地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

議場から椅子を1つ減らしたら、いくら浮くのだろうか

 地方議会の議員定数について考えるとき、「議員を1人減らせば、その人に支払っていた報酬の分だけ税金を節約できる」という発想はごく自然であり、議場に並んだ椅子を1脚減らせば、その椅子に座る議員の報酬も消えるのだから、話はそれほど難しくないように思える。しかし、実際に数字を割り始めると、この単純な印象は何度も裏返されることになり、最初は大きく見えていた節約額が人口で割った瞬間に驚くほど小さくなったかと思えば、今度は「たった1議席」が議会全体に占める割合を計算した瞬間、予想以上に大きな存在へと変わって見えてくる。

 地方自治法では、都道府県議会と市町村議会の議員定数は条例によって定められ、地方議会議員の任期は4年であり、議員報酬や費用弁償、条例による期末手当などの仕組みも法令と条例によって定められているが、議員定数を条例で1人減らしたからといって、その日のうちに現職議員が1人いなくなるわけではなく、定数変更は原則として一般選挙を通じて実際の議席数に反映されるため、財政効果について考えるときにも「条例を改正した瞬間からいくら浮くか」ではなく、「1議席少ない状態が実際に成立した後、自治体の支出がどの程度変化するのか」と考える必要がある。

 さらに地方議会は、単に議員報酬を支払うために存在する組織ではなく、予算や条例などを審議し、行政を監視し、地域の意思を自治体の意思決定につなげる役割を担っているため、議員定数という数字は人件費の問題であると同時に、自治体がどのような規模の議会を維持するのかという制度設計の問題でもある。そこで、「議員を1人減らせば何円浮くのか」という素朴な疑問から出発しながら、その金額を人口や財政規模、議席総数という別の数字で割っていくと、議員定数について最初に抱いていた印象が少しずつ変わっていく。

2億円を20人で割っても、本当の答えは出ない

 仮に、ある自治体の年間議会費が2億円で議員定数が20人だったとすると、2億円を20人で割れば議員1人当たり1000万円となるため、「それなら議員を1人減らせば年間1000万円節約できる」と考えたくなるが、ここで最初の数字の罠が現れる。議会費の中には議員本人に支払われる報酬などだけではなく、議会事務局、議場や委員会室、会議録の作成、議会中継、情報公開、施設や設備の維持管理など、議員が20人から19人になっても短期的にはほとんど変化しない支出が含まれているため、議会費を議員数で割った平均的な金額と、実際に1議席を削減したときに減少する金額は同じではない。

 これは社員20人の会社から1人が退職したとしても、翌月から事務所の家賃が20分の19になり、サーバー代も20分の19になり、管理部門の人件費まで20分の19になるわけではないのと同じであり、議員1人の削減効果を測るのであれば、その議席がなくなることで直接消える報酬や期末手当などと、議員数がわずかに変わっても残り続ける支出を分けて考えなければならない。

 もっとも、議会事務局や設備関係の支出を「絶対に変わらない固定費」と考えるのも正確ではなく、議員数が長期にわたって減れば組織や設備の見直しが行われ、将来的には支出が変化する可能性もあるため、正確には「議員1人の増減には短期的に連動しにくい費用」と考えた方がよい。つまり、本当に知りたい数字は「議員1人当たりの議会費」ではなく、「1議席をなくした結果として実際にいくら支出が減るのか」であり、経済学や管理会計の考え方を借りれば、平均的な費用ではなく、1議席の増減に伴って変化する限界的な費用に近いものを見ることになる。

700万円が、突然14円になる

 ここからは数字の性質を分かりやすくするため、1議席が実際になくなった結果、その議席に直接関係する年間支出が700万円減少すると仮定してみよう。この700万円は特定の自治体の実額ではなく、議員報酬や期末手当などは自治体によって異なるため、あくまで計算の仕組みを理解するために置いた仮定上の数字であり、日本の地方議員1人を減らせば平均して700万円削減できるという意味ではない。

 年間700万円と聞けば、多くの人は決して小さくない金額だと感じるだろうが、人口5000人の自治体なら住民1人当たり換算額は年間1400円、人口5万人なら140円、人口50万人なら14円となり、同じ700万円という数字が人口という分母を置いた瞬間にまったく違った姿を見せる。700万円そのものは1円も変化していないのに、「自治体全体で年間700万円」と聞く場合と、「人口1人当たりに換算すると年間14円」と聞く場合では、受ける印象はほとんど別物になるのである。

 ここで「住民1人当たり負担」ではなく「住民1人当たり換算額」と表現することも重要であり、自治体の支出は住民全員から同額ずつ集めた税金によって賄われているわけではないため、700万円を人口で割った14円は各住民が実際に14円ずつ負担しているという意味ではない。あくまで自治体全体の削減可能額を人口で標準化して比較しやすくした数字であり、人口規模の違う自治体を考えるための物差しの1つなのである。

では、住民1人当たり14円なら、削減する意味はないのか

 人口50万人の自治体で1議席を減らし、年間700万円の削減が実現しても人口1人当たり換算額では14円にすぎないとすれば、「それなら議員を減らしても意味がない」と考えたくなるが、それもまた数字を1方向から見ただけの結論であり、人口で割った結果が14円になったからといって700万円という自治体全体の支出削減額そのものが消えるわけではない。

 反対に人口5000人なら人口1人当たり換算額は1400円になるため、「それなら人口の少ない自治体ほど議員を減らした方がよい」と思えるかもしれないが、ここで数字はもう一度向きを変える。小規模な議会では、1議席を削減した場合の人口1人当たり換算額が大きくなりやすい一方、そもそもの議員数が少なければ、1議席が議席総数に占める割合も大きくなるからである。

 例えば20人の議会から1人を減らせば議席総数は5%減るが、10人の議会から1人を減らせば10%減るため、どちらも「1人削減」という同じ言葉で表現されていても、議会全体の人数構成に対する相対的な変化は2倍になる。ただし、ここから「議席数が10%減るから代表機能も10%低下する」と結論づけることはできず、議員数と代表性との関係は、選挙制度、委員会構成、地域の広さ、議員活動、請願や陳情、議会報告会など住民参加の仕組みにも左右されるため、数学的に確実に言えるのは、議員数が少ない議会ほど1議席削減が議席総数に占める割合が大きくなるというところまでである。

小さな自治体ほど「節約効果」も「議席の変化率」も大きくなる

 ここに、この問題で最も興味深い数字の反転がある。人口が少なければ同じ700万円でも人口1人当たり換算額は大きくなるため、財政面から見ると定数削減の効果が大きく見えるが、議員数そのものも少なければ1議席を減らしたときの議席総数に対する変化率まで大きくなり、財布の側から見ると「1人減らす効果」が大きくなる一方、議会の構成という側から見ると「1人減らしたことによる人数上の変化」も大きくなる。

 もちろん、議員数を減らせば住民の声が必ず届きにくくなると断定することはできず、議会報告会、請願、陳情、オンラインによる意見受付などによって住民との接点を補うことも可能であり、逆に議員が多ければ多いほど高い代表性が自動的に保証されるわけでもない。しかし少なくとも、「人口が少ないから人口1人当たり換算額が大きい。したがって議席を減らすべきだ」という計算だけでは、財政的な側面しか見ていないことになる。

 議員定数と自治体全体の歳出との関係についても、実証研究の結果は単純ではなく、議員数が多いほど支出が増えるという結果を示す研究がある一方、逆方向の結果を示す研究もあり、複数の研究をまとめた分析でも、議会規模が政府予算を一貫して増加させる、あるいは減少させるという強固な一般法則は確認されていない。したがって、「議員を1人減らせば、その議員に直接結びついた支出の一部が減少する」という話と、「議員を減らせば自治体全体の歳出も必ず小さくなる」という話は別であり、この記事で計算しているのは前者である。

2800万円という大金が、28円に変わる瞬間

 地方議会議員の任期は4年なので、仮に年間700万円の削減可能額が4年間まったく変化しないと置けば、単純計算では700万円の4倍で2800万円となり、「1議席減らせば4年間で2800万円」という数字になると、年間700万円の場合よりもさらに大きな財政効果のように感じられる。

 ただし、この2800万円は将来の実額を保証する数字ではなく、4年間にわたって報酬や期末手当などの条件が変わらず、年間700万円という削減額が一定であるという仮定を置いた単純累計である。その条件の下で人口による違いを計算すると、人口1万人では4年間の人口1人当たり換算額が2800円、10万人では280円、100万人では28円となり、「4年間で2800万円」という表現と「人口1人当たり4年間で28円」という表現が、まったく同じ現象を説明しているとは思えないほど異なる印象を与える。

 この違いは計算ミスによって生じるのではなく、分母を変えることで生まれるものであり、大きな数字だけを示しても、小さな数字だけを示しても、数学的には間違っていない場合があるからこそ注意が必要になる。仮に年間700万円が削減でき、自治体の年間歳出が70億円なら、その削減額は年間歳出の0.1%に相当するため、「700万円」という絶対額、「人口1人当たり換算額」、「財政全体に占める0.1%」を並べて初めて、その数字を異なる角度から眺められるようになる。

140円浮いても、住民の財布に140円戻るとは限らない

 さらに数字の意味を取り違えてはいけない点があり、仮に人口1人当たり年間140円に相当する支出削減が実現したとしても、それによって住民1人の税金が翌年から140円安くなるわけではない。自治体の予算では多数の歳入と歳出が結びついており、削減された財源が別の行政サービスに使われることもあれば、基金への積み立てや財政収支の改善に充てられることもあるため、「人口1人当たり140円の削減効果」と「住民1人当たり140円の減税」はまったく同じ意味ではない。

 税金や議員報酬をめぐる議論では、金額が大きければ大きいほど説得力も増すように感じられやすいが、財政分析で重要なのは数字そのものの大きさ以上に、その数字が何を表しているのかを確認することであり、年間削減可能額、人口1人当たり換算額、自治体歳出に占める割合、実際の住民の税負担への影響は、それぞれ別の概念として区別しなければならない。

県議と市町村議も、報酬額だけでは比べられない

 同じことは県議と市町村議を比較するときにも当てはまり、年間報酬だけを横に並べれば高い方が財政負担も大きいように見えるが、都道府県と市町村では人口規模だけでなく行政権限や財政構造も異なるため、報酬額や人口1人当たり換算額だけから「どちらの議会が効率的か」という結論を導くことはできない。

 それでも、人口で割ることには意味があり、年間報酬などの絶対額だけではなく、人口を議員定数で割った平均値、1議席を削減した場合の人口1人当たり換算額、その削減額が自治体歳出の何%に相当するのかを並べれば、少なくとも人口規模の違いをある程度調整した参考比較ができる。ただし、「人口÷議員定数」で得られる数字は、各議員が実際に何人の住民を担当しているかを意味するわけではなく、特に県議会には選挙区があり、選挙区ごとの人口と定数も異なるため、あくまで自治体全体を平均化した統計上の指標として扱う必要がある。

 また、自治体の予算総額を議員数で割って「議員1人当たり予算額」を作ること自体はできても、それを議員の生産性や効率性とみなすのは適切ではなく、自治体予算は人口、福祉需要、公共施設、地域面積、行政権限など多くの条件によって決まるため、計算できる数字だからといって、必ずしも政策評価に意味のある数字になるとは限らない。

数字を比較するなら、同じ物差しで測らなければならない

 実際に複数の地方議会を比較しようとすると、今度は人口という分母そのものをどのようにそろえるのかという問題が生じ、ある自治体では国勢調査人口、別の自治体では住民基本台帳人口、さらに別の自治体では異なる年月日の人口を使ってしまえば、小数点まで計算した精密な表を作ったとしても比較条件はそろっていない。

 したがって、本格的に県議会や市町村議会を比較するのであれば、例えば同一基準日の人口を使い、議員定数、議員報酬、期末手当、議会費、一般会計歳出などについても可能な限り同じ年度の数字をそろえたうえで分析する必要があり、さらに平均値だけでなく中央値や分布まで調べれば、「人口規模の違いによって1議席の人口1人当たり換算額が実際にどの程度変化するのか」という統計的な問いへ進むことができる。

 つまり、この記事で使っている700万円という数字から分かるのは、日本の地方議会の平均的な実態ではなく、議員定数を見るときに数字をどのように割り、どのような分母と比較すればよいのかという数理的な構造である。実際の県議会や市町村議会について結論を出すのであれば、同じ条件で集めた実データによる検証が別に必要になる。

「1人減らすべきか」という答えは、最後まで数字だけでは出ない

 ここまで計算を続けてみると、最初は「議員を1人減らせばいくら浮くのか」という単純な問いだったものが、いつの間にか「人口1人当たりではいくらなのか」「自治体歳出全体では何%なのか」「1議席を減らすと議席総数は何%変化するのか」「その人数で議会の審議や行政監視をどのように維持するのか」という複数の問いへ姿を変えている。

 人口1人当たり年間14円しか削減できないからといって、その1議席が必ず必要だとは言えず、反対に人口1人当たり年間1400円削減できるからといって、その1議席をなくす方がよいとも言えない。議員数と自治体支出の関係について研究結果が一様ではないことからも分かるように、議席数を変えたときに生じる影響は単純な比例関係ではなく、財政効果は比較的数値化しやすくても、議会の行政監視、審議、代表性などを同じ円という単位だけで測ることはできない。

 だからこそ、議員定数について数字を使う目的は、「減らすべきだ」「減らすべきではない」という結論を数字に言わせることではなく、その判断をするときに何を比較しているのかを明らかにすることにある。

700万円を見るか、14円を見るか

 議員を1人減らした場合に年間700万円が削減できるという仮定も、人口50万人なら人口1人当たり換算額が14円になるという計算も、どちらか一方が正しくてもう一方が間違っているわけではなく、さらに4年間なら2800万円、人口100万人なら人口1人当たり28円となるように、同じ1議席でも見る距離を変えるたびに大きくなったり小さくなったりする。

 小規模な自治体へ目を移せば、今度は人口1人当たり換算額が大きくなる一方、1議席が議席総数に占める割合も大きくなるため、「財政上の削減効果」と「議会構成に対する人数上の変化」が同時に大きくなることがあり、この2つをどのように評価するかは単純な割り算だけでは決まらない。

 結局、数字が教えてくれる最も興味深いことは、「議員を1人減らすべきか」という答えそのものではないのかもしれない。むしろ、年間700万円という数字を見たときに抱いた印象が、1400円になり、140円になり、14円になり、さらに議席総数に占める5%や10%という別の数字を見た瞬間に再び揺らぐことこそ、この問題の面白さなのである。

 議員定数を考えるとき、本当に必要なのは大きな数字だけを探すことでも、小さな数字だけを探すことでもなく、同じ1議席を人口、財政規模、議席総数という異なる分母で割り、その数字が何を意味し、何を意味しないのかを確かめることであり、数字そのものを変えるのではなく数字を見る角度を変えたとき、私たちが当然だと思っていた「多い」「少ない」「高い」「安い」という常識の方が、静かに反転していくのである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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