可能性もある。食料品アクセス困難人口は問題の規模を把握するための重要な指標だが、住民一人ひとりの買い物の困難さを完全に表しているわけではない。

 地域にスーパーが一店舗残っていたとしても、その店まで自宅から数キロメートル離れていれば、自動車を運転できない高齢者には利用が難しい。反対に、店舗側から見れば、人口密度の低い地域では十分な客数を確保するために商圏を広げる必要が生じることもある。経営のために広い範囲から客を集めることと、住民の身近な場所に食料品を供給することは、必ずしも一致しない。

 つまり、スーパーの店舗数が維持されることと、地域全体の買い物環境が維持されることは同じではない。人口減少が進む地域では、経営上の合理性と住民の生活利便性が、異なる方向へ動く可能性まで考えなければならない。

小さなスーパーが残る地域には、どのような条件があるのか

 人口の少ない地域で営業する小規模スーパーには、大型店とは異なる経営上の強みが存在する場合がある。地域住民の好みや購入頻度を把握し、売れ筋の商品に品ぞろえを絞ることができれば、過剰在庫や売れ残りを抑えられる可能性がある。鮮魚や総菜など特定の商品に強みを持つ店舗であれば、価格や品ぞろえの総量だけで大型店と競争せず、特定の商品を目当てに来店する顧客を獲得することも考えられる。

 ただし、こうした条件が成立するかどうかは店舗ごとに異なる。商品を絞り込めば在庫管理が容易になる一方、必要な商品がそろわないことで客離れが生じる可能性もある。地域密着型の接客が固定客の維持につながる場合もあれば、低価格を重視する消費者が大型チェーンへ流れる場合もあるため、小規模であること自体が競争上の優位性を保証するわけではない。

 また、個人スーパーにとって深刻なのは、人口減少以外の要因による閉店である。経営者の高齢化や後継者不足、従業員の確保難、冷蔵設備の更新費用、仕入価格や物流費の上昇などは、売上が比較的安定していても経営を圧迫する可能性がある。特に経営者本人の労働に強く依存する店舗では、経営者が引退した時点で営業を続けられなくなることも考えられる。

 そのため、地域のスーパーの将来を評価するには、現在の人口と売上だけでなく、経営者の年齢、事業承継の見通し、従業員の確保、設備の更新計画、資金繰りまで調べる必要がある。利益が確保されている店舗でも将来の営業継続が保証されるわけではなく、逆に一時的に利益が小さい店舗でも、資産や経営方針などの条件によって営業が続けられる場合がある。

制度上も「人口1万人」が出店基準ではない

 食品スーパーの出店や営業について、全国一律に商圏人口1万人以上を必要とする法律上の規定は存在しない。例えば、大規模小売店舗立地法は、原則として店舗面積の合計が1,000平方メートルを超える小売店舗を対象に、交通、駐車場、騒音、廃棄物処理など、周辺地域の生活環境への配慮を求める制度である。

 この制度が扱うのは主として大型店の立地による周辺環境への影響であり、スーパーの経営採算を人口によって保証するものではない。また、実際の出店には用途地域などの土地利用規制、建築基準、食品衛生関係の規制なども関係するため、人口条件がないからといって、すべての場所に自由に出店できるわけではない。

 ここでも、商業施設の立地を考える際の人口目安と、法律上の出店条件、さらに経営上の損益分岐点を分けて理解することが重要になる。国土交通省の資料に示された1万人~3万人という数字は、営業許可の人口基準でもなければ、採算性を保証する基準でもないのである。

地方のスーパーを分析するには何を調べるべきか

 人口減少地域でスーパーの将来を考えるなら、まず店舗の周辺人口と将来人口を把握する必要がある。ただし、市町村全体の人口だけでは十分ではなく、国勢調査の小地域人口などを用いて、店舗への到達時間別に人口や世帯の分布を調べることが望ましい。さらに、年齢構成や自動車利用の状況、競合店舗の位置、購買の流出入まで把握できれば、地域の需要構造をより現実に近い形で評価できる。

 次に必要なのは、店舗が獲得できる売上高と費用の推計である。住民一人当たりの食料品購入額を基礎として、地域内の購買残留率、店舗ごとの市場占有率、観光客などの地域外需要を考慮すれば、売上高の複数のシナリオを作成できる。そのうえで、粗利益率、人件費、物流費、賃料、光熱費、設備更新費などを組み合わせ、人口が減少した場合に損益分岐点を下回る可能性を評価することになる。

 ただし、将来予測には必ず不確実性がある。人口が同じ割合で減少しても、世帯構成や購買行動、物価、競合店舗の動向が変化すれば売上高は異なる。したがって、一つの人口予測から閉店年を断定するのではなく、需要が大きく減少する場合、緩やかに減少する場合、地域外需要などによって補われる場合を分けて検討する方が合理的である。

 御宿町、いすみ市、勝浦市、大多喜町などの地域を考える場合にも、同じ分析が必要となる。観光や別荘利用の影響が考えられる地域、人口が広い範囲に分散する地域、道路交通によって周辺市町村との買い物の往来が生じる地域では、行政人口が同じでも実際の商圏は異なる。地元スーパーの存続可能性を評価するには、単純な人口比較を超えて、住民の生活圏と購買行動を把握する必要がある。

 さらに、経営が成立するかという評価と、住民が必要な食料品を購入できるかという評価は分けなければならない。小規模スーパー、食品を扱うドラッグストア、移動販売、宅配サービスなどを組み合わせることによって食料品へのアクセスを維持できる可能性はあるが、各サービスの採算性、利用料金、配送範囲、継続的な担い手の確保についても検討する必要がある。単に代替手段が存在するだけでは、持続可能な地域の食料供給体制が確立したとは言えない。

「何人いれば営業できるか」と「将来も続けられるか」は違う

 スーパーに必要な人口を考えるとき、実際には三つの異なる問題を区別する必要がある。一つ目は、ある人口規模の地域に店舗が立地できるかという問題であり、二つ目は、店舗が日々の経費を賄いながら営業を続けられるかという問題である。三つ目は、経営者や従業員への適正な報酬、設備の更新、将来の事業承継まで含めて、長期的に持続可能な経営を実現できるかという問題である。

 この三つは似ているようで同じではない。現在、人口数千人の地域にスーパーが存在しているとしても、その店舗が十分な利益を確保しているとは限らず、利益が出ていたとしても後継者や設備更新の問題によって将来閉店する可能性がある。反対に、人口が比較的多い地域でも競合店が集中していれば、個々の店舗の収益性が悪化することは考えられる。

 したがって、「スーパー一店舗には何人必要か」という問いに全国共通の数字を一つ示すことは適切ではない。ある店舗について、店舗規模、収益構造、商圏内の購買需要、競合環境などを具体的に設定すれば、損益分岐点に相当する人口を推定することは可能である。しかし、その推定値を別の地域や経営形態にそのまま適用することはできない。

 また、店舗の採算性だけを優先して大型店への集約を進めれば、移動手段を持たない住民の買い物環境が悪化する場合がある。一方、生活利便性を維持するために小規模店舗を残そうとしても、必要な売上や人材を確保できなければ事業は継続できない。地域全体で考えるべきなのは、単独店舗の収益性と住民の生活に必要な食料供給機能を、どのように両立させるかという問題である。

人口減少時代に本当に必要なのは、店が残れる条件を見極めること

 結局、スーパー一店舗に必要な人口は何人なのだろうか。国土交通省の資料に示された2,000~3,000平方メートル規模の食品スーパーについては、周辺人口1万人~3万人が一つの商圏目安になる。しかし、それは全国の食品スーパーに共通する最低必要人口ではなく、まして小規模な地域スーパーの採算を判断する基準でもない。

 実際に店舗が営業を続けられるかどうかは、人口の大小だけでなく、住民の購入額、店舗が獲得する購買割合、地域外からの需要、仕入れや物流、人件費、設備更新費などの組み合わせによって変わる。人口が少なくても比較的小さな店舗なら営業が成立する可能性がある一方、人口が多くても競争や費用構造によって採算が悪化する可能性はある。

 そして、現在の営業継続と将来の持続可能性も分けて考えなければならない。人口6,000人の地域に二店舗が存在することが仮に確認されたとしても、それだけで一店舗当たり3,000人が必要人口だとは言えず、経営の安定性や将来の事業承継まで保証されるわけではない。単に店舗が存在しているという事実から、地域の経済的な持続可能性を評価することには限界がある。

 人口減少地域にとって重要なのは、人口が何人を下回ったときにスーパーが消えるのかを、全国共通の数字で予測することではない。その地域の人口構造や交通条件、購買行動、店舗の規模、経営費用を踏まえ、どのような店舗やサービスの組み合わせであれば、必要な食料品を供給し続けられるのかを検討することである。

 町の小さなスーパーに明かりがついている。店内には大型店ほど多くの商品がないかもしれないが、日々の食事に必要なものを買いに来る住民がいて、地域の暮らしを支える役割を担っている。その店がこれからも営業を続けられるかどうかを決めるのは、「人口1万人」という一本の線ではない。

 人口減少が進む地方で本当に問われるのは、スーパー一店舗を成立させる最低人口が何人なのかという単純な問題ではなく、人口が減っても地域に必要な購買需要を確保し、経営を維持しながら、住民が食料品を購入できる環境をどこまで残せるのかという問題である。

 地域の将来を考えるうえで必要なのは、人口の減少だけを見て店舗の閉店を予想することではない。人口、購買力、経営構造、交通手段、事業承継という複数の条件を把握し、何を変えれば営業や食料供給を継続できるのかを具体的に検証することである。その積み重ねこそが、人口減少時代の地域商業を考える現実的な出発点になる。

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 地方を歩いていると、住宅は残っているのに、人の姿をほとんど見かけない集落があります。空き家が増え、子どもの声が聞こえなくなり、かつて何十世帯も暮らしていた場所に十数世帯しか残っていない地域もあります。集落の人口減少は、ある日突然起こるものではなく、長い時間をかけて進んでいきます。しかし、そこに暮らす人々が担ってきた地域の共同活動は、人口の減少と同じ速度で衰えるとは限りません。

 では、集落はいったい何世帯まで減ると維持することが難しくなるのでしょうか。この問いに「20世帯」「10世帯」と一つの数字だけで答えることはできません。集落によって年齢構成や地理的条件、道路や水路の管理方法、自治会の仕組み、周辺集落との関係が異なるからです。同じ10世帯でも、比較的若い住民が多い集落と、高齢者だけで暮らす世帯が多い集落では、地域活動を維持する能力に大きな差が生じます。

 ただし、農林水産省などの調査からは、集落の規模が小さくなるにつれて共同活動の実施率が低下し、特に総戸数9戸以下の農業集落では、農用地の保全などを含む集落活動が急激に弱まる傾向が確認されています。また、総戸数4戸以下、集落人口9人以下、高齢化率50%以上といった小規模化・高齢化の条件下では、活動の維持が一段と難しくなることも指摘されています。

 もっとも、これらは農業集落を対象とした統計的な傾向であり、全国すべての集落が同じ戸数で維持困難になることを意味しているわけではありません。重要なのは、家が何軒残っているかという数字だけではなく、地域を支える人材がどの程度残り、必要な共同活動をどこまで継続できるかという問題です。

集落は住宅の集合ではなく、共同活動によって支えられている

 普段、私たちは集落を住宅が集まった場所として見ています。しかし、集落が生活共同体として機能するためには、住宅が存在するだけでは足りません。道路脇の草刈り、水路や側溝の清掃、ごみ集積所の管理、自治会の運営、防災活動、祭礼、共同施設の維持、高齢者の見守りなど、目立たない仕事が年間を通じて発生しています。

 農林業センサスで把握される農業集落も、農業生産の場であるだけでなく、地域住民が社会生活を営む基礎的な地域社会として位置づけられています。実際、農業集落では農道や水路の管理、環境美化、共有財産の管理、福祉・厚生などが寄り合いの議題となっています。農業を営む世帯が少なくなっても、農地や水路を含めた地域環境の維持には、農家だけでなく非農家の協力が必要になる場合があります。

 ここで人口減少の問題を考えると、住民が減少する一方で、地域が管理する道路や水路の延長、土地の面積、共同施設の数などは、必ずしも同じ割合で減少するわけではありません。100世帯で行っていた仕事を50世帯で引き継ぐことになっても、必要な作業量が半分になるとは限らず、残った住民の負担は相対的に増加します。

 つまり、集落を維持するうえで問題になるのは、単に人口や世帯数が減ることではなく、地域で必要とされる仕事量に対して、それを担う人員や能力が不足していくことです。人口がまだ一定数残っていても、活動の担い手が確保できなくなれば、集落の機能は先に低下する可能性があります。

30世帯が20世帯になった場合、何が変わるのか

 例えば、30世帯の集落が20世帯まで減少した場合を考えてみます。この段階で集落が直ちに維持できなくなるとは限りません。地域活動に参加できる住民が十分にいれば、自治会長や会計、防災担当などの役職を分担し、草刈りや清掃などの共同作業を継続することも可能でしょう。

 しかし、仮に30人で担当していた年間の作業量が変わらず、参加者が20人に減少したとすると、一人当たりの平均作業負担は単純計算で1.5倍になります。人口が減っても管理対象となる道路や水路がほとんど変わらなければ、少ない人数で従来の仕事を引き受けなければなりません。

 さらに、人口減少と高齢化が同時に進めば、負担の増加はそれ以上になる可能性があります。20世帯が残っていても、健康状態や仕事、介護などの事情によって共同作業に参加できる世帯が10世帯しかなければ、実際の活動はその10世帯を中心に行われることになります。

 このため、「20世帯あれば大丈夫」と判断することはできません。反対に、20世帯を下回ったからといって、直ちに集落機能が失われるわけでもありません。20世帯という数字には、全国共通の維持可能性の境界として確立された根拠があるわけではなく、あくまで役割分担や作業負担を考えるための一つの例として扱う必要があります。

10世帯前後が重要な警戒点とされる理由

 農林水産省は、集落の総戸数が9戸以下になると、農用地の保全などを含む集落活動の実施率が急激に低下する傾向があるとしています。このため、10世帯前後という規模は、地域運営を考えるうえで一つの警戒点になります。

 ただし、ここでいう9戸以下は、農業集落の総戸数を基準にした区分です。また、統計で示されているのは戸数規模別の活動実施率の違いであり、9戸と10戸の間に必ず明確な断絶が存在することを証明したものではありません。集落の維持能力が、10戸を下回った瞬間に急変するという意味ではないのです。

 それでも、10世帯程度になると役割分担の余裕が小さくなることは、具体的な例から理解できます。仮に10世帯のうち4世帯が健康上の理由などで共同作業への参加が難しく、さらに2世帯が仕事や介護などの事情で継続的に参加できないとすれば、日常的な活動の中心を担えるのは4世帯程度になります。

 この4世帯で自治会の運営、防災、環境美化、共同施設の管理などを分担する場合、同じ住民が複数の役職を兼ねたり、短期間で同じ役割を繰り返し担当したりする必要が生じます。中心的な役割を担ってきた住民が病気や転出によって参加できなくなれば、それまで維持できていた活動が継続困難になる可能性もあります。

 もちろん、実際には自治会の役職数を減らすことや、行事を簡素化することもできます。したがって、小規模化によって必ず活動が停止するわけではありませんが、従来の運営方法をそのまま続けられる余地は小さくなります。

 10世帯前後という数字の意味は、集落の存続限界を示すことではなく、従来型の共同運営が持続できるかを点検する契機になることだと考えられます。

総戸数4戸以下では、共同活動の維持がさらに難しくなる

 集落の規模がさらに小さくなると、住民同士が協力する意思を持っていても、必要な作業を担う人員そのものが不足する可能性が高まります。

 農林水産政策研究所の2021年の研究では、総戸数4戸以下、集落人口9人以下、高齢化率50%以上といった小規模化・高齢化の進んだ農業集落で、寄り合いや農業用用排水路の保全などの活動が急激に弱まる傾向が示されています。また、総戸数4戸以下の農業集落の約7割は、農業生産の担い手が存在しない「担い手不在集落」に該当するとされています。

 ここで注意したいのは、農業の担い手が存在しないことと、地域活動を行える住民が存在しないことは同じではないという点です。農業経営を担う人がいなくても、非農家の住民が自治会活動や環境美化を続けている集落は考えられます。農業生産の維持能力と生活共同体としての維持能力は、関連していても区別して評価する必要があります。

 さらに、農林水産政策研究所が2023年に公表した分析では、2020年時点で環境美化・自然環境保全活動が行われていない農業集落の割合は、農家戸数4戸以下の集落で33.3%、農家戸数20戸以上の集落で12.1%でした。その差は21.2ポイントであり、活動が行われていない割合を比較すると、農家戸数4戸以下の集落は20戸以上の集落の約2.75倍になります。

 ただし、この分析で用いられているのは農家戸数であり、非農家を含む総戸数ではありません。農家が4戸しか残っていない集落でも、非農家を含めれば相当数の住宅や住民が存在する場合があります。したがって、農家戸数4戸以下の統計を、そのまま一般的な4世帯以下の集落の維持困難率と解釈することはできません。

 それでも、小規模化した集落ほど共同活動の実施率が低下するという傾向には、実務的な意味があります。例えば5世帯のうち、継続的な草刈りや水路清掃に参加できる人が2人しかいない場合、その2人が地域の共同作業を長期間担い続けることは難しくなるでしょう。

 この段階では、住民の努力や協力だけで問題を解決することには限界があります。集落だけで必要な活動を完結させるのではなく、周辺地域や行政、関係団体との役割分担を検討する必要性が高まります。

農家戸数と総戸数を混同してはいけない

 集落の維持可能性を考える際、統計上の重要な注意点があります。それは、農家戸数、総戸数、集落人口がそれぞれ異なる指標であるということです。

 農家戸数は農業を営む世帯の規模を示す指標であり、総戸数は農家以外の世帯を含めた集落の規模を示します。一方、集落人口は住民の人数を表すため、一世帯当たりの人数によって同じ総戸数でも人口規模は変わります。さらに、農業集落の区域と自治会の区域は必ずしも一致しないため、農業集落の統計を自治会運営の実態に直接対応させることにも注意が必要です。

 例えば、農家が3世帯、非農家が17世帯ある集落は、農家戸数では3戸ですが、総戸数では20戸です。この地域で農業用水路の管理が難しくなっていても、自治会の清掃活動や防災活動には一定数の住民が参加しているかもしれません。反対に、農家戸数が比較的多くても、高齢化や労働力不足によって共同作業の継続が難しくなっている場合も考えられます。

 したがって、統計を使って集落の維持可能性を議論する場合には、何を基準に集落の規模を区分しているのかを明示しなければなりません。特に、農業集落を対象とした調査結果を住宅集落や自治会全般の問題として紹介するときには、対象となる組織や活動の違いを踏まえた説明が必要です。

2025年農林業センサスは何を示しているのか

 農林水産省は2026年6月、2025年農林業センサスの農業集落調査結果の概要を公表しました。この調査は、農業集落における共同活動や地域資源の保全状況などを把握するため、5年ごとに実施されているものです。

 調査結果によると、過去1年間に寄り合いを開催した農業集落の割合は、2020年に比べて4.2ポイント低下しました。それでも、回答のあった全国約12万6千集落のうち、約11万3千集落が寄り合いを実施しており、全体では約9割に相当します。

 寄り合いの開催回数にも変化がみられます。2020年は年間6~11回の集落が最も多かったのに対し、2025年は年間3~5回の集落が最多となりました。この結果は、農業集落の多くで寄り合いという仕組みが残されている一方、開催頻度には減少傾向がみられることを示しています。

 ただし、開催回数の減少をそのまま集落機能の低下と判断することはできません。会議の効率化や行事の整理によって開催回数が減っている可能性もあり、実際にどの活動が継続され、どの活動が停止したのかを確認する必要があります。

 さらに注目すべきなのは、地域資源の保全活動について、農地、農業用用排水路、森林、河川・水路の保全に取り組んでいない農業集落の割合が、2020年より低下していることです。つまり、寄り合いの開催割合や頻度が低下している一方で、地域資源の保全活動が全国一律に衰退しているわけではありません。

 また、保全活動を実施している農業集落のうち、他の集落と共同で保全する割合は低下し、単独の集落で保全する割合が上昇しました。この結果は、集落間の共同化が必ずしも全国的に拡大しているわけではないことを示しています。ただし、共同保全の割合が低下した理由については、地域条件や対象となる活動の変化なども含めて分析する必要があり、集落間の連携そのものが有効でなくなったと結論づけることはできません。

 このように最新の調査結果を踏まえると、人口減少によって集落機能が一方的に失われていくという単純な説明では不十分です。活動の種類によって変化の方向や程度が異なるため、農地保全、自治会運営、防災、生活支援などを分けて検討する必要があります。

同じ10世帯でも維持能力が異なる理由

 集落の維持能力を決めるのは、世帯数だけではありません。特に重要なのは、住民の年齢構成、健康状態、就業状況、地域内で必要とされる作業量、周辺地域との協力関係です。

 例えば、40~60歳代の住民が中心となっている10世帯と、80歳代の住民が中心となっている10世帯では、草刈りや側溝清掃などの身体的負担が大きい活動について、担い手の確保状況に違いが生じる可能性があります。ただし、高齢者であっても健康状態や技能によって十分に活動できる人はいるため、年齢だけで参加能力を判断することは適切ではありません。

 また、住宅が一か所にまとまっている集落と、山間部に数キロメートルにわたって住宅が散在している集落では、必要な移動時間や道路・水路の管理負担が異なります。集落面積が広く、管理対象の施設が多い場合には、比較的多くの世帯が残っていても、一世帯当たりの負担が大きくなることがあります。

 周辺集落との関係も重要です。農林水産政策研究所の分析では、農家戸数4戸以下の農業集落であっても、2020年に農業用用排水路の保全活動を実施していた集落の割合は63.5%でした。また、保全活動を実施している集落のうち、他の農業集落と共同で保全している割合は49.2%となっています。

 この結果は、農家戸数の少ない集落でも保全活動を継続している例があり、その中で周辺集落との共同保全が重要な役割を果たしていることを示唆しています。ただし、共同保全によって活動が維持できたという因果関係の強さまで、この集計だけで確定できるわけではありません。

 したがって、小規模な集落だから必ず維持できなくなるという関係は成立しません。 同じ世帯数でも、地域の条件や組織運営の方法によって維持能力は大きく異なります。

集落の維持能力を数理的に考える

 集落の持続可能性をより具体的に考えるためには、単純な人口や世帯数だけでなく、地域活動に参加できる人数と必要な作業量を比較する方法が有効です。

 まず、実働世帯率を次のように定義します。

実働世帯率=地域活動に参加可能な世帯数÷全世帯数

 例えば、30世帯のうち24世帯が活動に参加可能であれば、実働世帯率は80%です。一方、15世帯のうち6世帯しか参加できなければ40%になります。世帯数に実働世帯率を掛ければ、地域活動を担える世帯数を求めることができます。

 ただし、この指標には限界があります。一世帯から参加する人数や、年間に活動できる時間、作業技能、機械の保有状況などは世帯ごとに異なります。実働世帯数が同じでも、実際に提供できる労働量が同じとは限りません。

 そこで、もう一段進めて、年間に必要な作業時間と住民が提供できる作業時間を比較することを考えます。

作業充足率=(住民が提供できる作業時間+外部支援による作業時間)÷年間に必要な作業時間

 例えば、ある集落で草刈り、清掃、共同施設の管理などに年間240人・時間の作業が必要だとします。活動可能な住民が6人で、一人当たり年間20時間の作業ができる場合、住民が提供できる作業量は年間120人・時間となり、外部支援がなければ作業充足率は50%です。

 一方、別の集落では活動可能な住民が8人で、それぞれ年間30時間の作業ができるとします。この場合、年間240人・時間を確保できるため、必要作業量が同じであれば、計算上の作業充足率は100%となります。

 この例から分かるのは、総世帯数が多いことと、必要な共同作業を維持できることは必ずしも一致しないという点です。世帯数が少なくても、参加可能な住民が多く、必要な作業量が比較的小さければ、地域活動を維持できる場合があります。

 もちろん、これは維持能力を考えるための試算であり、行政が定めた公式指標ではありません。草刈り機の操作や水路の点検、防災活動には固有の技能や安全上の条件があり、単純な作業時間だけで評価できるものではありません。また、年間の合計時間が足りていても、作業が必要な日に参加者が集まらなければ活動を実施できません。

 したがって、実際の集落を評価する際には、年間作業時間に加えて、作業ごとの必要人数、技術を持つ人材、費用負担、実施時期、事故防止対策なども確認する必要があります。

高齢化によって集落機能は人口以上の速度で変化する可能性がある

 人口減少と高齢化は関連していますが、集落の維持能力に与える影響は同じではありません。人口の減少が緩やかであっても、これまで中心的な役割を担ってきた住民の健康状態や生活環境が変化すると、地域活動を維持する能力が比較的短期間で低下することがあります。

 例えば、人口が毎年1%ずつ減少する集落を考えると、単純な人口規模の変化は緩やかに見えます。しかし、地域の草刈りや水路管理を担っていた数人が高齢化によって活動を続けられなくなれば、人口の減少率が小さくても、必要な作業を担当できる人数は大きく減る可能性があります。

 また、集落内で特定の技能や機械を持つ住民が限られている場合、その住民が活動から離れることで、共同作業全体の継続が難しくなることも考えられます。こうした問題は、総人口や平均年齢だけを見ていても十分には把握できません。

 農林水産政策研究所が示す小規模化・高齢化と共同活動の低下との関係も、こうした構造的な問題と整合しています。ただし、統計上の関連が確認できることと、高齢化だけが活動低下の原因であることは別の問題です。地形条件、産業構造、移動手段、行政支援の状況なども同時に影響している可能性があります。

 集落の将来を予測するためには、人口や世帯数の将来推計だけでなく、地域活動を担う住民が今後何年程度活動を続けられるのか、後継者が確保できるのかといった点も調べる必要があります。

住民が担う仕事と行政が管理すべき仕事は同じではない

 集落の維持を考えるうえでは、道路や水路、共同施設などの管理責任を整理することも重要です。地域住民が草刈りや清掃を行っているからといって、その施設の維持管理について法的な責任をすべて住民が負っているとは限りません。

 例えば、市町村道の道路管理者は原則として市町村であり、県道については原則として都道府県が管理主体となります。また、農業用水路には土地改良区や市町村などが管理する施設があり、施設ごとに管理主体や維持管理の仕組みが異なります。私有地についても、所有者等の責任や条例上の取り扱いを確認する必要があります。

 一方、自治会による清掃や環境美化、防災活動などは、地域住民の協力によって実施されることがあります。自治会は原則として任意加入の組織であり、地域に居住していることだけで、すべての住民に自治会活動への参加義務が生じるわけではありません。

 このため、集落の共同活動が維持できなくなった場合には、単純に行政に作業を引き継いでもらえばよいという問題にはなりません。まず、その作業の法的な管理主体が誰なのか、住民が自主的に担ってきた活動なのか、行政との協定などによって行ってきた作業なのかを区別する必要があります。

 さらに、行政や民間事業者へ作業を移す場合には、予算、人員、契約、作業の安全性などの問題が生じます。住民による無償の共同活動を有償の業務に置き換えれば、地域の負担は軽減されても、自治体や利用者の財政負担が増える可能性があります。

 したがって、集落機能を維持するためには、住民の努力だけでなく、法制度上の責任分担と費用負担を明確にし、どの仕事を住民自身が続け、どの仕事を関係機関と分担するのかを検討する必要があります。

外房地域では集落の維持能力をどう判断するべきか

 御宿町、いすみ市、勝浦市、大多喜町などの外房地域を考える場合にも、集落が何世帯まで減少するかという問題だけでは十分ではありません。実際には、人口がゼロになるより前に、地域活動の一部が維持できなくなる可能性があります。

 例えば、自治会の役員を引き受ける人が見つからない、草刈りの参加者が集まらない、道路脇や空き地の管理が難しくなる、高齢者の見守りを近隣住民だけでは続けられないといった問題が考えられます。ただし、これらが外房の各集落でどの程度発生しているのかについては、個別の調査によって確認しなければなりません。

 外房地域には、海岸沿いの住宅地、農村部、丘陵地の小規模集落など、地理的条件や居住形態の異なる地域が存在します。同じ世帯数でも、住宅の集積状況、道路や水路の管理負担、周辺集落との距離、行政サービスへのアクセスなどによって維持能力は異なります。

 また、農業集落と自治会の区域が一致していない場合や、農家以外の住民、移住者、二地域居住者などが存在する場合も考慮する必要があります。住民登録上の世帯数だけでなく、日常的に居住している人がどの程度いるのか、実際に共同活動へ参加しているのは誰なのかという情報が重要になります。

 農林水産省は、2025年農業集落基準による集落別統計や集落境界データを公表しています。こうした資料を利用すれば、外房地域における農業集落の規模や農家戸数などを把握し、過去の統計と比較することができます。

 ただし、自治会役員の確保状況や草刈りの実働人数、年間の共同作業時間、管理対象の施設量などは、農林業センサスだけで把握できるわけではありません。各自治体の資料や自治会への聞き取りなどを組み合わせることで、初めて地域の実情に近い分析が可能になります。

 外房地域においても、全国統計に基づく一般的な傾向と、個々の集落で実際に確認された事実を区別しながら、維持可能性を判断することが必要です。

集落の維持を判断するために必要な指標

 これまでの研究や統計を踏まえると、集落の維持可能性を判断するためには、少なくとも世帯規模、実働人口、共同作業の負担、外部支援という四つの側面を確認する必要があります。

 第一に、総戸数と集落人口だけでなく、農家戸数、年齢構成、実際の居住状況を把握することです。住宅が残っていても空き家であれば日常的な活動の担い手にはならず、世帯数が同じでも住民の人数や年齢によって活動能力は異なります。

 第二に、共同活動に参加できる人数と時間を把握することです。自治会に加入している世帯が何世帯あるかという情報に加え、草刈り、清掃、防災などの活動ごとに、継続的に参加できる住民が何人いるのかを確認する必要があります。

 第三に、道路や水路、共同施設などの管理負担を把握することです。同じ10世帯でも、管理対象となる施設や土地の面積が異なれば、必要な作業量は変わります。人口や世帯数だけでなく、維持すべき対象の規模を調べなければ、実際の負担を比較することはできません。

 第四に、周辺集落や行政、関係団体からどの程度の支援を受けられるかを把握することです。集落内に十分な担い手がいなくても、周辺集落との共同作業や外部委託などによって維持できる活動はあります。ただし、支援体制そのものにも人員や費用の制約があるため、将来にわたって継続できるかどうかを確認する必要があります。

 これらを組み合わせれば、「何世帯以下になったら危険か」という単純な判断から、「現在の世帯数と活動能力で、どの機能をどこまで維持できるか」という、より現実的な評価に近づくことができます。

集落の維持能力を三つの段階で考える

 一般的な地域を考えるために、20世帯、10世帯、5世帯という三つの規模を例として整理することはできます。ただし、これは全国統計から厳密に算出された三段階の危険基準ではなく、地域運営を検討するための便宜的な区分です。

 20世帯前後の集落では、住民の参加状況や管理対象の規模によっては、従来の自治会運営や共同作業を継続できる可能性があります。一方、活動できる住民が限られている場合には、役員の兼務や共同作業の負担増加が問題になるため、この段階から活動内容や役割分担を見直すことに意味があります。

 10世帯前後の集落では、農林水産省が示す総戸数9戸以下の農業集落における活動実施率の低下傾向を踏まえ、従来の共同活動を維持できるかを慎重に確認する必要があります。特に、役員の確保、年間作業量、活動の後継者、周辺集落との連携状況などが重要になります。

 5世帯前後まで減少した集落では、活動を担える人数によっては、集落単独で多くの機能を維持することが難しくなる可能性があります。ただし、研究で示されている総戸数4戸以下の活動低下傾向と、5世帯という例示的な区分は同じものではありません。また、維持が困難になる活動の種類や程度は、集落ごとに異なります。

 このように三つの段階で考える場合にも、世帯数そのものを集落の存続可能性の判定基準にするべきではありません。世帯数は維持能力を点検するための入口であり、最終的な判断には、実働人数や必要作業量などの具体的な情報が必要です。

集落を残す方法は人口を元に戻すことだけではない

 人口減少対策というと、移住者を増やすことが最初に考えられます。新しい住民が増え、地域活動に参加する人が確保されれば、集落の維持能力が高まる可能性はあります。しかし、日本全体の人口が減少する中で、すべての小規模集落を移住によって再び数十世帯の規模に戻すことは、現実的には容易ではありません。

 そこで重要になるのが、従来は一つの集落で担ってきた活動を、複数集落や行政、関係団体と分担する仕組みです。例えば、農道や水路の管理を周辺集落と共同で行うことや、自治会の事務作業を簡素化すること、専門的な作業を事業者に委託することなどが考えられます。

 農林水産省では、農地や水路などの共同保全活動を支援する多面的機能支払交付金や、条件不利地域での農業生産活動などを支援する中山間地域等直接支払制度が設けられています。また、農用地保全、地域資源の活用、生活支援などを複数集落で補完する農村型地域運営組織の形成も推進されています。

 ただし、これらの制度には対象区域や活動内容、組織形態などの要件があるため、自治会の仕事がすべて支援対象になるわけではありません。また、広域化すれば必ず問題が解決するわけでもなく、複数集落を取りまとめる人材や運営費用、新たな役割分担が必要になります。

 2025年農林業センサスでは、地域資源を他の集落と共同で保全する割合が2020年より低下していました。この結果を踏まえると、共同化が自然に進んでいると考えることはできません。集落間の協力が必要であっても、それを実現するためには、住民同士の合意形成や具体的な運営体制の整備が求められます。

 重要なのは、集落の規模をかつての状態に戻すことだけを目標にするのではなく、人口や担い手が減少した状況でも必要な生活機能を維持できる仕組みへと変えていくことです。

問題は「何世帯残るか」ではなく「何世帯で何を維持するか」

 「集落は何世帯まで減ると維持できなくなるのか」という問いに対して、農業集落の統計から一つの目安を挙げるなら、総戸数9戸以下という規模は重要です。農林水産省の分析では、この規模の農業集落で共同活動の実施率が急激に低下する傾向が示されています。また、総戸数4戸以下など小規模化がさらに進み、高齢化が重なる場合には、共同活動の維持が一段と難しくなる可能性があります。

 しかし、これらの数値は、すべての集落に共通する絶対的な限界ではありません。集落の維持能力は、世帯数や人口だけでなく、住民の健康状態、参加可能な人数、必要な作業量、管理施設の規模、周辺集落との協力、行政による支援などの組み合わせによって決まります。

 人口30人の集落でも、地域活動を継続的に担える人が3人しかいなければ、共同活動の維持は難しくなる可能性があります。反対に、人口15人の集落であっても、活動可能な住民が比較的多く、必要な仕事量が小さく、周辺地域との協力体制が整っていれば、維持できる機能は増えるでしょう。

 さらに、集落の人口減少と共同活動の低下は、必ずしも一方向の関係ではありません。人口減少が地域活動の担い手不足を招く一方で、生活環境や地域の共同機能が低下することで、住民の転出や定住意欲の低下につながる可能性も考えられます。ただし、こうした因果関係の強さを判断するには、同じ集落を継続的に調べ、人口構成や活動状況の変化を分析する必要があります。

 これから人口減少が進む地域で問われるのは、「この集落を何世帯まで残せるか」という問題だけではありません。むしろ重要なのは、「少ない世帯数になったとき、どの活動を住民自身で維持し、どの活動を周辺集落や行政、関係団体と分担するのか」という問題です。

 集落は、最後の住民がいなくなった日に突然その機能を失うわけではありません。住民が暮らし続けていても、草刈り、水路管理、自治会運営、防災、見守りなどの活動が、部分的に縮小したり停止したりする可能性があります。一方で、活動内容の整理や外部との連携によって、小規模な集落でも必要な機能を維持できる場合があります。

 したがって、地方の将来を分析する際には、人口や世帯数の推移だけでなく、集落が担ってきた機能のうち、何が維持され、何が弱まり、何を外部と分担する必要があるのかを具体的に把握することが重要です。

 そのためには、草刈りや水路管理、防災、見守り、自治会運営といった活動について、それぞれの実施状況、担い手の充足状況、外部支援の有無などを継続的に確認することが考えられます。こうした項目を個別に把握すれば、単純な世帯数だけでは見えない集落の維持能力を、より客観的に評価できるようになります。

 集落の将来を考えるうえで本当に重要なのは、消滅までの世帯数を予測することではなく、人口が減少しても、そこで暮らす人々に必要な生活環境と地域機能を、どのような仕組みで維持していくかを考えることなのです。

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