地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

 停電という言葉から、多くの人が最初に思い浮かべるのは「照明がつかなくなること」かもしれません。しかし、現在の住宅で電気が担っている役割は照明だけではありません。冷蔵庫、エアコン、給湯器、調理器具、電話、インターネット、給水ポンプ、医療機器など、生活を支えるさまざまな設備が電気に依存しています。電力が失われるということは、単に家の中が暗くなるのではなく、日常生活を成り立たせている複数の機能が同時に停止する可能性を意味しています。

 とりわけ外房では、高齢化の進行が重要な問題になります。千葉県が2026年7月に公表した同年4月1日現在の人口統計によると、65歳以上の人口割合は御宿町で54.4%、勝浦市で48.1%に達しています。いすみ市、勝浦市、御宿町、大多喜町からなる夷隅地域全体でも46.0%であり、千葉県全体の27.6%を大きく上回ります。夷隅地域は県内11地域の中で高齢者の人口割合が最も高く、停電時の生活継続を考えるうえでも、高齢者の身体的な条件や生活環境を無視することはできません。

 もっとも、高齢化率が高いことだけで、停電による被害が大きくなると断定することはできません。実際の影響は、健康状態、同居家族の有無、住宅設備、自動車の利用可能性、近隣住民との関係、行政の支援体制などによって変わります。ただし、住宅が分散し、日常生活の移動を自動車に頼る地域では、停電によって生活機能が失われた際に、代わりのサービスへアクセスすることが難しくなる場合があります。

 2019年9月の令和元年房総半島台風では、千葉県内で最大64万1,000軒の停電が発生し、断水も合計13万3,474戸に及びました。資源エネルギー庁の検証によると、停電件数がピーク時から99%解消するまでに約280時間、日数に換算すると約11.7日を要しています。これはすべての住宅が11日以上停電したという意味ではありませんが、広域災害では電力の復旧に相当な時間がかかる可能性があることを示しています。

 この災害で重要だったのは、電力の停止が単独で発生したわけではないことです。停電に加えて、断水、通信障害、道路の通行障害などが重なり、行政による安否確認や福祉施設への支援にも支障が生じました。外房で考えるべきなのは、「電気が24時間来なかったらどうするか」という問題だけではありません。電気を入口として、水、食料、通信、医療、移動という生活機能がどこまで失われ、その状態が何時間続けば生活の維持が難しくなるのかという問題です。

停電直後は、まだ「少し不便」なだけに見える

 停電して最初の数十分は、多くの住宅で深刻な状況には見えないかもしれません。昼間なら窓から光が入り、水道も使える場合があります。スマートフォンには電池が残り、冷蔵庫も扉を閉めていれば庫内温度が直ちに大きく上昇するわけではありません。こうした状況では、電気が止まったことを不便に感じながらも、「そのうち復旧するだろう」と判断する人がいても不思議ではありません。

 しかし、停電の危険性は、現在どれだけ困っているかだけでは判断できません。比較的短時間で復旧する停電と、電柱や電線、倒木などに広範囲の被害が生じた停電では、その後の展開が大きく異なります。令和元年房総半島台風では、倒木や飛来物による電力設備の損傷が各地で発生し、被害地点が多かったことから、復旧作業だけでなく、被害の全体像を把握することにも時間が必要になりました。

 つまり、停電直後に住民が直面する問題の一つは、復旧までの時間を正確に予測できないことです。数時間で復旧すると考えて生活を続けた結果、停電が翌日まで長引けば、食品の管理、飲料水の確保、家族への連絡、体調管理などの準備が遅れる可能性があります。特に、電力の供給が途絶えると直ちに困る設備がある住宅では、復旧見込みが分からないこと自体を重要な危険要因として考える必要があります。

数時間の停電で、住宅の暑さと寒さが問題になる

 停電が数時間続いた場合、季節によっては住宅内の温度が大きな問題になります。夏はエアコンや扇風機が使えなくなり、冬はエアコン暖房や電気を必要とする暖房器具が停止します。高齢者は、加齢に伴って暑さに対する感覚や体温調節機能が低下する場合があり、室内で過ごしていても熱中症を発症する危険があります。特に夏の高温多湿な環境では、停電から24時間を待たずに健康上の問題が生じる可能性があります。

 ただし、停電から何時間で住宅内が危険な温度になるかを、一律に決めることはできません。室温の変化は、外気温、日射、断熱性能、建物の熱容量、換気状況などに左右されます。同じ地域に建つ住宅でも、日射を受けやすい住宅と断熱性能の高い住宅では、冷房停止後の室温上昇が異なります。また、同じ室温でも、住んでいる人の健康状態や水分摂取の状況によって身体への影響は変わります。

 冬にも別の問題があります。エアコン暖房は停電とともに停止し、石油ファンヒーターのように灯油を燃料としていても、送風や燃焼制御に電気を使用する機器は運転できなくなります。ガス給湯器も、制御や点火に家庭用電源を必要とする機種では、ガスの供給が続いていてもお湯を使えなくなる場合があります。つまり、住宅がオール電化でなくても、暖房や給湯の機能が停電によって失われることは十分に考えられます。

 この問題は、現代住宅におけるエネルギー依存の特徴を示しています。ガスや灯油といった燃料が残っていても、それを利用する設備の制御に電気が必要であれば、電力の停止によって機器全体が使えなくなります。住宅の停電対策では、使用している燃料の種類だけでなく、実際に機器を動かすために何が必要なのかを確認することが重要です。

水道管が壊れていなくても、水が出なくなる

 停電時に見落とされやすい問題の一つが給水設備です。水道管自体に損傷がなく、地域の配水管に水が供給されていても、住宅や建物の設備が電気に依存している場合には、水が使えなくなることがあります。例えば、集合住宅などで利用される貯水槽のポンプや増圧給水ポンプは、停電によって停止する場合があります。

 千葉県企業局も2026年9月に公表した案内で、水道本管が断水していなくても、建物のポンプが停止すれば各戸への給水ができなくなる場合があると説明しています。ただし、直結給水栓や非常用給水栓が設置されていれば、それらを利用できることもあります。実際に水が使えるかどうかは給水方式によって異なるため、建物の管理者や管轄する水道事業者への確認が必要です。

 外房では、井戸を利用する住宅についても考える必要があります。井戸は水道本管が断水した場合にも利用できる可能性がありますが、電動ポンプで地下水を汲み上げている住宅では、停電と同時に取水できなくなることがあります。井戸があることと、停電時にも水を使えることは同じではありません。

 水が止まった場合、その影響は飲料水だけにとどまりません。手洗いや食器洗いが難しくなり、トイレの使用にも制約が生じます。入浴や身体を清潔に保つことが難しくなる場合もあり、介護を必要とする人が暮らす住宅では、排せつ介助や衛生管理にも影響する可能性があります。ただし、トイレについては便器の種類や排水設備の状態によって利用方法が異なり、断水中でも一定の条件で水を流せる場合がある一方、排水設備に問題があると使用を控える必要があります。

 停電への備えとして重要なのは、水道が使えるかどうかを一つの問題として捉えるのではなく、飲み水、生活用水、トイレ、身体の清潔を保つ手段を分けて考えることです。特に高齢者住宅では、水を備蓄していても、重い容器を持ち上げたり、離れた場所から運んだりすることが難しい場合があります。水の量だけでなく、必要な場所で実際に使用できる状態にしておくことが求められます。

冷蔵庫の食品安全は、停電から数時間で問題になる

 停電による食品への影響は、半日や24時間が経過してから初めて問題になるわけではありません。農林水産省は、停電時に扉を開けない場合、冷蔵庫が低温を保持できる時間は約4時間、冷凍庫では約1~2日間が目安になると説明しています。ただし、これらは一般的な目安であり、外気温、庫内の食品量、冷蔵庫の性能、停電前の温度などによって実際の状態は変化します。

 ここで注意したいのは、約4時間という数字が、すべての食品を一律に廃棄する基準ではないことです。食品の安全性は、保存中の温度、温度が上昇していた時間、食品の種類などによって異なります。一方で、肉、魚、乳製品、総菜などの傷みやすい食品については、適切な低温状態が保たれなかった場合に食中毒の危険が高まるため、慎重な判断が必要になります。

 また、停電が復旧して冷蔵庫が再び冷え始めると、停電中に食品の温度がどの程度上昇したのか、外見だけでは分からなくなる場合があります。食品が再び冷たくなっていることと、停電中も安全な状態で保存されていたことは同じではありません。千葉県も停電時の食中毒への注意を呼びかけており、保存温度を適切に維持できなかった食品については、見た目やにおいだけで安全だと判断しないことが重要です。

 高齢者世帯では、毎日買い物に出かけるのではなく、数日分の食料を冷蔵庫や冷凍庫に保管している場合があります。しかし、停電が長引けば、食品が家に残っていても安全に食べられるとは限りません。特に、買い物に出かけることが難しい世帯では、冷蔵食品を利用できなくなった後に代わりの食料を確保できるかどうかが問題になります。

 したがって、停電への備えでは、冷蔵庫や冷凍庫にどれだけ食料が入っているかだけでなく、電気や水を使わずに食べられる食品を別に確保しているかが重要です。缶詰、保存可能なパン、そのまま食べられる食品などを、日常的に消費しながら補充していく方法であれば、特別な防災用品だけに依存せずに備蓄を続けることができます。

スマートフォンが使えなくなる理由は、電池切れだけではない

 現在の災害対策では、スマートフォンが重要な情報収集手段になっています。停電の復旧情報、自治体からの防災情報、気象情報、家族との連絡など、多くの機能が一台の端末に集約されています。ところが、停電が長引くと、スマートフォンそのものの電池残量と、通信網が利用できるかどうかという二つの問題が生じます。

 端末の電池がどの程度持続するかは、使用頻度、画面の明るさ、通信状況、電池の劣化状態、機種などによって異なります。そのため、停電から12時間が経過すると使えなくなるといった、一律の時間設定は適切ではありません。事前に十分な充電が行われ、使用頻度を抑えていれば長時間利用できる場合がある一方、停電発生時点ですでに電池残量が少なければ、短時間で連絡手段を失う可能性もあります。

 さらに重要なのは、スマートフォンの電池が残っていても、通信基地局の非常用電源が尽きたり、通信回線が損傷したりすれば、通話やデータ通信が難しくなることです。家庭のインターネット回線も、回線自体が使用可能であっても、住宅内の通信機器に電源が供給されなければ利用できない場合があります。光回線を利用した固定電話についても、停電によって機器が停止すれば通話できなくなる場合があり、固定電話があるというだけで安心できるわけではありません。

 令和元年房総半島台風では、停電と通信障害が重なり、社会福祉施設との連絡が途絶えたため、安否確認や必要な支援内容の把握に数日を要した事例がありました。これは、災害時に問題となるのが個々の通信機器だけではなく、地域全体で情報をやり取りする仕組みであることを示しています。

 高齢者が一人で暮らしている場合、通信手段の喪失は家族との連絡が取れなくなるだけでなく、行政からの情報を得たり、救援を求めたりすることが難しくなる問題につながります。そのため、スマートフォンの予備電源を確保することに加え、乾電池式のラジオや近隣住民との連絡方法など、通信網が利用できない場合の代替手段も考えておく必要があります。

在宅医療を受ける人には、停電直後から危険が生じる場合がある

 高齢者住宅の停電を考えるとき、特に慎重な対応が必要なのが在宅医療です。家庭で人工呼吸器、酸素濃縮装置、吸引器などの電気を必要とする医療機器を使用している人にとって、停電は日常生活の不便ではなく、生命や健康を維持するための機能に直接影響する場合があります。

 重要なのは、在宅医療機器については、停電が12時間や24時間続くのを待ってから対策を始めるのでは遅い場合があることです。機器の種類や電源構成によっては、停電直後から外部電源が必要になることもあります。内蔵バッテリーを備えた機器であっても、その持続時間は機種や使用条件によって異なり、バッテリーがあるという理由だけで長時間の停電に対応できるとは限りません。

 厚生労働省などは、過去の大規模停電を踏まえ、人工呼吸器の予備電源、酸素濃縮装置利用者の酸素ボンベ、停電時の連絡体制、緊急時の受診先などを事前に確認することの重要性を示しています。実際に必要な対策は、使用する医療機器、患者の状態、家族による介助の状況などによって異なるため、主治医や訪問看護師、医療機器の供給事業者などとあらかじめ対応方法を決めておく必要があります。

 また、医療機器に使用する予備電源は、容量が大きければ何でもよいというものではありません。医療機器との電気的な適合性、安全性、接続方法などを確認する必要があり、一般家庭用の蓄電池を自己判断で接続することには注意が必要です。停電時の対応を確認するために、実際に医療機器の電源を切って試すことも避けなければなりません。

 こうした家庭では、停電による危険を単純に時間で分類することは適切ではありません。一般的な住宅では数時間の停電が不便にとどまる場合でも、医療機器に依存する人には直ちに支援が必要になる可能性があります。同じ24時間の停電であっても、そこに暮らす人の健康状態によって意味が大きく変わるのです。

24時間後に現れるのは、停電そのものより生活機能の限界である

 停電が丸一日続いたとき、住宅の状況は一様ではありません。十分な飲料水や常温保存食品があり、予備電源を確保し、冷暖房の代替手段が用意されている住宅では、一定の生活機能を維持できる可能性があります。一方、電動ポンプに依存する住宅では停電直後から水が使えず、医療機器を使用している家庭では、予備電源の持続時間が生活を継続できるかどうかを左右する場合があります。

 この違いを理解するためには、住宅を一つの建物としてではなく、生活に必要な複数の機能が組み合わされた仕組みとして考えることが有効です。電力、給水、食品、室温、通信、医療などのうち、生活に不可欠で代替手段のない機能が一つでも失われれば、それまでと同じ生活を維持することが難しくなります。つまり、住宅全体がどれだけ自立して生活を継続できるかは、必ずしも最も備えが充実している設備によって決まるのではなく、最も早く限界に達する重要な機能によって制約される場合があります。

 例えば、飲料水と食品を十分に備蓄していても、真夏に冷房を失った住宅の室温が危険な状態になれば、その場所にとどまることが適切とは限りません。逆に、室温が比較的安定していても、電動井戸ポンプが停止し、生活用水を確保できなければ、トイレや衛生管理に問題が生じます。こうした条件の違いによって、同じ24時間でも住宅ごとの影響は大きく変わります。

 ここで注意したいのは、24時間という時間自体に、すべての住宅に共通する科学的な危険の境界があるわけではないことです。停電後の影響を時間経過に沿って考えることには意味がありますが、個々の設備が停止する時点や健康上の危険が生じる時点は、それぞれの条件によって異なります。したがって、24時間の停電を想定する目的は、24時間後に必ず何かが起きると予測することではなく、その間に住宅のどの機能が失われ、どの程度まで生活を継続できるかを具体的に確認することにあります。

外房では住宅だけでなく、移動手段も問題になる

 停電の影響は住宅内だけで完結するとは限りません。特に、日常生活の移動を自動車に頼る地域では、住宅内の生活機能が失われた際に、別の場所で必要な物資やサービスを確保できるかどうかが重要になります。近くに徒歩で行ける店舗がない場合や、自分で運転することが難しい場合には、水や食料を確保すること自体が負担になる可能性があります。

 台風による停電では、倒木や道路の損傷が同時に発生することもあります。道路が通行できなければ、家族や支援者が車で訪問することも難しくなり、住民が自力で安全な場所へ移動することにも制約が生じます。また、給油所が停電していれば、設備や非常用電源の状況によっては燃料を補給できない場合があります。自動車を所有していることと、災害時にも自由に移動できることは同じではありません。

 ただし、外房のすべての住宅が都市部より危険であると断定することはできません。住宅の立地、道路へのアクセス、近隣の商業施設、医療機関までの距離、地域の支援体制などによって条件は異なります。都市部であっても、高層住宅のエレベーター停止や給水ポンプ停止など、停電に特有の問題が存在します。

 それでも、外房で高齢者の生活を考える場合には、住宅の設備だけでなく、そこから徒歩や自動車でどこまで移動できるか、移動できない場合には誰が支援できるかという観点が欠かせません。地域の高齢化率が高いという統計的事実に加え、独居高齢者の割合、住宅の分布、医療機関までの移動時間、自動車の利用状況などを重ねて検証すれば、停電時に支援が届きにくくなる可能性のある地域を、より具体的に把握できると考えられます。

「24時間自立できる住宅」という新しい評価軸

 住宅の価値を考えるとき、これまでは価格、広さ、日当たり、交通の利便性、買い物施設や医療機関までの距離などが重視されてきました。しかし、高齢化が進み、台風などによる長期停電も想定する必要がある地域では、これらに加えて、外部からの供給が停止しても一定時間生活を継続できるかという視点が重要になります。

 ここでいう住宅の自立性とは、電力会社や水道事業者などからの供給が停止した場合にも、生活に不可欠な機能をどの程度維持できるかということです。飲料水があるか、電気や水を使わずに食べられる食品があるか、夜間の照明を確保できるか、通信手段が使えなくなった場合に別の連絡方法があるか、冷暖房が停止した場合に安全な場所へ移動できるかといった条件によって、自立性の程度は変わります。

 ただし、「24時間自立できる住宅」という考え方は、防災対策として24時間分の備蓄があれば十分だという意味ではありません。政府は災害への備えとして、食品を最低3日分、できれば1週間分確保することを推奨しており、飲料水についても一人1日約3リットルを目安としています。仮に一人暮らしであれば、飲料水は3日分で約9リットル、7日分では約21リットルが目安になります。これとは別に、トイレや洗浄などに使用する生活用水も考える必要があります。

 したがって、24時間という時間は備蓄の最終目標ではなく、住宅が停電した最初の一日をどのように乗り切れるかを確認するための初期的な評価期間と位置付けるのが適切です。そのうえで、停電が3日間、さらに1週間へと長期化した場合にも対応できるかを検討する必要があります。

 重要なのは、防災用品を大量に購入することではありません。まず、自分の住宅で電気が止まった場合に何が使えなくなるのかを、設備ごとに調べることです。水道は停電時にも使用できるのか、井戸のポンプはどうなるのか、給湯器は使用できるのか、固定電話は通話できる方式なのか、スマートフォンの予備電源はあるのか、冷暖房を使えない場合にはどこへ移動できるのかといった点を確認するだけでも、住宅ごとの弱点が具体的になります。

 特に高齢者が暮らす住宅では、備蓄品が存在することと、それを本人が実際に使えることを区別する必要があります。水があっても持ち運べなければ利用が難しく、非常食があっても開封や調理が困難であれば十分な備えにはなりません。防災対策は、物資の数量だけでなく、その住宅で暮らす人の身体能力や生活習慣に合わせて評価する必要があります。

停電時の危険は、電気が復旧した後にも残る

 停電への備えを考える場合には、停電中の不便や健康への影響だけでなく、代替電源の使い方や復電時の事故にも注意する必要があります。特に携帯発電機は、燃料を使用して発電するため、運転中に排出される一酸化炭素による中毒の危険があります。資源エネルギー庁も、発電機を屋内で絶対に使用しないよう注意を呼びかけており、屋外で使用する場合でも排気が室内に流入しない場所に設置することが必要です。

 また、停電が復旧した際には、損傷した電気機器や電熱器具などが原因となって火災が発生する可能性があります。特に台風などで住宅や電気設備が損傷した場合には、通電前に安全を確認することが重要です。避難のために住宅を離れる際にも、状況に応じてブレーカーを切るなど、復電時の事故を防ぐための対応が求められます。

 停電は電力が供給されなくなることだけが危険なのではありません。失われた機能を補おうとして不適切な設備を使用したり、復旧後に損傷した機器をそのまま使ったりすることによって、新たな事故が発生する可能性があります。住宅の自立性を高めることは、単に予備電源を増やすことではなく、安全に利用できる代替手段を確保することでもあります。

高齢社会では、家庭だけの備えに限界がある

 ここまで住宅単位で停電の影響を考えてきましたが、高齢化が進む地域では、各家庭の努力だけですべての問題に対応することは困難です。十分な備蓄を行っていても、健康状態の変化によって自力で生活を継続できなくなる場合があります。また、道路が通行できず、通信も途絶えた状況では、家族や近隣住民が支援しようとしても、必要な場所へ到達できない可能性があります。

 こうした問題に対応するためには、行政による支援体制との連携が重要になります。2021年5月の災害対策基本法改正では、避難行動要支援者ごとの個別避難計画の作成が市町村の努力義務となりました。この制度は停電だけを対象とするものではありませんが、災害時に自力で避難することが難しい人について、誰が支援し、どのように避難するかを事前に検討する仕組みとして重要な意味を持っています。

 ただし、個別避難計画が存在することと、停電や通信障害が発生した際に実際の支援が届くことは同じではありません。行政の担当者や福祉関係者が連絡を取れない場合には、安否確認そのものが難しくなる可能性があります。令和元年房総半島台風で社会福祉施設の状況把握に時間を要したことは、制度や連絡先を整備するだけでなく、通信が使えなくなった場合にも機能する確認方法を考える必要があることを示しています。

 また、高齢者といっても必要な支援は一様ではありません。自分で自動車を運転できる人、歩行に制約がある人、認知機能が低下している人、医療機器を使用している人では、停電時に直面する問題が異なります。地域の防災計画を考える際には、年齢だけで一律に分類するのではなく、移動能力、健康状態、生活設備、家族や近隣住民による支援の可能性などを踏まえる必要があります。

 さらに、地域の店舗、医療機関、給油所、福祉施設などが停電時にどの程度機能を維持できるかという問題もあります。住宅ごとに備蓄を進めても、地域の生活サービスが広範囲で停止すれば、個人の準備だけでは対応できない状況が生じます。停電時にも利用できる給水拠点、充電設備、情報提供手段、移動支援などをどのように確保するかは、地域全体で検討すべき課題です。

外房で必要なのは、復旧を待つだけではない防災である

 令和元年房総半島台風が示したのは、電力の供給が長期間停止することで、住宅の内部だけでなく地域社会のさまざまな機能が同時に影響を受けるという事実でした。倒木や飛来物による電力設備の損傷が広範囲に発生すれば、復旧作業には時間がかかります。その間にも、給水設備、通信機器、冷暖房、食品保存、医療機器などはそれぞれ異なる条件で機能を失っていきます。

 千葉県内でも特に高齢化が進む夷隅地域では、この問題を単に電力設備の復旧時間だけで評価することは適切ではありません。住民の健康状態や身体能力、住宅設備、移動手段、近隣の支援体制によって、同じ停電でも影響が異なるからです。高齢者にとって何が危険なのかを理解するためには、停電時間だけでなく、その間に維持できる生活機能と、失われた機能を補う手段を調べる必要があります。

 外房でこれから重要になるのは、停電をできる限り防ぐための設備対策とともに、停電が発生しても住民が一定時間、安全に生活を継続できる地域をつくるという考え方ではないでしょうか。そのためには、住宅ごとの弱点を把握することに加え、医療や介護を必要とする人への支援、断水時の給水方法、通信障害時の安否確認、移動が難しい住民への物資供給などを、地域全体の問題として検討する必要があります。

 停電から24時間が経過したとき、問われるのは冷蔵庫や照明が使えるかどうかだけではありません。水、食料、通信、医療、移動といった生活を構成する機能が、その人の周囲にどれだけ残っているのかという問題です。そして、それらの機能が失われた場合に、誰が、どのような方法で支えることができるのかという問題でもあります。

 24時間の停電は、すべての住宅に同じ被害をもたらすわけではありません。しかし、普段は電力に支えられて見えにくくなっている住宅や地域の弱点を、短時間で表面化させる可能性があります。外房の高齢社会における停電対策とは、単なる電気の問題ではなく、住民が生活を継続するために必要な機能を、地域としてどこまで維持できるのかという問題なのです。

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外房でガソリンスタンドがなくなると何が起きるのか~給油・灯油・農業・医療・災害を支える地域インフラとして考える

はじめに

 人口減少地域では、鉄道や路線バス、スーパー、金融機関など、日常生活を支える施設の減少が問題になります。その中で見落とされやすいのが、ガソリンスタンドです。ガソリンスタンドが閉店すると、自動車を利用する人が少し遠くまで給油に行けば済むようにも思えますが、地方ではそれほど単純ではありません。

 ガソリンスタンドは、自家用車へガソリンを販売するだけの店舗ではありません。軽油を使用する農業機械や建設機械、事業用車両への燃料供給、灯油販売や家庭への配送、災害時の消防・救急・行政車両への燃料供給、非常用発電機用燃料の確保などを担うことがあります。人口減少地域では、民間の小売店であると同時に、地域のエネルギー供給拠点という性格を持っています。

 特に外房では、居住地、医療機関、商業施設、農地、観光施設などが広い範囲に分散しており、自動車に依存する生活が少なくありません。本稿では、御宿町、勝浦市、いすみ市、大多喜町などを含む外房地域を念頭に、ガソリンスタンドの減少が生活や地域産業、防災にどのような影響を与えるのかを考えます。

全国ではガソリンスタンドが長期的に減り続けている

 全国のSS(Service Station・サービスステーション、一般にいうガソリンスタンド)は、1994年度末の6万421か所をピークとして長期的に減少してきました。資源エネルギー庁によると、2024年度末には2万7,009か所まで減少しています。さらに石油連盟が2026年にまとめた資料では、2025年度末には2万6,412か所とされており、ピーク時の半分以下になっています。

 背景には、人口減少だけではなく、自動車の燃費向上、石油製品需要の減少、価格競争、設備の老朽化、地下タンクや計量機などの更新費用、経営者の高齢化、人手不足、後継者不足があります。今後はEV(Electric Vehicle・電気自動車)などの普及もガソリン需要を減らす方向に働くと考えられます。一方で、需要が減ったからといって、地域に必要な燃料供給機能まで同じ速度でなくしてよいとは限りません。

 販売量の少ない地域では、競合店舗が閉店すれば残った店舗へ需要が集まり、経営が安定するようにも見えます。しかし、地域全体の人口と燃料需要そのものが減少していれば、最後の1店舗になっても十分な販売量を確保できない場合があります。むしろ、少ない需要で広い地域を支えることになり、灯油配送や災害対応などの負担が最後の店舗へ集中する可能性があります。

全国615市町村がSS過疎地等に該当している

 国は、市町村内のSSが3か所以下となった地域だけでなく、居住地から最寄りのSSまで道路距離で15キロメートル以上離れている地域についても、燃料供給上の問題を把握しています。2025年3月31日時点では、SSが3か所以下の市町村が381市町村、15キロメートル以上離れた地域を持つ市町村が291市町村あり、両方に該当する57市町村を重複除外すると、合計615市町村がSS過疎地等に該当します。

 ただし、市町村内の店舗数だけで住民の不便さを判断することはできません。自治体内に2店舗しかなくても、隣接自治体の店舗が近ければ給油環境は比較的良い場合があります。反対に、自治体内に4店舗以上あっても、市域が広く、山間部や沿岸部などから最寄り店舗まで15キロメートル以上離れている場合があります。

 したがって、本当に重要なのは行政区域内の店舗数だけではありません。集落ごとの道路距離、所要時間、営業時間、定休日、ガソリン・軽油・灯油の取扱い、灯油配送の有無、大型車両への対応、自家発電設備の有無、隣接自治体にある代替店舗まで含めて考える必要があります。2026年に資源エネルギー庁が検討している重点的な維持支援でも、単純な店舗数だけでなく、最寄りSSとの距離や、その店舗がなくなった場合に生じる供給空白が重視されています。

御宿町はすでに「店舗数が少ない地域」である

 外房について考えるうえで、御宿町は分かりやすい例です。経済産業省を出所とする2023年3月31日時点の資料では、御宿町のSSは2か所とされており、店舗数基準ではすでにSS過疎地に該当していました。2026年時点の民間のガソリンスタンド検索でも、通常の給油所として2店舗が確認されています。ただし、登録上の店舗数と実際の営業状況が必ず一致するとは限らず、将来の営業継続予定や販売量については公開資料だけでは判断できません。

 ここで重要なのは、「御宿町ではすでに給油できない」という意味ではないことです。現在2店舗があるのであれば、日常生活が直ちに成り立たなくなる状況ではありません。しかし、2店舗から1店舗へ減る場合と、10店舗から9店舗へ減る場合では、地域供給網への影響が違います。店舗数が少なくなるほど、1店舗の廃業、設備故障、定休日、災害被害、在庫切れが地域全体へ与える影響は大きくなります。

御宿町の生活は自動車への依存度が高い

 御宿町が実施した住民アンケートでは、通勤・通学の交通手段として自家用車を挙げた回答が56.2%で最も多く、30代では80.4%、40代では80.2%でした。これは回答者511人を対象とした調査結果であり、町民全体にそのまま当てはめることはできませんが、自動車が重要な移動手段であることを示しています。

 さらに日常の移動先を見ると、通勤・通学では74.0%、通院では81.8%、買い物では62.7%が御宿町外と回答しています。つまり、町内だけで日常生活が完結しているわけではなく、多くの住民が町外への移動を必要としています。特に通院先が町外である割合が高いことは、高齢化が進む地域において自動車と燃料供給を考える際の重要な要素です。

 この結果から「御宿町民の何%が自動車なしでは生活できない」とまでは言えません。しかし、ガソリンスタンドの減少を単なる民間店舗の閉店として考えるのではなく、通勤、通院、買い物を支える交通インフラとの関係で評価する必要があることは分かります。

給油場所が遠くなると、燃料を買うために燃料を使う

 給油拠点の減少による負担を簡単な数値で考えてみます。仮に最寄りのガソリンスタンドへ行くための往復距離が10キロメートル増え、月2回給油するとします。年間の追加走行距離は、10キロメートル×2回×12か月で240キロメートルです。

 自動車の実燃費を1リットル当たり15キロメートルとすると、追加走行に必要な燃料は年間16リットルです。ガソリン価格を1リットル180円と仮定すれば、追加の燃料費は年間2,880円になります。往復距離が20キロメートル増えれば、同じ条件では5,760円です。

 ただし、この数字をそのまま「1世帯当たりの損失」と考えるのは適切ではありません。実際には通勤や買い物の途中で給油する人も多く、給油だけを目的とした追加走行が10キロメートル発生するとは限らないからです。この計算は実態推計ではなく、給油場所が遠距離化した場合のシナリオ試算と考えるべきです。

 時間についても同じです。仮に1回30分余計に必要となり、月2回給油すれば年間12時間になります。時間価値を1時間1,000円と仮定すると、機会費用は1万2,000円相当です。しかし、燃料費2,880円は実際に財布から出ていく現金支出であるのに対し、1万2,000円は失われた時間を金額換算した経済的評価です。両者を区別し、「現金支出」と「時間を含めた一般化費用」を分けて示す方が正確です。

高齢者ほど影響を受けやすい

 給油距離の増加は住民へ均等に影響するわけではありません。遠距離運転や夜間運転を避けている人、運転できる家族が1人しかいない世帯、複数台の車を必要とする世帯、農業機械を利用する農家などでは負担が大きくなります。

 さらに高齢者世帯では、ガソリンより灯油の問題が深刻になる場合があります。灯油18リットルは灯油そのものだけでおおむね14キログラム程度となり、容器を含めればさらに重くなります。自分で店舗へ行き、容器へ給油し、自動車へ積み、自宅で降ろして室内へ運ぶ作業は、年齢や身体状況によっては容易ではありません。

灯油配送はガソリン販売とは別の重要な機能である

 人口減少地域でガソリンスタンドがなくなるとき、見落としてはいけないのが灯油配送です。店舗へ自分で行けない高齢者にとって、灯油配送は単なる便利なサービスではなく、冬季の暖房を維持するための生活インフラになる場合があります。

 しかし灯油配送には、配送車両、燃料、人件費、受注管理、日程調整、不在時の再訪問などの費用がかかります。利用世帯が広い地域へ分散しているほど、1件当たりの配送時間と費用は増えます。人口が減り、灯油使用世帯も減少すると、必要性は残っているのに事業としては維持しにくいという問題が生じます。

 灯油配送がなくなれば、電気暖房へ切り替える方法もありますが、停電への弱さという別の問題が生じます。ただし、灯油暖房ならすべて停電時に使用できるわけではありません。石油ファンヒーターは通常、送風や制御に電気を必要とします。一方、電源を必要としない芯式の石油ストーブなどは停電時にも利用できるため、災害対策では暖房方式の違いまで考える必要があります。

農業では燃料供給の遅れが作業時期へ影響する

 外房では、水稲、野菜、施設園芸、畜産などさまざまな農業が行われています。農業では自動車だけでなく、トラクター、コンバイン、田植機、草刈機、管理機、乾燥機、暖房機、揚水ポンプ、発電機などでガソリン、軽油、灯油、重油を使用する場合があります。

 一般家庭なら給油日を数日前後させても大きな問題にならないことがありますが、農業は同じではありません。田植え、収穫、防除、耕起などには適期があり、天候が崩れる前に作業を終える必要がある場合もあります。燃料供給が不安定になると、単なる燃料価格の問題ではなく、作業時期、収量、品質へ影響する可能性があります。

 大規模な農業法人であれば、一定量をまとめて配送してもらえる可能性があります。一方、小規模農家では使用量が少ないため個別配送の効率が低く、自ら燃料を調達する必要が生じることがあります。しかし、農家ごとに大量の燃料を保管すればよいというものでもありません。ガソリンなどの危険物には消防法令や市町村の火災予防条例に基づく規制があり、ガソリンは合計40リットル以上になると保管設備や届出などが問題になります。

建設、物流、漁業、観光にも影響する

 建設会社では、トラック、重機、小型発電機、草刈機などに燃料が必要です。これは平時の工事だけではなく、台風や豪雨後の倒木処理、土砂撤去、道路応急復旧にも関係します。地域内の燃料供給力が弱くなれば、災害から地域を復旧させる事業者自身が活動しにくくなる可能性があります。

 物流でも同様です。宅配便、食品配送、介護用品配送などでは複数台の車両が毎日走行します。給油所が配送経路から遠くなれば、給油のための回送距離と時間が増えます。1台1回では小さな違いでも、複数車両が年間を通して繰り返せば経営費用として無視できなくなることがあります。

 漁業では、漁船そのものへの燃料供給は一般の自動車用ガソリンスタンドとは異なる経路を使う場合があります。それでも、水揚げ後の運搬車、冷蔵車、作業車、発電機などには燃料が必要です。

 観光については注意が必要です。給油所が少なくなれば自家用車やレンタカー利用者の不便が増える可能性はありますが、「ガソリンスタンドが減れば観光客が大幅に減少する」とまで言える公的な統計的根拠は十分ではありません。影響の大きさは、近隣地域までの距離、道路案内、営業時間、電気自動車充電設備などによって変わります。

医療・介護も自動車と燃料に依存している

 外房では、病院へ患者が移動するだけでなく、訪問診療、訪問看護、訪問介護、通所介護の送迎など、多くの医療・介護サービスが自動車によって提供されています。御宿町の住民アンケートで通院先の81.8%が町外だったことを考えても、自動車による移動と医療へのアクセスは切り離して考えにくい問題です。

 訪問型サービスでは、給油場所が遠くなれば給油時間や回送距離が増えます。しかし、診療報酬や介護報酬によって価格が決まるサービスでは、燃料調達費が増えたからといって、その分を自由に利用者料金へ上乗せできるとは限りません。移動距離が長く訪問件数が少ない地域ほど、燃料価格だけでなく給油に要する時間まで含めて採算性を考える必要があります。

災害時にはガソリンスタンドの意味が変わる

 平時にはガソリンスタンドは燃料を購入する店舗ですが、大規模災害時には地域を動かすためのエネルギー拠点になります。消防車、救急車、警察車両、自治体公用車、物資輸送車、給水車、道路復旧用重機、医療・福祉施設の非常用発電機、避難所の発電機、通信設備などが燃料を必要とします。

 外房では地震、津波、台風、高潮、豪雨、土砂災害、大規模停電などを想定する必要があります。特に2019年の房総半島台風では千葉県内で長期間の停電が発生し、電力だけではなく燃料供給を含めた複数のインフラを維持する重要性が改めて認識されました。

 災害時の燃料供給には行政と石油関係団体の協定がありますが、協定を結んでいれば必ず燃料が届くわけではありません。店舗の建物や地下タンク、配管、計量機が無事であること、電源や従業員を確保できること、道路が通行できること、タンクローリーが到着できること、油槽所側に在庫があることなど、複数の条件がそろって初めて供給できます。

 したがって、地域に複数の給油拠点が存在する意味は、価格競争だけではありません。1店舗が使用不能になった場合でも別の店舗を利用できるという冗長性があります。店舗数が少なくなるほど、1店舗の故障や被災が地域全体へ波及しやすくなります。

住民拠点SSがあれば安心とは限らない

 国は、自家発電設備を備え、災害などによる停電時にも可能な限り給油を継続する「住民拠点SS」を整備しています。2025年2月28日時点で千葉県には522か所あり、地域の災害対応力を高める重要な設備です。

 ただし、住民拠点SSは「災害時に必ず営業する店舗」という意味ではありません。店舗自体が被災した場合、燃料在庫がなくなった場合、道路が寸断された場合、従業員が出勤できない場合などには給油できません。自家発電設備は停電という一つの障害には対応できますが、災害時のすべてのリスクを解消するものではありません。

電気自動車が増えればガソリンスタンド問題は解決するのか

 EV(Electric Vehicle・電気自動車)が普及すれば、乗用車のガソリン需要は確実に減少します。しかし、地域の燃料問題が直ちに解決するわけではありません。

 地域にはトラック、建設機械、農業機械、発電機、消防・救急車両、災害復旧車両などが残ります。また、自動車が電動化しても、灯油暖房や非常用発電機などの液体燃料需要が同じ時期にすべて消滅するわけではありません。石油連盟の2026年資料でも、今後の電動車普及がガソリン需要を減少させる一方、地域の燃料供給拠点としてSSを維持する必要性が示されています。

 災害対策でも、電気と液体燃料のどちらか一方だけに完全依存することには弱点があります。停電すれば通常の充電設備は使用できません。一方、ガソリンスタンドも電源や在庫、道路がなければ機能しません。地域全体の耐災害性を考えれば、移行期には複数のエネルギー供給手段を持つ方が合理的です。

最後の1店舗を補助すればよいわけではない

 ガソリンスタンドが地域インフラなら、自治体が補助金を出して残せばよいという考え方もあります。しかし、設備費だけを補助しても、販売量が少なく毎年営業赤字が続けば事業は持続しません。反対に営業赤字だけを補填しても、地下タンク、配管、計量機、自家発電設備、配送車両などを更新できなければ長期的な営業は困難です。

 さらに、人材の問題があります。設備があっても、経営者の後継者や危険物を扱う従業員を確保できなければ営業を続けられません。このため、公共支援を検討するときは、「地域に必要だから」という理由だけではなく、その店舗がなくなれば何世帯が影響を受けるのか、最寄り店舗まで何キロメートルになるのか、年間販売量はどの程度か、灯油配送を何世帯が利用しているか、農業・建設・福祉施設へどの程度供給しているか、災害時にどの施設へ供給するのか、設備更新にいくら必要か、何年間維持できるのかまで評価する必要があります。

 2026年の資源エネルギー庁の検討でも、全国のすべての小規模SSを一律に維持するのではなく、地域の燃料供給上、特に重要なSSを選び重点的に支援する方向が示されています。これは、「全店舗維持」と「完全な市場任せ」の中間に、地域インフラとして必要な拠点を選択的に維持する考え方が必要になっていることを示しています。

自治体単位ではなく生活圏単位で考える必要がある

 住民は自治体境界を意識して給油するわけではありません。御宿町の住民が勝浦市やいすみ市の店舗を利用することもあれば、反対方向の住民が御宿町の店舗を利用することもあります。このため、ガソリンスタンド政策を自治体ごとに完全に分けて考えると、実際の生活圏とずれる可能性があります。

 外房では、御宿町、勝浦市、いすみ市、大多喜町、長生地域などを含め、道路網に沿った到達時間で分析する方が合理的です。平均距離だけではなく、集落単位で「現在はどの店舗が最寄りか」「その店舗が閉店した場合、次の店舗まで何分かかるか」「災害で主要道路が使えなくなった場合に代替経路があるか」を調べる必要があります。

 店舗維持策としては、中核的な給油拠点への支援、灯油配送の共同化、農業者や事業者による共同調達、店舗間の休日調整、電気自動車充電設備や日用品販売などとの複合化が考えられます。ただし、どの方法も万能ではありません。例えば複合化すれば収益源は増えますが、人員、設備、在庫、管理業務も増えるため、サービスを増やしただけで黒字になるとは限りません。

休日輪番制という方法もある

 店舗数が少ない地域では、各店舗が無理に毎日営業するより、複数店舗で休業日を調整し、地域内のどこかが営業している状態を作る方法があります。2025年には、公正取引委員会が、参加を強制せず、販売価格などを共同決定しない一定の条件の下で、SS過疎地における休業日の調整が独占禁止法上問題とならないとする事例を公表しています。

 これは人手不足対策として有効な可能性がありますが、住民への周知が不可欠です。営業日が分からなければ、住民が閉店している店舗まで行った後、別の店舗へ長距離移動するという逆効果も起こります。

住民側にもできる備えがある

 地域の燃料供給問題は行政や事業者だけの問題ではありません。平時から通常利用する店舗だけでなく、隣接自治体を含めた代替店舗を把握し、自分が利用可能な住民拠点SSも確認しておくことには意味があります。また、燃料計がほぼ空になるまで給油を待つ生活より、自分の移動距離や避難経路に応じて一定残量で給油する方が災害時の余裕につながります。

 一方、ガソリンスタンドが遠いからといって家庭で大量のガソリンを備蓄することは適切ではありません。ガソリンは非常に引火性が高く、容器や保管量には法令上の制約があります。大量備蓄ではなく、車両内の燃料を一定量以上保つことや、複数の移動・暖房手段を持つことの方が現実的です。

公開資料だけでは分からないことも多い

 全国のガソリンスタンド数、SS過疎地の自治体数、御宿町の交通行動、住民拠点SSなどについては公的資料から把握できます。しかし、地域の燃料供給が何年後に危機的になるかまでは、公開統計だけでは分かりません。

 特に重要なのは、個々の店舗の年間販売量、営業利益、経営者の年齢、後継者の有無、地下タンクなどの更新時期、灯油配送先世帯数、農業者や事業者への販売量、災害時に維持できる在庫日数です。これらは通常、公表されていません。

 したがって、「外房では数年後にガソリンスタンドがなくなる」「御宿町では近いうちに給油できなくなる」と断定することはできません。必要なのは、店舗数の統計だけで危機を煽ることではなく、事業者への聞き取り、店舗の営業実態調査、集落ごとの道路距離分析、灯油配送利用者の把握などを組み合わせることです。

外房で今から調べるべきこと

 外房で燃料供給網を維持する政策を検討するなら、まず現在の店舗数だけでなく、各店舗が閉店した場合の影響を数値化する必要があります。例えば、各集落から現在の最寄りSSまでの道路距離と所要時間を計算し、1店舗ずつ仮想的に閉店させた場合に次の店舗までの距離がどれだけ増えるかを求めれば、「地域にとって重要な店舗」を客観的に比較できます。

 さらに、人口、高齢化率、自動車利用率、灯油配送世帯数、農地面積、事業所数、医療・介護施設、避難所、消防・救急拠点などを重ねれば、単なる店舗数より実態に近い評価ができます。国が2026年に示している方向も、こうした「その店舗がなくなったとき、どの程度の供給空白が発生するか」を重視する考え方です。

現実的な結論

 外房でガソリンスタンドがなくなる問題は、「給油のために少し遠くまで走ればよい」という問題ではありません。住民の自家用車だけでなく、灯油配送、農業、建設、物流、医療、介護、災害復旧などへ影響が連鎖する可能性があります。

 特に御宿町では、公式資料で確認できる時点ですでにSSが2か所という少ない状態にあり、住民アンケートでも自家用車利用の多さや、通院・買い物の町外依存が確認されています。だからといって現在すぐに燃料危機が起きると断定することはできませんが、店舗がさらに減ってから対策を考えるのでは遅い可能性があります。

 ガソリンスタンドは民間企業である以上、地域に必要だからという理由だけで採算を無視して営業を続けることはできません。一方で、完全に市場競争だけへ任せれば、最後の店舗がなくなった後に初めて、その店舗が担っていた灯油配送、農業用燃料、防災機能などの価値に気付くことになりかねません。

 必要なのは、すべての既存店舗を公費で残すことでも、すべてを市場任せにすることでもありません。外房を一つの生活圏として捉え、どの給油拠点がなくなると住民、農業、事業者、医療・福祉、防災に大きな影響が生じるのかを事前に把握し、本当に必要な拠点を選択的に維持する仕組みを作ることです。

 将来、ガソリン車が減少する方向そのものは変わらないでしょう。しかし、ガソリン需要が完全になくなる前に地域の燃料供給網だけが先に消滅すれば、移行期間に大きな空白が生じます。問題の本質は、ガソリン車をいつまで残すかではありません。地域で暮らし、働き、農業を続け、医療や介護を提供し、災害から生活を守るために必要な燃料供給機能を、誰が、どの拠点で、いくらの費用を負担し、いつまで維持するのかという地域インフラ設計の問題です。

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