地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

買い物に困る人がいるなら、それは商売になるのか

 夕方のスーパーで買い物かごをのぞけば、牛乳、豆腐、卵、野菜、総菜が入っている。どれも特別なものではないが、車を運転できる人にとって何でもないこの買い物が、車を手放した途端、一日の中で最も大きな仕事になることがある。最寄りのスーパーまで数キロあり、バスは一日に数本しかなく、タクシーを使えば買った食品より運賃の方が高くなる。人口減少と高齢化が進んだ地域では、こうした日常が少しずつ珍しいものではなくなっている。

 農林水産政策研究所が2020年の国勢調査などを基に推計したところ、店舗まで500メートル以上あり、自動車の利用が困難な65歳以上の「食料品アクセス困難人口」は全国で904万人、65歳以上人口の25.6%に達している。これは過疎地だけの問題ではないものの、店と住宅が離れ、公共交通も弱い地域ほど、買い物という日常行為が「移動できる人だけが簡単にできる仕事」へ変わりやすいことを示している。

 ただし、この904万人をそのまま「買い物代行の顧客候補」とみなすことはできない。地理的に店が遠くても家族が買ってくれる人もいれば、宅配を利用できる人もいるし、そもそも有料サービスにはお金を払いたくない人もいる。統計が示しているのは社会課題の大きさであって、市場規模そのものではないのである。

 それでも、買い物に困る人が一定数いることは間違いない。そこで思いつくのが買い物代行である。電話やメッセージで注文を聞き、スーパーで商品を買い、玄関まで届ける。困っている人がいて、自分には車があるのだから、商売としてこれほど分かりやすいものはないように見える。

 しかし、ここに地方の小さな商売を考えるときの厄介な罠がある。必要とされるサービスと、採算の取れるサービスは同じではない。

買い物代行が売っているのは、商品ではなく移動時間である

 仮に一回の買い物代行料を800円としよう。利用者から注文を聞き、スーパーへ向かい、商品を選び、会計を済ませ、家まで届けるまで45分かかったとすれば、一時間当たりの売上は約1,067円になる。これは利益ではなく、あくまで売上であり、ここからガソリン代、車両費、保険料、通信費、事務処理の時間などが差し引かれる。

 さらに重要なのは、事業者自身の労働時間にも価値があるということである。一時間働いて1,067円の売上しか生まれず、そこから車両経費まで支払うのであれば、地域に必要とされていても、事業としては長く続けにくい。

 都市であれば、同じマンションや近接した住宅へ短時間で何件も届けられるかもしれない。しかし過疎地では、一軒届けたあと次の家まで車で十分、十五分と走ることがある。この時間には商品もサービスも売れていないのに、人件費と車両費は発生している。つまり買い物代行の採算を壊しやすい最大の要因は、買い物そのものではなく、家と家の間に横たわる「売上を生まない移動時間」なのである。

 これは買い物代行に限らず、訪問型の生活支援サービス全般に共通する。困っている人が百人いるとしても、その百人が半径500メートル以内に暮らしている場合と、山や田畑を挟んで二十キロ四方に散らばっている場合では、市場としての性質がまるで違う。地方の商売では人口そのものより、一時間に何件の利用者へ接触できるかという顧客密度が採算を左右する。

 したがって「高齢者が多い町だから買い物代行が成り立つ」とは限らない。見るべきなのは高齢者人口だけではなく、実際に利用する人がどの範囲に何人いて、一人が月に何回利用し、一件当たりどれだけの粗利益を生み、それを一時間に何件積み重ねられるかである。

単発で一軒ずつ走るから、利益が消えていく

 買い物代行そのものが事業として成り立たないわけではない。料金が十分に高く、利用者が近い範囲にまとまり、複数世帯の注文を一度に処理できるのであれば、単独サービスでも成立する可能性はある。問題なのは、低料金の依頼を受けるたびに一軒ずつ走る形である。

 仮にスーパーまでの往復や店内での共通作業に20分かかり、一世帯ごとの商品選択、仕分け、配送、受け渡しに18分かかるとする。一世帯だけなら合計38分を使って売上800円だが、五世帯分をまとめれば、共通の20分を五世帯で共有できるため、110分で4,000円の売上になる。一時間当たりの売上は約1,263円から約2,182円へ上がる計算になり、同じ800円のサービスでも、注文のまとめ方によって採算構造は大きく変わる。

 ここに過疎地ビジネスの重要な特徴がある。売上を増やすために遠くの客まで集めればよいとは限らず、むしろ同じ地域で利用者を増やした方が一件当たりの移動時間が短くなり、利益が改善することがある。地方では「客数」だけではなく、「客同士の距離」が売上と同じくらい重要なのである。

一度の訪問に、一つしか価値を載せないという常識を捨てる

 さらに発想を変えてみる。買い物代行を「スーパーから食品を運ぶ仕事」と考えるから、800円なら800円だけで移動時間を回収しなければならなくなる。しかし、利用者が困っていることは買い物だけとは限らない。

 玄関まで食品を届けたとき、「電球が切れたけれど高いところに上がれない」と言われるかもしれないし、「スマートフォンに変な表示が出たので見てほしい」「役所から封筒が届いたが、どこを読めばいいのか分からない」と相談されることもあるだろう。介護、医療、法律相談、廃棄物運搬などには資格、許認可、専門的責任の境界があるため、何でも引き受ければよいわけではないが、暮らしの中には専門業者を呼ぶほどではなく、本人だけでは処理しにくい小さな仕事が数多く存在する。

 過疎地で考えるべきなのは、こうした仕事を一つずつ別のサービスとして増やすことではなく、一度の訪問ですでに発生している移動時間の上に、追加時間の少ない価値を重ねられるかということである。

 買い物を届けたついでに数分で電球を交換し、次回必要な日用品を確認し、スマートフォンの基本的な操作を手伝い、本人が希望するなら離れて暮らす家族へ「今日はいつも通りでした」と伝える。一度の移動に複数の価値が載れば、一件当たりの売上は増える一方で、移動時間そのものはほとんど増えない。

 ただし、この「複合化」も万能ではない。500円の追加料金を得るために五分余計に働くのであれば採算改善につながりやすいが、500円のために三十分余分にかかるなら、仕事を増やしたことで利益率が悪化する。大切なのはサービスの種類を増やすことではなく、追加される時間と費用に対して、どれだけ追加収益を得られるかという限界利益を見ることである。

「何でも屋」ではなく、「決まった道を回る商売」にする

 ここを間違えると、買い物、草取り、家具移動、スマートフォン相談、役所への同行まで何でも受け、朝から晩まで忙しいのに利益が残らない便利屋になってしまう。依頼が増えたのに儲からないという状態は、地方の生活支援サービスで最も避けたい形である。

 必要なのは、仕事を増やすことではなく移動を束ねることである。例えば毎週火曜日の午前は同じ地区を回ると決め、買い物の注文は前日までに受ける。スーパーで複数世帯分をまとめて買い、その地区を順番に訪問し、買い物の受け渡しと短時間の生活支援を行う。こうすれば「呼ばれるたびに走る商売」から「決められた道を回りながら売上を積み上げる商売」へ変わる。

 宅配便や移動販売の効率が、単に一個の荷物や一品の商品から高い料金を取ることで生まれているわけではないのと同じである。同じ地域へ向かう仕事をまとめ、移動という共通コストを複数の顧客で分けるから効率が上がる。小さな地域事業でも、この原理は変わらない。

「誰が使うか」と「誰がお金を払うか」を分けて考える

 もう一つ重要なのが、サービスを利用する人と料金を負担する人が同じとは限らないという点である。

 地方の実家に80代の母親が一人で暮らし、子どもは東京や大阪で働いている家庭を考えてみる。母親自身は買い物一回に千円を払うことを「もったいない」と感じるかもしれないが、遠方に暮らす子どもにとっては、毎週誰かが実家を訪ね、食品を届け、少し話をし、普段と違う様子があれば連絡してくれることには別の価値がある。

 このとき売っているものは、もはや買い物だけではない。「離れて暮らす親の日常が大きく崩れていないことを確認できる安心」が商品に含まれている。

 こう考えると、利用者は高齢者、直接の受益者は高齢者とその家族、支払者は遠方に暮らす家族という形もあり得る。地域内の所得だけを市場の上限と考える必要はなく、地域外に住む家族まで含めれば支払者の範囲は広がる。

 もっとも、「遠方の家族なら月数千円を払うだろう」と決めつけることはできない。実際に商売として始めるなら、月3,000円、5,000円、8,000円といった価格を提示したとき、何人が申し込むのかを調べなければならない。社会的に価値があることと、その価値に実際にお金が支払われることは別であり、ここでも必要性と支払意思を分けて考える必要がある。

単発利用を定期訪問へ変えると、商売の形が変わる

 買い物代行が不安定になりやすいもう一つの理由は、必要になったときだけ呼ばれることである。雨の日は注文が増え、体調がよい週には注文がなく、利用者が入院すれば突然利用が止まる。これでは翌月の売上を予測しにくい。

 そこで生活支援を定期訪問型にすると、事業の性格が変わる。例えば月に四回訪問する基本契約を設け、買い物の受け渡し、簡単な生活確認、短時間の日常支援をその範囲に含め、時間のかかる作業は別料金とする。価格は地域の所得、競合サービス、移動距離によって調整する必要があるが、重要なのは「一回の用事」を売るのではなく、「定期的に暮らしを支える関係」を商品にすることである。

 利用者側にも利点がある。電球一個を交換するためだけに業者を呼ぶのは気が引けても、「次に来たときに頼もう」と言える人が決まっていれば頼みやすい。提供側も毎週ほぼ同じ道を走るため予定が立ち、利用者が一定の地域に集まれば、一日に訪問できる件数も増えていく。

 人の暮らしを一日だけ見れば、困り事は偶然発生しているように見える。しかし一か月、一年という長さで眺めれば、食品は繰り返し必要になり、電球は切れ、庭には草が生え、家には小さな不具合が起こり、デジタル機器の操作にも迷う。単発ではばらばらに見える需要が、一人の暮らしの中では繰り返されているのである。

 そこに定期契約という形を与えることができれば、偶発的な小仕事の集まりが、ある程度予測できる継続収入へ変わる可能性が生まれる。

過疎地では、客を増やしすぎても儲からないことがある

 一般的な商売では、客は多いほどよいと考えがちである。しかし過疎地では少し事情が違う。北へ二十キロ、南へ十五キロ、山を越えて一軒、海沿いに一軒という具合に利用者が増えれば、売上と同時に移動時間まで増えてしまうからである。

 だから開業当初から町全域を商圏にする必要はない。むしろ狭い地域で十軒、二十軒と利用者を重ねられるかを考えた方がよい。一軒の利用者を獲得したら、その周辺に似た困り事を持つ人がいないかを見る。口コミで近所の利用者が増えれば、次の利用者までの距離が縮まり、一件増えるごとに運営効率が改善する地域が生まれる。

 その意味では、高齢者人口の多い自治体を探すだけでは不十分である。車を使えない高齢者が比較的まとまって暮らし、近くに競合する支援サービスが少なく、スーパーや公共交通までの距離に不便がある地域の方が、事業としては有望な場合がある。人口統計に加え、住宅地の形、道路、坂道、スーパー、病院、バス路線、宅配サービスの有無まで見なければ、実際の商圏は見えてこない。

 過疎地で恐れるべきなのは、人口が少ないことだけではない。顧客が薄く、遠く、ばらばらに存在することである。

商売になるかどうかは「困っている人の数」だけでは決まらない

 ここまで考えると、過疎地の生活支援ビジネスを評価するときに見るべき数字も変わってくる。単純な人口や高齢化率だけではなく、実際に利用する割合、一人当たりの利用頻度、一件当たりの粗利益、一時間に訪問できる件数、移動距離、継続率が重要になる。

 同じ高齢者千人の町でも、そのうち有料サービスを利用する人が二十人なのか百人なのかで市場は大きく違い、その百人が一か所に集まっているのか町中に散らばっているのかでも採算は変わる。さらに一人当たりの利用額が高くても、訪問に長い時間がかかれば利益は残らない。

 したがって、この事業を考えるときの本当の判断基準は「一件いくら取れるか」だけではない。一時間動いたときに、最終的にどれだけの粗利益を残せるかである。

 買い物代行800円だけで45分使うより、同じ地区で複数の注文をまとめ、一回の訪問に短時間の追加サービスを載せ、定期契約によって毎月の利用回数を安定させる方が、一時間当たりの収益は改善しやすい。ただし、それが本当に成立するかどうかは、机上の計算だけでは決まらない。実際の地域で料金を提示し、何人が利用し、どの程度継続するのかを小規模に試す必要がある。

「買い物」を入口にして、暮らし全体を見る

 これから人口減少が進めば、地域から店や交通が消えるだけではなく、これまで家族や近所の人が無料で引き受けてきた小さな仕事も、少しずつ担い手を失っていく可能性がある。若い家族は遠くに住み、近所の人も高齢になれば、「ちょっと車を出してくれないか」「ついでに買ってきてくれないか」という昔ながらの助け合いだけでは支えきれなくなる。

 その空白をすべて行政が埋めることは難しいだろうが、だからといって、困っている人がいる場所に自動的に商機が生まれるわけでもない。必要性がどれほど高くても、一件訪問するたびに赤字になる仕組みなら長く続かない。

 そこで必要になるのが、一つの困り事を一つの商品にする発想から離れることである。買い物、短時間の日常支援、生活状況の確認、遠方家族への連絡といった複数の価値を、一度の訪問へ無理なく重ねる。そのうえで訪問地域を狭くまとめ、移動時間を減らし、単発利用より継続利用を増やし、追加サービスについては「いくら売れるか」ではなく「何分追加され、いくら利益が増えるか」で判断する。そうして初めて、必要とされる仕事が続けられる商売へ近づいていく。

 スーパーの袋を玄関へ届けることだけを見れば、買い物代行は小さな仕事である。しかしその玄関の向こうには、車を手放した人の暮らしがあり、遠く離れた家族の心配があり、昨日まで誰かが無償で担ってきた小さな仕事が積み重なっている。

 過疎地で探すべき商機は、派手な新産業ばかりではないのかもしれない。昨日まで家族や近所の人が「ついでに」やっていたことが、今日は誰にもできなくなっている。その小さな空白を見つけ、一度の移動に複数の価値を載せ、誰がその価値にお金を払い、どれだけの頻度で利用し、どれほど近い範囲に顧客を集められるかを考える。

 人口が減る時代の商売とは、大量の客を集めることだけではない。少ない顧客の暮らしを少し深く理解し、一回走った道からできるだけ多くの価値を生み出すことである。「単発の買い物代行だけでは儲かりにくい」という事実は、地方に商機がないことを意味しているのではない。むしろ、地方では何を売るかだけでなく、どう束ね、どこで回り、誰に払ってもらうかまで設計しなければ商売にならないことを教えているのである。

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はじめに~「仕事がない」と「働き手がいない」は同じではない

 地方について語るとき、「仕事がない」という言葉がよく使われます。若者が地域を離れる理由として、就職先が少ないこと、希望する職種が見つからないこと、都市部より賃金が低いことなどが挙げられます。実際、千葉県東部や外房、南房総には、東京都心に近い県西部と比べて企業や事業所の選択肢が限られる地域がありますが、地方の雇用問題を詳しく見ると、単純に仕事の数が少ないだけではありません。

 地方では、「就職希望者に対して求人が少ない仕事」「求人はあるのに応募者が集まらない仕事」「住民には必要とされているのに民間事業として採算を取りにくい仕事」が、同じ地域の中で同時に存在しています。つまり、「仕事そのものが少ない」という問題と、「仕事はあるが働く人がいない」という問題、さらに「社会的には必要だが事業として成立しにくい」という問題を分けて考えなければなりません。

 本記事では、千葉県東部、外房、南房総を念頭に置きながら、求人、求職、人口構造、商圏、移動費、人件費、制度などから地方の仕事を現実的に考えます。

地方の問題は「仕事不足」と「ミスマッチ」が重なっている

 地方では、すべての仕事が不足しているわけでも、すべての仕事で人手不足になっているわけでもありません。仕事そのものが不足する地域がある一方、特定の職種では人材不足が深刻であり、その両方に職種、技能、勤務地、賃金、勤務時間などのミスマッチが重なっています。

 千葉労働局が2026年10月2日に公表した2026年8月分の統計では、千葉県の有効求人倍率は季節調整値で受理地別0.99倍、就業地別1.27倍、正社員有効求人倍率は0.77倍でした。ここで注意したいのが「受理地別」と「就業地別」の意味で、受理地別は求人を受理した公共職業安定所、一般にハローワークと呼ばれる職業紹介機関の所在地を基準に求人を集計したものであり、求職者の住所を基準とした数字ではありません。一方の就業地別は、求人票に記載された実際の就業場所を基準として求人を集計します。

 例えば、東京都内の本社が千葉県内の店舗で働く人の求人を東京のハローワークに一括して提出した場合、受理地別では東京都の求人になりますが、就業地別では千葉県の求人として集計されます。そのため、受理地別0.99倍と就業地別1.27倍の差だけから、「求職者の居住地と求人の地域が一致していない」と判断することはできませんが、千葉県内を実際の勤務場所とする求人が、県内のハローワークが受理した求人だけを見た場合より多いことは確認できます。

 さらに職業別に見ると、同じ千葉県内でも需給状況には非常に大きな差があります。2026年8月の月間有効求人倍率では、建設・採掘の職業が6.39倍、保安の職業が6.17倍、サービスの職業が2.00倍、輸送・機械運転の職業が1.78倍、生産工程の職業が1.66倍でした。一方、事務的職業は0.26倍、管理的職業は0.25倍、運搬・清掃・包装等の職業は0.73倍、農林漁業の職業は0.86倍でした。

 ただし、県全体の0.99倍は季節変動の影響を調整した季節調整値であるのに対し、職業別の数字は季節調整を行っていない月間値であるため、両者を完全に同じ条件の数字として比較することはできません。それでも、建設や保安では求人が求職者を大幅に上回り、事務では求職者が求人を大幅に上回っているという職種間の差は明瞭です。

 したがって、地方雇用の問題を「仕事があるか、ないか」だけで考えるのは適切ではありません。求人のある職種と求職者が希望する職種、働く場所と居住地、企業が支払える賃金と働く人が必要とする所得、住民が必要とするサービスと事業者が採算を取れる価格という、複数の不一致を考える必要があります。

有効求人倍率で分かることと、分からないこと

 有効求人倍率は、月間有効求人数を月間有効求職者数で割った指標です。したがって0.5倍なら求職者2人に対しておおむね1人分の求人、2倍なら求職者1人に対しておおむね2人分の求人がある状態を意味します。ただし、有効求人倍率は労働市場全体を完全に表す数字ではなく、基本的にはハローワークを通じた求人と求職を対象としているため、企業が自社のウェブサイトだけで募集する場合、民間の求人サイトや人材紹介会社を利用する場合、知人の紹介で採用する場合、自営業やフリーランスとして働く場合などを完全には把握できません。

 そのため、「建設・採掘が6.39倍だから、地域の建設業全体で求職者1人に6.39件の仕事がある」と単純に理解するのではなく、「ハローワーク統計に表れた求人と求職の間には、それほど大きな需給差がある」と見るのが適切です。

「地方には仕事がない」という言葉には複数の意味がある

 「仕事がない」という言葉は、一つの状態だけを意味するわけではありません。人口が少なく企業や事業所の数そのものが少ないため求人件数が限られる場合もあれば、求人はあっても介護、建設、運輸、宿泊、飲食などに偏り、事務、企画、研究、情報処理など本人が希望する仕事が見つからない場合もあります。

 また、求人が存在していても、賃金、休日、勤務時間、通勤距離、身体的負担が生活条件に合わなければ応募には結び付きません。自動車通勤が事実上必要な地域では、燃料代だけでなく、車両購入費、保険、車検、整備、タイヤなども実質的な就業コストになるため、名目上の賃金だけを比較しても就職条件を正しく評価できません。

 地方移住では本人だけでなく、配偶者を含めた世帯全体の就業も重要です。一人分の仕事が見つかっても配偶者が働けなければ世帯所得が成立せず、移住や定住を断念することがあるため、「求人がある」という統計だけでは、その地域で生活できるかどうかまでは判断できません。

千葉県全体でも「誰でも簡単に就職できる」とはいえない

 2026年8月の千葉県では、受理地別の有効求人倍率が0.99倍で、正社員有効求人倍率も0.77倍でした。県内全体として極端な求人超過状態にあるわけではなく、「人手不足だから地方では仕事を選ばなければ簡単に就職できる」という説明も適切ではありません。

 しかも、同じ県内でも地域、職種、資格、経験、雇用形態によって状況は大きく異なります。本記事で示す職業別有効求人倍率は千葉県全体の数字であり、御宿町、いすみ市、勝浦市など特定地域について同じ倍率が成立していることを意味しないため、地域単位で事業や就職を判断する場合には、管轄ハローワークの求人状況や実際の事業者数まで確認する必要があります。

人手不足が深刻な仕事~建設・住宅修繕

 2026年8月の千葉県では、建設・採掘の職業の月間有効求人倍率は6.39倍で、職業別では極めて高い水準でした。この数字だけから南房総の建設業を直接評価することはできませんが、県全体として人材確保が難しい職種であることは明らかです。

 外房や南房総では、人口が減少しても住宅、道路、水道、電気設備、橋、公共施設などが人口と同じ割合で消えていくわけではありません。老朽住宅の修繕、空き家の管理や解体、屋根や外壁の補修、給排水設備の更新、高齢者住宅の手すり設置や段差解消、台風や豪雨後の修繕、道路や上下水道の維持など、人口減少社会だからこそ残る仕事があります。

 千葉県の第5次南房総地域半島振興計画の対象は、館山市、勝浦市、鴨川市、富津市、南房総市、いすみ市、大多喜町、御宿町、鋸南町の6市3町で、この地域の人口は1960年の約34万人から2025年には約22万人まで約35%減少し、65歳以上の割合は約43%となっています。人口が減っても既存住宅や社会インフラを維持する必要は残るため、人口減少がそのまま建設需要の消滅を意味するわけではありません。

 一方で、求人倍率が高いことと新規参入が容易であることは別問題です。建設や住宅修繕には技術、経験、工具、車両、各種資格、保険、見積能力、安全管理などが必要で、工事内容によっては建設業許可その他の制度への対応も必要になるため、「人が足りない分野だから参入すれば仕事になる」と単純には判断できません。

人手不足が深刻な仕事~介護・医療・福祉

 人口高齢化が進む地域では、介護、看護、訪問診療、配食、送迎などの必要性が高まります。千葉県は福祉・介護分野の人材不足を重要な課題と位置付けており、過去の需給推計では2025年度に7,113人不足するとの見込みも示されていました。ただし、これは実際に7,113人不足したことを確認した実績値ではなく、一定の前提条件に基づく将来推計として区別する必要があります。

 また、介護サービスの多くは介護報酬という公的な価格体系の影響を受けるため、需要が増えたり人件費が上昇したりしたからといって、事業者が自由に料金を引き上げられるわけではありません。人件費、燃料費、車両費、物価などが上昇しても価格転嫁できる範囲には限界があり、とりわけ訪問介護や訪問看護では、利用者宅が広い地域に分散していることが採算を悪化させます。

 例えば、サービスそのものは60分でも前後の移動に40分を要し、さらに記録や準備が必要なら、勤務時間のうち売上を直接生む時間の割合は大きく低下します。人口密度の低い地域で訪問サービスの効率が悪化する問題は単なる印象論ではなく、中山間地域などに共通する制度上、経営上の課題です。

人手不足が深刻な仕事~運輸、送迎、物流

 2026年8月の千葉県では、輸送・機械運転の職業の月間有効求人倍率は1.78倍でした。地方では食品や日用品の配送、農水産物や建設資材の輸送、宅配便、通院や介護施設の送迎、スクールバス、観光客の移動など、人口が減少しても一定の移動需要が残ります。

 特に自動車依存度の高い地域では、運転手不足の影響が生活そのものに及びます。鉄道や路線バスの利用者が減ったとしても、高齢者や自動車を運転できない住民の移動需要が同じ割合で消えるわけではありません。

 しかし、地方交通は「必要性が高い」ことと「民間採算が成立する」ことが一致しにくい代表的な分野でもあります。運転手1人と車両1台を動かす費用は、乗客が1人でも10人でも大幅には変わらないため、乗客密度が低くなるほど1人当たりの運行費用は上昇します。地方交通の問題は、需要が完全に存在しないのではなく、需要が薄く広範囲に分散していることにあります。

人手不足が深刻な仕事~保安、警備、施設管理

 2026年8月の千葉県では、保安の職業の月間有効求人倍率は6.17倍で、建設・採掘と並んで高い水準でした。公共施設、病院、介護施設、商業施設、駐車場、工事現場、イベント、災害時の交通誘導など、人口減少地域でも一定の保安需要が残ります。

 その一方で、警備には夜間、休日、屋外、不規則な勤務が含まれることがあり、求人倍率が高いからといって応募者が自動的に増えるわけではありません。求人件数だけでなく、賃金や勤務条件、身体的負担と求職者側の希望条件を同時に見る必要があります。

求人が少ない仕事~事務職では求職者側の競争が強い

 2026年8月の千葉県では、事務的職業の月間有効求人倍率は0.26倍でした。単純化すれば、事務職を希望する求職者約4人に対して求人が約1人分という状態です。

 小規模事業所の多い地域では、経理、総務、営業事務などを経営者や家族が兼任している場合があり、専任の事務職員を雇う必要性が都市部の大規模企業ほど高くないことがあります。さらに、会計、給与計算、予約管理などがデジタル化されたり、都市部の本社や外部事業者に集約されたりすれば、地域内の事務職求人は増えにくくなります。

 身体的負担が比較的小さく勤務時間が安定しやすい仕事を希望する人が多ければ、少数の事務求人へ求職者が集中します。これは「地方の人に働く意欲がない」という問題ではなく、地域で必要とされる仕事と求職者が希望する仕事の構成が違うというミスマッチです。

農林漁業は担い手不足でも求人倍率が高いとは限らない

 2026年8月の千葉県では、農林漁業の職業の月間有効求人倍率は0.86倍でした。一方、2020年国勢調査を基礎とした南房総地域の就業構造では、第1次産業の就業者割合は9.2%で、千葉県平均の2.5%を大きく上回っています。

 担い手や後継者が不足している農林漁業で求人倍率が極端に高くならない理由としては、雇用者としてハローワークに求人を出す働き方だけではなく、自営業、家族経営、季節雇用、独立就農、漁業経営などの比重が大きいことが考えられます。外国人材を活用する事業者も存在するため、後継者不足や経営者不足がそのままハローワークの求人倍率に表れるとは限りません。

 ただし、これらは求人倍率が低い理由として合理的に考えられる要因であり、それぞれがどの程度影響しているかまで求人統計だけで証明できるわけではありません。「求人倍率が低いから農業や漁業では人材が足りている」と判断するのも、「後継者不足だから雇用求人も不足している」と判断するのも、どちらも早計です。

社会的需要と「お金を払う需要」は違う

 地方で事業を考える際に特に重要なのは、「困っている人がいる」「必要としている人がいる」という社会的需要と、「一定の料金を継続して支払う利用者がいる」という市場需要を区別することです。例えば、買い物に困っている高齢者が100人いるとしても、その100人全員が1回2,000円の買い物代行を利用するとは限りません。家族に依頼する人、既存の宅配を使う人、自分で何とかする人、公的な支援を利用する人もいるため、事業者にとって重要なのは「困っている人の数」ではなく、「料金を払って実際に利用する人の数」です。

 したがって、買い物代行、空き家管理、草刈り、高齢者見守り、デジタル機器設定などについて、地域に潜在的な必要性があるとはいえても、直ちに「有料需要が高い」とまでは断定できません。事業化する場合には、地域ごとの利用意向、料金許容度、利用頻度まで調査する必要があります。

地方事業の採算を決めるのは「単価」ではなく「総所要時間」

 地方の小規模事業は、1件当たりの料金だけを見て採算を判断すると誤ります。重要なのは、作業時間に加えて移動、準備、報告、予約調整、会計などを含む総所要時間と、車両や設備を含めた総費用です。

 会計上は、おおむね「営業利益=売上-材料費-総人件費-車両関連費-燃料費-保険料-広告費-通信・事務費-減価償却費-その他の営業費用」と整理できます。従業員の人件費に勤務時間全体の賃金を含めている場合、移動時間の人件費を別にもう一度差し引けば二重計上になるため、移動時間の問題は「料金を請求できる時間の割合が低下する」と考えた方が分かりやすくなります。

 例えば、1件5,000円の作業を3件行えば売上は1万5,000円ですが、作業が合計3時間、移動が3時間、準備、報告、会計などに1時間かかれば総稼働時間は7時間となり、経費を引く前の時間当たり売上高は約2,143円にすぎません。ここから燃料、車両の減価償却、整備、保険、工具、広告などを負担するため、「1件5,000円だから時給5,000円」と考えるのではなく、「1万5,000円を得るために合計何時間といくらの経費を使ったか」を確認する必要があります。

 自営業者の場合には、この会計上の利益からさらに自分自身の労働に対する対価や機会費用を考えなければ、本当の意味で採算が取れているか判断できません。また、所得税や個人として負担する社会保険まで差し引いた金額を示す場合は、「営業利益」ではなく「最終的な手残り」と区別した方が正確です。

買い物代行~必要でも民間だけでは成立しにくい

 自動車を運転できない高齢者にとって、買い物支援には一定の潜在需要があります。しかし、仮に1回2,000円で、買い物、移動、商品の受け渡しまで90分かかれば、経費を引く前の時間当たり売上高は約1,333円です。複数世帯の注文をまとめて同じ店で購入し、同じ地域へ配送できれば効率は上がりますが、利用者ごとに希望店舗、購入品、時間帯が違えば集約は容易ではありません。

 このため、完全な個別対応型サービスより、共同購入、既存店舗の配送、自治体や社会福祉協議会との連携などの方が合理的になる場合があります。必要性の高さだけでは事業性を判断できず、利用者が実際に負担できる料金と、1件当たりの総所要時間を同時に考える必要があります。

通院送迎~需要があっても自由に有償営業できるわけではない

 高齢者が多く公共交通が限られる地域では、通院送迎に強い社会的需要が生じる可能性があります。しかし、自家用車を使って利用者から料金を受け取り、人を輸送する行為は道路運送法との関係を確認しなければなりません。

 原則として、自家用車で自由に有償送迎事業を始められるわけではなく、事業内容によって旅客自動車運送事業の許可、自家用有償旅客運送の登録などの制度が関係します。一方で、無償運送、実費相当の負担、他のサービスに付随する送迎など、許可や登録を要しない場合についても国が整理しているため、「料金を受け取ればすべて違法」「少額なら自由」といった単純な理解も適切ではありません。

 さらに通院送迎には、移動時間だけでなく、予約時刻への対応、診察終了までの待機、乗降介助、車椅子対応、感染対策、キャンセル、事故への備えなども必要になります。利用者にとって必要性が高くても、それらの時間と責任を料金で回収できなければ、民間事業としての継続は難しくなります。

空き家管理~空き家数より契約密度が重要

 人口減少地域では、空き家の巡回、換気、郵便物確認、写真報告、台風後の点検、草刈りなどに潜在的な需要があります。しかし、空き家が多いという事実だけでは空き家管理事業の成立を意味しません。

 例えば月額3,000円の契約でも、月1回の移動、巡回、写真撮影、報告に1時間かかれば十分な利益を確保することは難しくなります。同じ地区で多数の契約を集めて巡回経路を短縮したり、基本巡回と草刈り、清掃、修繕、台風後点検を別料金にしたりすることで、初めて採算が改善する可能性があります。

 したがって重要なのは地域の空き家総数ではなく、そのうち何%の所有者が料金を支払い、どの範囲に契約住宅を集められるかという契約率と顧客密度です。

草刈り・庭木管理~需要があっても年間事業になるとは限らない

 高齢化や空き家増加に伴い、草刈りや庭木管理にも潜在需要が残ると考えられます。しかし、需要が春から秋へ集中すること、雨天や猛暑で作業できないこと、草刈り機や車両が必要なこと、刈草処分費が発生すること、傾斜地や飛石による事故リスクがあることなどを考慮しなければなりません。

 一時的に依頼が集中する仕事でも、冬季に仕事が少なければ年間所得は安定しません。そのため、草刈り単独ではなく、空き家巡回、清掃、小修繕など年間を通した別の業務と組み合わせる方が合理的な場合があります。

観光業~観光客数と地域雇用は同じではない

 外房や南房総では観光が重要な産業ですが、観光客が増えればそのまま安定した地域雇用が増えるとは限りません。夏、休日、特定イベントなどに需要が集中する場合、日帰り客の割合が高い場合、1人当たり消費額が低い場合、平日の稼働率が低い場合には、年間雇用を維持するだけの売上を確保できないことがあります。

 さらに、宿泊施設や観光事業者が地域外資本であったり、食材や備品を地域外から調達したりすれば、観光消費額の全額が地域所得として残るわけではありません。そのため地域経済を見る場合には、観光客数だけでなく、宿泊率、1人当たり消費額、年間稼働率、地域内調達率などを確認する必要があります。

地方の飲食店が難しい理由

 地方は都市部より家賃が安いことがあり、飲食店を開業しやすいように見えます。しかし、家賃が低くても商圏人口、平日客、昼夜の交通量、客単価、食材費、光熱費、人件費、廃棄率、駐車場、観光需要の季節変動などが不利であれば経営は成立しません。

 また、「競合店が少ない」という状況についても注意が必要です。競合が少ないのは参入余地が大きいからとは限らず、そもそも市場規模が小さく、十分な売上を得られないため誰も参入していない可能性もあります。

地域内需要だけに依存する事業の限界

 地域住民だけを顧客とする事業は、人口減少の影響を直接受けます。仮に人口が毎年2%ずつ減り、サービスの利用率が変わらないとすれば、理論上の顧客数も毎年2%ずつ減少します。この減少は単純な足し算ではなく、毎年2%ずつ減少した場合、5年後には現在の約90.4%、10年後には約81.7%となるため、10年間では約18.3%減少します。

 そのため地方事業では、地域外から売上を得られる仕組みを持つか、地域内で一定の継続需要を確保することが重要です。農水産物の域外販売、食品加工、通信販売、データ処理、設計、編集、オンライン教育などは前者に当たり、医療、介護、住宅修繕、物流、住宅管理、地域交通、インフラ保守などは後者に近い分野です。

 ただし、「不可欠な仕事」であることと「儲かる仕事」であることは同じではありません。公共性が高いほど料金設定や制度による制約が強く、市場だけでは供給量を維持できない場合があります。

南房総地域では仕事の総量不足も存在する

 地方雇用をミスマッチだけで説明できない重要な理由が、南房総地域の就従比です。2020年国勢調査を基礎とした第5次南房総地域半島振興計画では、地域内で働く就業者数を地域に住む就業者数で割った就従比は0.94とされています。

 1を下回るということは、地域に居住する就業者数より地域内の就業場所が少ないことを意味し、千葉県自身も地域内の就業の場が不足していると整理しています。このため、地方の問題を「仕事は十分あるがミスマッチだけが問題」と説明することも正確ではありません。

 より正確には、「地域全体としての仕事不足」と「特定職種の深刻な人手不足」が同時に存在し、そこへ賃金、技能、勤務条件、勤務地などのミスマッチが重なっていると考える必要があります。

人手不足でも賃金を上げられない構造

 経済理論上、人手不足が続けば賃金を上げることで労働供給を増やす方向に市場は動きます。しかし、小規模事業者では賃上げ分を販売価格へ十分転嫁できなければ、雇用そのものを維持できません。

 中小企業政策でも、人材確保と企業の「稼ぐ力」の向上は重要課題とされており、特に地方の小規模事業者では、顧客側も地域住民や小規模事業者であることが多いため、料金を大幅に引き上げれば利用者が減少する可能性があります。その結果、「人材が不足するため賃金を上げたいが、料金を上げれば利用者が減り、売上が減るため十分な賃上げができず、さらに人が集まりにくくなる」という循環が生じることがあります。

 この問題は経営者の努力だけで解決できるとは限らず、生産性向上、共同化、公的支援、業務集約、サービス設計の変更などを組み合わせる必要があります。

新規創業より事業承継が合理的な場合もある

 地方活性化では新規創業が注目されがちですが、既存事業者に後継者がいない場合には、ゼロから事業を作るより既存事業を引き継ぐ方が合理的なことがあります。事業承継なら、顧客、設備、取引先、地域での信用、技術やノウハウ、過去の売上などを利用できる可能性があります。

 一方で、老朽設備、借入金、低採算な契約、経営者個人の人間関係に依存した取引なども引き継ぐ危険があります。したがって、「後継者がいない事業だから有望」なのではなく、過去の財務状況、将来需要、顧客構成、設備更新費、利益率などを確認し、「後継者不足」と「事業としての収益性」を分けて評価する必要があります。

地方で不足する仕事と採算が難しい仕事

分野 地域での必要性 人材面 主な採算上の問題
建設・修繕 高齢化した住宅・インフラの維持需要が残る 県全体では深刻な求人超過 技術、資格、設備、車両、安全管理
医療・介護 高齢地域では必要性が高い 人材確保が重要課題 公定価格、移動時間、人件費
運輸・送迎 自動車依存地域で必要性が高い 運転人材不足 利用者密度、車両費、待機時間
警備・保安 一定の継続需要 県全体では深刻な求人超過 夜間、休日、屋外勤務
農林漁業 地域差が大きい 後継者問題と雇用需給は別 季節性、価格変動、設備投資
観光・宿泊 外房・南房総では重要 地域・季節差が大きい 稼働率、季節性、客単価
買い物支援 高齢地域で潜在需要 事業者の有無は地域差 支払可能額、移動時間
空き家管理 空き家増加に伴う潜在需要 地域差 契約率、顧客密度、巡回距離
草刈り・庭管理 高齢化地域で潜在需要 地域差 季節性、事故、処分費
事務職 求職希望が多い 人手不足とは言いにくい 求人自体が少ない

 この整理から分かるのは、「社会的に必要である」「求人が多い」「民間事業として利益が出る」という三つは同じ概念ではないということです。地域で困っている人が多いサービスでも採算が取れないことがあり、反対に求人倍率が高い仕事でも、必要な資格や経験がなければ新規参入できません。

地方で事業を始める前に確認すべきこと

 地方で新しい事業を考える場合には、単に「困っている人が多い」「競合が少ない」と考えるのではなく、実際に料金を払う顧客が何人いるのか、その顧客がどこに分布しているのか、1件当たりの作業、移動、準備、報告を含めた総所要時間はどの程度か、年間を通じて需要があるか、利用者が無理なく支払える料金はいくらかを確認する必要があります。

 さらに、送迎、介護、建設、廃棄物処理などでは許認可や資格の有無を確認し、家族支援、自治体サービス、宅配、既存事業者などの代替手段との競合も考えなければなりません。1人で営む事業であれば、自分が病気や事故で働けなくなった場合の継続性、地域人口が減少した場合でも売上を確保するための地域外収入、撤退時の車両、設備、在庫、借入金などの処理費用まで含めて考える必要があります。

 特に重要なのは、需要調査を「このサービスは必要ですか」と尋ねるだけで終わらせないことです。「月2,000円なら利用するか」「月1回なら利用するか」「年間契約をするか」という具体的な価格と頻度を示さなければ、事業として成立する需要を把握することはできません。

地方で将来も必要性が残りやすい仕事

 人口減少下でも、住宅や設備の修繕、医療・介護、物流・配送、農水産物の加工や流通、防災・災害復旧、住宅管理、地域交通、廃棄物処理、インフラ保守などは一定の社会的必要性が残る可能性があります。また、小規模事業者の事務支援やデジタル手続き支援なども、地域の事業者構成によっては需要が生じます。

 しかし、「将来も必要な仕事」と「将来も利益が出る仕事」は区別しなければなりません。人口密度が低い地域では、顧客を同一地区へ集める、訪問日をまとめる、共同配送する、複数サービスを組み合わせる、既存事業者と連携する、自治体委託を利用するなど、1件当たりの移動費と固定費を低下させる仕組みが重要になります。

現実的な結論~地方では三つの仕事が一致していない

 「地方には仕事がない」という言葉には一面の真実があります。南房総地域の就従比が1を下回っているように、地域全体として就業場所が不足している地域は実際に存在し、事務、企画、管理など希望者の多い職種では求人が少ないという問題もあります。

 しかし、その一方で建設、保安、介護、運輸などでは人材不足が続いており、住民に必要な買い物支援、通院移動、空き家管理などでは、需要が存在しても民間事業として十分な収益を確保できない可能性があります。したがって地方雇用の問題は、「仕事そのものが不足している問題」「働く人を必要としているのに応募者が集まらない問題」「社会的には必要だが事業収益を確保しにくい問題」の三つに分けて考える必要があります。

 これらをすべて「地方には仕事がない」という一言でまとめると、政策も事業判断も誤る可能性があります。求人の少ない職種については地域外から仕事を受注できる仕組みや企業業務の地域移転、人手不足職種については賃金、勤務時間、住宅、教育訓練、労働環境の改善、採算の取れない生活サービスについては共同化、拠点化、公的委託など、それぞれ異なる対策が必要です。

 地方で新しい事業を始める場合も、「地域に困っている人がいる」という理由だけでは十分ではありません。誰が料金を払い、いくらなら利用し、年間何件を確保でき、移動や準備を含めても利益が残り、5年後や10年後にも需要が存在するのかを数字で確認する必要があります。

 地方には、仕事そのものが不足する地域があります。しかし、それだけが問題ではありません。求職者が希望する仕事、地域社会が必要とする仕事、事業者が継続的に利益を確保できる仕事の三つが一致しにくいことこそ、地方の雇用と事業を難しくしている大きな構造問題です。

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