地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 地方の墓地や寺院では、墓石の清掃、草刈り、通路の整備、境内の清掃、護持会の行事などを、檀家や地域住民自身が担っているところがあります。こうした仕組みは、一定数の住民が地域に暮らし、親から子へ役割が引き継がれ、複数の世帯で作業を分担できることによって維持されてきました。しかし、人口減少と高齢化が進む地域では、この前提そのものが変化しつつあります。

 問題は、墓や寺院を残すべきか、なくすべきかという単純な二者択一ではありません。故人を追悼し、先祖を大切にするという価値観と、そのために必要な施設や共同作業を現在の方法で維持し続けることは、必ずしも同じ問題ではないからです。宗教的な価値観や地域の歴史を尊重しながらも、人口、世帯構造、労働力、管理費用、法律上の権利関係という現実的な条件から、将来の維持可能性を考える必要があります。

 2026年から30年後は2056年です。国立社会保障・人口問題研究所が公表している地域別将来推計人口や都道府県別世帯推計は主に2050年までを対象としているため、2056年の状況を直接示すものではありません。それでも、2050年までの人口構造の変化を確認することは、2050年代半ばを見据えた墓地管理や寺院運営のあり方を検討するうえで重要な出発点になります。

最初に結論~従来の管理方式を30年間続けられるとは限らない

 人口減少地域では、「家ごとに墓を持ち、子孫が管理し、檀家や地域住民が共同作業によって寺院と墓地を維持する」という従来の方式について、今後30年間そのまま継続できることを前提にしない方が合理的です。これは、すべての墓地や寺院が維持できなくなるという予測ではなく、従来方式が成立するための人口的・経済的条件を改めて確認する必要があるという意味です。

 実際には、近隣に承継者が住み、十分な管理費を確保できる墓地もあれば、遠隔地に暮らす親族によって維持されている墓もあります。また、墓地管理を業者に委託したり、管理方法を省力化したりすることで、人口が減少しても維持できる場合があります。一方、管理対象となる墓が残り続けるにもかかわらず、作業に参加する人や管理費を支払う人が減少すれば、従来方式の継続は難しくなります。

 したがって、必要なのは墓じまいを一律に推進することではありません。墓、遺骨、追悼、寺院運営、共同作業という機能を整理し、それぞれについて誰が、どのような方法で、いくらの費用を負担して維持するのかを検討することです。人口減少に適応できる仕組みへ段階的に移行することが、残したい墓や寺院を将来に引き継ぐための現実的な選択肢になります。

1.30年後には人口だけでなく世帯構造も変わる

 国立社会保障・人口問題研究所が2024年に公表した都道府県別世帯数の将来推計によると、2050年にはすべての都道府県で単独世帯の割合が2020年より高くなると見込まれています。また、2050年には21県で、世帯主が65歳以上の世帯が全世帯の50%を超え、32道府県では65歳以上の単独世帯が全世帯の20%を超えると推計されています。

 さらに、75歳以上人口に占める単独世帯で暮らす人の割合、いわゆる独居率についても、2050年には山形県を除く46都道府県で20%を超えると見込まれています。ただし、ここでいう「65歳以上の単独世帯が全世帯に占める割合」と「75歳以上人口の独居率」は分母が異なるため、同じ指標として扱うことはできません。

 これらの推計が示しているのは、単に高齢者が増えるということではなく、家族や世帯の構成が変化するという点です。かつては親、子、孫の複数世代が同じ地域に暮らし、墓の管理や寺院との関係を世代間で引き継ぎやすい環境がありました。しかし、単独世帯の増加や世帯規模の縮小が進めば、同じ家系の中で役割を分担できる人数が少なくなる場合があります。

 例えば、現在80歳の親が墓を管理し、55歳の子が草刈りを手伝い、孫世代も盆や彼岸に帰省している家庭があったとしても、30年後に同じ管理体制が続くとは限りません。親が亡くなり、子も高齢になり、孫が遠隔地に居住していれば、墓の管理は一人の親族に集中するかもしれません。複数の墓や実家の管理を同時に引き受けることになれば、時間的・経済的な負担も大きくなります。

 もっとも、単独世帯であることが直ちに親族の不在を意味するわけではありません。別居する子や親族が管理を引き受ける場合もあり、家族以外の人が祭祀を承継することもあり得ます。したがって、人口減少や独居率だけから墓の維持可能性を判断するのではなく、親族の居住地、承継意思、費用負担能力などを合わせて考える必要があります。

2.墓の維持は墓参りだけで成立しているわけではない

 墓の維持というと、盆や彼岸の墓参りを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、実際には墓石の清掃、除草、落ち葉の処理、樹木管理、通路や外柵の補修、管理費の支払い、使用者の名義承継、墓地管理者との連絡など、多くの作業や手続きが関係しています。共同墓地では、個々の墓だけでなく、墓地全体の通路、法面、排水設備、周辺の樹木なども管理対象になります。

 寺院墓地では、墓地の維持に加えて寺院そのものの管理が関係する場合があります。檀家が護持会などの組織を通じて境内の清掃や施設の修繕費を負担し、寺院行事の準備にも参加している地域では、墓地管理と寺院運営が事実上一体となっています。ただし、護持会は全国一律の法律上の制度ではなく、名称、会費、加入条件、活動内容、寺院との関係は地域や宗派によって異なります。

 文化庁の統計によると、2024年12月31日時点の仏教系宗教法人数は全国で76,657法人です。ただし、この数字には宗派などの包括宗教法人も含まれるため、そのまま寺院の数や墓地を経営している寺院の数を示すものではありません。また、宗教法人数から檀家数、護持会の参加者数、寺院の経営状況を判断することもできません。

 重要なのは、墓を管理する家族側だけでなく、墓地や寺院を維持する運営主体の側にも人口減少の影響が及ぶことです。檀家が減少すれば寺院の収入構造が変わる可能性があり、共同作業の参加者が減少すれば施設管理の方法を変更する必要が生じます。家族による承継と寺院・墓地の運営を、双方から検討しなければなりません。

3.作業可能者が減少すれば一人当たりの負担は増えるのか

 墓地管理の負担を考えるには、管理する墓の数だけでなく、作業に必要な時間と実際に参加できる人数を把握する必要があります。例えば、ある共同墓地の年間作業時間が200時間で、50人が同じ程度の時間を負担している場合、1人当たりの年間作業時間は平均4時間になります。同じ200時間の作業を25人で行うことになれば、1人当たりの平均作業時間は8時間となり、負担は2倍になります。

 この関係は、「1人当たり年間作業時間=墓地全体の年間延べ作業時間÷作業参加可能者数」という概念式で表せます。重要なのは、分子を墓地区画数ではなく作業時間とし、分母を住民人口ではなく実際に作業を担える人数とすることです。区画数と人数を割り算するだけでは、実際の労働時間を算出できません。

 ただし、現実の作業負担は単純な割り算だけで決まるものではありません。参加者の体力や技能には差があり、機械を使える人と手作業を行う人では作業効率が異なります。また、危険な斜面や高木の管理など、専門的な知識や資格、適切な安全対策が必要な作業もあるため、単純に人数を確保すれば解決するわけではありません。

 一方、除草方法の変更や機械化によって必要作業時間を200時間から100時間へ削減できれば、参加者が25人に減少しても、1人当たりの平均負担は4時間で維持できます。この例は実際の墓地の予測ではありませんが、人口減少に対応する方法として、参加者を確保するだけでなく、必要作業量そのものを減らすことに合理性があると分かります。

4.人口が減少しても墓の数は同じ速度では減らない

 人口減少地域の墓地管理には、人口と管理対象の減少速度が一致しないという構造的な問題があります。地域の人口が半分になったとしても、過去につくられた墓石や通路、擁壁などが自動的に半分になるわけではありません。住民が転出し、墓の承継者が遠方に移った場合でも、墓や施設は地域に残り続けます。

 人口や利用世帯の減少よりも管理対象の縮小が遅ければ、墓地の維持に必要な労働量や費用が相対的に大きくなる可能性があります。特に、墓地区画が広く分散している場合や、急傾斜地、山林に近い場所などでは、個々の墓の管理が行われなくなっても周辺の草木や通路の管理が必要になることがあります。

 一般住宅であれば、空き家になった後に売却や解体を検討することができますが、墓地には遺骨、墓石の所有権、墓地使用権、祭祀承継、改葬などの問題が関係します。そのため、管理する人がいなくなったからといって、墓地管理者が直ちに墓石を撤去できるとは限りません。

 このように、墓地の将来負担は、現在何人が地域に住んでいるかだけでなく、過去から引き継がれてきた管理対象がどれだけ残っているかによって左右されます。人口減少が進んでも維持管理の必要性が残り続けるという点は、墓地政策を長期的に考えるうえで重要な特徴です。

5.無縁墓はすでに現実の行政課題になっている

 無縁墓の問題は、30年後になって初めて発生するものではありません。総務省行政評価局が2023年9月に公表した「墓地行政に関する調査」では、公営墓地・納骨堂を有する回答765市町村のうち、445市町村、58.2%で無縁墳墓等が存在すると回答しています。この数字には無縁墳墓等の疑いがあるものも含まれ、「ない」と回答した市町村は215、28.1%、「分からない」と回答した市町村は105、13.7%でした。

 人口規模5万人未満の市町村に限っても、公営墓地・納骨堂を有する回答474市町村のうち261市町村、55.1%が無縁墳墓等の存在を回答しています。このことから、無縁墳墓等は大都市だけの問題ではなく、人口規模の小さい自治体でも発生していることが分かります。ただし、これらは無縁墳墓等が存在する市町村の割合であり、墓地区画全体の何%が無縁墓になっているかを示すものではありません。また、寺院墓地や民営墓地全体の状況を代表する統計でもありません。

 厚生労働省も2025年3月、墓地使用者以外の縁故者情報を事前に把握する取組について、調査結果を自治体へ通知しています。この調査では、公営墓地を有する回答457自治体のうち、縁故者情報を事前に把握していると回答した自治体は56、12.3%でした。一方、調査対象となった大規模民営墓地では、回答103か所のうち58か所、56.3%が事前把握を行っていました。

 もっとも、公営側と民営側では対象施設や回答率が異なるため、この割合だけで運営体制の優劣を判断することはできません。全自治体を対象とした調査の回答率は43.2%、対象となった大規模民営墓地の回答率は14.8%であり、無回答による偏りも考慮する必要があります。それでも、墓地使用者が亡くなってから初めて次の管理者を探す方式には限界があり、事前に連絡先や承継予定者を確認する必要性が高まっていることは読み取れます。

 無縁墓は、所有者や承継者が確認できなくなるだけの問題ではありません。管理費の滞納、墓石の倒壊、樹木の繁茂、通路や周辺施設の管理など、墓地全体の安全性や運営費にも影響する可能性があります。対応を先送りすれば、縁故者の確認や法的手続きが一層困難になることも考えられるため、無縁化の防止と発生後の適切な対応を分けて考える必要があります。

6.墓の承継と改葬には法律上の手続きが関係する

 墓の承継については、通常の財産相続と区別して考える必要があります。民法第897条では、系譜、祭具及び墳墓の所有権について、祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する仕組みを定めています。被相続人による指定がある場合にはその指定が関係し、指定がない場合には慣習によって判断され、慣習が明らかでないときには家庭裁判所が承継者を定めることがあります。

 ただし、祭祀財産の承継と墓地使用権の承継は、必ずしも同じ問題ではありません。墓地の土地は寺院や自治体などが所有し、利用者は規則や契約に基づく使用権を持っている場合があるためです。承継できる人の範囲、必要な届出、管理費の取扱いなどは、墓地の種類や管理規則によって異なります。

 また、遺骨を別の墓地や納骨堂へ移す改葬には、墓地、埋葬等に関する法律に基づき、原則として市町村長の許可が必要です。無縁墳墓等の改葬についても、法令に定められた公告などの手続きを経る必要があります。したがって、管理する人がいなくなったという事情だけで、墓地管理者が自由に遺骨を移したり、墓石を処分したりできるわけではありません。

 厚生労働省は2025年12月8日、無縁改葬後の墓石等の取扱いについて考え方を整理しています。そこでは、遺骨の改葬に関する行政上の手続きと、墓石などの所有権に関する私法上の問題は別であることが示されています。墓石等の取扱いを検討する際には、墓地使用権が適法に消滅していることや、改葬が適法に実施されていることなどが前提になります。

 こうした制度上の問題を考えれば、無縁墓が発生してから対応するだけでなく、使用契約や管理規則の段階で承継、管理費の滞納、連絡不能時の対応などを明確にしておくことが重要です。ただし、既存の墓地について管理者が一方的に規則を変更できるとは限らず、利用者の権利や契約関係を踏まえた慎重な対応が必要になります。

7.改葬が増えていることは墓が不要になったことを意味しない

 近年、墓じまいや改葬への関心が高まっています。厚生労働省の衛生行政報告例でも改葬件数が集計されており、2024年度には全国で17万件台となっています。ただし、この統計をそのまま墓じまいの件数と理解することは適切ではありません。

 改葬には、遠方の墓から自宅近くの墓へ遺骨を移す場合、寺院墓地から別の墓地へ移す場合、個別墓から合葬墓や納骨堂へ移す場合などが含まれます。また、改葬の行政統計と、実際に撤去された墓石の数や廃止された墓地区画数は同じではありません。そのため、改葬件数の増加をもって、墓そのものが社会から不要になっている、あるいは国民の宗教意識が特定の方向へ変化していると断定することはできません。

 一方、従来の墓をそのまま維持することが難しくなり、管理しやすい場所や形態へ変更する需要が存在することは、改葬を検討するうえで重要な論点です。問題は墓を残すかどうかだけでなく、現在の管理方法を将来にわたって継続できるかという点にあります。

 なお、改葬統計を長期比較する際には、公表後の数値訂正にも注意が必要です。衛生行政報告例では2026年9月28日に過年度の一部統計表が訂正されているため、前年比や長期推移を記事で取り上げる場合には、訂正後の数値を用いて比較する必要があります。

8.人口減少と墓地管理能力の低下は必ずしも同じ速度では進まない

 人口減少が墓地の維持に影響するという考え方には合理性がありますが、人口が何%減少したから管理能力も同じ割合で低下すると判断することはできません。墓地の維持には、地域内の住民だけでなく、遠隔地に暮らす親族、管理費を負担する利用者、墓地管理者、委託業者なども関係するからです。

 例えば、人口が減少しても管理費の支払率が維持され、必要な作業を外注できる墓地では、維持管理を継続できる可能性があります。反対に、人口の減少率が比較的小さくても、共同作業に参加する人が特定の高齢世代に集中していれば、数年のうちに作業体制が大きく変化することもあり得ます。

 また、高齢者であっても墓地の管理作業に参加できる人はおり、年齢だけで作業能力を判断することは適切ではありません。ただし、重い機械の操作や急斜面での作業などでは安全上の配慮が必要であり、平均年齢の上昇によって実施できる作業の種類や方法が変わる可能性はあります。

 したがって、人口減少は墓地管理の将来を考えるための重要な説明要因ですが、それ自体が維持不能を決定するものではありません。管理対象の規模、参加可能者の人数と能力、管理費の収入、外注先の確保、墓地の立地条件を組み合わせて判断することが必要です。

9.若い世代へ引き継ぐだけでは解決しない場合がある

 地域の共同作業では、高齢者が参加できなくなった場合に、若い世代へ役割を引き継ぐことが期待されがちです。しかし、人口減少地域では、その若い世代自体が少なくなっている場合があります。さらに、若年・中年世代には仕事、育児、家族の介護などの負担があり、地域活動へ参加できる時間が十分にあるとは限りません。

 例えば、高齢世代80人、若年・中年世代40人の地域が、30年後にそれぞれ50人と15人になったと仮定します。この数字は特定地域の将来推計ではありませんが、若年・中年世代の人数が大きく減少すれば、従来の役割分担を維持することが難しくなる可能性を示しています。

 しかも、地域住民が担っているのは墓地管理だけではありません。自治会の運営、道路や水路の清掃、神社や集会所の維持、消防団、祭事、防災活動など、複数の地域活動が同じ住民に集中している場合があります。こうした状況では、一つひとつの活動だけを見て参加者の確保を求めても、地域全体として無理が生じる可能性があります。

 したがって、若い人が地域活動に参加しなくなったという意識の問題だけで捉えることは適切ではありません。地域に残る現役世代の人数と、必要とされる共同作業の総量が釣り合っているのかを考える必要があります。

10.人を増やす努力と同時に必要作業量を減らす

 人口減少地域で従来の維持方式を見直す際には、作業に参加する人を増やすことだけでなく、必要作業量を減らせないかという視点が重要になります。年間4回実施している共同作業を年2回に見直す、全面的な人力除草を一部機械化する、防草対策によって作業頻度を減らす、各世帯が個別に行っている作業を墓地全体でまとめるなど、管理方法を変更する余地はあります。

 ただし、作業回数を減らせば必ず管理が合理化されるわけではありません。除草頻度を減らした結果、雑草が繁茂して次回の作業負担が大きくなる場合もあり、防草設備の導入には初期費用や修繕費が必要です。通路の安全確保や排水設備の点検など、削減すべきでない作業も存在します。

 合理的な方法を判断するには、現在の年間作業時間、作業内容、費用、事故の危険性などを把握し、管理方法を変更した場合の効果を比較する必要があります。例えば、年間200時間必要だった作業が設備改善によって120時間に減少しても、そのために高額な工事費や継続的な設備維持費が発生するのであれば、経済的な評価も必要になります。

 重要なのは、昔から続けている作業だから今後も同じ方法で続けるという前提を外すことです。作業の目的を確認し、その目的を達成するために必要な労働と費用をできるだけ合理的に配分することが、人口減少に対応する一つの方向になります。

11.墓地管理費には固定費と変動費が存在する

 墓地の維持費を考える際には、利用者数に関係なく発生する固定費と、利用区画数や作業量によって変化する費用を区別する必要があります。通路や擁壁の補修、排水設備の維持、共用施設の管理などには、墓地の利用者が減少しても一定の費用が発生します。一方、個別区画の清掃や一部の事務処理費用などは、区画数や管理方法によって変化する可能性があります。

 例えば、墓地全体の年間固定費が120万円で、管理費を支払う区画が200ある場合、固定費だけを均等に負担すると1区画当たり年間6,000円になります。支払う区画が100に減少し、固定費が同じ120万円であれば、1区画当たりの必要負担額は年間12,000円になります。

 この例は説明のための仮定ですが、費用が減らないまま支払う利用者だけが減少すれば、一人当たりの負担は増えるという関係を示しています。また、実際の管理費には変動費や将来の修繕積立金なども含まれるため、必要負担額は固定費だけで決まるものではありません。

 墓地の財政を評価する際には、「年間管理費総額=固定費+変動費」と考えたうえで、実際に管理費を支払っている区画数や収納率を確認する必要があります。区画数が十分にあっても、使用者と連絡が取れず管理費が支払われていなければ、収入不足が生じる可能性があります。

 さらに、今後は物価や人件費の変動も考慮する必要があります。墓地管理者の収入が減少する一方で、設備修繕費や業者委託費が上昇すれば、財政負担は人口減少だけから想定する以上に大きくなる場合があります。長期的な管理計画では、現在の収支だけでなく、将来の修繕需要と費用負担を見込んでおくことが重要です。

12.個別墓を永久に同じ家系が管理する前提は見直せる

 従来の家の墓では、子や孫が墓を引き継ぎ、同じ家系が長期間にわたって管理することが前提になっている場合があります。しかし、子どもの有無、親族の居住地、家族構成、経済状況が変化するなかで、すべての利用者に同じ承継方式を求めることが現実的とは限りません。

 一つの選択肢として、一定期間は個別の墓を維持し、その期間が終了した後に遺骨を合葬する方式が考えられます。このような期限付きの利用方式であれば、将来の承継者がいない人でも、一定期間は個別に墓参りできる場所を持ちながら、その後の管理方法をあらかじめ決めておくことができます。

 ただし、期限付き墓地や合葬墓への移行には、墓地管理者の規則、使用契約、遺骨の取扱い、改葬手続きなどが関係します。既存の個別墓について、使用者の同意や必要な法的手続きを経ずに、一律の期限を設けて合葬へ移行させることができるわけではありません。また、合葬後には個々の遺骨を取り出せない方式もあるため、利用者には十分な説明と理解が必要です。

 個別墓を維持できる家庭は従来方式を選び、承継者の確保が難しい家庭は期限付き墓地や合葬墓などを選択できるようにすることが、現実的な対応と考えられます。重要なのは、一つの墓の形式をすべての家庭に当てはめるのではなく、異なる事情に応じた選択肢を設けることです。

13.菩提寺の維持にも人口構造と固定費の問題がある

 寺院の維持についても、人口減少による影響を考える必要があります。寺院には宗教活動、法要、墓地管理、建物や境内の維持、文化財の管理、地域行事への参加など多くの機能があります。これらを檀家の会費や寄付、寺院独自の収入、住民の共同作業などによって支えている場合、檀家や参加者の減少は運営に影響する可能性があります。

 特に、寺院の建物や境内の維持費には固定的な部分があります。檀家数が半分になったからといって、本堂の屋根面積や境内の広さが半分になるわけではありません。建物の老朽化が進めば修繕費も必要になりますが、その費用を負担する人が減少すれば、一世帯当たりの負担が大きくなる可能性があります。

 ただし、寺院の収入は檀家からの護持会費だけで構成されているとは限りません。法要に伴う収入、寄付、墓地や納骨施設の運営、その他の適法な事業収入など、収入構造は寺院ごとに異なります。また、檀家が減少しても、他地域からの利用者や支援者によって運営を継続できる場合もあるため、檀家数だけで寺院の将来を判断することはできません。

 さらに、宗教活動そのものと、建物の維持管理や共同作業は区別して検討できます。例えば、宗教行事や供養の内容を維持しながら、境内の管理方法を変更したり、専門業者への委託を進めたりすることは、条件によっては可能です。ただし、寺院の宗教的なあり方や組織運営は寺院・宗派の自治に関係するため、行政や外部の立場から一律の運営方式を求めることは適切ではありません。

 今後必要になるのは、寺院が持つ宗教的・文化的な役割を尊重しながら、施設管理の費用や労働負担を可視化することです。宗教活動の継続と施設の維持管理をどのように両立させるかは、それぞれの寺院や檀家が実情に応じて検討する課題になります。

14.労働負担と金銭負担を分けて考える

 共同墓地や護持会の運営では、作業への参加を全員に求める方法が採用されている場合があります。しかし、高齢、障害、遠隔地への転居、仕事、育児、家族の介護などによって、共同作業に参加できない人もいます。参加できないことを直ちに協力意思の欠如と判断してしまうと、実際の生活条件に合わない負担の仕組みになりかねません。

 今後は、地域維持の負担を労働と金銭に分けて考える方法もあります。作業に参加できる人は労働によって協力し、参加が難しい人は一定の費用を負担することで、作業の一部を外注する仕組みです。ただし、労働と金銭が常に完全に代替できるとは限らず、作業内容によっては専門業者への委託そのものが必要になる場合もあります。

 例えば、共同作業に参加できない人が費用を負担し、その財源を草刈りや清掃の委託に充てれば、参加者の負担を軽減できる可能性があります。一方、経済的に困難な人に過大な金銭負担を求めれば、管理費の滞納や利用継続の困難につながるおそれがあります。そのため、負担額の設定や減免の取扱いについても検討が必要です。

 もっとも、管理費や護持会費の徴収、作業参加義務、減免制度などは、墓地の使用契約や管理規則、寺院や団体の規約によって異なります。墓地利用者と護持会員が一致するとも限らず、宗教活動に対する寄付と墓地管理に必要な費用も同一ではありません。実際に制度を変更する場合には、これらの関係を整理し、関係者の理解を得ながら進める必要があります。

15.すべてを民間業者に委託しても問題が消えるわけではない

 墓地管理の共同作業が難しくなれば、業者への委託は有力な選択肢になります。草刈り、樹木管理、清掃、設備点検などを専門業者へ依頼すれば、住民の労働負担を減らし、安全管理や作業品質の面でも改善が期待できる場合があります。

 ただし、外注によって負担が消えるわけではありません。住民が直接行っていた作業を事業者に依頼することは、時間的な負担の一部を金銭的な負担へ置き換えることを意味します。委託費には人件費、移動費、機械や車両の使用費、廃棄物の処理費、管理費などが含まれ、事業として継続するための適正な利益も必要になります。

 人口密度が低く、墓地が広い範囲に分散している地域では、移動時間に対して作業量が少なくなり、業者側の採算が悪くなる可能性があります。また、地域全体で労働力不足が進めば、依頼したくても受注可能な事業者を確保できなくなる場合も考えられます。

 そのため、複数の墓地や寺院が作業時期を調整して一括発注する方法や、専門的な作業だけを外注し、軽作業は地域で対応する方法なども検討対象になります。業者への委託は、費用、作業品質、安全性、契約期間、将来の受注可能性を比較したうえで判断する必要があります。

16.合葬墓や納骨堂への集約にも長期的な管理責任が残る

 個別墓から合葬墓や納骨堂へ移行することには、管理面積を集約し、家族が個別に草刈りや清掃を行う必要を減らせるという利点があります。承継者を必要としない利用方式を採用できる施設であれば、子どもがいない人や遠隔地に親族がいる人にとっても選択肢になります。

 しかし、合葬墓や納骨堂であっても、管理する主体が不要になるわけではありません。施設の建設費、清掃費、修繕費、事務費、将来の更新費用などが発生し、施設によっては設備の維持や災害への対応も必要になります。利用者から徴収した費用だけで将来にわたって管理できるのか、運営主体が長期的に存続できるのかについても検討が必要です。

 特に、永代供養という名称だけで、すべての管理や供養が無期限に保証されると考えることは適切ではありません。個別安置の期間、その後の合葬方法、管理費の追加負担、施設が廃止される場合の取扱いなどは、施設ごとの契約や規則を確認する必要があります。

 合葬墓への移行は、家族単位に分散していた管理を、墓地や納骨施設の管理主体へ集約する方法と考えた方が正確です。管理の効率化につながる可能性はありますが、管理責任そのものが消えるわけではないため、施設の長期的な維持費と運営体制を含めて評価する必要があります。

17.今後30年間を三段階に分けて考える

 墓地や寺院の管理方式を見直す場合、突然すべての仕組みを変更する必要はありません。むしろ、現在の利用者や地域住民の理解を得ながら、長期的に段階を分けて検討する方法が現実的です。2026年から2056年までの30年間を、一つの例として三段階に整理することができます。

第1段階 2026年~2036年:現状把握と承継状況の確認

 最初の10年間では、墓地区画数、管理されている区画数、使用者の年齢構成、承継予定者、連絡可能な親族、年間管理費、共同作業の回数と時間、参加者の年齢構成などを把握します。寺院についても、可能な範囲で檀家数の推移、護持会の参加者数、施設修繕費、今後必要となる維持費を確認することが考えられます。

 ただし、個人の住所や連絡先、家族関係などを扱う際には、個人情報の適切な管理が必要です。必要な利用目的を明確にし、取得する情報の範囲や保管方法を定めるなど、個人情報保護法その他の関係規律に従って運用する必要があります。

 この段階では、直ちに墓地の統合や廃止を決定するのではなく、現在の体制がどのような条件によって成立しているのかを確認することが中心になります。

第2段階 2036年~2046年:省力化と管理方式の見直し

 次の10年間では、調査結果を踏まえて、共同作業の効率化、防草対策、機械化、外注、管理費の見直し、承継者情報の更新などを進めることが考えられます。個別墓の承継が難しい利用者に対しては、希望に応じて合葬墓や納骨堂などの選択肢を案内できる体制を整えることも検討対象になります。

 必要に応じて墓地の新規区画整備を抑制したり、未使用区画の配置を見直したりすることも考えられます。ただし、既存の墓地区画や使用権を変更する場合には、関係者の権利や法令上の手続きを尊重しなければなりません。

 また、墓地や寺院の管理方式を見直す際には、住民負担を減らす効果だけでなく、委託費や設備投資による財政負担の増加も評価する必要があります。

第3段階 2046年~2056年:将来の人口規模に応じた体制へ移行する

 最後の10年間では、それまでの人口動向、管理費の収入、作業参加者の推移、承継状況などを踏まえ、長期的に維持可能な管理方式へ移行することが目標になります。従来方式を継続できる墓地は維持し、管理の効率化が必要な墓地では共同管理や外注を進めるなど、地域の実情に応じた対応が考えられます。

 もっとも、この三段階は将来を確定的に予測した工程表ではありません。人口推計は社会移動や出生・死亡の変化によって実際の結果と異なる可能性があり、経済環境や地域の管理体制も変化します。そのため、数年ごとに状況を確認し、必要に応じて計画を修正することが重要です。

18.墓地の将来を考えるには何を調査すべきか

 全国の人口推計や改葬統計だけでは、個々の墓地が30年後まで維持できるかどうかを判断することはできません。地域にある墓地の区画数、実際に管理されている割合、使用者の年齢、承継予定者の有無、管理費の支払状況、年間作業時間などを把握する必要があります。

 例えば、現在200区画が管理されている墓地で、承継予定者を確認できる区画が100区画であれば、「承継予定者確認率」は50%になります。この指標は、承継予定者を確認できる区画数を現在の管理区画数で割ったものであり、墓地の将来を考えるための独自の参考指標として利用できます。

 ただし、承継予定者確認率が50%であることは、30年後に50%の墓しか維持できないという意味ではありません。承継予定者が未確認でも今後確認できる可能性があり、反対に承継予定者が確認されていても、その人が実際に管理できるとは限らないからです。そのため、この指標を「将来管理可能率」と呼ぶことは適切ではありません。

 より実態に近い評価をするには、承継予定者の有無だけでなく、承継する意思、管理費の負担能力、墓地までの移動距離、管理作業の実施方法、墓地管理主体の継続性などを確認する必要があります。また、今後10年間に承継問題が発生する可能性のある区画数や、管理費の滞納が続いている区画数なども重要です。

 これらの情報を用いれば、現状維持、省力化、共同管理、外注化、合葬への段階的移行など、複数の管理方法について費用と労働負担を比較できます。ただし、こうした分析を行ったとしても、将来の墓地の存続確率を直ちに算出できるわけではありません。実際の確率を推定するには、過去の承継実績や管理費の変化などに関する十分なデータと、適切な統計モデルが必要になります。

19.全国統計だけでは分からない地域固有の問題

 墓地の維持問題を考えるうえでは、全国の人口構造と地域固有の事情を分けて考える必要があります。人口が同じ程度に減少する自治体でも、墓地の配置、寺院の数、管理規則、親族の居住地、交通条件、外注できる事業者の有無などによって、管理の難易度は大きく異なります。

 例えば、千葉県の御宿町、いすみ市、勝浦市、大多喜町のように、人口減少や高齢化への対応が重要な地域を考える場合でも、各地域の墓地が同じ問題を抱えていると決めつけることはできません。住宅地に近い墓地と山間部にある墓地では作業内容が異なり、寺院墓地、公営墓地、地域の共同墓地などでも管理主体や費用負担の仕組みが異なるからです。

 また、人口が減少していても、地域外に暮らす親族が墓の管理費を支払っている場合には、管理収入が維持されることがあります。一方で、地域内に利用者が住んでいても、高齢化によって作業参加が難しくなり、外注費の負担が増加する場合もあります。

 したがって、地域ごとの墓地の将来像を描くには、市町村別の人口推計だけでなく、個々の墓地や寺院の管理状況を調査する必要があります。現時点では、護持会の作業参加者数、墓の承継者の有無、寺院ごとの収支状況などについて、全国を統一的に比較できる詳細な公的統計は限られています。

 そのため、「地方寺院の何%が30年以内になくなる」「墓地の何%が無縁墓になる」といった具体的な割合を、現在の人口推計だけから断定することはできません。これらの数字を示すのであれば、対象とした墓地や寺院の範囲、調査方法、推計の前提条件、統計的な不確実性を明確にする必要があります。

20.必要なのは墓じまいの一律推進ではなく選択肢の整備

 人口減少地域で墓地や寺院の将来を考える際、墓じまいを増やすこと自体を目的にする必要はありません。個別墓を維持したい家庭が、管理費や作業負担を引き受けられるのであれば、従来の方式を続けることも合理的な選択です。墓には故人を追悼する場所としての意味があり、長年の家族関係や地域の歴史と結びついている場合もあります。

 一方で、承継者がいない家庭や、遠隔地に住んでいて管理が難しい家庭にまで、同じ方式を求めることには限界があります。こうした家庭に対しては、期限付きの個別墓、合葬墓、納骨堂、管理委託などの選択肢を設けることが考えられます。

 ただし、樹木葬、合葬墓、納骨堂なども、施設や契約内容によって管理方法が異なります。樹木葬という名称であっても、個別管理が必要な形式や、一定期間後に合葬する形式があるため、名称だけで維持負担の大小を判断することはできません。

 また、新たな選択肢を設ける際には、希望する人が利用できることだけでなく、運営主体が長期的な管理責任を果たせるかどうかも重要です。家族の負担を軽減するために導入した制度が、将来の利用者や地域全体に過大な負担を残すことになれば、持続可能な解決策とはいえません。

 必要なのは、個別墓を残す人、一定期間後の合葬を選ぶ人、生前に改葬を進める人、管理を委託する人が、それぞれの事情に応じて選択できる環境を整えることです。

21.30年後の負担を考えるなら現在から準備する必要がある

 墓地の管理問題には、人口構造の変化と施設管理の必要性との間に時間差があるという特徴があります。現在60歳の人は30年後には90歳になり、現在30歳の人も60歳になります。現在は若い世代と考えられている人も、将来は高齢世代に移っていきます。

 例えば、現在70歳代の人が、自分たちが管理できなくなれば50歳代の人が引き継げばよいと考えていても、その50歳代は20年後には70歳代になります。その時点でさらに若い世代へ管理を引き継ぐ必要がありますが、人口減少が続く地域では、次の世代の人数が十分に確保できるとは限りません。

 このように、管理する世代を順番に交代させるだけでは、必要作業量と参加人数の不均衡が解消しない場合があります。むしろ、次の世代へ同じ作業を引き継ぐ前に、現在の世代が管理方法を見直し、将来の必要作業量や費用負担を軽減しておくことが重要になります。

 もっとも、人口減少地域のすべての墓地が同じ速度で維持困難になるわけではありません。将来を判断するには、人口推計だけでなく、管理費の収入、承継状況、施設の老朽化、委託先の確保などを確認し、地域ごとの条件を評価する必要があります。

 重要なのは、管理する人がいなくなってから初めて対応するのではなく、現在の段階で将来の負担を把握しておくことです。墓地や寺院の管理方法を変更するには、利用者や檀家の理解、費用負担の調整、法的手続きなどが必要になる場合があり、短期間で解決できるとは限らないからです。

現実的な結論~残すものと維持方法を分けて考える

 人口減少地域における墓地と菩提寺の問題は、単なる墓じまいの問題ではありません。家が墓を持ち、子が継ぎ、檀家として寺院を支え、地域住民が共同作業を行うという仕組みを、人口減少社会のなかでどのように維持していくかという問題です。

 公的な人口推計からは、2050年に向けて高齢化と世帯の小規模化が進み、単独世帯の割合が高まることが見込まれています。また、総務省の調査からは、無縁墳墓等がすでに多くの市町村で行政上の課題になっていることが確認できます。こうした事実は、従来の墓地管理方式を将来も変更せずに維持できると仮定することの危うさを示しています。

 ただし、人口減少だけを根拠として、30年後に墓地や寺院がどの程度維持できなくなるかを断定することはできません。墓地の存続には、承継者の有無だけでなく、管理費の支払能力、管理作業の効率、墓地管理主体の経営状況、外注先の確保など、多くの条件が関係します。

 したがって、今後必要なのは、墓石を残すこと、遺骨を適切に管理すること、故人を追悼すること、寺院の宗教活動を続けること、墓地の草刈りや施設管理を行うことを、それぞれ区別して考えることです。これらは相互に関係していますが、すべてを現在と同じ方法で維持しなければならないわけではありません。

 先祖を大切にすることと、子孫が毎年墓地の草刈りを行うことは必ずしも同じではありません。また、寺院の宗教活動を支えることと、高齢住民が無償の共同作業を続けることも、常に不可分というわけではありません。宗教的な価値観や地域の歴史を尊重しながら、その価値を維持するための具体的な方法を見直す余地があります。

 まずは、現在の墓地区画数、管理状況、承継予定者、共同作業の負担、管理費の収支などを確認し、そのうえで省力化、共同管理、外注、期限付き墓地、合葬墓などの選択肢を比較することが現実的です。どの方法が適切かは地域や墓地によって異なるため、一律の結論ではなく、実態に基づく判断が求められます。

 そして、最も重要なのは、次世代へ何を引き継ぐのかという問いを、施設や慣習だけでなく、労働と費用の面からも考えることです。次世代に「今まで通り続けてほしい」と求めるだけではなく、次世代が無理なく維持できるところまで現在の仕組みを見直しておくことが、人口減少社会における重要な課題になります。

 人口減少社会で本当に必要なのは、墓や寺院を残すかどうかだけを議論することではなく、残したいものを将来にわたって維持するために、どの作業を、誰が、どのような負担で続けるのかを考え直すことです。

 それは墓や寺院の価値を否定することではありません。むしろ、人口が減少した後にも大切なものを残すために、現在の世代が管理の仕組みを合理的に再設計していくという考え方です。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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※本記事は2026年10月8日現在の情報に基づき、書店数、出版市場、地域の書店・図書館の動向、制度上の位置づけを再確認したうえで、統計的・経済的な考察を加えて更新しました。

はじめに~町から本屋が消えることの意味

 地方では、「以前はあった町の本屋がなくなった」という話を聞くことが珍しくなくなりました。書店の閉店は、単に買い物をする場所が一つ減るという問題ではありません。実際に本を手に取って選ぶ機会が失われ、子どもが新しい本と出会う場所が減り、高齢者や自動車を利用できない住民にとっては、読書そのものが不便になる可能性があります。千葉県の外房地域でも、書店の状況は市町村によって異なります。茂原市やいすみ市などには現在も書店がありますが、すべての自治体に大型書店が存在するわけではなく、書籍の購入先が生活圏の中心都市へ集まる傾向も考えられます。

 一方、公共図書館については、2025年3月に茂原市立図書館が商業施設へ移転し、2026年7月にはいすみ市で初めて市立図書館が開館するなど、単純な施設縮小とは異なる動きも起きています。この問題を考えるときには、民間書店と公共図書館を区別する必要があります。書店は販売による収益を確保しなければ存続できませんが、公共図書館は社会教育や情報提供のために自治体が設置・運営する施設であり、経営上の目的も財政上の仕組みも異なります。また、現在ではインターネット通販、電子書籍、図書館間の相互貸借など、本を入手する経路も多様化しています。

 本記事では、外房の長生・夷隅地域を主な対象とし、生活圏や比較対象として館山市・鴨川市などの安房地域も取り上げます。全国の書店数と出版市場の変化を確認したうえで、地域書店の採算性、公共図書館の役割、人口減少、高齢化、交通条件、電子資料の普及を総合的に検討し、今後の外房で本へのアクセスを維持するためには何が必要なのかを考えます。

最初に結論~書店と図書館は同じようには減らない

 今後の外房では、民間書店については人口規模の大きい中心都市や広域商圏への集中が進む可能性があります。一方、公共図書館や公民館図書室については、自治体の政策や財政判断によって維持・再編され、施設の集約と地域サービスの分散を組み合わせる方向が有力な選択肢になると考えられます。ただし、これは現在の統計と制度から導いた見通しであり、個々の書店や図書館の存続を予測したものではありません。

 重要なのは、地域に書店や図書館が存在するという事実だけで、読書環境が十分だとは判断できないことです。書店があっても欲しい本が置かれていない場合があり、図書館があっても自宅から遠く、開館時間や利用資格が合わなければ、十分に利用できない住民が生じます。反対に、小規模な図書室であっても、県立図書館や周辺自治体との連携が機能していれば、施設内の蔵書を超える資料へアクセスできます。したがって、本記事では、地域の読書環境を「書店の数」や「図書館の数」だけではなく、住民が読みたい本を知り、探し、購入または借り受け、実際に利用できる機会として捉えます。書店、公共図書館、公民館図書室、図書館間貸借、通販、電子書籍は、それぞれ役割と利用条件が異なるため、単純に施設数や蔵書数を足し合わせるだけでは正確な評価になりません。

全国の書店数は22年間で半分以下になった

 日本出版インフラセンターの書店マスタを基にした出版科学研究所の統計によると、全国の登録書店数は2003年度の20,880店から、2024年度には10,417店まで減少しました。さらに2025年度末、すなわち2026年3月末時点では9,993店となり、登録書店数が1万店を下回りました。2003年度と2025年度末を比較すると、減少した店舗数は10,887店で、減少率は約52.1%です。現在の店舗数は2003年度の約47.9%に相当するため、全国の登録書店数は、この22年間で半分以下になったことになります。また、2024年度末から2025年度末までの1年間でも424店減少しており、減少率は約4.1%でした。

年度 全国の登録書店数
2003年度 20,880店
2010年度 16,966店
2015年度 14,468店
2020年度 12,343店
2023年度 10,918店
2024年度 10,417店
2025年度 9,993店

 この統計で注意したいのは、登録書店数が日本全国の書店を完全に網羅した実地調査の店舗数とは限らないことです。それでも、同じ登録体系における長期的な減少は明確であり、町の書店を取り巻く環境が構造的に変化していることを示しています。もちろん、この全国統計を使って「外房の書店も同じ割合で減った」と判断することはできません。地域別の実態を正確に分析するには、同じ定義で把握した店舗数を過去から現在まで追跡する必要があります。しかし、全国的に長期間の減少が続いていることから、人口減少地域で書店の維持が重要な課題になるという問題設定には十分な合理性があります。

紙の出版市場も縮小しているが、すべての本が同じように減っているわけではない

 書店数が減少している背景には、人口動態だけではなく、出版市場そのものの変化があります。出版科学研究所の推計によると、2025年の紙と電子を合わせた出版市場は1兆5,462億円で、前年比1.6%減少しました。このうち紙の出版物は9,647億円で、前年より4.1%減少し、年間市場規模が1兆円を下回っています。一方、紙の出版物を内訳で見ると、書籍は5,939億円で前年とほぼ同水準を維持したのに対し、雑誌は3,708億円で前年比10.0%減少しました。電子出版市場は5,815億円と前年比2.7%増加していますが、そのうち5,273億円は電子コミックであり、電子市場の拡大が一般書籍や専門書の利用機会の拡大を同じ程度に意味するわけではありません。

2025年の出版市場 推定販売金額 前年比
紙の書籍 5,939億円 ほぼ横ばい
紙の雑誌 3,708億円 10.0%減
紙の出版物合計 9,647億円 4.1%減
電子出版物 5,815億円 2.7%増
紙と電子の合計 1兆5,462億円 1.6%減

 ここで、販売金額と販売数量を区別する必要があります。売上金額は平均販売単価と販売数量によって決まるため、書籍の値上げによって市場金額が維持される場合もあります。紙の書籍市場がほぼ横ばいだったという事実だけでは、販売冊数や読書人口が増えているとは判断できません。特に地方書店の経営にとって重要なのは、雑誌需要の減少です。かつて町の書店では、週刊誌、月刊誌、漫画雑誌、学習雑誌などを定期的に購入する顧客が、継続的な来店を支えていました。こうした購入習慣が変化すると、雑誌そのものの売上が減るだけでなく、来店時に別の商品を購入する機会も減少します。出版市場の変化は、本の購入場所や利用頻度を通じて、書店の経営基盤に影響すると考えられます。

書店の閉店を人口減少だけで説明してはいけない

 地方書店の撤退を、人口減少による顧客数の減少だけで説明するのは不十分です。人口が減っても、住民1人当たりの書籍購入額が増えれば地域全体の需要は維持される可能性がありますし、人口が比較的安定している地域でも、通販や電子書籍への移行によって実店舗の売上が減ることがあります。書店の経営には、書籍・雑誌・文具などの販売収入に対して、仕入れ関連費用、人件費、賃借料、光熱費、物流費、在庫管理費などが発生します。特に人件費や家賃など、売上が少なくても一定額が必要になる固定費は、小規模店舗の存続可能性を左右します。

 損益分岐点を単純化すると、年間の固定費を限界利益率で割ることで、必要な年間売上高を求められます。限界利益率とは、売上高から売上に応じて変化する費用を差し引いた割合のことであり、一般的な粗利益率と必ずしも同じではありません。例えば、年間固定費が1,000万円で、限界利益率を20%と仮定した場合、損益分岐点となる年間売上高は5,000万円です。年間300日営業すると、1日当たり約16万7,000円の売上が必要になります。これは外房の実店舗の経営数値ではなく、固定費と利益率によって必要な販売規模がどの程度変化するかを説明するための仮定です。

 実際の経営では、書籍と文具の利益率の違い、学校教材の納品、返品条件、在庫負担、店舗所有の有無なども関係します。さらに、地域内に本を購入する住民が一定数存在しても、その需要が複数の書店、インターネット通販、電子書籍などに分散していれば、個々の店舗に十分な売上が集中するとは限りません。このため、人口規模だけから書店の採算性を判断することはできません。重要なのは、住民数に加えて、購買頻度、購入単価、実店舗を選ぶ割合、競合店舗、商圏の広がりを検討することです。

外房の書店は実際にどうなっているのか

 外房とその周辺には現在も書店が存在します。茂原市には蔦屋書店茂原店があり、いすみ市にも土屋鍾文堂など、地域の需要を支える書店があります。館山市や鴨川市にも書籍の購入先が存在しており、「外房や南房総にはもう書店がない」という認識は正確ではありません。ただし、店舗の存在と地域の書店環境が充実していることは別問題です。小規模な書店と大型総合書店では、店頭に置けるタイトル数、専門書の取り扱い、新刊の選択肢、営業時間などが異なります。さらに、同じ地域に書店が存在していても、自宅からの距離や交通手段によって実際の利便性には大きな差が生じます。

 地域の状況を示す具体例として、文教堂茂原店は2026年7月5日の営業をもって閉店しました。全国の書店数減少を抽象的な問題として捉えるだけではなく、茂原市でも実際に店舗の撤退が起きていることは注目すべき事実です。ただし、この1店舗の閉店だけで、茂原市全体の書籍需要やすべての書店の経営状況を判断することはできません。また、小規模な自治体に書店が存在する場合でも、教科書や文具を中心に扱う店舗と、一般書籍を広く扱う店舗では地域に提供する機能が異なります。地域別の書店数を比較する際には、店舗の有無だけでなく、取り扱い商品、取り寄せサービス、一般客への販売形態などを把握する必要があります。

 書店の開閉店や営業時間は変化するため、特定店舗の存続状況を長期間固定された情報として扱うことにも注意が必要です。地域の書店環境を継続的に分析するには、同じ条件で定期的に店舗情報を更新する仕組みが求められます。

小規模書店には大型書店とは異なる役割がある

 地方の小規模書店は、大型店より品揃えが少ないという理由だけで評価することはできません。学校向けの教科書や教材、学習参考書、文具、地域出版物の販売に加え、住民から注文を受けて本を取り寄せるなど、地域に密着した機能を担っている場合があります。特に学校教材の販売は、一般の店頭販売とは需要の発生方法が異なります。学校や教育機関との継続的な取引があれば、日々の来店客数だけに依存しない売上を確保できる可能性があります。一方で、特定の取引先への依存度が高い場合には、学校統廃合や契約条件の変更によって経営に影響が生じることも考えられます。

 また、地域書店には、通販では得にくい対面サービスや偶然の発見という価値があります。目的の本が決まっていなくても、棚を眺めることで知らなかった著者や分野に関心を持つことがあります。もっとも、インターネット上でも利用履歴に依存しない推薦や新しい本との出会いは可能であり、偶然の発見が書店だけの機能というわけではありません。地域書店の社会的な価値を認めることと、その店舗が採算上存続できることも区別しなければなりません。書店を文化的に重要な施設だと評価しても、それだけで継続的な売上が生まれるわけではなく、地域需要に合った事業構造を考える必要があります。

すべての町に大型書店を復活させることは現実的か

 人口規模の小さい自治体に大型総合書店を誘致する場合、町内人口だけでは十分な商圏を形成できない可能性があります。必要な売上を確保するには、周辺市町村からの来店、観光客の利用、学校や企業との取引なども含めて検討する必要があります。例えば、必要な年間売上高が5,000万円の店舗を仮定し、商圏内の住民がその店舗で年間平均5,000円の買い物をするとすれば、単純計算では1万人分の購買需要が必要です。ただし、実際には住民の全員が利用するわけではなく、一部の顧客が多額を購入する場合もあるため、これは商圏規模と売上の関係を考えるための例示にすぎません。

 今後の外房では、茂原市を中心とする長生地域、いすみ市・勝浦市などを含む夷隅地域、館山市・鴨川市を中心とする安房地域について、行政境界を超えた買い物行動を把握することが重要になります。これらは書籍購入圏を分析するための大まかな地域区分であり、実際の商圏が行政区域や従来の地域区分と完全に一致するわけではありません。また、中心都市に書店が集まることが経済的に合理的であっても、地域住民全体にとって望ましいとは限りません。中心都市まで移動できない人の不利益や、地域の小規模書店が失われることによる生活上の影響は、店舗経営の採算性とは別に評価すべき問題です。

公共図書館は民間書店とは制度が異なる

 公共図書館は、図書館法に基づく社会教育施設として、資料の収集、整理、保存、貸出、調査相談、情報提供などの役割を担います。民間書店とは異なり、資料の販売による利益の確保を主目的とする施設ではありません。公立図書館では、図書館法により図書館資料の利用について入館料その他図書館資料の利用に対する対価を徴収してはならないとされています。ただし、公立図書館に社会的な役割があることと、すべての市町村に独立した図書館の設置が一律に義務づけられていることは同じではありません。図書館法は公立図書館の運営などを定めていますが、すべての自治体が現在と同じ規模の図書館を維持しなければならないという制度にはなっていません。

 実際、外房やその周辺でも、市町村立図書館を設置している自治体がある一方、公民館や文化施設内の図書室を中心に読書サービスを提供している自治体があります。公民館図書室は、図書館法上の独立した図書館と同じ位置づけとは限りませんが、地域の資料貸出や学習支援の拠点として重要な役割を果たすことがあります。そのため、今後の公共図書館については、民間書店のように採算性だけで存廃を判断することは適切ではない一方、社会的に必要だからどの施設も現在の規模で維持できると考えることもできません。人口構成、利用状況、施設の老朽化、職員の確保、資料購入費、自治体財政などを総合的に考える必要があります。

外房の図書館・図書室には大きな地域差がある

 千葉県統計年鑑では、県内の公共図書館に関する蔵書数、貸出数などの統計が公表されており、2026年10月現在、2024年度分までの実績を確認できる状態にあります。これらの統計を地域別に比較することは重要ですが、公共図書館と公民館図書室の施設区分や集計対象を統一しなければ、正確な比較になりません。茂原市、館山市、鴨川市、南房総市などの市立図書館と、御宿町や長生郡の各町村にある公民館図書室では、施設規模や運営形態が異なります。大多喜町の天賞文庫のように、地域の歴史や資料の蓄積を担う図書館もあり、単純な蔵書冊数の比較だけでは各施設の役割を評価できません。

 原稿で取り上げていた2023年度の施設別蔵書数と貸出冊数は、2026年現在の状況を直接示すものではありません。特に、いすみ市では2026年7月に市立図書館が開館し、茂原市では2025年3月に施設が移転しているため、それ以前の統計と現在の施設運営を同じ条件で比較することはできません。また、施設別の過去の概数についても、統計原表との照合が完了していないものを確定値として掲載することは避ける必要があります。将来の評価では、蔵書数と貸出冊数だけでなく、住民1人当たりの貸出冊数、年間の新規購入冊数、蔵書の更新状況、予約資料の提供日数、実際の利用者数なども確認するべきです。貸出が少ない施設であっても、館内閲覧や学習、調査相談、地域資料の保存に利用されている場合があるため、貸出冊数だけでその価値を決めることは適切ではありません。

いすみ市では2026年7月に初めて市立図書館が開館した

 いすみ市では2026年7月1日、大原文化センター2階に「いすみ市図書館」が開館しました。これは市として初めての市立図書館であり、既存の施設を活用した再編・整備という点でも注目されます。それまでのいすみ市では、大原・岬・夷隅の公民館図書室が主な公共読書サービスを担っていました。新しい市立図書館の開館時間は午前9時から午後7時までで、岬・夷隅の公民館図書室は午前9時から午後5時までとなっています。図書・雑誌の貸出は、図書館と図書室を合わせて10冊、期間は3週間です。また、市内施設の蔵書を検索し、予約した資料を図書館や公民館図書室で受け取ることもできます。

 ここで重要なのは、新しい図書館が開館したという施設整備の事実だけではありません。大原に図書館機能を設けながら岬・夷隅の図書室を残し、蔵書検索や予約、受け取りを組み合わせたことによって、中央施設と地域拠点を連携させる仕組みが整備された点にあります。ただし、利用登録ができることと、あらゆる資料を同じ条件で取り寄せられることは異なります。いすみ市では、所蔵資料の予約に加えて、所蔵していない資料のリクエスト制度がありますが、未所蔵資料のリクエストは市内に住民登録のある人が対象です。また、他自治体から取り寄せた資料には通常とは異なる貸出期間が設定されています。このように、図書館ネットワークの利便性は、単に検索できる資料が多いことだけでは判断できません。利用資格、取り寄せに必要な期間、受け取り場所、貸出期間などを含めて評価する必要があります。

いすみ市の方式は人口密度の低い地域のモデルになるか

 いすみ市の方式は、市内のすべての地区に大規模な図書館を建設するのでもなく、中央図書館だけに機能を集約するのでもありません。比較的機能を充実させた中央施設と、既存の地域図書室を結び、資料とサービスを共有する仕組みです。人口密度が低く市域が広い自治体では、住民全員が中央施設へ直接出向くことを前提とするサービス設計には限界があります。そのため、近隣の図書室で予約資料を受け取れる仕組みには、移動負担を軽減できる可能性があります。特に高齢者や子ども、自動車を利用できない住民にとって、居住地に近い拠点が残される意味は大きいでしょう。

 しかし、この方式が実際に優れているかどうかは、開館したという事実だけで結論づけられません。再編前後の貸出冊数、利用者数、地区別の利用状況、予約・取り寄せ件数、運営費、利用者の満足度などを継続的に比較する必要があります。さらに、図書館開館による効果を厳密に分析するのであれば、人口構成や従来の貸出水準が似ている他自治体との比較も有効です。単純に開館前後の数値が増減しただけでは、図書館整備による効果なのか、人口変化や利用習慣の変化によるものなのかを区別できないためです。いすみ市の方式は、現時点で成功が実証されたモデルというよりも、今後の利用実績と費用を検証する価値が高い実践例として位置づけるのが適切です。

御宿町のような小規模自治体では図書館ネットワークが重要になる

 御宿町には独立した大規模な町立図書館ではなく、公民館内に図書室があります。公民館の公式利用案内では、図書室の貸出受付時間は午前9時から午後5時まで、貸出期間は2週間、冊数は1回5冊までで、町内の人を対象とする条件が示されています。こうした利用条件は、市立図書館を持つ自治体とは異なるため、施設があるかどうかだけでは読書サービスの水準を比較できません。御宿町を含む小規模自治体にとって重要なのは、自館の蔵書だけに頼らず、千葉県立図書館や他自治体の資料を利用できる仕組みです。千葉県では、市町村立図書館などの読書施設を通じて県立図書館の資料を取り寄せる相互貸借の制度が運用されています。

 この仕組みが利用できれば、町内の図書室に置かれていない資料でも、他の図書館から取り寄せられる場合があります。ただし、すべての資料が対象となるわけではなく、貸出制限や取り寄せに必要な期間、受け取り方法などは施設ごとに異なります。利用者が実際に必要な本を入手できるかどうかを確認することが重要です。小規模自治体にとって、大きな建物を新設し、すべての分野の本を自館で保有する方法が常に最適とは限りません。既存の図書室を維持しながら県立図書館や周辺自治体の資料を利用できる体制を整える方が、財政負担と利用機会の両面で合理的になる場合があります。ただし、その合理性を判断するためには、相互貸借による資料調達費、運搬費、職員の業務量、予約から受け取りまでの日数なども評価しなければなりません。施設の規模を小さくすることで建物の維持費が減っても、資料提供に必要な運営費が増える可能性があるためです。

茂原市では図書館を商業施設へ移転した

 茂原市立図書館は2025年3月21日、それまでの駅前のサンヴェルビルから、茂原ショッピングプラザアスモの2階へ移転しました。開館時間は午前10時から午後7時までで、商業施設の駐車場を利用できることなどが特徴です。図書館を商業施設に配置する方法には、買い物と図書館利用を一度の外出で済ませられるという利点があります。自動車利用が多い地域では、商業施設の駐車場を利用できることが来館の負担を軽減する可能性があり、家族で買い物をする際に子どもが図書館へ立ち寄る機会も考えられます。

 一方で、商業施設への移転によってすべての利用者の利便性が改善するとは限りません。以前の図書館を鉄道や徒歩で利用していた住民にとっては、移転によって移動時間が増える場合もあります。図書館の立地を評価するには、駐車場の利便性だけでなく、公共交通機関、徒歩、自転車などの利用条件も考える必要があります。また、商業施設内に公共図書館を置く場合には、建物の維持管理、賃借条件、施設全体の運営方針に影響を受ける可能性があります。仮に商業施設の機能が縮小した場合でも図書館を継続できるのか、長期的な運営上のリスクも検討する必要があります。茂原市の事例は、自動車依存のある地域における公共施設配置の一つの選択肢ですが、その効果を判断するには移転前後の利用者数や地区別のアクセス条件を比較することが不可欠です。

図書館を新しくすれば地域が活性化するとは限らない

 全国には、図書館を中心とした複合施設に多くの来館者を集めている自治体があります。しかし、図書館の建設や移転が、そのまま地域経済の活性化や人口増加につながると考えることはできません。新しい図書館には建設費や改修費のほか、職員費、資料購入費、システム運営費、光熱費、修繕費などが必要です。施設を整備した直後には話題性によって来館者が増える場合があっても、その後も継続して利用されるかどうかは別の問題です。

 地域政策として図書館を評価する場合には、整備直後の来館者数だけでなく、10年、20年という期間にわたる利用実績と維持管理費を考える必要があります。また、図書館の来館者が増えたとしても、それが地域の消費額や雇用、移住にどれだけ影響したのかは、別途検証しなければなりません。図書館は、必ずしも商業施設と同じ意味での経済的利益を生み出すために設置されるわけではありません。住民の学習機会、調査能力、情報へのアクセス、地域資料の保存など、直接的な売上に表れない便益もあります。そのため、経済的な波及効果が小さいという理由だけで図書館の価値を否定することも、来館者数が多いという理由だけで過大に評価することも適切ではありません。

図書館を評価するには蔵書数と貸出冊数だけでは足りない

 図書館の比較では、蔵書数や貸出冊数がよく使われます。これらは資料の規模や貸出サービスの利用状況を把握するための基本的な指標ですが、それだけで図書館の質や地域への貢献を測ることはできません。例えば、蔵書が20万冊ある図書館と5万冊の図書館を比較しても、前者が4倍優れているとはいえません。利用対象人口、地域の年齢構成、資料の新しさ、専門分野の充実度、開館時間、職員による調査支援などが異なるためです。また、蔵書数が多くても、古い資料が多く新刊の購入が少ない場合には、利用者の需要を十分に満たせない可能性があります。

 統計的な比較では、住民1人当たりの蔵書数や年間貸出冊数に加えて、蔵書回転率を確認する方法があります。蔵書回転率は年間貸出冊数を蔵書数で割った値であり、蔵書規模に対してどの程度の貸出が行われているかを示します。ただし、郷土資料や保存資料など貸出を主目的としない資料を多く保有する施設では、回転率が低くても資料の価値が小さいとは限りません。さらに、住民1,000人当たりの年間新規購入冊数、住民1人当たりの運営費、資料予約の充足率、開館日数、実際の利用者数なども組み合わせることで、施設の特徴を多面的に把握できます。

 人口減少地域では、住民1人当たりの数値だけが改善しても、実際のサービスが充実したとは限りません。例えば、貸出冊数が減少していても、それ以上の割合で人口が減っていれば、1人当たり貸出冊数は増加します。このため、総量と人口当たり指標を併用して判断する必要があります。

地方の図書館では「保有する資料」と「利用できる資料」を区別する

 小規模図書館や公民館図書室の評価では、自館の蔵書数だけでなく、相互貸借や電子資料を通じて実際に利用できる資料の範囲を考える必要があります。例えば、ある図書室の蔵書が2万冊だったとしても、県立図書館や周辺自治体から資料を取り寄せられるなら、利用者が入手可能な資料の種類は自館の蔵書より広くなります。ただし、相互貸借によって利用できる資料が増えても、近くの棚からすぐに借りられる資料と、数日以上かけて取り寄せる資料とでは利便性が異なります。

 また、自館の蔵書、相互貸借可能資料、電子資料の数を単純に加えると、同じ本が複数の施設に存在する場合に重複して集計される可能性があります。厳密には、利用資格や提供条件を満たす資料を重複なく数え、その資料を利用できるまでの時間も評価することが必要です。そのため、今後の地域図書館政策では、蔵書の絶対数だけでなく、住民が実際に利用できる資料の種類、提供までの日数、予約方法、受け取り場所を一体として考える方が合理的です。

電子書籍は地方の情報格差を縮小できるか

 電子書籍には、書店や図書館まで移動しなくても資料を利用できるという利点があります。自動車を利用できない人や遠隔地に住む人にとって、物理的な移動が不要になることは重要です。特に、文字の拡大や読み上げに対応した電子資料は、視覚的な負担を軽減できる場合があります。千葉県立図書館では電子書籍サービスが提供されており、2026年1月30日時点で5,613点の電子資料が利用可能と公表されています。県立図書館の資料貸出券と必要な利用登録があれば、所定の条件に従って自宅などから電子資料を利用できます。

 ただし、電子書籍であればすべての本を自由に読めるわけではありません。出版社との契約、資料の電子化状況、利用可能な端末、通信環境、認証方法などによって利用条件は異なります。紙で出版されている資料が必ず電子化されているわけでもなく、電子図書館が扱う資料の範囲は民間の電子書籍販売サービスとも異なります。高齢者についても、年齢だけを理由に電子書籍を利用できないと判断するのは適切ではありませんが、端末操作や利用登録、パスワード管理などに負担を感じる人が存在することは考慮する必要があります。逆に、移動に困難があっても電子資料を利用できる人には、従来より便利になる可能性があります。したがって、電子書籍の導入は、紙の本や対面サービスを廃止する理由ではなく、資料利用の選択肢を増やす方法として位置づけることが妥当です。

外房では高齢化と自動車利用の条件が重要になる

 外房で読書環境を考える際には、施設そのものの数よりも、住民がどのような交通手段で到達できるかが重要になる場合があります。自動車を日常的に利用している住民にとっては、10キロメートル程度離れた書店や図書館も日常の買い物先の一つかもしれません。しかし、自動車を運転できない住民にとっては、同じ距離でも公共交通の便数や乗り継ぎ、運賃などによって利用の難しさが大きく変わります。特に高齢化が進む地域では、運転免許の返納、身体機能の変化、家族による送迎の難しさなどによって、これまで利用できていた書店や図書館へ行きにくくなる可能性があります。ただし、高齢者のすべてが移動に困難を抱えているわけではなく、年齢階級だけで利用能力を決めつけることも適切ではありません。

 施設へのアクセスを定量的に評価するなら、自宅から一定時間内に到達できる住民の割合を把握する方法が考えられます。例えば、書店や図書館まで30分以内に到達できる人口割合を、自動車利用者と公共交通利用者に分けて比較することができます。30分という基準は分析のための仮定であり、実際には15分、30分、45分など複数の基準で比較すると、地域差がより明確になります。また、交通条件を調べる際には、道路上の距離だけではなく、バスや鉄道の運行本数、待ち時間、運賃、帰宅手段、施設の開館時間などを考慮する必要があります。書店や図書館が存在していても、帰りの公共交通が利用できない時間帯では、実際のアクセスは制約されるためです。このように考えると、外房の読書環境の問題は、文化施設の配置だけではなく、地域交通、高齢者福祉、公共施設再編とも関係することが分かります。

書店と図書館は競争相手なのか

 図書館で無料で本を借りられることが、書店の販売に影響するのではないかという議論があります。確かに、購入する予定だった本を図書館で借りることによって、販売需要の一部が減少する可能性はあります。しかし、図書館で作品を知ったことをきっかけに、同じ著者の別の本を購入する場合も考えられます。つまり、図書館と書店の関係には、購入の代わりに借りるという代替関係と、読書への関心を高めて購入を促すという補完関係の両方が存在し得ます。どちらの効果が大きいかは、利用者の属性、資料の種類、購入習慣、図書館の貸出方針などによって異なると考えられます。

 そのため、地域に図書館があることが書店の経営にとって必ず不利になるとも、図書館を整備すれば書店の売上が増えるとも断定できません。両者の関係を実証的に把握するには、図書館の利用状況と地域書店の販売動向を比較し、人口や所得、通販利用などの影響も考慮する必要があります。公共図書館と民間書店は、役割が異なる施設として共存を考える方が現実的です。地域全体で読書機会を維持するという目的は共有できても、書店の採算性と図書館の公共的な役割を同じ基準で評価することは避けるべきです。

地域書店と図書館の連携にはどの程度の効果があるか

 地域の図書館が地元書店から資料を購入することは、図書館にとっては資料調達であり、書店にとっては売上の一部になります。また、図書館で地域作家を紹介したり、読書会や読み聞かせを開催したりすることで、地域住民の読書への関心を高めることも考えられます。ただし、自治体が図書館用の資料を購入する際には、予算、契約手続き、価格条件、納入能力などを考慮する必要があります。地域書店の支援だけを目的として調達先を決めることは適切ではなく、公平性や経済性にも配慮しなければなりません。

 また、図書館が地元書店から本を購入したとしても、その購入金額だけで書店の固定費を賄えるとは限りません。地域書店の維持を目的とするなら、学校教材の販売、文具の取り扱い、一般書籍の注文販売、地域イベントとの連携など、複数の収益源を検討する必要があります。書店と図書館の連携は、地域で本に触れる機会を維持するという点では意味がありますが、それだけで書店の経営問題が解決するわけではありません。事業としての持続可能性は、実際の販売収入と必要経費によって判断する必要があります。

小規模書店を補助金で維持する政策には限界がある

 書店が地域にとって重要な存在であるとしても、公費を投入すれば必ず維持できるわけではありません。補助金によって一時的な経費負担を軽減できたとしても、補助が終了した後に継続的な売上を確保できなければ、長期的な存続は難しくなります。また、すべての地域書店を一律に支援する場合には、公共的な必要性、費用負担、事業者間の公平性などが問題になります。地域書店の文化的な役割を評価するとしても、一般の小売業と比較してなぜ支援が必要なのか、どのような住民利益が得られるのかを明確にする必要があります。

 政策の選択肢としては、単に赤字を補填する方法だけでなく、地域の読書機会を増やす事業への支援、学校や図書館との連携、空き店舗の活用、共同配送や注文販売の効率化なども考えられます。ただし、これらも地域の需要や運営能力によって成否が異なるため、一般的な成功事例をそのまま外房に当てはめることはできません。重要なのは、書店という事業者そのものの維持と、住民が本を購入できる機会の維持を区別することです。両者が一致する場合もありますが、人口減少地域では、より少ない費用で必要なサービスを提供する方法が存在する可能性もあります。

図書館の社会的価値と財政負担は両方評価する

 公共図書館についても、社会的に必要であることが、現在の施設規模や運営方法を無条件に維持する理由になるわけではありません。図書館には資料の貸出だけでなく、住民の学習機会、調査活動、子どもの読書支援、地域資料の保存、情報格差の縮小などの役割がありますが、それらを提供するためには継続的な財政負担が必要です。経済学的に考えれば、図書館の社会的な便益と、施設整備・運営に必要な費用を比較することが重要になります。ただし、資料利用価値、学習機会、地域資料保存などは異なる性質の便益であり、単純に数値を足し合わせて運営費から差し引けば、社会的価値が求められるわけではありません。

 厳密な費用便益分析では、評価できる便益を金銭的な価値に換算するか、非金銭的な成果を別の指標として評価する必要があります。例えば、同じ運営費でどれだけの住民が資料を利用できるか、どれだけの予約に対応できるか、移動困難な住民へのサービスがどの程度改善するかなどを比較する方法があります。図書館は赤字だから不要だとする考え方も、公共施設だから費用を考えなくてよいとする考え方も適切ではありません。限られた財源の中で、どのサービスを、誰に、どの程度提供するべきかを検討する必要があります。

図書館の役割を広げすぎることにも注意が必要

 近年、図書館に対して、読書や調査支援だけでなく、子育て支援、高齢者の居場所、観光案内、交流イベント、仕事や学習のための共有スペースなど、多様な機能を求める議論があります。複数の公共サービスを一つの施設に集めることには、利用者の移動負担を軽減し、施設を効率的に活用できる可能性があります。一方で、機能を増やすことによって図書館本来のサービスが弱くなれば、施設としての目的が曖昧になるおそれがあります。例えば、交流イベントが充実していても、必要な資料を探せず、専門的な調査相談に対応できなければ、図書館としての機能が十分とはいえません。

 図書館の基本的な役割は、資料を収集・保存し、住民が必要な情報へアクセスできるようにすることです。交流や学習の場としての機能を追加する場合でも、資料購入費や専門職員の配置が犠牲にならないように考える必要があります。人口減少地域では複合施設化が合理的な選択になる場合がありますが、施設に機能を集めること自体を目的とするのではなく、住民に必要なサービスが継続的に提供されるかどうかを判断基準にするべきでしょう。

今後の外房で現実的な読書サービスの配置

 ここまでの分析を踏まえると、外房で今後すべての自治体に大型総合書店を設置することは、人口規模や経営採算性からみて現実性が高いとはいえません。民間書店については、広域から一定の購買需要が集まる中心都市に店舗が立地し、小規模な町村では地域密着型の店舗や注文販売などが役割を担う形が考えられます。その際には、茂原市、いすみ市、勝浦市、館山市、鴨川市などの生活圏を、単なる行政区域ではなく、実際の購買行動と交通条件に基づいて把握する必要があります。住民がどの都市で買い物をしているのか、どの程度の時間と費用をかけて移動しているのかによって、適切な店舗配置の考え方は変わります。

 一方、公共図書館や図書室については、必ずしも大型施設を増やす必要はありません。中心的な図書館、地域の図書室、県立図書館、電子資料を連携させ、住民が居住地に近い場所でも必要な資料を利用できる仕組みが有力な選択肢になります。また、学校図書館も地域にとって重要な読書資源ですが、学校図書館法上は主として児童・生徒や教員の利用を目的としています。一般住民への開放は教育活動に支障がない範囲で認められるものであり、すべての学校図書館を一般住民が自由に利用できる施設として数えることはできません。

 地域の図書サービスを広げるためには、既存の公共施設での予約資料の受け取り、移動図書館、地域への配送、電子資料の利用支援なども検討対象になります。ただし、それぞれに運営費や職員負担が発生するため、サービスの利用見込みと費用を比較したうえで導入を判断する必要があります。

外房の読書環境を数字で判断するために必要な指標

 今後、外房の書店や図書館の状況を継続的に分析するためには、施設の数や蔵書数だけではなく、住民が実際に本へアクセスできる条件を数値化する必要があります。

分析対象 主な指標 分析の目的
書店の立地 店舗数、商圏人口、移動時間 購入機会の地域差
書店の経営 推定購買需要、固定費、限界利益率 店舗の持続可能性
図書館の規模 蔵書数、新規購入冊数 資料保有・更新状況
図書館の利用 貸出冊数、実利用者数、予約件数 サービスの利用実態
図書館の効率性 住民1人当たり運営費、資料提供費 財政負担との関係
図書館ネットワーク 相互貸借件数、提供日数 自館外資料の利用可能性
地理的アクセス 到達時間、交通手段、到達可能人口率 移動条件による格差
電子資料 利用可能点数、実利用者数 デジタルサービスの利用実態

 例えば、自治体ごとの人口当たり蔵書数や年間貸出冊数を比較すれば、図書館サービスの規模を一定程度把握できます。しかし、人口が少ない自治体ほど1人当たりの数値が大きくなる場合もあるため、総数との併用が必要です。また、図書館まで30分以内で移動できる住民の割合を、自動車利用と公共交通利用に分けて比較すれば、施設が存在していても利用しにくい地区を把握しやすくなります。さらに、予約した資料が平均何日で受け取れるのかを測定すれば、自館の蔵書以外を利用する仕組みの実効性も評価できます。

 ただし、これらの指標を組み合わせれば自動的に最適な政策が決まるわけではありません。高齢者や子ども、障害のある人など、移動や資料利用に制約がある住民については、平均値だけでは見えない問題があるためです。地域の平均的な利便性と、利用が難しい住民の状況を併せて確認する必要があります。

今後の外房で検証すべき三つの課題

 第一は、地域書店の実態把握です。全国の書店数が大きく減少したことは確認できますが、外房の各市町村でいつ、どのような書店が閉店し、どの程度の販売機能が残っているのかについては、同一基準による時系列データが不足しています。今後は、店舗数に加えて、一般書籍の取り扱い、教材販売、注文対応、営業時間などを把握する必要があります。

 第二は、公共図書館の再編効果の検証です。いすみ市図書館の開館や茂原市立図書館の移転が、地域住民の資料利用を実際に改善したのかを継続的に確認する必要があります。開館前後の貸出数だけでなく、地区別の利用、年齢構成、予約件数、移動負担、運営費などを調べれば、再編による利点と課題をより具体的に評価できます。

 第三は、人口減少と高齢化によるアクセス格差の把握です。書店や図書館の施設数が変わらなくても、自動車を運転できない住民が増えれば、地域全体の実質的な利用可能性は低下する場合があります。施設の立地、公共交通、訪問サービス、電子資料などを組み合わせて、どの住民にどのような不便が生じるのかを明らかにする必要があります。これらの課題は、単に書店や図書館を維持するかどうかという問題ではありません。人口減少地域で、必要な生活サービスをどの範囲まで、どのような費用負担で提供するのかという、地域政策全体に関係する問題でもあります。

現実的な結論~外房から本へのアクセスをどう残すか

 全国の登録書店数は、2003年度の20,880店から2025年度末には9,993店へ減少し、22年間で半分以下になりました。紙の出版市場も縮小しており、特に雑誌需要の減少は、従来の町の書店の経営構造に影響していると考えられます。外房でも2026年7月に文教堂茂原店が閉店するなど、実際の店舗撤退が起きています。こうした状況を考えると、今後、人口規模の小さいすべての自治体に大型書店を維持することは容易ではありません。地域中心都市の書店を周辺住民も利用する構造が進む可能性はありますが、地域の小規模書店が担っている教材販売や取り寄せなどの機能を含めて、どのような購買環境が必要なのかを考えるべきでしょう。

 一方、公共図書館については、民間書店とは異なる動きが見られます。茂原市では2025年3月に市立図書館が商業施設へ移転し、いすみ市では2026年7月に初めて市立図書館が開館しました。これらは、地方の読書環境が一方的に縮小するだけではなく、既存施設の再配置や図書館ネットワークの整備によって、サービスの提供方法を変える動きが存在することを示しています。ただし、これらの事例から、外房全体の公共図書館が将来にわたって維持されると断定することはできません。人口減少、施設の老朽化、運営費、資料購入費、職員の確保などによって、今後は施設の統合や運営方法の変更が必要になる場合もあります。重要なのは、施設を現在の形で残すこと自体ではなく、住民が必要な資料や情報へアクセスできるサービスを、持続可能な方法で提供することです。

 今後の外房で現実的な方向は、民間書店については広域的な購買需要と地域ごとの専門性を考慮し、公共図書館については中心施設と地域図書室を連携させながら、県立図書館の資料や電子書籍を補完的に活用することだと考えられます。さらに、自動車を利用できない住民や移動が困難な人への対応を組み合わせることで、施設数だけでは測れない地域の読書環境を改善できる可能性があります。

 外房の課題は、単に「書店が何店舗あるか」「図書館に何冊の本があるか」という問題ではありません。人口が減少し、高齢化が進む地域で、住民が必要な本を知り、探し、購入または借り受け、実際に読むことができる環境をどこまで維持できるかという問題です。書店が存在することと、図書館が存在することを別々に評価するだけでは、地域の読書環境の実態は把握できません。施設の配置、資料の利用条件、移動時間、費用、情報機器の利用能力まで含めて考える必要があります。

 今後の外房で問われるのは、かつての書店数をそのまま復活させることでも、立派な図書館を建設することでもありません。限られた人口と財源の中で、地域に暮らす人が本や情報へ到達できる仕組みを、どれだけ公平かつ持続可能な形で維持できるかということです。そして、その仕組みの実効性を、施設数や建物の規模ではなく、実際の利用状況と住民のアクセス条件から検証し続けることが、人口減少時代の外房に求められる読書環境政策ではないでしょうか。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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数字で比較するサービスを見る

 地方のスーパーが閉店すると、「人口が減ったから仕方がない」と説明されることがあります。確かに、商圏人口の減少は店舗経営に大きな影響を与えます。しかし、人口が減少している地域のスーパーがすべて撤退するわけではありません。反対に、人口が比較的維持されている地域でも、競争激化、人手不足、物流費の上昇、電気料金の負担、建物や設備の老朽化、本部による店舗網の再編などを理由として店舗が閉鎖されることがあります。

 地方スーパーの撤退を理解するうえで重要なのは、「人口が何人いるか」だけを見るのではなく、その店舗が実際に獲得できる客数、客単価、粗利益、店舗維持費、物流費、設備更新費、そして将来の投資回収可能性まで見ることです。したがって、地方スーパーの問題は単純な人口減少問題ではありません。人口減少によって売上の上限が低下する一方、人件費、冷蔵・冷凍設備、物流、建物、情報システムなど、店舗を営業するために必要な費用は同じ割合では減少しません。この「売上は減っても固定的な費用は簡単には減らせない」という構造が、地方店舗の採算を悪化させる大きな理由です。

スーパーの利益構造をどう考えるか

 スーパーの経営を理解するには、まず売上高と利益を分けて考える必要があります。売上高が増えていても、必ずしも利益が増えているとは限りません。会計上、売上総利益は概念的には「売上高-売上原価」で表されます。売上原価は単純な当期の仕入額そのものではなく、期首の商品在庫、当期の商品仕入れ、期末の商品在庫などを考慮して求めます。そのため、「売上高-商品仕入額=利益」と単純化しすぎると、店舗の実態を正しく把握できない場合があります。

 店舗の採算を概念的に示すなら、「営業上得られる粗利益から、人件費、電気・燃料費、物流費、建物・設備費、販売管理費などを差し引いた残り」が店舗経営を支える利益になります。ただし、値引きは販売価格の低下として売上高に反映され、廃棄も在庫や売上原価と関係するため、厳密な会計では単純に独立した費用として並べればよいわけではありません。

 地方スーパーの構造を理解するには、会計上の厳密な利益計算とは別に、損益分岐点という考え方が有効です。例えば、固定的な費用が年間2億円、売上高から売上に比例して増減する費用を差し引いた利益率が20%だと仮定すると、損益分岐点となる年間売上高は10億円です。この店舗の売上高が12億円なら、「12億円×20%-2億円=4,000万円」となり、一定の利益を確保できます。しかし売上高が10億円まで低下すると利益はほぼゼロとなり、9億円まで低下すれば約2,000万円の赤字になります。

 つまり、売上が10%減ったから利益も10%減るとは限りません。一定の水準を下回ると、利益が急速に減少して赤字へ転落します。人口減少地域のスーパーを考える際には、この損益分岐点を下回るかどうかが重要になります。

スーパーの売上は何で決まるのか

 スーパーの売上高は、概念的には「1日当たり来店客数×1人当たり購入額×営業日数」で考えることができます。例えば、1日1,500人が来店し、1人当たり2,000円を購入する店舗なら、1日の売上高は約300万円です。ところが来店客数が1,200人まで減少すると、客単価が同じなら1日の売上高は約240万円となり、1日60万円の差が生まれます。年間360日営業すると仮定した場合、その差は単純計算で約2億1,600万円になります。

 もちろん実際には、食品価格の上昇によって客単価が上がったり、営業時間や品ぞろえを変更したりするため、客数の減少率と売上高の減少率が完全に一致するわけではありません。それでも客数の減少が長期間続けば、店舗の固定的な費用を支えることが難しくなります。

 全国スーパーマーケット協会の2025年版資料では、標準的な店舗を考える参考値として、平日の1日客数が1,675人、客単価が2,191円、土日祝日の1日客数が1,800人、客単価が2,555円とされています。ただし、これは全国すべてのスーパーにそのまま当てはまる数字ではありません。店舗規模、立地、地域特性によって大きく異なるため、「地方スーパーにもこの程度の客数が必要」と直接判断することはできません。

人口と来店客数は同じ割合では変化しない

 商圏人口が10%減ったからといって、店舗の来店客数が必ず10%減るわけではありません。競合店が閉店すれば残った店舗へ利用者が集中することがありますし、人口がほとんど変わらなくても、新しい大型店やドラッグストアが開業すれば既存店の客数が減ることがあります。来店客数は、「商圏人口×実際に来店可能な人の割合×その店舗を選択する割合×来店頻度」といった複数の要因で決まります。そのため、市町村人口だけでは店舗の商圏を十分に表せません。

 特に自動車利用の多い地方では、行政区域と商圏は一致しません。住民が隣接する市町村の大型店へ買い物に行けば、町の人口が維持されていても地元店舗の売上は減少します。一方、人口が減少していても競合店が少なく、地域住民から高い支持を受けている店舗なら、一定の客数を維持できることがあります。

高齢化は単なる需要減少ではない

 高齢者も当然食料品を必要とするため、高齢化した地域で食品需要そのものが消滅するわけではありません。しかし、高齢化によって世帯人数、買い物頻度、購入量、購入する商品の種類、移動手段が変化します。単身世帯や夫婦のみの高齢世帯では、1回当たりの購入量が少なくなりやすく、少量包装や総菜、冷凍食品などへの需要が高まる可能性があります。一方で、自動車を運転できなくなれば店舗までの移動頻度が低下し、生協、宅配、移動販売などへ利用が移る場合もあります。

 したがって、高齢化は単純に「需要が減る」と捉えるべきではありません。需要の量だけでなく、商品の種類、包装単位、買い物頻度、来店手段が変化する問題として考える必要があります。

全国のスーパー売上増加と地方店舗の撤退は矛盾しない

 経済産業省の商業動態統計では、2025年のスーパー販売額は前年比4.7%増加し、店舗数や1店舗当たり販売額も増加しました。しかし、この数字だけから「スーパー業界は好調だから地方店舗も安泰」と判断することはできません。全国の販売額は、食品価格の上昇、新規出店、大型店への顧客集中、高付加価値商品の販売拡大などによって増加します。例えば販売数量がほとんど変化しなくても、商品の平均価格が5%上がれば、名目上の売上高は約5%増えます。

 しかし仕入価格、人件費、電気料金、物流費なども上昇していれば、売上高が増えても利益が増えるとは限りません。スーパーの経営状態を判断するときには、名目売上高だけではなく、売上総利益、営業利益、客数、販売数量などを併せて見る必要があります。また、商業動態統計については、2025年1月に2021年経済センサス-活動調査を基礎とした水準調整が行われています。このため、長期比較を行う際には統計上の不連続にも注意する必要があります。

ドラッグストアとの競争

 近年、地方の食品スーパーにとって無視できない競争相手となっているのがドラッグストアです。経済産業省の統計によると、2025年のドラッグストア販売額は前年比5.5%増加しており、食品や調剤医薬品なども増加要因となっています。

 ドラッグストアでは、医薬品や化粧品、日用品だけでなく、飲料、菓子、調味料、冷凍食品、牛乳、卵などを扱う店舗が増えています。食品以外の商品を販売できることから、一部の商品を集客目的で低価格に設定できる場合もあります。一方、食品スーパーは生鮮食品や総菜を大きな特徴としており、鮮度管理、加工、品出し、値引き、廃棄などの作業が必要です。ドラッグストアの出店によって牛乳、飲料、菓子、調味料、冷凍食品などの売上が移れば、スーパーの経営に影響を与える可能性があります。

 ただし、「ドラッグストアが出店すればスーパーが撤退する」「利益率の高い商品だけがドラッグストアへ流れる」と一律に断定することはできません。商品カテゴリーごとの粗利益率、価格、商圏、店舗間距離、消費者の購買行動などを分析しなければ、実際の影響の大きさは判断できません。

地域外の大型店への顧客流出

 地方では自動車を使って買い物をする世帯が多いため、道路事情の改善が地元店舗にとって必ずしも有利になるとは限りません。道路が整備され、近隣都市の大型店まで短時間で行けるようになれば、住民の買い物範囲が広がります。大型店には、品ぞろえ、価格、駐車場、飲食店や医療機関との併設などの利点があります。その結果、町内人口がほとんど変化していなくても、地元スーパーの店舗選択率が低下することがあります。

 反対に、幹線道路沿いにあり、周辺地域から利用客を集められるスーパーであれば、行政区域を越えた広い商圏を形成することもできます。したがって、道路整備そのものが地元商業を衰退させるのではなく、その道路を通じて顧客がどちらへ移動するかが重要になります。

人手不足と人件費

 スーパーでは、荷受け、品出し、発注、在庫管理、レジ、生鮮加工、総菜調理、清掃、値引き、衛生管理、顧客対応など、多くの業務を人に依存しています。セルフレジや自動発注を導入しても、すべての作業を無人化することはできません。

 全国スーパーマーケット協会の2023年調査では、人手不足対策として採用活動を実施している企業の割合が98.1%でした。ただし、この数字を「スーパー企業の98.1%が人手不足である」と読み替えてはいけません。あくまで、人手不足への対応策として採用活動を実施している企業の割合です。

 地方では若年人口の減少などによって、早朝、夕方、土日祝日に働ける人材を確保しにくい場合があります。採用が難しければ賃金を引き上げる必要があり、人件費が上昇します。人員を減らしすぎれば、品出しや加工、レジ、清掃などのサービス水準が低下し、さらに客数が減少する可能性もあります。省力化設備は重要な対策ですが、設備導入には初期投資が必要です。売上規模の小さい店舗では、省力化による人件費削減効果だけでは投資を十分に回収できない場合があります。

電気料金と冷蔵・冷凍設備

 スーパーは、通常の小売店舗と比較して冷蔵・冷凍設備の電力使用量が大きい業態です。冷蔵ケース、冷凍ケース、バックヤードの冷蔵庫や冷凍庫、空調、照明、厨房設備などを継続的に稼働させる必要があります。

 店舗の客数が減っても、冷蔵・冷凍設備を同じ割合で停止することはできません。営業時間を短縮しても、閉店後に冷蔵設備まで停止することはできないため、電力費の多くは残ります。したがって、売上が低下した店舗では「売上1円当たりの電力費」が上昇しやすくなります。地方店舗で問題になるのは電気料金そのものだけではなく、少ない売上で必要な設備を支えなければならないことです。

地方物流の非効率性

 食品スーパーでは、生鮮食品、牛乳、豆腐、総菜材料などを継続的に配送する必要があります。物流費には、車両費、燃料費、運転者の人件費、荷役費、物流施設費、配送管理費などが含まれます。

 人口密度が高く店舗が集中している地域であれば、短い走行距離で複数店舗へ配送できます。しかし地方では店舗間の距離が長く、1店舗当たりの配送量も少なくなりやすいため、商品1個当たりの物流費が高くなる可能性があります。チェーン全体で考えれば、店舗単独ではわずかに黒字でも、その1店舗を維持するために長距離の配送ルートを残す必要がある場合があります。本部が店舗網全体の物流効率を見直した結果、個別店舗の損益だけではなく配送網全体の効率を理由として閉店することも考えられます。

生鮮食品と総菜の値引き・廃棄

 生鮮食品や総菜は食品スーパーにとって重要な差別化要因ですが、需要予測が外れれば売れ残りが発生します。商品を少なく仕入れれば欠品による販売機会損失が生じ、多く仕入れれば値引きや廃棄が増加します。

 農林水産省によると、2024年度の事業系食品ロスは237万トンで、そのうち食品小売業は48万トンでした。ただし、この48万トンはスーパーだけの数値ではありません。食品小売業全体の数字として理解する必要があります。

 店舗経営上の目的は、単純に「廃棄をゼロにすること」ではありません。廃棄を減らそうとして在庫を極端に減らせば、欠品が増えて売上を失います。重要なのは、欠品による機会損失と、過剰在庫による値引き・廃棄損失の合計を抑えることです。特に観光地では、曜日、天候、連休、季節によって客数が大きく変動します。需要変動が大きい地域ほど適正在庫の予測が難しくなり、在庫管理の難易度が高くなります。

老朽化した店舗が黒字でも閉店する理由

 店舗が現在黒字であることと、将来も営業を続けることが合理的であることは同じではありません。冷蔵・冷凍設備、空調、照明、厨房、レジ、情報システム、屋根、外壁、給排水、駐車場などは、いずれ更新が必要になります。

 例えば店舗改修に3億円必要で、改修によって年間2,000万円の追加的な利益またはキャッシュフローが得られると単純化すれば、投資額を回収するまで15年かかります。しかし、これは非常に簡易的な計算です。実際の企業は、将来得られる現金収支、資金調達費用、金利、設備の耐用期間、商圏人口の将来予測などを考慮します。将来の収益を現在の価値に換算して投資価値を評価する正味現在価値や、投資から得られる収益率を評価する内部収益率などの考え方も用いられます。

 また、設備更新は必ずしも「改修したら利益が増える」という投資とは限りません。「改修しなければ営業を続けられない」という場合もあります。そのため、現在の店舗が黒字でも、今後10年、15年にわたって設備投資を回収できないと判断されれば、更新せず閉店する方が企業として合理的な場合があります。

賃貸借契約や土地・建物も閉店理由になる

 店舗が賃借物件の場合、契約満了や賃料改定が閉店の契機になることがあります。店舗運営会社が営業継続を希望していても、建物所有者が建て替えや売却を選択する場合もあります。自社所有店舗でも、建物維持費、固定資産税、解体費、跡地利用などを含めた判断が行われます。そのため、閉店理由が「契約満了」「諸般の事情」などとしか公表されていない場合、外部の人間が「赤字だから閉店した」と断定することはできません。

チェーン全体では黒字店舗も閉店候補になる

 チェーン企業では、個々の店舗の黒字・赤字だけで店舗存続を判断するとは限りません。限られた資金や人材をどこへ配置すれば企業全体の利益を最大化できるかという視点も重要です。地方店舗が年間1,000万円の利益を出していたとしても、その店舗を閉め、人材や投資資金を別の店舗へ移すことで年間3,000万円の利益が得られるなら、本部が撤退を選択する可能性があります。

 企業が確認するのは、売上高、営業利益率だけではありません。投下した資金からどの程度の利益を得られるか、売場面積当たりの売上はいくらか、従業員1人当たりの売上はいくらか、改装投資を何年間で回収できるか、将来の商圏人口はどうなるか、物流拠点との位置関係はどうか、といった複数の指標を比較します。したがって、住民から見て「いつも客が入っている店」であっても、本部が求める投資効率を満たしていない可能性があります。

小さい店舗ほど不利とは限らない

 小型店舗には、管理者の費用を少ない売上で負担しなければならない、1人の欠勤の影響が大きい、配送1回当たりの商品量が少ない、設備投資を回収しにくいといった不利があります。そのため、「小さな店舗なら固定費が少ないので必ず維持しやすい」とは言えません。

 一方、小型店舗が常に大型店舗より非効率というわけでもありません。全国スーパーマーケット協会の2023年調査では、売場面積800平方メートル未満の店舗について、従業員1人当たり年間売上高は他の規模区分より低い傾向がありました。ところが同じ調査では、売場面積1平方メートル当たり年間売上高は、800平方メートル未満の店舗が約225万円、800~1,200平方メートルが約158万円、1,200~1,600平方メートルが約110万円、1,600平方メートル以上が約109万円となっており、小型店の方が売場面積当たり売上高は高い結果となっています。

 したがって、この統計から「小型店舗は経営効率が悪い」と単純に結論づけることはできません。従業員当たり生産性では不利でも、売場面積当たり生産性では有利な場合があるからです。店舗の適正規模は、人件費、地代・家賃、物流費、商品構成、設備費、商圏人口、客数などを総合して判断する必要があります。地方では、需要に合った小型化が有効な場合もあれば、小型化しても物流費や人件費を十分に削減できず採算改善につながらない場合もあります。

業界統計にも限界がある

 スーパー業界の統計を利用するときには、調査方法にも注意が必要です。全国スーパーマーケット協会の2023年年次統計調査では、国内でスーパーを保有する952社を対象とし、有効回答企業は283社、回収率は29.7%でした。また、店舗状況については各企業から標準的な店舗を回答してもらう方式が含まれています。

 したがって、こうした業界統計はスーパー業界の傾向を把握するうえで非常に有用ですが、全国すべてのスーパーを完全に把握した全数調査ではありません。回答した企業と回答しなかった企業の経営状況が同じとは限らないため、標本の偏りが存在する可能性があります。そのため、業界平均や中央値を特定の地方店舗へそのまま適用することは避ける必要があります。

観光客が多ければスーパーは維持できるのか

 観光地域では、週末、連休、夏季などに来訪者が増え、飲料、酒類、総菜、肉、魚、氷、行楽用品などの売上が増える可能性があります。このため観光需要はスーパーの売上を支える重要な要素になります。しかし、観光客数が多いことと、年間を通して店舗経営が安定することは同じではありません。観光需要は季節や天候に左右され、繁忙期だけ人員を増やさなければならない場合があります。また、観光客が地域へ入る前に大型店で買い物を済ませてしまえば、地域内のスーパーには十分な売上が発生しません。

 したがって観光地では、年間観光客数そのものより、「地域内で実際に食品を購入する観光客が何人いるか」「1人当たりいくら購入するか」「何か月間需要が発生するか」を分析する必要があります。

競合店がなくなれば残ったスーパーは安泰なのか

 競合店が閉店すると、残った店舗へ顧客が集中する可能性があります。しかし競合がなくなれば必ず店舗を維持できるわけではありません。地域全体の需要そのものが店舗の損益分岐点を下回っていれば、地域内で独占的な地位を得ても採算は確保できません。また、価格を大幅に引き上げれば、住民が遠方の大型店、宅配、インターネット販売などへ移行する可能性があります。

 地方スーパーが競争している相手は、同じ町のスーパーだけではありません。近隣都市の大型店、ドラッグストア、コンビニエンスストア、生協、宅配、インターネット販売などを含めて考える必要があります。

ネットスーパーや移動販売は代替になるのか

 ネットスーパーや食品宅配は、店舗まで移動しにくい人にとって有効な手段です。しかし地方では配送区域、配送料、最低注文額、配送時間、決済方法などの制約があります。特に人口密度が低い地域では、配送車が長い距離を走って少数の世帯へ商品を届けることになります。そのため1件当たりの配送費が高くなり、店舗型スーパーと同様に需要密度の問題を抱えます。

 移動販売も重要な手段ですが、車両費、燃料費、人件費、保冷設備、決済費、売れ残りなどの費用が発生します。必要としている住民が多くても、集落が広範囲に分散していれば、1時間に対応できる利用者数が少なくなり、事業採算が悪化します。そのため移動販売では、既存店舗との在庫共有、注文予約、複数地区を組み合わせた巡回、自治体支援、福祉や高齢者見守りとの連携などを組み合わせる方法が考えられます。ただし、補助金によって開始できたとしても、利用者、運転者、車両更新費などを長期間確保できなければ継続できません。

スーパー撤退は住民に何をもたらすのか

 スーパーの閉店による負担は、商品の価格だけでは測れません。近隣店舗がなくなれば、住民は遠方まで移動する必要があります。自動車を利用できる人にとって数キロメートルの増加で済んでも、自動車を運転できない高齢者などにとっては大きな生活上の問題になります。

 実質的な買い物負担は、「商品代金+交通費+配送料+移動時間+家族による送迎や買い物代行の負担」として考える必要があります。遠方の大型店の商品価格が安くても、移動に必要な費用と時間を含めれば必ずしも安いとは限りません。

 買い物頻度が減れば、保存しやすい食品の購入割合が増える可能性もあります。冷凍食品や加工食品そのものが直ちに健康上悪いという意味ではありませんが、生鮮食品を含む幅広い食品を選択する機会が減少する可能性があります。

食料品アクセス困難人口という指標

 農林水産政策研究所では、食料品アクセス困難人口を、「店舗まで500メートル以上離れ、自動車の利用が困難な65歳以上の高齢者」として推計しています。対象となる店舗には、生鮮食品店、百貨店、総合スーパー、食料品スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストアなどが含まれます。

 この指標は地域比較に有効ですが、500メートルという距離だけで実際の買い物環境を完全に評価することはできません。例えば500メートル以内にコンビニエンスストアがあれば統計上は比較的アクセスが確保されていると評価されても、価格、品ぞろえ、容量、生鮮食品の選択肢などがスーパーと同等とは限りません。さらに、直線距離と実際の道路距離は異なります。坂道、歩道、交通量、バスの運行本数、荷物を持って歩けるか、家族の支援があるか、宅配サービスを利用できるかなどによって実際の生活上の困難度は変わります。

スーパーを補助金で維持すればよいのか

 地方のスーパーは民間企業ですが、地域によっては食料供給を支える生活基盤に近い機能を果たしています。ただし、これはスーパーが法律上の公共インフラに指定されているという意味ではありません。近年、国も円滑な食品アクセスの確保を政策課題として位置づけ、店舗、移動販売、宅配、交通などを組み合わせた対応を進めています。

 自治体が特定の店舗へ継続的に公費を投入する場合には、「支援しなければ本当に撤退するのか」「支援によって何年間存続できるのか」「実際に恩恵を受ける住民は何人か」「代替手段より費用対効果が高いか」「競合事業者との公平性を確保できるか」などを検討する必要があります。例えば年間3,000万円を投入し、実際に恩恵を受ける住民が1,000人なら、単純計算では1人当たり年間3万円の公費負担になります。この金額が高いか安いかは、移動販売、買い物バス、タクシー助成、宅配支援などの代替策と比較しなければ判断できません。

 したがって、「スーパーは必要だから税金で残すべきだ」「民間企業だから行政は関与すべきでない」という二者択一で考えるのは適切ではありません。必要なのは、地域住民が必要とする食料供給機能を明確にし、それを最も持続可能な方法で確保することです。

地方で取り得る現実的な対応

 スーパー撤退への対応は、店舗を現在の形のまま残すことだけではありません。商圏に合わせた店舗の小型化、営業時間の見直し、予約販売、商品受け取り拠点、移動販売、宅配、デマンド交通、医療や福祉サービスとの連携などを組み合わせる方法があります。

 小型化によって家賃や電気料金を減らせる可能性がありますが、配送や管理者の費用まで同じ割合で減るとは限りません。営業時間を短縮して人件費を削減しても、冷蔵設備の電力費は残ります。したがって、それぞれの施策について削減できる費用と失われる売上を比較する必要があります。

 食品、日用品、宅配受け取り、行政サービス、金融サービスなどを組み合わせた複合拠点も考えられます。複数の需要を一つの場所へ集約できれば利用者を確保しやすくなる一方、業務が複雑化して人員や設備費が増える可能性もあります。

自治体が把握しておくべきこと

 自治体はスーパーが閉店すると発表されてから対応を考えるのではなく、地域の食料品アクセスを継続的に把握する必要があります。重要なのは、地区別人口や高齢化率だけではありません。食料品店舗の位置、実際の道路距離、運転できない住民の人数、路線バスやデマンド交通、移動販売、生協や宅配の配送区域、タクシー料金、家族送迎の実態、災害時の食料供給などを組み合わせて評価する必要があります。

 特に確認しておくべきなのは、「現在利用している店舗が閉店した場合、次の店舗までの距離と移動時間がどれだけ増えるのか」です。この情報があれば、店舗維持、交通支援、移動販売、宅配支援のどれが合理的なのかを比較しやすくなります。

移住や住宅購入でも店舗の将来性を見る必要がある

 地方へ移住するときには、「今スーパーがある」というだけで生活環境を判断するのは十分ではありません。現在の最寄り店舗が閉店した場合に次の店舗までどの程度距離があるのか、自動車を運転できなくなった場合にどのような移動手段があるのか、生協や宅配を利用できるのか、移動販売があるのかまで確認することが重要です。

 現在60歳前後で自動車を運転できる世帯であっても、10年後、20年後には状況が変わります。地方での住宅購入では、現在の買い物利便性だけでなく、自動車を利用できなくなった後まで生活を維持できるかという視点が必要です。

公開情報だけでは個別店舗の撤退理由を断定できない

 地方スーパーの分析で最も注意すべきなのは、個別店舗の内部情報がほとんど公開されていないことです。通常、店舗単独の売上高、営業利益、人件費率、賃料、電気料金、廃棄率、設備更新額、本部の撤退基準、賃貸借契約、将来の閉店計画などは外部から確認できません。

 そのため、「駐車場が空いている」「建物が古い」「近くにドラッグストアができた」といった観察だけで、赤字や閉店可能性を断定することはできません。同様に、人口が減少している地域で店舗が閉店したからといって、「人口減少が閉店原因だった」と直ちに因果関係を断定することもできません。人口減少と閉店が同時に起きていても、実際の直接的な理由が設備更新、人手不足、物流再編、契約満了などである可能性があります。

「人口減少だけでは説明できない」を科学的に証明するには

 本稿で示した各要因は、経済学や店舗経営の理論から見て合理的であり、公的統計とも大きな矛盾はありません。しかし、どの要因がスーパー撤退にどの程度影響しているかを科学的に証明したものではありません。

 本格的に因果関係を検証するなら、全国の店舗を数年間追跡し、各店舗が翌年も営業しているか、閉店したかを調べる必要があります。そのうえで、商圏人口の増減率、高齢化率、競合スーパー数、ドラッグストア数、物流拠点までの距離、店舗面積、建物年齢、地域の賃金水準などを同時に分析する必要があります。

 さらに、競合店が新しく開店した地域と開店していない地域を比較するなど、他の条件をできるだけそろえた分析を行うことで、「ドラッグストア出店によって閉店確率がどの程度変化したのか」といった因果関係に近い評価が可能になります。したがって、本稿で説明しているのは「地方スーパーが撤退する可能性を高める合理的な経営要因」であり、それぞれの要因について全国共通の因果関係を証明したものではありません。

現実的な結論

 地方スーパーが撤退する理由は、人口減少だけでは説明できません。人口減少は商圏全体の需要を縮小し、売上の上限を低下させる重要な要因ですが、実際に店舗存続を左右するのは、その売上によって人件費、電気料金、物流費、設備費などを負担し、企業が必要とする利益や投資回収を確保できるかどうかです。

 また、全国のスーパー販売額が増加しているからといって、人口減少地域の個別店舗が安定しているとは限りません。食品価格上昇によって名目売上が増加しても、客数や販売数量が減少し、仕入価格や人件費などの上昇が売上増加を上回れば、経営状態は悪化する可能性があります。

 現在黒字の店舗でも、数億円規模の設備更新を今後の商圏人口では回収できないと判断されれば閉店することがあります。チェーン全体の物流や人材配置を考えた結果、単独では黒字の店舗が閉鎖対象になる可能性もあります。一方、小型店舗が必ず不利とも限りません。従業員当たりの生産性では大型店舗に劣る場合があっても、売場面積当たりの売上では小型店舗が高い場合があります。したがって「大型化すればよい」「小型化すればよい」と一律に判断するのではなく、その地域の需要に合った店舗規模を考える必要があります。

 地域の食料供給を維持するために最も重要なのは、「スーパーを残すこと」自体を目的にしないことです。住民が必要な食料を合理的な負担で継続的に入手できることが本来の目的です。スーパーを維持する方が合理的な地域もあれば、小型店舗へ転換した方が合理的な地域もあり、移動販売、宅配、交通支援を組み合わせた方が持続可能な地域もあります。

 その判断には、何人が利用するのか、1日に何人が来店するのか、1人当たりいくら購入するのか、店舗を維持するためにいくら必要なのか、商品を誰が運ぶのか、従業員を確保できるのか、設備更新にいくら必要なのか、赤字が発生した場合に誰が何年間負担するのかを具体的に検証する必要があります。重要なのは、すべてのスーパーを一律に残すことでも、市場原理だけに任せることでもありません。地域ごとに必要な食料供給機能を明確にし、その機能を最も持続可能な方法で確保することです。

データ利用上の注意

 本稿で使用しているスーパー販売額、ドラッグストア販売額、店舗数、客数、生産性、食品ロスなどの数字は、全国または業界全体を対象とした統計です。特定の地方店舗の売上高、利益、閉店理由を直接示すものではありません。

 また、全国スーパーマーケット協会の年次統計調査は業界分析に有用ですが、全国すべての店舗を対象とした全数調査ではなく、回答企業を対象とした調査です。業界平均や中央値を特定の店舗へそのまま当てはめることはできません。個別地域を分析する場合には、国勢調査、住民基本台帳、経済センサス、商業動態統計、企業の公式発表、自治体資料、道路・公共交通情報、店舗の位置などを組み合わせて判断する必要があります。

主な参考資料

 主な資料として、経済産業省「商業動態統計」「2025年小売業販売を振り返る」、全国スーパーマーケット協会「2025年版スーパーマーケット白書」「スーパーマーケット年次統計調査」、農林水産省「食品アクセス問題の現状」「事業系食品ロス量」、農林水産政策研究所「食料品アクセスマップ」、資源エネルギー庁「電気料金の仕組み」、総務省統計局「人口推計」などを参照しています。

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外房でガソリンスタンドがなくなると何が起きるのか~給油・灯油・農業・医療・災害を支える地域インフラとして考える

はじめに

 人口減少地域では、鉄道や路線バス、スーパー、金融機関など、日常生活を支える施設の減少が問題になります。その中で見落とされやすいのが、ガソリンスタンドです。ガソリンスタンドが閉店すると、自動車を利用する人が少し遠くまで給油に行けば済むようにも思えますが、地方ではそれほど単純ではありません。

 ガソリンスタンドは、自家用車へガソリンを販売するだけの店舗ではありません。軽油を使用する農業機械や建設機械、事業用車両への燃料供給、灯油販売や家庭への配送、災害時の消防・救急・行政車両への燃料供給、非常用発電機用燃料の確保などを担うことがあります。人口減少地域では、民間の小売店であると同時に、地域のエネルギー供給拠点という性格を持っています。

 特に外房では、居住地、医療機関、商業施設、農地、観光施設などが広い範囲に分散しており、自動車に依存する生活が少なくありません。本稿では、御宿町、勝浦市、いすみ市、大多喜町などを含む外房地域を念頭に、ガソリンスタンドの減少が生活や地域産業、防災にどのような影響を与えるのかを考えます。

全国ではガソリンスタンドが長期的に減り続けている

 全国のSS(Service Station・サービスステーション、一般にいうガソリンスタンド)は、1994年度末の6万421か所をピークとして長期的に減少してきました。資源エネルギー庁によると、2024年度末には2万7,009か所まで減少しています。さらに石油連盟が2026年にまとめた資料では、2025年度末には2万6,412か所とされており、ピーク時の半分以下になっています。

 背景には、人口減少だけではなく、自動車の燃費向上、石油製品需要の減少、価格競争、設備の老朽化、地下タンクや計量機などの更新費用、経営者の高齢化、人手不足、後継者不足があります。今後はEV(Electric Vehicle・電気自動車)などの普及もガソリン需要を減らす方向に働くと考えられます。一方で、需要が減ったからといって、地域に必要な燃料供給機能まで同じ速度でなくしてよいとは限りません。

 販売量の少ない地域では、競合店舗が閉店すれば残った店舗へ需要が集まり、経営が安定するようにも見えます。しかし、地域全体の人口と燃料需要そのものが減少していれば、最後の1店舗になっても十分な販売量を確保できない場合があります。むしろ、少ない需要で広い地域を支えることになり、灯油配送や災害対応などの負担が最後の店舗へ集中する可能性があります。

全国615市町村がSS過疎地等に該当している

 国は、市町村内のSSが3か所以下となった地域だけでなく、居住地から最寄りのSSまで道路距離で15キロメートル以上離れている地域についても、燃料供給上の問題を把握しています。2025年3月31日時点では、SSが3か所以下の市町村が381市町村、15キロメートル以上離れた地域を持つ市町村が291市町村あり、両方に該当する57市町村を重複除外すると、合計615市町村がSS過疎地等に該当します。

 ただし、市町村内の店舗数だけで住民の不便さを判断することはできません。自治体内に2店舗しかなくても、隣接自治体の店舗が近ければ給油環境は比較的良い場合があります。反対に、自治体内に4店舗以上あっても、市域が広く、山間部や沿岸部などから最寄り店舗まで15キロメートル以上離れている場合があります。

 したがって、本当に重要なのは行政区域内の店舗数だけではありません。集落ごとの道路距離、所要時間、営業時間、定休日、ガソリン・軽油・灯油の取扱い、灯油配送の有無、大型車両への対応、自家発電設備の有無、隣接自治体にある代替店舗まで含めて考える必要があります。2026年に資源エネルギー庁が検討している重点的な維持支援でも、単純な店舗数だけでなく、最寄りSSとの距離や、その店舗がなくなった場合に生じる供給空白が重視されています。

御宿町はすでに「店舗数が少ない地域」である

 外房について考えるうえで、御宿町は分かりやすい例です。経済産業省を出所とする2023年3月31日時点の資料では、御宿町のSSは2か所とされており、店舗数基準ではすでにSS過疎地に該当していました。2026年時点の民間のガソリンスタンド検索でも、通常の給油所として2店舗が確認されています。ただし、登録上の店舗数と実際の営業状況が必ず一致するとは限らず、将来の営業継続予定や販売量については公開資料だけでは判断できません。

 ここで重要なのは、「御宿町ではすでに給油できない」という意味ではないことです。現在2店舗があるのであれば、日常生活が直ちに成り立たなくなる状況ではありません。しかし、2店舗から1店舗へ減る場合と、10店舗から9店舗へ減る場合では、地域供給網への影響が違います。店舗数が少なくなるほど、1店舗の廃業、設備故障、定休日、災害被害、在庫切れが地域全体へ与える影響は大きくなります。

御宿町の生活は自動車への依存度が高い

 御宿町が実施した住民アンケートでは、通勤・通学の交通手段として自家用車を挙げた回答が56.2%で最も多く、30代では80.4%、40代では80.2%でした。これは回答者511人を対象とした調査結果であり、町民全体にそのまま当てはめることはできませんが、自動車が重要な移動手段であることを示しています。

 さらに日常の移動先を見ると、通勤・通学では74.0%、通院では81.8%、買い物では62.7%が御宿町外と回答しています。つまり、町内だけで日常生活が完結しているわけではなく、多くの住民が町外への移動を必要としています。特に通院先が町外である割合が高いことは、高齢化が進む地域において自動車と燃料供給を考える際の重要な要素です。

 この結果から「御宿町民の何%が自動車なしでは生活できない」とまでは言えません。しかし、ガソリンスタンドの減少を単なる民間店舗の閉店として考えるのではなく、通勤、通院、買い物を支える交通インフラとの関係で評価する必要があることは分かります。

給油場所が遠くなると、燃料を買うために燃料を使う

 給油拠点の減少による負担を簡単な数値で考えてみます。仮に最寄りのガソリンスタンドへ行くための往復距離が10キロメートル増え、月2回給油するとします。年間の追加走行距離は、10キロメートル×2回×12か月で240キロメートルです。

 自動車の実燃費を1リットル当たり15キロメートルとすると、追加走行に必要な燃料は年間16リットルです。ガソリン価格を1リットル180円と仮定すれば、追加の燃料費は年間2,880円になります。往復距離が20キロメートル増えれば、同じ条件では5,760円です。

 ただし、この数字をそのまま「1世帯当たりの損失」と考えるのは適切ではありません。実際には通勤や買い物の途中で給油する人も多く、給油だけを目的とした追加走行が10キロメートル発生するとは限らないからです。この計算は実態推計ではなく、給油場所が遠距離化した場合のシナリオ試算と考えるべきです。

 時間についても同じです。仮に1回30分余計に必要となり、月2回給油すれば年間12時間になります。時間価値を1時間1,000円と仮定すると、機会費用は1万2,000円相当です。しかし、燃料費2,880円は実際に財布から出ていく現金支出であるのに対し、1万2,000円は失われた時間を金額換算した経済的評価です。両者を区別し、「現金支出」と「時間を含めた一般化費用」を分けて示す方が正確です。

高齢者ほど影響を受けやすい

 給油距離の増加は住民へ均等に影響するわけではありません。遠距離運転や夜間運転を避けている人、運転できる家族が1人しかいない世帯、複数台の車を必要とする世帯、農業機械を利用する農家などでは負担が大きくなります。

 さらに高齢者世帯では、ガソリンより灯油の問題が深刻になる場合があります。灯油18リットルは灯油そのものだけでおおむね14キログラム程度となり、容器を含めればさらに重くなります。自分で店舗へ行き、容器へ給油し、自動車へ積み、自宅で降ろして室内へ運ぶ作業は、年齢や身体状況によっては容易ではありません。

灯油配送はガソリン販売とは別の重要な機能である

 人口減少地域でガソリンスタンドがなくなるとき、見落としてはいけないのが灯油配送です。店舗へ自分で行けない高齢者にとって、灯油配送は単なる便利なサービスではなく、冬季の暖房を維持するための生活インフラになる場合があります。

 しかし灯油配送には、配送車両、燃料、人件費、受注管理、日程調整、不在時の再訪問などの費用がかかります。利用世帯が広い地域へ分散しているほど、1件当たりの配送時間と費用は増えます。人口が減り、灯油使用世帯も減少すると、必要性は残っているのに事業としては維持しにくいという問題が生じます。

 灯油配送がなくなれば、電気暖房へ切り替える方法もありますが、停電への弱さという別の問題が生じます。ただし、灯油暖房ならすべて停電時に使用できるわけではありません。石油ファンヒーターは通常、送風や制御に電気を必要とします。一方、電源を必要としない芯式の石油ストーブなどは停電時にも利用できるため、災害対策では暖房方式の違いまで考える必要があります。

農業では燃料供給の遅れが作業時期へ影響する

 外房では、水稲、野菜、施設園芸、畜産などさまざまな農業が行われています。農業では自動車だけでなく、トラクター、コンバイン、田植機、草刈機、管理機、乾燥機、暖房機、揚水ポンプ、発電機などでガソリン、軽油、灯油、重油を使用する場合があります。

 一般家庭なら給油日を数日前後させても大きな問題にならないことがありますが、農業は同じではありません。田植え、収穫、防除、耕起などには適期があり、天候が崩れる前に作業を終える必要がある場合もあります。燃料供給が不安定になると、単なる燃料価格の問題ではなく、作業時期、収量、品質へ影響する可能性があります。

 大規模な農業法人であれば、一定量をまとめて配送してもらえる可能性があります。一方、小規模農家では使用量が少ないため個別配送の効率が低く、自ら燃料を調達する必要が生じることがあります。しかし、農家ごとに大量の燃料を保管すればよいというものでもありません。ガソリンなどの危険物には消防法令や市町村の火災予防条例に基づく規制があり、ガソリンは合計40リットル以上になると保管設備や届出などが問題になります。

建設、物流、漁業、観光にも影響する

 建設会社では、トラック、重機、小型発電機、草刈機などに燃料が必要です。これは平時の工事だけではなく、台風や豪雨後の倒木処理、土砂撤去、道路応急復旧にも関係します。地域内の燃料供給力が弱くなれば、災害から地域を復旧させる事業者自身が活動しにくくなる可能性があります。

 物流でも同様です。宅配便、食品配送、介護用品配送などでは複数台の車両が毎日走行します。給油所が配送経路から遠くなれば、給油のための回送距離と時間が増えます。1台1回では小さな違いでも、複数車両が年間を通して繰り返せば経営費用として無視できなくなることがあります。

 漁業では、漁船そのものへの燃料供給は一般の自動車用ガソリンスタンドとは異なる経路を使う場合があります。それでも、水揚げ後の運搬車、冷蔵車、作業車、発電機などには燃料が必要です。

 観光については注意が必要です。給油所が少なくなれば自家用車やレンタカー利用者の不便が増える可能性はありますが、「ガソリンスタンドが減れば観光客が大幅に減少する」とまで言える公的な統計的根拠は十分ではありません。影響の大きさは、近隣地域までの距離、道路案内、営業時間、電気自動車充電設備などによって変わります。

医療・介護も自動車と燃料に依存している

 外房では、病院へ患者が移動するだけでなく、訪問診療、訪問看護、訪問介護、通所介護の送迎など、多くの医療・介護サービスが自動車によって提供されています。御宿町の住民アンケートで通院先の81.8%が町外だったことを考えても、自動車による移動と医療へのアクセスは切り離して考えにくい問題です。

 訪問型サービスでは、給油場所が遠くなれば給油時間や回送距離が増えます。しかし、診療報酬や介護報酬によって価格が決まるサービスでは、燃料調達費が増えたからといって、その分を自由に利用者料金へ上乗せできるとは限りません。移動距離が長く訪問件数が少ない地域ほど、燃料価格だけでなく給油に要する時間まで含めて採算性を考える必要があります。

災害時にはガソリンスタンドの意味が変わる

 平時にはガソリンスタンドは燃料を購入する店舗ですが、大規模災害時には地域を動かすためのエネルギー拠点になります。消防車、救急車、警察車両、自治体公用車、物資輸送車、給水車、道路復旧用重機、医療・福祉施設の非常用発電機、避難所の発電機、通信設備などが燃料を必要とします。

 外房では地震、津波、台風、高潮、豪雨、土砂災害、大規模停電などを想定する必要があります。特に2019年の房総半島台風では千葉県内で長期間の停電が発生し、電力だけではなく燃料供給を含めた複数のインフラを維持する重要性が改めて認識されました。

 災害時の燃料供給には行政と石油関係団体の協定がありますが、協定を結んでいれば必ず燃料が届くわけではありません。店舗の建物や地下タンク、配管、計量機が無事であること、電源や従業員を確保できること、道路が通行できること、タンクローリーが到着できること、油槽所側に在庫があることなど、複数の条件がそろって初めて供給できます。

 したがって、地域に複数の給油拠点が存在する意味は、価格競争だけではありません。1店舗が使用不能になった場合でも別の店舗を利用できるという冗長性があります。店舗数が少なくなるほど、1店舗の故障や被災が地域全体へ波及しやすくなります。

住民拠点SSがあれば安心とは限らない

 国は、自家発電設備を備え、災害などによる停電時にも可能な限り給油を継続する「住民拠点SS」を整備しています。2025年2月28日時点で千葉県には522か所あり、地域の災害対応力を高める重要な設備です。

 ただし、住民拠点SSは「災害時に必ず営業する店舗」という意味ではありません。店舗自体が被災した場合、燃料在庫がなくなった場合、道路が寸断された場合、従業員が出勤できない場合などには給油できません。自家発電設備は停電という一つの障害には対応できますが、災害時のすべてのリスクを解消するものではありません。

電気自動車が増えればガソリンスタンド問題は解決するのか

 EV(Electric Vehicle・電気自動車)が普及すれば、乗用車のガソリン需要は確実に減少します。しかし、地域の燃料問題が直ちに解決するわけではありません。

 地域にはトラック、建設機械、農業機械、発電機、消防・救急車両、災害復旧車両などが残ります。また、自動車が電動化しても、灯油暖房や非常用発電機などの液体燃料需要が同じ時期にすべて消滅するわけではありません。石油連盟の2026年資料でも、今後の電動車普及がガソリン需要を減少させる一方、地域の燃料供給拠点としてSSを維持する必要性が示されています。

 災害対策でも、電気と液体燃料のどちらか一方だけに完全依存することには弱点があります。停電すれば通常の充電設備は使用できません。一方、ガソリンスタンドも電源や在庫、道路がなければ機能しません。地域全体の耐災害性を考えれば、移行期には複数のエネルギー供給手段を持つ方が合理的です。

最後の1店舗を補助すればよいわけではない

 ガソリンスタンドが地域インフラなら、自治体が補助金を出して残せばよいという考え方もあります。しかし、設備費だけを補助しても、販売量が少なく毎年営業赤字が続けば事業は持続しません。反対に営業赤字だけを補填しても、地下タンク、配管、計量機、自家発電設備、配送車両などを更新できなければ長期的な営業は困難です。

 さらに、人材の問題があります。設備があっても、経営者の後継者や危険物を扱う従業員を確保できなければ営業を続けられません。このため、公共支援を検討するときは、「地域に必要だから」という理由だけではなく、その店舗がなくなれば何世帯が影響を受けるのか、最寄り店舗まで何キロメートルになるのか、年間販売量はどの程度か、灯油配送を何世帯が利用しているか、農業・建設・福祉施設へどの程度供給しているか、災害時にどの施設へ供給するのか、設備更新にいくら必要か、何年間維持できるのかまで評価する必要があります。

 2026年の資源エネルギー庁の検討でも、全国のすべての小規模SSを一律に維持するのではなく、地域の燃料供給上、特に重要なSSを選び重点的に支援する方向が示されています。これは、「全店舗維持」と「完全な市場任せ」の中間に、地域インフラとして必要な拠点を選択的に維持する考え方が必要になっていることを示しています。

自治体単位ではなく生活圏単位で考える必要がある

 住民は自治体境界を意識して給油するわけではありません。御宿町の住民が勝浦市やいすみ市の店舗を利用することもあれば、反対方向の住民が御宿町の店舗を利用することもあります。このため、ガソリンスタンド政策を自治体ごとに完全に分けて考えると、実際の生活圏とずれる可能性があります。

 外房では、御宿町、勝浦市、いすみ市、大多喜町、長生地域などを含め、道路網に沿った到達時間で分析する方が合理的です。平均距離だけではなく、集落単位で「現在はどの店舗が最寄りか」「その店舗が閉店した場合、次の店舗まで何分かかるか」「災害で主要道路が使えなくなった場合に代替経路があるか」を調べる必要があります。

 店舗維持策としては、中核的な給油拠点への支援、灯油配送の共同化、農業者や事業者による共同調達、店舗間の休日調整、電気自動車充電設備や日用品販売などとの複合化が考えられます。ただし、どの方法も万能ではありません。例えば複合化すれば収益源は増えますが、人員、設備、在庫、管理業務も増えるため、サービスを増やしただけで黒字になるとは限りません。

休日輪番制という方法もある

 店舗数が少ない地域では、各店舗が無理に毎日営業するより、複数店舗で休業日を調整し、地域内のどこかが営業している状態を作る方法があります。2025年には、公正取引委員会が、参加を強制せず、販売価格などを共同決定しない一定の条件の下で、SS過疎地における休業日の調整が独占禁止法上問題とならないとする事例を公表しています。

 これは人手不足対策として有効な可能性がありますが、住民への周知が不可欠です。営業日が分からなければ、住民が閉店している店舗まで行った後、別の店舗へ長距離移動するという逆効果も起こります。

住民側にもできる備えがある

 地域の燃料供給問題は行政や事業者だけの問題ではありません。平時から通常利用する店舗だけでなく、隣接自治体を含めた代替店舗を把握し、自分が利用可能な住民拠点SSも確認しておくことには意味があります。また、燃料計がほぼ空になるまで給油を待つ生活より、自分の移動距離や避難経路に応じて一定残量で給油する方が災害時の余裕につながります。

 一方、ガソリンスタンドが遠いからといって家庭で大量のガソリンを備蓄することは適切ではありません。ガソリンは非常に引火性が高く、容器や保管量には法令上の制約があります。大量備蓄ではなく、車両内の燃料を一定量以上保つことや、複数の移動・暖房手段を持つことの方が現実的です。

公開資料だけでは分からないことも多い

 全国のガソリンスタンド数、SS過疎地の自治体数、御宿町の交通行動、住民拠点SSなどについては公的資料から把握できます。しかし、地域の燃料供給が何年後に危機的になるかまでは、公開統計だけでは分かりません。

 特に重要なのは、個々の店舗の年間販売量、営業利益、経営者の年齢、後継者の有無、地下タンクなどの更新時期、灯油配送先世帯数、農業者や事業者への販売量、災害時に維持できる在庫日数です。これらは通常、公表されていません。

 したがって、「外房では数年後にガソリンスタンドがなくなる」「御宿町では近いうちに給油できなくなる」と断定することはできません。必要なのは、店舗数の統計だけで危機を煽ることではなく、事業者への聞き取り、店舗の営業実態調査、集落ごとの道路距離分析、灯油配送利用者の把握などを組み合わせることです。

外房で今から調べるべきこと

 外房で燃料供給網を維持する政策を検討するなら、まず現在の店舗数だけでなく、各店舗が閉店した場合の影響を数値化する必要があります。例えば、各集落から現在の最寄りSSまでの道路距離と所要時間を計算し、1店舗ずつ仮想的に閉店させた場合に次の店舗までの距離がどれだけ増えるかを求めれば、「地域にとって重要な店舗」を客観的に比較できます。

 さらに、人口、高齢化率、自動車利用率、灯油配送世帯数、農地面積、事業所数、医療・介護施設、避難所、消防・救急拠点などを重ねれば、単なる店舗数より実態に近い評価ができます。国が2026年に示している方向も、こうした「その店舗がなくなったとき、どの程度の供給空白が発生するか」を重視する考え方です。

現実的な結論

 外房でガソリンスタンドがなくなる問題は、「給油のために少し遠くまで走ればよい」という問題ではありません。住民の自家用車だけでなく、灯油配送、農業、建設、物流、医療、介護、災害復旧などへ影響が連鎖する可能性があります。

 特に御宿町では、公式資料で確認できる時点ですでにSSが2か所という少ない状態にあり、住民アンケートでも自家用車利用の多さや、通院・買い物の町外依存が確認されています。だからといって現在すぐに燃料危機が起きると断定することはできませんが、店舗がさらに減ってから対策を考えるのでは遅い可能性があります。

 ガソリンスタンドは民間企業である以上、地域に必要だからという理由だけで採算を無視して営業を続けることはできません。一方で、完全に市場競争だけへ任せれば、最後の店舗がなくなった後に初めて、その店舗が担っていた灯油配送、農業用燃料、防災機能などの価値に気付くことになりかねません。

 必要なのは、すべての既存店舗を公費で残すことでも、すべてを市場任せにすることでもありません。外房を一つの生活圏として捉え、どの給油拠点がなくなると住民、農業、事業者、医療・福祉、防災に大きな影響が生じるのかを事前に把握し、本当に必要な拠点を選択的に維持する仕組みを作ることです。

 将来、ガソリン車が減少する方向そのものは変わらないでしょう。しかし、ガソリン需要が完全になくなる前に地域の燃料供給網だけが先に消滅すれば、移行期間に大きな空白が生じます。問題の本質は、ガソリン車をいつまで残すかではありません。地域で暮らし、働き、農業を続け、医療や介護を提供し、災害から生活を守るために必要な燃料供給機能を、誰が、どの拠点で、いくらの費用を負担し、いつまで維持するのかという地域インフラ設計の問題です。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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 ※本記事は、いすみ市、千葉県、国立社会保障・人口問題研究所などが公表している資料を基に、人口統計の定義や基準日の違いに注意して分析したものです。人口については、住民基本台帳人口、国勢調査、千葉県毎月常住人口調査など複数の統計があり、それぞれ対象者、基準日、集計方法が異なります。そのため、異なる統計の数値を単純に足し引きするのではなく、それぞれの統計が示す人口構造や人口移動の傾向を中心に検討します。

はじめに~「移住先として注目されること」と「人口が増えること」は同じではない

 千葉県南東部に位置するいすみ市は、海や田園、農水産物、比較的温暖な気候などを背景として、移住先として紹介される機会の多い地域です。いすみ市は、宝島社『田舎暮らしの本』の「2026年版 住みたい田舎ベストランキング」において、人口3万人以上5万人未満の市の総合部門などで第1位になったと公表しています。これは民間媒体による評価であり、人口統計や行政の移住政策の効果を直接示すものではありませんが、いすみ市が移住先として一定の注目を集めていることを示す材料の一つではあります。

 しかし、いすみ市の総人口は減少を続けています。2026年7月1日現在の住民基本台帳人口は3万3,761人でしたが、その後も人口減少は続き、2026年9月1日現在では3万3,666人となっています。一方、いすみ市の第3期地域創生総合戦略では、2023年と2024年について、転入者数が転出者数を上回る「社会増」が生じたとされています。ここで重要なのは、転入者が転出者を上回る社会増となっても、自治体の総人口が必ず増えるわけではないということです。人口の変化には、転入・転出だけでなく、出生・死亡も大きく影響します。

 本記事では、いすみ市の人口減少を、出生・死亡による「自然増減」と、転入・転出による「社会増減」に分けて検討します。また、「社会増になったこと」と「移住政策が成功したこと」は同じではないという点にも注意しながら、今後どのような指標で地域の人口政策を評価すべきかを考えます。

1.人口が増減する仕組み

 自治体の人口変化を理解するためには、まず自然増減と社会増減を分ける必要があります。自然増減とは出生数から死亡数を差し引いたもので、出生数が死亡数を上回れば自然増、死亡数が出生数を上回れば自然減となります。

自然増減=出生数-死亡数

 社会増減は、転入者数から転出者数を差し引いたものです。転入者数が転出者数を上回れば社会増、転出者数が転入者数を上回れば社会減となります。

社会増減=転入者数-転出者数

 概念的には、人口増減は「自然増減+社会増減+その他の統計上の増減」と考えることができます。その他の増減には、職権による住民登録の記載や消除などが含まれる場合があります。ただし、住民基本台帳人口と千葉県毎月常住人口調査では、基準日や集計方法が異なります。このため、本記事では住民基本台帳人口を主として人口規模や年齢構成の把握に使用し、出生、死亡、転入、転出については千葉県などが公表する人口動態資料を使用します。

2.いすみ市の人口は4年間で約2,500人減少した

 いすみ市の「こども計画」に掲載された住民基本台帳人口によると、各年4月1日現在の人口は次のように推移しています。

年 総人口 15歳未満 15~64歳 65歳以上
2021年 36,955人 3,280人 18,352人 15,323人
2022年 36,345人 3,133人 17,947人 15,265人
2023年 35,651人 3,026人 17,531人 15,094人
2024年 35,075人 2,886人 17,182人 15,007人
2025年 34,468人 2,756人 16,877人 14,835人

 2021年4月1日から2025年4月1日までの4年間で、総人口は2,487人減少しました。減少率は約6.7%です。単純に4年間で割ると、年平均では約622人ずつ人口が減少した計算になります。ただし、これは過去の変化を平均した参考値であり、将来人口を予測する数値ではありません。

 より重要なのは、15歳未満、15~64歳、65歳以上のすべての年齢層で人口が減少していることです。一般に「高齢化」という言葉からは、高齢者人口が増え続ける状況を想像しがちですが、人口減少が長期間続く地域では、やがて高齢者人口そのものも減少へ転じます。いすみ市の第3期地域創生総合戦略でも、年少人口と生産年齢人口は減少を続け、65歳以上の老年人口についても2020年以降は減少傾向へ転じたとされています。つまり、いすみ市は単に「高齢者が増え、若者が減っている段階」だけではなく、すべての主要年齢層が縮小する人口減少局面へ移行していると考えられます。

3.人口減少の最大の要因は自然減である

 千葉県常住人口調査などを基に、2020年から2024年までの出生数と死亡数を見ると、いすみ市では一貫して死亡数が出生数を大きく上回っています。

年 出生数 死亡数 自然増減
2020年 144人 568人 -424人
2021年 126人 630人 -504人
2022年 116人 728人 -612人
2023年 121人 751人 -630人
2024年 98人 735人 -637人

 2024年には、出生98人に対して死亡735人となり、自然増減は637人の減少でした。死亡数は出生数の約7.5倍です。人口規模が3万人台の自治体で毎年600人を超える自然減が発生する状態では、一定数の転入超過があっても総人口を増加へ反転させることは容易ではありません。例えば、年間100人の社会増があったとしても、自然減が600人を超えていれば、その他の統計上の増減を除いた単純計算では、人口はなお年間500人程度減少します。

 したがって、現在のいすみ市の人口減少を「若者が市外へ流出しているから」といった社会減だけで説明することはできません。現在の人口減少を最も大きく左右しているのは、高齢化した人口構成を背景とする大幅な自然減です。

4.社会増減は2023年、2024年にプラスとなった

 転入と転出については、自然増減とは異なる変化が見られます。

年 転入者数 転出者数 社会増減
2020年 1,063人 1,327人 -264人
2021年 980人 1,044人 -64人
2022年 1,205人 1,272人 -67人
2023年 1,212人 1,189人 +23人
2024年 1,231人 1,160人 +71人

 2020年から2022年までは転出者数が転入者数を上回る社会減でしたが、2023年には23人、2024年には71人の社会増となりました。2024年だけを見ると、1,231人が転入し、1,160人が転出した結果、71人の転入超過となっています。この変化は人口政策上、無視すべきものではありません。社会増がなければ人口減少はさらに大きくなっていたと考えられるためです。

 しかし、社会増になったという事実だけから、「移住政策が成功した」「移住希望者が急増した」と判断することはできません。統計上の転入者には、地方移住を目的とする人だけではなく、転勤、就職、結婚、家族との同居、施設入所などによる転入も含まれます。また、外国人住民の転入が社会増に影響している可能性もあり、さらに転入した人が数年後も市内に居住しているとは限りません。したがって、社会増は人口移動が改善していることを示す重要な指標ですが、それだけで行政の移住施策の効果を測定することはできません。反対に、総人口が減っているという理由だけで、移住・定住政策に効果がなかったと評価することも適切ではありません。

5.社会増71人では自然減637人を補えない

 2024年の人口変動を単純化すると、人口減少の構造が分かりやすくなります。

人口変動の要因 2024年の増減
自然増減 -637人
社会増減 +71人
単純合計 -566人

 自然減637人に対して、社会増は71人でした。71人を637人で割ると約11.1%となるため、2024年について単純化すれば、社会増によって自然減の約1割が補われた一方、残る約9割分については相殺できなかったと考えることができます。ただし、この566人という数字を住民基本台帳人口の年間減少数と完全に一致する数字として扱うことはできません。人口統計には職権による記載・消除などの増減があり、統計によって基準日や対象者も異なるからです。それでも、自然減の規模が社会増を大幅に上回っているという人口構造そのものは明確です。

6.人口減少を社会増だけで止めるには何人必要なのか

 仮に2024年と同程度の自然減637人が続き、その他の人口変動を考慮しないとすると、総人口の減少をその年だけ止めるには、おおむね637人以上の社会増が必要になります。2024年の社会増は71人だったため、単純計算では約9倍の転入超過が必要です。しかし、これはあくまで1年間の人口会計を固定した静的な計算です。実際の将来人口は、転入者の年齢、性別、その後の出生、死亡、転出などによって変化します。例えば、30歳前後の600人が転入する場合と、70歳代の600人が転入する場合では、10年後、20年後の人口構成や出生数、死亡数は大きく異なります。

 そのため、本格的な将来人口推計では、年齢や性別ごとの人口を追跡し、出生率、死亡率、人口移動率などを組み合わせて推計する必要があります。国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来人口推計でも、このような年齢別人口構造を考慮した方法が用いられています。また、人口3万人台の自治体が年間600人を超える社会増を継続的に実現することは容易ではありません。必要なのは住宅を用意することだけではなく、雇用、教育、医療、介護、買物、交通、通信環境、地域との関係、空き家の流通、災害リスクへの対応などを総合的に整えることです。

 転入者数だけを増やしても、その後短期間で再び転出するのであれば人口維持への効果は限定的です。人口政策を見る際には、「何人転入したか」だけでなく、「何人が3年後、5年後にも居住しているか」「どの年代が転入したか」「市内で就業や起業をしているか」といった点まで確認する必要があります。

7.子育て世代の転入が重要とされる理由

 社会増の人数が同じであっても、転入者の年齢構成によって将来人口への影響は異なります。60歳代以上の転入者も現在の人口を増やし、住宅需要や地域消費などに寄与しますが、出生数の増加には直接つながりにくく、将来的には医療、介護、移動支援への需要が高まる可能性があります。一方、20~40歳代の世帯が転入し、長期間定住すれば、社会増だけでなく将来の年少人口や出生数に影響する可能性があります。ただし、若い世帯が転入すれば自動的に出生数が増加するわけではありません。結婚や出産の選択は、所得、雇用の安定性、住宅費、保育、教育、医療、働き方、家族観など数多くの条件に左右されます。

 いすみ市の出生数は、2015年の183人から2024年には98人へ減少しました。9年間で85人、率にすると約46%の減少です。また、0~17歳の児童人口は2021年の4,049人から2025年には3,507人となり、4年間で542人、約13.4%減少しました。特に0~5歳人口は、同じ期間に1,082人から758人へ324人減少しており、減少率は約29.9%に達します。

 こうした変化は、将来の保育所、小中学校、公共施設などの配置にも影響します。しかし、子どもの人数が減ったからといって、行政サービスの費用を人数と同じ割合で削減できるとは限りません。人口が広い地域に分散していれば、施設統合による移動距離の増加や送迎負担など、新たな問題が生じるからです。

8.人口が減っても世帯数は同じ割合では減らない

 2026年7月1日現在のいすみ市は、人口3万3,761人、世帯数1万6,853世帯でした。単純計算すると、1世帯当たり人口は約2.00人です。いすみ市の資料でも、人口が減少する一方で世帯数は大幅には減少せず、1世帯当たりの人数が減少するとともに、単独世帯の割合が高まっていることが示されています。

 人口が減っても世帯数が同程度には減少しない場合、行政需要も人口に比例して減るとは限りません。住宅が点在している以上、ごみ収集、道路、上下水道、消防、救急などのサービスを提供する範囲は簡単には縮小できないからです。例えば、インフラなどに一定の固定的な維持費が必要だとすると、人口が減少すれば一人当たりに換算した負担は相対的に増加する可能性があります。ただし、実際にいすみ市で一人当たり行政コストがどの程度増加するかについては、人口統計だけでは判断できず、歳出、施設維持費、道路延長、ごみ収集費、上下水道事業などの財政データを別途分析する必要があります。したがって、「人口が10%減れば行政コストも10%減る」と考えることは適切ではなく、人口減少社会では、人口の規模だけでなく、住宅の分布や世帯構成、施設配置なども行政効率を左右します。

9.2050年、いすみ市の人口はどこまで減るのか

 いすみ市の第3期地域創生総合戦略によると、国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計では、いすみ市の人口は2050年に2万218人まで減少すると見込まれています。一方、いすみ市は人口減少を緩和し、2050年時点で2万3,000人以上を維持することを目標としています。

2050年 人口
国立社会保障・人口問題研究所による推計 20,218人
いすみ市の目標 23,000人以上
差 2,782人以上

 ここで重要なのは、2万3,000人という数字が「将来予測」ではなく、市が政策によって目指す「目標」であることです。市は現在と同程度の人口を維持することを前提としているのではなく、人口減少そのものは一定程度避けられないものとして、その減少幅を抑えようとしています。したがって、人口政策の現実的な目的は、単純に人口増加へ反転させることだけではありません。人口減少の速度を緩和し、年齢構成の極端な偏りを抑え、そのうえで人口が減っても医療、交通、買物、行政サービスなどを維持できる地域構造をつくることが重要になります。

10.移住政策は何を基準に評価すべきか

 いすみ市の第3期地域創生総合戦略では、2025年度から2027年度までの人口社会増について累計300人という目標が設定されています。また、移住・定住関係についても複数のKPI(Key Performance Indicator・重要業績評価指標)が設定されています。

項目 2027年度までの指標
人口の社会増 累計300人
ふるさと定住支援住宅取得費補助金申請件数 累計70件
空き家バンク契約成立数 累計36件
移住相談件数 累計1,500件
相談を通じた移住者数 累計180人

 これらの指標は政策の実施状況を確認するうえで重要ですが、相談件数や補助金申請件数だけで移住政策の最終的な効果まで判断することはできません。政策評価を考える場合、まず「移住相談を何件受けたか」「移住イベントへ何回参加したか」といった活動量があり、その次に「実際に何人転入したか」「何世帯が住宅を取得したか」「空き家が何件契約されたか」という直接的成果があります。さらにその先に、「3年後、5年後にも定住しているか」「市内で就業や起業をしているか」「子育て世帯が定着したか」「地域活動の担い手になったか」「地域消費や税収へどの程度寄与したか」という中長期的成果があります。

 現在公表されているKPIから比較的確認しやすいのは、主として活動量と直接的成果です。政策の本当の効果を検証するには、個人情報に十分配慮したうえで、転入後の定住状況や就業状況などを継続的に分析する必要があります。

11.社会増になったことと、移住政策が成功したことは同じではない

 2023年と2024年に社会増となったことは事実ですが、そこから「行政の移住政策によって社会増が実現した」と因果関係まで断定することはできません。社会増には、景気、住宅価格、テレワーク、企業の雇用、外国人住民の増減、東京圏からの人口移動、家族関係など、多数の要因が影響するからです。

 行政施策の効果をより厳密に検証するのであれば、いすみ市だけの前後比較では不十分です。人口規模、東京圏からの距離、交通条件、住宅価格、産業構造、高齢化率などが比較的似ている自治体についても人口移動を調べ、政策導入前後で差がどの程度変化したのかを比較する必要があります。その意味では、現在確認できる事実は「いすみ市では2023年、2024年に転入者数が転出者数を上回った」というところまでです。この変化には移住政策が寄与している可能性がありますが、その寄与度を現在の人口統計だけから分離して測定することはできません。

12.人口が減ることと、地域が同じ割合で衰退することは同じではない

 人口減少は、税収、労働力、公共交通、医療、介護、商業、地域活動などへ影響するため、軽視することはできません。一方で、人口が10%減れば地域経済や住民の生活水準も必ず10%低下するという単純な関係でもありません。人口が減少しても、一人当たり所得や市内消費が増えたり、市外から所得を得る住民が増えたり、少人数でも収益性の高い事業が成長したりすれば、地域経済への影響を一定程度緩和できる可能性があります。また、空き家が住宅や事業所として再利用され、公共交通や医療、行政サービスの提供方法が人口規模に合わせて再設計されれば、人口減少下でも一定の生活水準を維持できる可能性があります。

 逆に、人口が社会増となっても、その転入者の多くが市外で勤務し、市外で買物をするのであれば、市内経済への効果は人口増加ほど大きくないかもしれません。したがって、地域の将来を評価する際には、人口総数だけではなく、年齢別人口、世帯構成、市内就業者数、市外通勤者数、事業所数、空き家流通件数、医療・介護需要、公共交通利用者数、市内消費額、一人当たり行政コストなどを組み合わせて見る必要があります。

13.今後の人口政策に必要な三つの視点

①社会増が継続するかを確認する

 2023年と2024年に社会増となったことは、人口移動の面では改善を示す変化です。しかし、2年間だけの数字から長期的な構造変化が確定したとは言えません。特に2020年前後は新型コロナウイルス感染症の拡大によって人口移動や働き方が大きく変化した時期でもあり、短期間の比較には注意が必要です。今後も複数年にわたって社会増減を確認するとともに、単純な転入・転出人数だけではなく、転入者の年齢、国籍、世帯構成、転入理由、その後の定住状況などを分析する必要があります。社会増が継続的な変化なのか、一時的な変動なのかを判断するには、より長期間のデータが必要です。

②若者の転出を完全に止めることだけを目標にしない

 進学や就職によって10歳代後半から20歳代前半の若者が都市部へ転出することは、本人の教育や職業選択という観点では必ずしも悪いことではありません。若者を地域から出さないことだけを人口政策の目標にすると、本人の選択肢を狭める可能性があります。より現実的なのは、市外へ進学しても将来戻ることのできる雇用を増やしたり、市外勤務をしながらいすみ市へ居住できる交通・通信環境を整えたり、起業や事業承継を選択できる環境をつくったりすることです。若者が一度市外へ出ても、就職、結婚、子育てなどの人生段階で戻ることのできる地域をつくるという視点が重要です。

③人口減少を前提に生活機能を再設計する

 現在の人口規模が将来も維持されることを前提として、すべての公共施設やインフラをそのまま維持し続けることは困難になる可能性があります。いすみ市も将来人口の減少を見据え、保育所や公民館など類似する公共施設について統廃合を進める方向を示しています。ただし、施設を減らせばそれだけで効率化できるわけではありません。施設の統合によって移動距離が長くなれば、高齢者、子ども、運転免許を持たない住民には新たな負担が生じます。そのため、公共施設の再編は、地域公共交通、送迎サービス、訪問サービス、オンライン行政手続きなどと一体的に設計する必要があります。

14.データから導かれる結論

 いすみ市の人口動態について確認できる最も重要な事実は、総人口が継続的に減少している一方で、2023年と2024年には転入者数が転出者数を上回る社会増が生じたということです。しかし、2024年には出生98人に対して死亡735人となり、637人の自然減が発生しました。社会増71人では、この自然減を相殺することはできませんでした。したがって、「社会増なのになぜ人口が減るのか」という現象に矛盾はありません。人口は転入と転出だけで決まるのではなく、出生と死亡を含む複数の要因によって変化するからです。

 また、現在のデータから「移住政策が成功した」「移住者が急増した」とまで結論づけることもできません。統計から直接確認できるのは社会増であり、その中には転勤、就職、結婚、外国人住民の移動などさまざまな理由による転入が含まれます。一方で、総人口が減少していることだけを理由として、移住・定住政策を失敗と評価することもできません。社会増71人には、人口減少をその分だけ緩和した効果があります。重要なのは、人口増減を「増えた」「減った」の二択で評価することではなく、自然増減と社会増減を分離し、その背景まで確認することです。

まとめ~目指すべきは人口増加だけではなく、人口減少に対応できる地域である

 いすみ市では、2023年と2024年に転入者数が転出者数を上回る社会増となりました。しかし、死亡数が出生数を大きく上回る自然減の規模がそれ以上に大きいため、総人口は現在も減少を続けています。今後の人口政策では、単純に転入者数だけを増やすのではなく、若者や子育て世帯が定住できる雇用と住宅、高齢になって自動車を運転できなくなっても生活できる交通手段、人口が減少しても維持可能な医療・介護・買物環境、空き家を安全に流通させる仕組み、公共施設と生活インフラの現実的な再配置、小規模でも地域内に所得を残す事業などを組み合わせて考える必要があります。

 そして、人口政策の成果を見る際にも、「何人転入したか」だけでなく、転入者の年齢、世帯構成、定住期間、市内就業、起業、子育て、地域消費などを継続的に検証する必要があります。社会増は重要な成果の一つですが、それだけで人口問題が解決するわけではありません。いすみ市の社会増から確認できるのは、少なくとも転入を促す何らかの要因が存在する可能性があるということです。しかし、社会増だけから「移住先としての魅力」や「行政の移住政策の効果」を直接測定することはできません。その評価には、他自治体との比較や転入後の定住状況など、さらに詳しい分析が必要です。

 人口が増えているか減っているかという情報と、個人にとってその地域が暮らしやすいかどうかも別の問題です。住宅取得費が安くても、自動車の保有費、住宅改修費、通院や買物の移動、将来の免許返納後の交通手段、固定資産税、保険料、住宅の売却可能性などまで含めれば、長期的な生活費は世帯によって大きく異なります。反対に、都市部で高い住宅費を負担している世帯や、場所に左右されにくい働き方ができる世帯にとっては、いすみ市への移住が経済的に合理的となる場合もあります。

 人口減少が避けにくい地域にとって重要なのは、人口を増やすことだけを唯一の成功指標とすることではありません。人口減少の速度をできる限り緩和しながら、人口規模が小さくなっても、住民が安心して生活でき、地域経済と行政サービスを持続できる仕組みをつくることが、より現実的な課題です。

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