地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

住宅費・交通費・医療・買い物環境を10年間で試算

 千葉県勝浦市は、太平洋に面した温暖な地域で、海、漁港、朝市、比較的涼しい夏、東京方面へ直通する特急列車など、移住先として魅力的に見える条件を備えています。特に東京や千葉市などの都市部から移住を検討する人にとっては、中古住宅を比較的低い価格で取得できる可能性があることも、大きな魅力の一つでしょう。

 しかし、観光で数日滞在することと、実際に10年、20年と生活することは同じではなく、住宅価格が安くても修繕費が必要になる場合があるほか、鉄道駅が存在していても、自宅から駅、病院、スーパーまでの移動に自動車が欠かせない地域があります。さらに、60歳時点では問題なく自動車を運転できたとしても、75歳、80歳になったときにも同じ生活を続けられるとは限らないため、高齢期まで視野に入れた生活設計が必要です。

 勝浦市への移住を検討する場合には、「海が近い」「夏が涼しい」「住宅が安い」といった一つの条件だけを見るのではなく、住宅取得費、修繕費、自動車維持費、医療、買い物、災害リスク、さらには将来の住宅売却可能性まで含めて考える必要があります。

 この記事では、60歳前後の夫婦2人が勝浦市へ移住し、中古戸建てを購入して10年間暮らすケースを一つのモデルとして設定し、住宅費、交通費、医療、買い物環境を検討します。なお、ここで使用する住宅価格や修繕費、自動車費などは、勝浦市全体の統計上の平均値を示すものではなく、移住判断のために一定の条件を置いたモデル試算です。

最初に結論~勝浦市は「場所と生活条件を選べば暮らしやすい」

 勝浦市への移住は、すべての人にとって暮らしやすいとはいえませんが、自動車を利用でき、東京へ毎日通勤する必要がなく、住宅の修繕資金を確保したうえで、駅、スーパー、医療機関への距離と災害リスクを確認しながら住宅を選べる人にとっては、有力な移住先になり得ます。

 一方、自動車を利用せずに生活したい人、東京へ週4~5日通勤する人、大型商業施設や多様な専門店を頻繁に利用する人、高度医療機関へ定期的に通院する必要がある人、あるいは住宅購入に資金を使い切って修繕資金を残せない人には、慎重な判断が必要になります。

 特に重要なのは、勝浦市全体を一つの生活圏として考えないことで、勝浦駅・墨名・新官周辺、興津周辺、海岸部、丘陵部、内陸部では、買い物、医療、交通、災害リスク、自動車への依存度が大きく異なります。そのため、移住判断では単に「勝浦市に住むかどうか」を考えるのではなく、「勝浦市のどの場所に、どのような住宅を選ぶか」まで具体化することが重要です。

1.人口減少と高齢化をどう考えるか

 勝浦市の人口は、2026年6月末時点で1万4,678人、世帯数は7,976世帯で、単純計算すると1世帯当たり約1.84人となります。ただし、この数字だけから高齢者世帯が多いと判断することはできず、高齢化の実態については年齢別人口や国勢調査の世帯構成を確認する必要があります。

 2020年国勢調査を見ると、勝浦市では一般世帯のうち高齢者を含む世帯が半数を超えており、高齢化が進んだ地域であることは統計的にも確認できます。このような人口減少と高齢化は、今後、商店、公共交通、医療、介護、自治会活動、空き家、住宅の流動性など、地域の生活基盤に幅広い影響を与える可能性があります。

 人口が減少する地域では、住宅価格が低下して購入しやすくなる場合がありますが、安く購入できることと、資産として安全であることは同じではありません。例えば、1,000万円で購入した住宅を10年後に800万円で売却できれば価格下落は200万円ですが、長期間買い手が見つからず、修繕や残置物処分を行ったうえで400万円でしか売却できない場合には、実質的な損失は大きくなります。

 したがって、勝浦市へ移住する場合には、住宅を最初から「一生住み続ける場所」と決めつけるのではなく、10年後、20年後に売却、賃貸、住み替えが可能かという撤退可能性まで考えておくことが重要です。

2.夏の涼しさは大きな利点だが、湿気も多い

 気象庁の1991~2020年の平年値では、勝浦の8月平均気温は25.9度、日最高気温の月平均は29.0度で、内陸部や東京都心と比較すると夏の気温が上がりにくい特徴があり、暑熱による身体的負担が比較的小さいことは、特に高齢期の生活では明確な利点と考えられます。

 その一方で、勝浦は湿度が高く、6月の相対湿度は86%、7月88%、8月85%で、年間降水量の平年値も約2,000ミリメートルあります。そのため、「夏が涼しいから住宅管理も容易」とは限らず、住宅を選ぶ際には、床下換気、北側の部屋のカビ、収納内部の湿気、屋根や外壁からの雨漏り、窓や壁面の結露、長期間空き家だった住宅の状態、さらに海風による金属部分の腐食まで確認する必要があります。

 また、「勝浦は涼しいので冷房費が安い」と一律に断定することも適切ではなく、実際の冷房費は外気温だけでなく、住宅の断熱性能、日射、室内湿度、在宅時間、エアコンの効率などにも左右されます。したがって、勝浦の気候については、「暑熱負担を抑えやすく、住宅条件や生活状況によっては冷房費を抑えられる可能性がある」と考える方が正確です。

3.住宅価格1,200万円は「平均」ではなくモデル条件

 今回の試算では、60歳前後の夫婦2人が、築25~35年程度の木造中古戸建てを1,200万円で購入し、自動車1台を保有して10年間暮らすケースを想定します。

項目 モデル条件
世帯 夫婦2人
移住時年齢 60歳・58歳
中古住宅価格 1,200万円
建物 木造・築25~35年程度
自動車 1台
居住期間 10年間
年間走行距離 8,000キロメートル
物価 単純化のため一定とする

 1,200万円という住宅価格は、現在の勝浦市において十分あり得る水準ですが、「勝浦市の標準住宅価格」と断定できるものではありません。勝浦市では都市部に比べて取引件数自体が多くなく、勝浦駅からの距離、新官や墨名、興津などの地区、築年数、土地面積、接道条件、海岸からの距離、災害リスク、建物状態などによって価格差が大きいためです。

 したがって、本記事における1,200万円という金額は、統計上の平均住宅を示すものではなく、10年間の費用構造を具体的に考えるための説明用モデルとして使用します。

4.1,200万円の住宅でも入居までに1,400万円以上かかる可能性がある

 住宅購入価格を1,200万円とした場合でも、実際の移住では住宅代金だけを準備すればよいわけではなく、仲介手数料、登記・司法書士費用、不動産取得税、建物状況調査、保険、引っ越し、残置物処分、入居前修繕などが加わります。

費用 モデル額
住宅購入代金 1,200万円
仲介手数料 46万円
登記・司法書士費用 20万円
不動産取得税等 15万円
建物状況調査 8万円
火災・地震保険初期費用 20万円
引っ越し費用 30万円
残置物処分・清掃 20万円
入居前小規模修繕 100万円
合計 約1,459万円

 仲介手数料46万円程度は、1,200万円の住宅であれば制度上不自然な金額ではありませんが、不動産取得税については住宅の築年、床面積、耐震性能、固定資産評価額などによって軽減措置が適用される場合があるため、15万円という数字はあくまでモデル値です。

 また、入居前修繕が100万円で済むとは限らず、屋根、外壁、給湯器、配管、浴室、床、浄化槽、耐震性などに問題があれば、さらに200万~600万円程度の工事が必要になる可能性もあります。このため、「1,200万円で家が買える」ことと「1,200万円で移住できる」ことは、明確に分けて考える必要があります。

5.10年間の住宅維持費は幅を持って考える

 中古戸建てでは、購入時の費用だけでなく、居住後にも固定資産税、火災・地震保険、設備交換、屋根・外壁修繕、シロアリ対策、防湿対策、庭木管理などの費用が継続的に発生します。例えば10年間で、固定資産税等70万円、保険40万円、小規模修繕100万円、給湯器や設備更新50万円、屋根・外壁修繕150万円、庭木管理50万円、防湿・防カビ・シロアリ対策40万円と仮定すると、合計は約500万円になります。

 ただし、この500万円を「勝浦市の平均的な住宅維持費」と考えることはできず、住宅の大きさ、築年数、構造、海岸からの距離、前所有者の管理状態などによって実際の支出は大きく変わります。また、購入時費用として計上した火災・地震保険20万円が最初の契約期間の保険料を含むのであれば、その後の10年間40万円と期間が重複しないように計算する必要があります。

 このような不確実性を考えると、住宅維持費は一つの金額に固定するよりも、低費用、モデル、高費用という複数のケースで考える方が現実的です。

ケース 購入・入居費 10年間維持費 合計
低費用ケース 1,200万円前後 300万円前後 1,500万円前後
モデルケース 1,459万円前後 500万円前後 1,959万円前後
高費用ケース 1,650万円前後 900万円前後 2,550万円前後

 ここで注意したいのは、安い中古住宅ほど低費用になるわけではないことで、築古、長期空き家、海岸近く、傾斜地、管理不良といった条件が重なると、購入価格そのものは低くても、修繕や維持管理を含めた総費用はむしろ高くなることがあります。

6.最初の1~2年間を賃貸にする考え方

 勝浦市への移住では、最初から住宅を購入する必要はなく、仮に月7万円の住宅を10年間借りれば家賃総額は840万円となり、入居時費用、更新料、保険、引っ越し費用などを加えたモデルでは、10年間で約925万円となります。現在の勝浦市では、夫婦2人が住める住宅について月7万円前後という家賃設定は不自然ではありませんが、都市部ほど物件数が多くないため、これを「勝浦市の平均家賃」と考えるべきではありません。

 また、購入と賃貸を比較するときには、駐車場代の扱いも確認する必要があり、中古戸建てでは敷地内駐車場を想定している一方、賃貸住宅では駐車場が別料金であれば、その費用も10年間の比較に加えなければなりません。

 勝浦市に暮らした経験がない人の場合、最初の1~2年間を賃貸として、湿気、交通、買い物、医療、地域関係、騒音、台風、冬の海風などを実際に経験してから住宅購入へ進む方が、移住後に「想像していた生活と違った」と感じるリスクを抑えやすくなります。

7.東京へ直通できても毎日通勤する負担は大きい

 勝浦駅から東京駅までは、特急「わかしお」を利用すると約1時間半で移動でき、東京方面へ乗り換えなしで移動できることは外房地域の中では大きな利点です。しかし、実際の通勤では、自宅から勝浦駅までの移動、駐車、列車の待ち時間、東京駅から勤務先までの移動も加わるため、鉄道の乗車時間だけで生活負担を判断することはできません。

 例えば、自宅から勝浦駅まで15分、駐車と待ち時間に15分、東京駅から勤務先まで30分とすると、片道約2時間、往復では約4時間となります。年間220日勤務する場合には、通勤時間だけで年間約880時間、10年間では約8,800時間となり、これは24時間換算で約367日分に相当します。

 したがって、月数回または週1~2回東京へ出勤する働き方であれば特急の利便性を生かしやすい一方、週5日の東京通勤を長期間続ける場合には、運賃だけでなく時間と体力の負担も含めて考える必要があります。また、勝浦市には一定の要件を満たす通勤・通学者を対象として特急券購入費の一部を補助する制度がありますが、内容は年度によって変更される可能性があるため、移住時点で最新の条件を確認する必要があります。

8.自動車は地域によっては事実上の生活インフラになる

 勝浦駅周辺に住み、生活範囲を駅、市役所、病院、スーパー周辺に限定すれば、自動車依存をある程度抑えられる可能性がありますが、興津、鵜原、部原、丘陵部、内陸部などでは、住宅から駅、スーパー、医療機関まで距離がある場合も多く、自動車の重要性は高くなります。路線バスは存在するものの、都市部のような頻度で運行しているわけではないため、移住後の生活では自動車1台を保有するケースを基本として考える方が現実的です。

 自動車購入・買い替え差額220万円、税金25万円、自賠責・任意保険80万円、車検・修理80万円、タイヤ・バッテリー40万円、燃料100万円、その他20万円と仮定すると、10年間で約565万円、年間平均約56万5,000円となります。もちろん、この金額は車種、保険条件、年間走行距離、燃費などによって大きく変わりますが、地方移住では住宅価格だけでなく、自動車保有費まで含めて比較することが重要です。

 なお、年間走行距離8,000キロメートルの中に日常の買い物や通院を含めるのであれば、その燃料や車両消耗費を別項目として再び計上すると二重計上になります。そのため、市外通院などの追加費用を別に加える場合には、高速道路料金、駐車料金、あるいは通常の年間8,000キロメートルを超える追加走行など、既存の自動車費と重複しない費用だけを計上する必要があります。

9.買い物はできるが「選択肢の少なさ」が問題になる

 勝浦市にはスーパーマーケットやドラッグストアなどがあり、日常的な食品、生活用品、医薬品を市内で購入することは可能であるため、「勝浦市では買い物ができない」と評価するのは適切ではありません。その一方で、千葉市や茂原市などと比較すると店舗数や業態の選択肢は限られており、特定商品が一店舗にない場合には市外へ移動する必要が生じることがあるほか、衣料品、家具、家電、専門用品などを複数店舗で比較して購入したい場合には、不便を感じる可能性があります。

 つまり、この問題は店舗が存在するかどうかという単純な二者択一ではなく、「何種類の店舗を、何キロメートルの範囲で利用できるのか」という生活動線の問題として考える必要があります。例えば、週2回の買い物で往復15キロメートル自動車を利用すれば、年間走行距離は1,560キロメートルとなるため、住宅価格が100万円安い郊外物件を選んでも、自動車移動に伴う時間、燃料、車両消耗が増えれば、10年間ではその価格差の一部が失われる可能性があります。

10.医療は「基本医療」と「高度医療」を分けて考える

 勝浦市には内科、外科、整形外科、眼科、小児科、歯科などの医療機関があり、塩田病院は救急医療機関として地域医療の中心的な役割を担っているため、基本的な外来診療や一般的な救急対応については、市内に一定の医療基盤があると考えられます。

 しかし、医療機関が市内に存在することと、すべての医療が市内で完結することは同じではなく、高度な心臓血管治療、脳神経外科の専門治療、高度ながん治療、周産期医療、特殊な手術、高度救命救急などについては、市外の医療機関を利用する可能性があります。そのため、老後移住では現在健康であるかどうかだけを見るのではなく、10年後に複数の診療科へ通院するようになった場合まで想定しておく必要があります。

 例えば、市外の医療機関まで往復80キロメートルを月2回通院すれば年間1,920キロメートルとなり、本人の身体的負担に加えて、運転する配偶者や家族の時間、駐車料金、高速道路料金なども必要になります。したがって、移住前には、自分の持病を診療できる医療機関があるか、必要な検査設備が整っているか、専門医の診療日や夜間休日対応はどうなっているか、さらに市内で対応できない場合の紹介先病院と、その病院までの交通手段まで確認しておく方が安全です。

11.地区ごとに生活条件は大きく違う

 勝浦駅、墨名、新官周辺では、鉄道、市役所、病院、スーパーなどへのアクセスが比較的良く、自動車を運転できなくなった後にも生活を維持しやすい可能性がありますが、海や河川に近い区域では、津波、洪水、高潮、塩害などを確認する必要があります。

 興津周辺は鉄道駅があり、海岸に近い生活を楽しめる一方、買い物先が限定され、勝浦中心部への自動車移動が増える場合があります。また、海岸部では津波、高潮、塩害、高台では坂道や徒歩移動の負担というように、同じ地域でも住宅の位置によって異なる問題があります。

 海岸部は、景観、釣り、サーフィン、散歩などの生活価値が高い一方で、塩害、湿気、強風、津波、高潮、台風後の修繕などの負担を抱える可能性があります。これに対して丘陵部や内陸部では、津波リスクを避けられる場所があり、静かな住環境や広い敷地を確保しやすい反面、土砂災害、急傾斜地、狭い道路、倒木、停電、自動車依存などが問題になるため、「海沿いだから危険」「高台だから安全」という単純な判断はできません。

12.災害リスクは市単位ではなく物件単位で確認する

 勝浦市では海岸、河川、丘陵地が近接しているため、津波、洪水、土砂災害の危険度は地区ごとに異なり、場合によっては隣接する土地でも条件が変わります。そのため住宅購入前には、津波浸水想定、洪水浸水想定、土砂災害警戒区域、特別警戒区域、擁壁の状態、過去の浸水履歴、道路寸断の可能性、避難所までの距離、夜間の避難経路などを、物件単位で確認する必要があります。

 特に高齢期には、地図上で避難所が近いというだけでは十分ではなく、急坂や階段を歩いて避難できるか、大雨や停電時にも安全な経路を確保できるか、配偶者の介助が必要になった場合でも避難できるかといった、実際の身体条件まで含めて考えることが重要です。

13.10年間の総費用をどう考えるか

 住宅購入モデルでは、購入・入居費1,459万円、住宅維持・修繕500万円、自動車1台565万円を中心に考えると、この三つだけで約2,524万円となります。ここに浄化槽、地域設備、市外通院に伴う高速道路料金や駐車料金など、年間走行距離8,000キロメートルの自動車費と重複しない追加費用を加えると、10年間の関連支出はおおむね2,500万~2,700万円程度になる可能性があります。

 ただし、この金額には食費、通常の光熱費、通信費、医療費そのものは含まれていないため、「10年間に必要となるすべての生活費」を示しているわけではなく、あくまで住宅と移動を中心とした移住関連費用のモデルです。

 賃貸の場合は、家賃・入居・更新等を約925万円、自動車を565万円とすると、追加費用を除いて約1,490万円となり、単純な現金支出だけを比較すれば、10年間では賃貸の方が少なく見えます。しかし、購入した場合には10年後にも土地と建物が残るため、購入と賃貸を比較する際には、住宅の売却可能額も考慮しなければなりません。

14.購入と賃貸の比較では「売却価格」ではなく「売却手取り額」を見る

 例えば10年後に住宅を1,000万円で売却できたとしても、その1,000万円全額が手元に残るわけではなく、仲介手数料、登記関係費用、残置物処分、必要に応じた修繕費などを差し引く必要があります。そのため、「10年間で2,684万円支出し、1,000万円で売却したので実質負担は1,684万円」と単純に計算するのは正確ではなく、実際には「10年間の購入関連支出-10年後の売却手取り額」で考える必要があります。

 さらに、1,200万円で購入した住宅が10年後にいくらで売れるかについても、一つの金額に固定するべきではなく、1,000万円、700万円、500万円、あるいは売却困難という複数のシナリオを置いて考える方が現実的です。勝浦市の住宅購入で重要なのは、購入時に100万円、200万円安い住宅を探すことだけではなく、10年後にも一定の需要が見込める場所と建物を選ぶことだと考えられます。

15.さらに厳密に比較するなら資金の時間価値を考える

 購入と賃貸を経済的に厳密に比較する場合には、単純な支出合計だけでは不十分であり、住宅を現金購入する場合には1,000万円を超える資金を最初に支払うのに対し、賃貸住宅の家賃は毎月少しずつ支払うため、支払い時期の違いも考慮しなければなりません。

 このような比較では、NPV(Net Present Value・正味現在価値)という考え方を使い、将来の支出や売却代金を現在の価値へ換算して比較します。また、住宅を現金で購入すれば、その資金を預金、国債、投資などに使う機会を失う一方、住宅ローンを利用すれば金利が発生するため、購入と賃貸のどちらが経済的に有利かは、住宅価格と家賃だけでは決まりません。

 したがって、本格的に比較する場合には、住宅の購入価格、家賃、修繕費、10年後の売却手取り額に加えて、住宅ローン金利、現金購入した場合の資金の機会費用、住み替え時期などまで含めて判断する必要があります。

16.勝浦市への移住に向いている生活条件

 勝浦市への移住と相性が良いのは、東京への出勤が少なく、自動車を利用でき、海や自然を日常的に楽しみながら、駅、医療機関、スーパーまでの距離や災害リスクを確認して住宅を選べる人です。さらに、高齢になったときに勝浦駅周辺や都市部、高齢者住宅などへ住み替える資金を残しておける人であれば、長期的な生活リスクを抑えやすくなります。

 一方、自動車を運転しない人、高度医療への定期通院が必要な人、毎日東京へ通勤する人、住宅購入で資金を使い切って修繕費を残せない人、あるいは将来も夫婦2人とも自動車を運転できることを前提としている人は、移住後の生活が現在の想定どおり続かない可能性まで含めて、より慎重に検討する必要があります。

17.移住前には「観光」ではなく「生活」を試す

 勝浦市への移住を決める前には、観光地を見るだけではなく、実際の生活を再現するような滞在を行うことが重要です。平日にはスーパー、病院、市役所、鉄道、道路、金融機関、ごみ集積所などを確認し、雨の日には道路の排水、敷地の水たまり、がけや擁壁、建物内の湿気、雨漏り、避難経路を確認すると、晴天時の内覧だけでは分からない問題が見えてきます。

 さらに、夏には室内の湿度、海風、塩分を含む風、観光客による交通量、草木の成長、虫、冷房の必要性を確認し、冬には日当たり、結露、暖房、海風、日没後の道路、坂道などを確認することで、観光旅行では分からない年間を通じた生活条件を把握しやすくなります。

 可能であれば、勝浦市で暮らした経験がない状態で最初から住宅を購入するのではなく、1年間程度の賃貸生活を経験し、自分たちの生活動線や地域との相性を確認してから購入する方が、移住後の失敗を減らす方法として合理的です。

現実的な結論

 勝浦市は、海、自然、比較的涼しい夏、東京方面への直通特急、基本的な医療機関、スーパーマーケットなどを備えており、地方移住先として一定の生活基盤がありますが、その暮らしやすさは、自動車を利用できること、住宅の場所を慎重に選ぶこと、修繕資金を確保すること、高齢期の交通と医療を考えておくことによって大きく変わります。

 住宅について最も重要なのは購入価格そのものではなく、TCO(Total Cost of Ownership・保有期間中の総費用)で考えることであり、1,200万円の住宅でも、購入諸費用、修繕、自動車などを含めれば、10年間の住宅・移動関連支出が2,500万~2,700万円程度になる可能性があります。ただし、この数字は勝浦市の平均的な移住者が必ず負担する金額ではなく、一定の住宅価格、修繕費、自動車利用などの条件を置いたモデル試算であり、住宅の状態、地区、自動車の利用状況、医療、売却条件などによって結果は大きく変わります。

 また、購入と賃貸を比較するときには単純な支出合計だけを見るのではなく、10年後の売却手取り額、修繕費、住宅ローン金利、資金の機会費用、NPV(Net Present Value・正味現在価値)まで含めて考える方が合理的です。

 勝浦市への移住は、「おすすめできる」「おすすめできない」と一律に結論づけられるものではなく、自動車を利用でき、東京への出勤が少なく、駅、医療機関、スーパーに比較的近く、災害リスクの低い住宅を選び、修繕資金と将来の住み替え資金を残せる人にとっては、暮らしやすい移住先となる可能性があります。一方、安価な海沿いの中古住宅を予算いっぱいで購入し、毎日東京へ通勤し、10年後、20年後にも自動車を運転できることを前提に生活設計を組んだ場合には、住宅価格の安さ以上の負担を抱える可能性があります。

 勝浦市への移住で本当に重要なのは、「海の近くで暮らしたい」という現在の希望だけで住宅を選ぶことではなく、10年後にも、その住宅、その交通手段、その医療環境で生活を続けられるかを、移住前に数字と現地確認の両方で確かめることです。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

弊社では、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

 地方移住の魅力としてよく挙げられるのが、住宅価格や家賃の安さです。都市部では数千万円する戸建て住宅が、地方では数百万円で売られていることもあり、賃貸住宅についても都市部より低い家賃で広い住宅を借りられる地域があるため、「都市部で家賃を払い続けるより、地方で安い中古住宅を買った方が得なのではないか」と考える人は少なくありません。

 確かに、住宅の購入価格や家賃だけを比べれば、地方移住が大幅に有利に見えるケースがあります。しかし、実際の生活では住宅費だけを支払うわけではなく、自動車、固定資産税、住宅修繕、光熱費、庭や敷地の管理、通院や買い物のための移動、さらに将来その住宅を売却したり処分したりする費用まで含めて考えなければ、本当の経済負担は分かりません。

 そこでこの記事では、60歳前後の夫婦2人が都市近郊の賃貸住宅から地方の中古戸建てへ移住するモデルケースを設定し、住宅、交通、自動車、光熱・水道を中心とした10年間の主要生活固定費を比較します。ここで示す金額は全国共通の平均値ではなく、地方移住の経済性をどのように計算すればよいのかを考えるためのシミュレーションであり、地域、住宅状態、車種、年間走行距離、家族構成などによって結果は大きく変化します。

 なお、今回の基本計算では分かりやすさを優先し、金利、物価上昇、家賃上昇、資金運用による収益などの「お金の時間価値」は直接反映していません。また、食費、通信費、医療費、娯楽費などについても個人差が大きいため中心的な比較から外し、都市近郊と地方で差が生じやすい住宅、交通、自動車、光熱・水道を比較します。

住宅価格だけを比べると地方は大幅に安く見える

 例えば、都市近郊で月8万円の賃貸住宅に住んでいる夫婦が、地方で500万円の中古戸建てを購入するとします。都市近郊で月8万円の家賃を10年間支払えば家賃だけで960万円となるため、500万円の地方住宅と単純に比較すると、地方の方が460万円安く見えます。

8万円 × 12か月 × 10年 = 960万円

960万円 - 500万円 = 460万円

 しかし、この460万円をそのまま地方移住による節約額と考えることはできません。地方住宅を購入すれば、不動産取得時の諸費用、入居前修繕、固定資産税、火災・地震保険、屋根や外壁の修繕、給湯器や給排水設備の交換、庭や敷地の管理などが必要になり、公共交通が少ない地域では夫婦それぞれに自動車が必要になることもあるため、住宅価格の差より自動車費などの差の方が大きくなる可能性もあるからです。

 したがって、地方移住の経済性を見る場合には、「住宅がいくらで買えるか」だけではなく、「その地域で10年間生活するために合計でいくら必要になるか」という視点で比較する必要があります。

全国平均の家賃だけでは移住先を判断できない

 総務省統計局の2023年住宅・土地統計調査によると、借家のうち専用住宅の全国平均家賃は1か月当たり5万9,656円で、2018年と比べ7.1%上昇しています。しかし、この数字は全国平均であり、東京圏などの都市部と地方都市、農村部では家賃水準が大きく異なるほか、同じ自治体の中でも駅からの距離、住宅面積、築年数、駐車場の有無などによって条件は変わります。

 このため、実際に移住を検討する際には、全国平均をそのまま当てはめるのではなく、現在住んでいる地域で実際に負担している家賃と、移住候補地の住宅価格や募集家賃を個別に比較することが重要です。今回は比較を分かりやすくするため、都市近郊の家賃を月8万円と仮定します。

今回のモデルケース

都市近郊で暮らし続ける場合

項目 条件
世帯 60歳前後の夫婦2人
住宅 賃貸住宅
家賃 月8万円
更新料等 2年ごとに8万円
駐車場 月1万2,000円
自動車 1台
年間走行距離 6,000キロメートル
買い物 自動車、徒歩、公共交通
病院 自動車または公共交通で20分以内
比較期間 10年間

地方へ移住する場合

項目 条件
世帯 同じ夫婦2人
住宅 中古戸建て購入
購入価格 500万円
建物 築35年の木造戸建て
土地 250平方メートル
入居前修繕 200万円
自動車 普通車1台+軽自動車1台
年間走行距離 2台合計1万5,000キロメートル
買い物 自動車で片道10キロメートル程度
病院 自動車で片道20キロメートル程度
比較期間 10年間
10年後 住宅を売却すると仮定

 このモデルでは、食費や通常の日用品費については都市近郊と地方で大きく変わらないものとして比較から外しますが、実際には近隣店舗の価格、宅配利用、家庭菜園などによって差が生じるため、個別の移住計画では必要に応じて追加して計算する必要があります。

都市近郊で10年間暮らす住宅費

 家賃月8万円を10年間支払えば960万円となり、これに2年ごとの更新料を4回として32万円、2年間で2万円程度の火災保険等を5回として10万円、10年後の退去時負担を10万円と仮定すると、住宅関係の支出は合計1,012万円になります。

項目 10年間
家賃 960万円
更新料等 32万円
火災保険等 10万円
退去時負担 10万円
合計 1,012万円

 賃貸住宅では10年間家賃を払い続けても土地や建物は資産として残りませんが、その一方で、固定資産税や屋根、外壁、給排水設備などの大規模修繕を直接負担する必要はなく、仕事や家族構成、健康状態など生活条件が変化した場合にも比較的容易に転居できるという利点があります。

地方住宅では500万円の住宅が500万円では済まない

 地方で500万円の中古住宅を購入するとしても、実際の初期費用は購入価格だけではありません。登記関係費用、税金、司法書士報酬、不動産仲介関係費用、建物調査などを合わせて80万円、さらに築35年の住宅を最低限安心して使用するための入居前修繕を200万円と仮定します。

入居前修繕 試算額
屋根・雨どい 40万円
外壁補修 20万円
台所 35万円
浴室・給湯設備 45万円
トイレ 20万円
床・内装 20万円
電気・水道 20万円
合計 200万円

 購入価格500万円に購入諸費用80万円、入居前修繕200万円を加えると、入居までに必要な住宅関係費用は780万円となります。

500万円 + 80万円 + 200万円 = 780万円

 低価格の中古住宅では、住宅本体の価格が安いからといって登記、仲介、調査などの費用まで比例して安くなるとは限らず、結果として購入価格に対する諸費用の割合が高くなることがあります。そのため、「500万円の家だから600万円程度あれば十分」と考えるのではなく、購入前に諸費用と修繕費を分けて見積もる必要があります。

地方住宅では購入後も維持費が続く

 住宅を所有すると、購入後も固定資産税、火災・地震保険、敷地管理、小修繕などの支出が継続します。今回のモデルでは、固定資産税等を年間6万円、火災・地震保険等を5万円、草刈りや庭木管理を5万円、浄化槽管理を4万円、小修繕を5万円とし、年間25万円、10年間で250万円とします。

項目 年間 10年間
固定資産税等 6万円 60万円
火災・地震保険等 5万円 50万円
草刈り・庭木管理 5万円 50万円
浄化槽管理 4万円 40万円
小修繕 5万円 50万円
合計 25万円 250万円

 ここで注意したいのは、固定資産税は中古住宅の購入価格から単純に決まるわけではなく、固定資産税評価額、土地や建物の条件、住宅用地に対する軽減などによって変わることです。そのため、実際の購入判断では売主側の課税明細などを確認することが重要であり、下水道が整備されている地域では浄化槽管理費が不要になる一方、上下水道料金や地域特有の負担が生じる場合もあります。

築35年住宅では臨時修繕も考えておく

 中古住宅では、購入時に一定の修繕を行ったとしても、その後10年間に設備の故障や追加補修が発生する可能性があります。今回のモデルでは、購入時に交換していない設備や、その後の使用によって新たに劣化した部分を対象として、10年間で150万円の追加修繕を見込みます。

時期 内容 試算額
3年目頃 空調・給湯関連など 25万円
5年目頃 浄化槽・排水関係 20万円
7年目頃 外壁・雨どい補修 25万円
9年目頃 給排水設備 30万円
随時 その他の故障・補修 50万円
合計 150万円

 実際の修繕額は住宅の状態によって大きく変わり、屋根、基礎、配管などに重大な問題があれば数百万円単位の追加費用になることもありますが、反対に、購入前に十分な改修が行われている住宅であれば今回の150万円を大きく下回る可能性もあります。したがって、築年数だけを見るのではなく、建物の状態と過去の修繕履歴を確認することが重要です。

10年後にいくらで売れるかが大きな変数になる

 持ち家と賃貸を比較するときには、住宅購入に支払った金額だけでなく、10年後にどの程度の資産価値が残っているかも考える必要があります。今回のモデルでは、500万円で購入した住宅を10年後に300万円で売却し、仲介、片付け、登記その他の売却関連費用として50万円かかると仮定するため、売却手取額は250万円となります。

300万円 - 50万円 = 250万円

 ただし、この250万円は保証された金額ではなく、地方住宅の将来価格は人口動態、駅や商業施設との距離、土地価格、接道状況、上下水道、災害リスク、建物状態などに強く左右されます。特に低価格地域では建物価格がほぼゼロになり、土地そのものの価値が住宅全体の売却価格を左右することもあるため、「500万円で購入したのだから10年後にも300万円程度では売れるだろう」と考えるのは危険です。

 実際の移住計画では、国土交通省の不動産情報などを使って候補地域の実際の取引価格を確認し、将来売却価格については強気、標準、慎重という複数の条件で試算する方が安全です。

地方住宅の10年間の住宅負担

項目 試算額
購入価格 500万円
購入諸費用 80万円
入居前修繕 200万円
10年間の維持費 250万円
追加修繕 150万円
支出合計 1,180万円
10年後売却手取 ▲250万円
売却手取控除後負担 930万円

 都市近郊の賃貸住宅が1,012万円であるのに対し、地方住宅は930万円となるため、住宅だけを比較すれば地方の方が82万円少なくなります。しかし、その差は10年間で82万円、1か月当たりでは約6,800円にすぎません。

 最初に「都市近郊の家賃960万円」と「地方住宅の購入価格500万円」だけを比べた段階では460万円の差がありましたが、購入諸費用、修繕、税金、維持管理、売却価値まで含めると差は82万円まで縮小します。このことからも、地方移住の経済性を住宅の表示価格だけで判断すると、実際の負担を大きく見誤る可能性があることが分かります。

地方移住の損得を大きく左右する自動車

 地方移住では、住宅費以上に自動車が家計を左右する場合があります。都市近郊では夫婦で1台を共有し、徒歩や公共交通を併用できる家庭であっても、地方では勤務先、買い物、通院などの時間が異なるため、夫婦それぞれに自動車が必要になることがあるからです。

 政府の家計調査でも、自動車購入、燃料、整備、自動車保険などは自動車等関係費として家計支出の重要な一分野となっていますが、全国平均には自動車を保有していない世帯や購入時期の異なる世帯も含まれます。このため、地方移住を検討するときには平均額をそのまま使用するより、必要な台数と実際の年間走行距離を設定して計算する方が適切です。

都市近郊の自動車・交通費

項目 年間相当額 10年間
車両購入・買替え相当 25万円 250万円
燃料費 8万円 80万円
自動車保険 6万円 60万円
税金・車検 7万円 70万円
整備・タイヤ 5万円 50万円
駐車場 14万4,000円 144万円
公共交通費 6万円 60万円
合計 714万円

地方の自動車・交通費

項目 年間相当額 10年間
2台の購入・買替え相当 40万円 400万円
燃料費 20万円 200万円
自動車保険 11万円 110万円
税金・車検 12万円 120万円
整備・タイヤ 9万円 90万円
駐車場 0円 0円
公共交通費 2万円 20万円
合計 940万円

 この条件では、地方の自動車・交通費は都市近郊より10年間で226万円高くなります。住宅では地方が82万円有利でしたが、自動車・交通費では226万円不利になるため、住宅費と交通費を合わせると地方側が144万円高くなり、住宅価格の安さだけでは自動車2台分の負担を吸収できない結果になります。

940万円 - 714万円 = 226万円

226万円 - 82万円 = 144万円

自動車を2台から1台へ減らせれば結果は大きく変わる

 地方でも夫婦で1台を共有できるのであれば、2台目の車両購入費、自動車保険、税金、車検、整備などを削減できます。ただし、自動車を2台から1台にしたからといって地方で必要な走行距離そのものが半分になるわけではなく、買い物や通院までの距離は変わらないため、燃料費については2台目の費用をそのまま全額削減できると考えるのではなく、1台へ集約した後の年間走行距離を改めて計算する必要があります。

 今回、説明用として2台目を持つことによる追加負担を10年間で約300万円と置けば、地方側の総負担は2,270万円から1,970万円へ低下し、都市近郊の2,046万円より76万円少なくなります。

2,270万円 - 300万円 = 1,970万円

2,046万円 - 1,970万円 = 76万円

 このように、自動車を何台保有しなければならないかは、地方移住の経済性を大きく左右します。「地方だから安いか」という比較よりも、移住候補地で夫婦それぞれに自動車が必要なのか、1台を共有できるのかという生活動線の方が、実際の家計には大きな意味を持つ場合があります。

地方の戸建ては光熱費が安いとは限らない

 地方では住宅価格が安くても、都市部の集合住宅より住宅面積が広くなりやすく、築年数の古い戸建てでは断熱性能が低い場合もあります。環境省の家庭部門の調査でも、戸建住宅世帯は集合住宅世帯より年間のエネルギー支払額が高い傾向が確認されているため、地方へ移住すれば光熱費まで自動的に下がると考えるのは適切ではありません。

 今回のモデルでは、電気・ガス、水道その他を合わせて都市近郊を年間32万円、地方を年間40万円と仮定します。

項目 都市近郊 地方
電気・ガス等 年24万円 年30万円
水道・設備関連 年8万円 年10万円
年間合計 32万円 40万円
10年間 320万円 400万円

 この金額は全国統計から直接導いた平均値ではなく、あくまで今回のモデルにおける説明用の仮定です。実際の光熱費は気候、住宅面積、断熱性能、給湯方式、太陽光発電の有無などによって大きく異なるため、個別の移住計画では現在の実績値と候補住宅の条件から推定する必要があります。

住宅・交通・光熱費を合計すると地方が224万円高くなる

項目 都市近郊 地方
住宅 1,012万円 930万円
自動車・交通 714万円 940万円
光熱・水道等 320万円 400万円
10年間合計 2,046万円 2,270万円

 今回設定した条件では、地方移住後の主要生活固定費は10年間で2,270万円となり、都市近郊の2,046万円より224万円高くなります。10年間で224万円という差は、1年当たりでは22万4,000円、1か月当たりでは約1万8,700円に相当します。

224万円 ÷ 120か月 = 約1万8,700円

 ただし、この224万円は「地方移住すると平均して224万円高くなる」という統計的な結論ではありません。家賃8万円、地方住宅500万円、入居前修繕200万円、自動車2台、年間走行距離1万5,000キロメートル、10年後の売却手取250万円など、今回設定した条件を前提とした結果であり、条件が一つ変わるだけでも結論が逆転する可能性があります。

 したがって、この記事で重要なのは224万円という金額そのものではなく、住宅修繕、自動車台数、光熱費、将来売却価格などのどの要因が、地方移住の負担をどの程度増減させているのかを把握することです。

都市近郊の家賃はいくらなら損益が逆転するのか

 今回のモデルでは都市近郊の家賃を月8万円としていますが、その他の条件を変えず、更新料も家賃1か月分として連動すると仮定すると、地方側の2,270万円とほぼ同じになる都市近郊の家賃は月約9万8,000円です。

 したがって、このモデルでは都市近郊の家賃が月8万円程度であれば地方側の方が高くなりますが、家賃が月10万円前後になると両者の総負担は近づき、それを超えて高くなるほど地方移住が金銭的に有利になりやすくなります。逆に言えば、「地方住宅が500万円だから安い」と判断するより、現在支払っている家賃、駐車場代、自動車台数などを使って自分自身の損益分岐点を計算する方が、実際の移住判断には有効です。

移動時間や住宅管理時間も生活上のコストになる

 金銭支出とは別に、地方生活では買い物、通院、行政手続、庭や住宅の管理に時間を使う場合があります。例えば、地方移住によって買い物に週1時間、通院・薬局に月2時間、行政・金融関係に月1時間、住宅・敷地管理に月4時間の追加時間が発生すると仮定すると、年間136時間、10年間では1,360時間になります。

 この時間を仮に1時間1,500円で評価すると204万円相当になりますが、これは実際に204万円を支払うという意味ではなく、退職後の時間を1時間いくらと評価するかも人によって大きく異なります。そのため、現金支出2,270万円に204万円をそのまま加えるのではなく、10年間で1,360時間を運転や住宅管理に使う生活を本人が負担と感じるのか、それとも庭仕事や運転を生活の一部として楽しめるのかを考えるための参考値として扱う方が適切です。

都市部で通勤している場合は逆方向の時間効果もある

 地方移住によって退職したり在宅勤務へ移行したりするのであれば、都市部での通勤時間が減少する可能性があります。総務省の2021年社会生活基本調査でも、神奈川県、千葉県、東京都、埼玉県などでは平日の通勤・通学時間が長い傾向が示されており、都市近郊で長時間通勤をしている人にとっては、地方移住によって失われる時間より、取り戻せる時間の方が大きくなる場合があります。

 仮に現在の往復通勤時間が1時間30分、年間勤務日数が240日であれば、年間の通勤時間は360時間、10年間では3,600時間になります。

1.5時間 × 240日 × 10年 = 3,600時間

 地方移住によってこの時間が大幅に減るのであれば、買い物や通院のための移動時間が増えても、生活全体の移動時間は減少する可能性があります。そのため、時間を比較するときには、地方移住によって新たに増える時間だけでなく、通勤や混雑など移住によって減少する時間も同時に計算する必要があります。

20年、30年住めば購入が必ず有利になるわけではない

 住宅購入時の登記費用や仲介費用などは一度だけ発生するため、同じ住宅に長期間住めば1年当たりの初期費用は小さくなり、この意味では3年から5年で再移住する場合より20年以上住む方が住宅購入の経済性は高くなりやすいと考えられます。

 しかし、居住期間が長くなるほど、屋根、外壁、給排水設備、浴室、給湯器などの大規模修繕が必要になる可能性も高くなるため、「長く住めば必ず購入の方が安い」と単純には言えません。特に60歳前後で地方へ移住する場合には、10年間だけではなく、その後75歳、80歳となったときにもその住宅で暮らし続けるのか、途中でより便利な地域へ再移住するのかまで含めて考える必要があります。

お金の時間価値を考えると比較はさらに複雑になる

 今回の基本計算では、現在支払う100万円と10年後に受け取る100万円を同じ金額として扱っていますが、金融的には現在のお金と将来のお金の価値は同じではありません。例えば年2%程度の割引率で考えると、10年後に受け取る250万円の現在価値は約205万円となるため、10年後の住宅売却手取を現在の250万円と同じ価値として扱う今回の単純計算は、購入側をやや有利に見せる可能性があります。

 一方で、都市近郊の家賃960万円も全額を現在支払うわけではなく、10年間にわたって支払うため、こちらも現在価値へ換算しなければ厳密な比較にはなりません。より精密に比較する場合には、NPV(Net Present Value・正味現在価値)を用いて各年の支出と10年後の売却収入を現在価値へ換算する方法がありますが、一般的な移住判断では、まず現在価格による10年間の総負担を比較し、必要に応じて金利や資金運用の影響を加える方法でも実用上は十分です。

地方移住の3つのシナリオ

 地方住宅では、修繕費、自動車台数、将来売却価格などの不確実性が大きいため、一つの条件だけで判断せず、楽観、標準、慎重という複数のシナリオを作る方が安全です。

条件 楽観 標準 慎重
入居前修繕 50万円 200万円 400万円
自動車 1台 2台 2台
追加修繕 80万円 150万円 300万円
10年後売却手取 400万円 250万円 50万円
10年間総負担 約1,600万円 約2,270万円 約2,820万円

 標準シナリオ2,270万円に対して、慎重シナリオでは入居前修繕が200万円増え、追加修繕が150万円増え、10年後の売却手取が200万円減るため、10年間総負担は約2,820万円になります。このように、地方移住の経済性は住宅購入価格そのものより、修繕費、自動車台数、売却可能性といった条件によって大きく変化するため、標準条件だけではなく、慎重シナリオになっても家計を維持できるかを確認することが重要です。

地方移住が有利になりやすい条件

 今回の標準モデルでは地方側が224万円高くなりましたが、自動車を1台で生活できる、入居前修繕が少なくて済む、都市部で高い家賃や駐車場代を支払っている、比較的長期間居住する予定がある、将来も一定の住宅価値が残るといった条件が重なるほど、地方移住は金銭的に有利になりやすくなります。

 例えば、都市部の駐車場代が今回の月1万2,000円ではなく月3万円であれば、10年間では360万円となり、今回の条件より216万円増えることになります。この差だけでも標準モデルにおける地方側の224万円の不利の大部分が解消されるため、現在の家賃と駐車場代が高い世帯ほど、地方移住による住宅・駐車費の削減効果は大きくなります。

 反対に、地方でも自動車を2台保有しなければならず、築古住宅で大規模修繕が必要となり、さらに10年後にはほとんど売却できないという条件が重なれば、住宅の購入価格そのものが安くても、総負担では都市近郊を大きく上回る可能性があります。

60歳前後の移住では自動車を運転できなくなった後も考える

 60歳で地方へ移住する場合、今回の10年間比較が終わる70歳前後は、まだその後の生活が長く続く可能性があります。現在は夫婦とも問題なく自動車を運転できたとしても、75歳、80歳となったときに同じような生活を続けられるとは限らないため、現在スーパーまで自動車で15分だから問題ないという判断だけでは不十分です。

 将来自動車を運転しなくなった場合でも食品を購入できるのか、病院や薬局へ行けるのか、タクシーやデマンド交通を利用できるのか、食品宅配や移動販売が利用できるのかといった条件まで確認する必要があります。また、自治体に地域交通制度が存在していても、自宅の地区が運行区域外であったり、利用できる曜日や時間帯が限られていたりする場合があるため、「地域交通がある」という名称だけで判断せず、自宅から病院やスーパーまで実際に利用可能かを確認することが重要です。

移住前には実際の生活動線を試す

 地図上でスーパーまで10キロメートル、病院まで20キロメートルと表示されていても、実際の生活負担は距離だけでは決まりません。道路幅、信号、渋滞、坂道、積雪、夜間の暗さ、ガソリンスタンドの位置、病院や商業施設の駐車場から入口までの距離などによって、同じ10キロメートルでも負担は大きく変わります。

 そのため、移住候補地を訪れる際には観光地だけを見るのではなく、実際に朝の時間帯にスーパーへ行き、病院まで運転し、夜間や雨天時にも道路状況を確認すると、移住後の生活を具体的に想像しやすくなります。可能であれば数日から数週間程度試住し、買い物、通院、給油、ごみ出しなどの日常生活を実際に体験する方が、住宅価格や地図だけを見て判断するより移住後の生活とのずれを小さくできます。

費用が高くても地方移住が合理的な場合はある

 今回の標準モデルでは地方移住の方が10年間で224万円高くなりましたが、これは地方移住に価値がないという意味ではありません。月額に換算すれば約1万8,700円であり、その追加負担によって広い住宅、庭、静かな環境、趣味の作業空間、ペットとの生活、自然環境などが得られるのであれば、その人にとって十分に合理的な支出になる可能性があります。

 一方で、住宅が安いという理由だけで移住したものの、実際には毎日の運転、草刈り、住宅修繕、買い物や通院の移動を負担に感じるのであれば、金銭面だけでなく生活満足度の面でも不利になる場合があります。したがって、移住判断では金額と生活価値を一緒にして考えるのではなく、まず10年間に必要となる金額を計算したうえで、「その差額を支払ってでも得たい暮らしなのか」と考える方が整理しやすくなります。

地方移住で重要なのは住宅価格ではなく総負担

 今回のモデルケースでは、都市近郊の住宅、自動車・交通、光熱・水道を合わせた10年間の主要生活固定費は2,046万円となり、地方移住後は2,270万円となったため、標準条件では地方側が224万円高くなりました。しかし、この差を生んだ主要因は500万円という住宅購入価格ではなく、住宅修繕、自動車2台の保有、戸建住宅の光熱・管理負担であり、逆に自動車を1台で生活できる地域を選び、状態の良い住宅を購入し、現在の都市部で高い家賃や駐車場代を支払っているのであれば、地方側が有利になる可能性があります。

 したがって、地方移住を検討するときに確認すべきなのは「地方の家はいくらで買えるのか」という一点ではありません。現在の住宅費、自動車費、交通費、光熱費を実績から把握したうえで、移住後に必要となる住宅取得費、維持管理費、自動車費、10年間の臨時修繕、さらに10年後の売却や再移住までを同じ条件で比較することが重要です。

 地方移住は必ず生活費が安くなる方法でもなければ、必ず都市生活より不便になる選択でもありません。住宅、交通、家族構成、仕事、年齢、健康状態、地域の利便性、将来の住み替えまで含めて考えて初めて、その人にとって経済的に合理的な移住なのかを判断できます。

 特に60歳前後からの移住では、現在から10年間だけを見るのではなく、70歳、75歳、80歳になったときにもその住宅と地域で暮らし続けられるかという視点が欠かせません。住宅価格の安さは地方移住を考える入口の一つにすぎず、本当に比較すべきなのは、その場所で長く暮らし続けるために必要となる住宅、交通、維持管理を含めた総負担なのです。

参考にした主な公的統計・制度資料

 家賃については総務省統計局「2023年住宅・土地統計調査」、通勤・通学時間については総務省統計局「2021年社会生活基本調査」、住宅形態別のエネルギー支出については環境省「家庭部門のCO2排出実態統計調査」、地域別の不動産取引価格については国土交通省「不動産情報ライブラリ」などを参考にしています。

 ただし、これらの全国統計は個々の移住世帯の費用を直接示すものではなく、実際に移住を検討するときには全国平均よりも、現在の家計実績と移住候補地の住宅価格、税金、交通条件、修繕見積りを使って個別に計算することが重要です。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

弊社では、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

 地方の空き家情報を見ていると、「土地付き一戸建て100万円」「古民家50万円」「建物価格0円」といった物件が見つかることがあります。都市部の住宅価格と比較すれば非常に安く、自動車より低い金額で土地と建物が手に入るのであれば、地方移住、週末住宅、事業用物件、賃貸経営などに使えるのではないかと考える人もいるでしょう。

 しかし、空き家の経済性は販売価格だけでは判断できません。購入後に残置物処分、雨漏り修理、水回りの交換、登記、保険、固定資産税、庭木管理、浄化槽管理などが必要になれば、10年間の総負担額が購入価格の数倍になることがあります。一方で、建物状態が良好で、大きな修繕を必要とせず長期間利用できる物件であれば、100万円という価格が合理的な選択になる場合もあります。

 重要なのは、「100万円だから安い」「築年数が古いから必ず高くつく」と単純に判断することではありません。購入から10年後までに発生する支出と、将来得られる売却代金などを同じ期間で整理し、自分の利用目的に合うかを比較することです。

 総務省の令和5年住宅・土地統計調査では、2023年の全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%に達しています。ただし、空き家には賃貸用、売却用、別荘なども含まれ、地域や物件によって市場性や建物状態は大きく異なります。「空き家が多いから安く買える」「安い空き家なら得になる」という関係が自動的に成立するわけではありません。

 この記事では、地方にある築年数の古い戸建て住宅を仮想モデルとして、100万円で購入した場合の10年間の総費用を試算します。ここで使用する金額は全国平均や統計上の中央値ではなく、判断方法を説明するために設定したモデル値です。実際の費用は、地域、建物状態、固定資産評価額、工事内容、災害リスク、利用方法などによって大きく変わります。

 また、本稿では将来発生する100万円と現在支払う100万円を同じ100万円として合計する単純な名目額計算を基本としています。厳密な投資判断では、物価変動や資金の時間価値を考慮したNPV(Net Present Value・正味現在価値)による比較も必要になります。

100万円で家が買えるなら本当に得なのか

 100万円の空き家を見ると、「家賃を払い続けるより安い」「土地だけでも100万円以上の価値がありそう」「少し修理すれば住めるだろう」「自分で直せば安くなる」「不要になれば売ればよい」「最悪の場合は建物を壊して土地として持てばよい」と考えがちです。

 これらの考え方が正しい物件もありますが、すべて条件付きです。例えば、少し修理すれば住めると思って購入しても、実際には屋根、床、水道、給湯設備、排水設備などを同時に修理しなければならない場合があります。

 土地に価値が残っていると思っていても、接道条件、土地形状、災害リスク、上下水道、境界、再建築の可否などによっては需要が極めて限定されることがあります。また、人口減少地域では、10年後に同額で売却できる保証もありません。

 したがって、最初に考えるべきなのは販売価格ではなく、次の関係です。

10年間の総負担額
=購入価格
+購入時諸費用
+残置物処分費
+入居前修繕費
+10年間の維持管理費
+追加修繕費
+売却・処分時の費用
-利用による収入
-売却価格

 購入価格100万円は、この計算を構成する一項目にすぎません。

購入後に想定外の費用が発生する理由

 通常の中古住宅でも購入後に修繕が発生することがありますが、長期間使われていなかった空き家では、居住中の住宅とは異なる劣化が進んでいる場合があります。換気されなければ湿気がこもり、結露、カビ、木材の腐朽が進む可能性があり、水道設備を長期間使っていなければ配管、蛇口、給湯器、排水口などにも問題が生じることがあります。

 特に注意が必要なのが雨漏りです。居住中なら比較的小さな段階で気付くことができますが、空き家では発見が数年遅れることがあり、最初は屋根だけだった問題が天井材、断熱材、柱、梁、床などへ拡大する可能性があります。

売買価格と建物状態は必ずしも比例しない

 100万円で売られているからといって、修繕費まで安いわけではありません。空き家の価格は建物状態だけではなく、地域の需要、土地条件、売主の事情、相続、管理負担、早期売却の希望などによって形成されます。

物件 販売価格 状態 購入後の特徴
A物件 100万円 屋根・水回り良好 修繕負担が比較的小さい
B物件 100万円 雨漏り・床腐食あり 修繕負担が大きい
C物件 100万円 建物は古いが土地需要あり 将来の売却余地がある
D物件 100万円 接道・再建築に問題あり 処分が難しい

 同じ100万円でも経済的な価値は大きく異なるため、表示価格だけで有利、不利を判断することはできません。

低価格物件ほど諸費用の比率が大きくなる

 例えば1,000万円の住宅で50万円の諸費用が発生すれば購入価格の5%ですが、100万円の住宅で50万円かかれば購入価格の50%です。登記、調査、契約、司法書士報酬などには、物件価格と完全には比例しない費用が含まれるため、低価格住宅ほど諸費用率が高くなる傾向があります。

 さらに、低廉な空き家等の売買については仲介手数料の特例があります。現在は、物件価格800万円以下の宅地・建物について、一定の場合には宅地建物取引業者が依頼者一方から受領できる仲介手数料の上限が税込33万円となり得ます。100万円の物件だから仲介手数料も数万円程度だろうと決めつけず、媒介契約前に金額を確認する必要があります。

今回のモデルケース

 今回は、次の住宅をモデルとします。

項目 仮定条件
購入価格 100万円
建物 木造2階建て
築年数 約45年
建物面積 100平方メートル
土地面積 250平方メートル
利用目的 自己居住
利用期間 10年間
上水道 上水道
排水 浄化槽
駐車場 2台分
空き家期間 5年間
残置物 家具・家電・生活用品あり
建物調査 購入前に実施
10年後 売却を想定

 ここで特に注意したいのが築年数です。2026年時点で築45年なら、おおむね1981年前後の建築となります。建築基準法上のいわゆる新耐震基準は1981年6月1日以降に適用されているため、築45年という情報だけでは、新耐震基準による住宅か、それ以前の基準による住宅かを判断できません。

 したがって実際の物件では、築年数だけでなく建築確認日、耐震診断、耐震改修履歴などを確認する必要があります。旧耐震基準の建物で耐震補強が必要になれば、この記事で設定した修繕費を大きく上回る可能性があります。

 なお、今回の100万円、築45年、100平方メートルという設定は「全国の100万円空き家の平均像」を意味するものではありません。統計的な代表値を示すためには、地域別、築年数別、空き家期間別、建物状態別に多数の物件を調べ、修繕費の中央値や分布まで確認する必要があります。

購入価格以外にかかる初期費用

 100万円の空き家であっても、購入代金以外に複数の費用が発生します。

登記・契約・税金など

 不動産購入では、所有権移転登記、登録免許税、司法書士報酬、不動産取得税、契約書の印紙税などが発生する可能性があります。

 登録免許税の課税標準となる不動産の価額は、原則として実際の100万円という売買価格ではなく、固定資産課税台帳に登録された価格です。このため、「100万円で買ったから登録免許税も100万円を基準に計算される」とは限りません。

 一定の住宅では税の軽減措置を利用できる場合がありますが、自己居住、床面積、建築時期、耐震性能などの条件があるため、個々の物件について確認する必要があります。

 今回のモデルでは次のように仮定します。

項目 試算額
登録免許税・登記関連費用 15万円
仲介・契約関連費用 20万円
不動産取得税など 5万円
建物状況調査 7万円
その他手続費用 3万円
合計 50万円

 この50万円は全国共通の標準額ではありません。固定資産評価額、仲介会社の利用有無、司法書士への依頼内容、軽減措置の適用などによって実額は変わります。

建物状況調査は無駄な費用ではない

 空き家の購入では、建物状況調査を行う価値があります。建物状況調査、いわゆるインスペクション(Inspection・既存住宅の建物状況調査)は、国土交通大臣の登録を受けた既存住宅状況調査技術者講習を修了した建築士が、国の基準に基づいて既存住宅の状況を調べる制度です。

 ただし、建物状況調査は「不具合が存在しないことを保証する検査」ではありません。目視、計測などで確認できる範囲を中心とするため、壁の内部、解体しなければ見えない部分、配管内部などについてすべての問題を発見できるわけではありません。

 それでも、基礎、外壁、構造部、雨水浸入などの劣化事象を専門家が購入前に確認する意味は大きく、100万円の物件に数万円の調査費をかけることを単純に高いと判断するべきではありません。購入後に数百万円規模の構造修繕が判明するリスクを考えれば、調査費は購入判断のための情報取得費と考えることができます。

残置物処分にかかる費用

 空き家には、以前の所有者が使用していた家具、家電、衣類、食器、布団、農機具などが残っている場合があります。内覧写真では片付いて見えても、押し入れ、物置、床下、納屋などに大量の物が残っていることがあります。

 今回は残置物処分を50万円と仮定します。

状態 費用への影響
家具が少ない 比較的小さい
家具・家電が各部屋にある 増加しやすい
倉庫・納屋にも残置物がある 高額化しやすい
大型家電・農機具がある 個別処分が必要になる場合がある
自分で分別・搬出する 現金支出を抑えられる可能性がある

 家庭から排出される廃棄物の収集を業者へ依頼する場合は、自治体の一般廃棄物処理業の許可や委託等を確認することも重要です。産業廃棄物処理業の許可や古物商の許可だけで、一般家庭の廃棄物を自由に収集できるわけではありません。

 自分で片付ければ業者への支払額を抑えられる可能性がありますが、時間という別の費用が生じます。例えば20日間を片付けに使い、自分の時間を1日1万円と評価すれば、時間コストは20万円です。ただし、業者へ50万円支払うケースと自分で作業する20万円を同時に足すのではなく、原則として両者を比較する代替案として考えます。

入居前の修繕費を試算する

 今回のモデルケースでは、購入後すぐに次の工事が必要だったと仮定します。

工事項目 試算額
屋根の部分補修 60万円
外壁・雨どい補修 30万円
床の補修 40万円
台所設備の交換 60万円
浴室・給湯設備の修理 70万円
トイレ交換 25万円
電気設備修理 25万円
水道・排水設備修理 30万円
合計 340万円

 これは全面リフォームではなく、最低限居住できる状態にするという仮定です。内装の全面改修、断熱改修、窓交換、耐震補強、屋根全面葺き替えなどが必要なら、さらに金額が増える可能性があります。

 反対に、屋根、水回り、配管、電気設備などが使用可能であれば、340万円より大幅に低くなる場合もあります。したがって、この340万円を「築45年住宅の平均修繕費」と解釈することはできません。

見た目がきれいでも安心とは限らない

 中古住宅では壁紙、畳、襖など目に見える部分へ注意が向きがちですが、総費用への影響が大きいのは基礎、柱、梁、屋根、雨漏り、床下、シロアリ、給排水管、電気配線、浄化槽、擁壁、境界、接道などです。

 壁紙が古いだけなら居住できることがありますが、雨水が構造部分へ侵入していたり床下が腐朽していたりすれば、安全に居住するために大規模修繕が必要になります。購入前には「見た目をきれいにする費用」と「住宅の安全性や機能を維持する費用」を分けて考える必要があります。

10年間の維持費を試算する

 自己所有住宅でも、購入後の費用がゼロになるわけではありません。今回のモデルでは次のように仮定します。

項目 年間試算額 10年間
固定資産税等 6万円 60万円
火災保険・地震保険等 5万円 50万円
浄化槽管理 4万円 40万円
草刈り・庭木管理 5万円 50万円
小修繕・消耗品 5万円 50万円
合計 25万円 250万円

 都市計画税はすべての地域・物件に課税されるわけではないため、ここでは固定資産税等としてまとめています。実際の税額は土地と建物の固定資産評価額、住宅用地特例の適用状況などによって異なり、保険料も所在地、建物構造、補償内容、災害リスクによって変わります。

 浄化槽についても、単に故障したときだけ費用がかかるわけではありません。浄化槽管理者には保守点検、清掃、法定検査などが必要となるため、使用を続ける間は継続的な管理費を見込んでおく必要があります。

自分で管理する場合も費用はゼロではない

 例えば年間6回、1回3時間の草刈りを10年間続ければ、作業時間は180時間になります。

6回×3時間×10年間=180時間

 自分の時間を1時間2,000円と評価すれば、時間コストは36万円です。ここでも、業者へ支払う草刈り費50万円と時間コスト36万円を単純に加算するのではなく、業者へ依頼する場合と自分で行う場合を比較する必要があります。自分で行う場合には、このほか草刈り機、燃料、刃、保護具、廃棄物処分などの費用も考慮します。

10年間に発生する追加修繕

 築45年前後の住宅では、入居前に修繕しても、その後10年間に別の設備が故障する可能性があります。今回は次のように仮定します。

時期 修繕内容 試算額
3年目 給湯器交換 25万円
5年目 浄化槽関連修理 20万円
7年目 雨どい・外壁補修 25万円
9年目 水道配管修理 30万円
随時 その他修繕 50万円
合計 150万円

 これは予測値ではなく、修繕リスクを計算に入れるための仮定です。実際には何も壊れない可能性もあれば、屋根、配管、給湯器などが重なって故障し、この金額を上回る可能性もあります。

 なお、年間維持費に計上した「小修繕・消耗品」と、この150万円の「追加修繕」は区別して考えます。前者は比較的小規模な部品交換や日常的補修を想定し、後者は給湯器や配管など比較的大きな設備修繕を想定しています。同じ工事を両方へ計上すると二重計上になるため、実際の試算では工事項目を一件ずつ確認する必要があります。

100万円の空き家にかかる10年間の総費用

 以上のモデルをまとめます。

項目 試算額
購入価格 100万円
購入時諸費用 50万円
残置物処分 50万円
入居前修繕 340万円
10年間の維持費 250万円
10年間の追加修繕 150万円
10年後の売却関連費用 30万円
支出合計 970万円

 10年後に50万円で売却すると仮定します。売却関連費用30万円はすでに支出970万円の中へ計上しているため、ここでは売却価格50万円全額を970万円から差し引きます。

10年間の総負担額
=970万円-50万円
=920万円

 別の計算方法を使うなら、売却費30万円を支出側に入れず940万円とし、50万円から売却費30万円を差し引いた手取20万円を控除します。

940万円-20万円=920万円

 どちらの方法でも結果は920万円です。売却費30万円を支出側へ計上したうえで、さらに売却費を差し引いた手取20万円だけを控除すると、売却費を二重に計上することになるため注意が必要です。

 10年間920万円を単純平均すると、1年間では92万円、1か月では約7万6,700円です。

920万円÷10年=年間92万円

920万円÷120か月
=約7万6,700円

 この試算には、電気、ガス、水道、通信、日常生活の自動車費、引っ越し代などは含めていません。購入価格だけを見ると100万円ですが、このモデルでは住宅取得、修繕、維持、売却まで含めた10年間の名目負担額は920万円となります。

10年後に売れない場合はどうなるのか

 920万円という数字は、10年後に50万円で売却できるという仮定の上に成り立っています。売却できなければ50万円の回収はなく、保有を続ける間は固定資産税、保険、草刈り、建物管理などが続きます。

 さらに建物を解体して土地だけを売却する必要がある場合には解体費も発生します。反対に、土地需要があり200万円、300万円で売却できれば実質負担は小さくなります。空き家を購入するときは、購入価格よりも「10年後に誰が、何の目的でこの土地や建物を必要とするか」を考えることが重要です。

賃貸住宅と比較すると本当に高いのか

 同じ地域で家賃月6万円の戸建てを10年間借りるとします。

6万円×12か月×10年
=720万円

 保証料、更新関連費用、借家人向け火災保険などを加え、10年間の住宅関連負担を800万円と仮定します。これも全国平均ではなく、比較のためのモデル値です。

選択肢 10年間のモデル負担
100万円の空き家購入 920万円
家賃6万円の賃貸 800万円

 この条件では購入側が120万円高くなります。ただし、この差だけで「賃貸の方が常に得」と結論付けることはできません。購入住宅の修繕費が少ない場合や、長期間居住する場合、土地価値が残る場合には結果が逆転します。

 購入には、自分の希望に合わせて改修できること、家賃上昇の影響を直接受けないこと、土地を利用できること、ペットや家庭菜園などの自由度が高いことなどの特徴があります。一方、賃貸には大規模な建物修繕を原則として所有者側が負担すること、転居しやすいこと、売却や解体を考えなくてよいことなどの特徴があります。

 したがって、購入と賃貸は費用だけでなく、居住期間、自由度、転居可能性、災害リスク、資産処分の負担まで含めて比較する必要があります。

どの条件なら100万円の空き家が有利になるのか

修繕費が少ない場合

 入居前修繕費が340万円ではなく100万円、追加修繕費が150万円ではなく80万円で済んだとします。この場合、合計310万円の負担が減少します。

入居前修繕の減少
=340万円-100万円
=240万円

追加修繕の減少
=150万円-80万円
=70万円

合計削減
=310万円

 基準ケース920万円から310万円を引けば、10年間の総負担額は610万円となります。

920万円-310万円
=610万円

 この条件なら、10年間800万円と仮定した賃貸より購入側の負担が190万円少なくなります。100万円という購入価格そのものより、修繕費が結果を大きく左右することが分かります。

長期間住む場合

 購入時の登記、契約、残置物処理、初期修繕などは一時的な費用です。そのため、大きな追加修繕が発生しなければ、15年、20年と居住期間が長くなるほど1年当たりの負担は低下する傾向があります。

 ただし、築45年の住宅にさらに20年間住めば築65年程度となるため、大規模修繕、耐震性、給排水設備、屋根、外壁などの更新可能性も同時に考える必要があります。「長く住めば必ず得になる」のではなく、長期利用によって追加される修繕費との比較が必要です。

土地価値が残る場合

 10年後に土地と建物を300万円で売却できれば、50万円で売却するモデルより250万円多く回収できます。反対に買い手が見つからず、建物解体が必要になれば将来負担は増加します。

 低価格空き家では、建物の価値だけでなく、土地が将来も利用できるか、再建築できるか、需要が残るかという出口側の条件が重要です。

自分で修繕できる場合

 大工、内装などの技能があり、自分で合法かつ安全に施工できる部分が多ければ費用を削減できる可能性があります。ただし、電気工事など資格が必要な作業や安全性に直結する施工まで自己判断で行うべきではありません。

 自分で施工する場合も、材料費、工具代、交通費、作業時間、失敗による再施工まで含めて比較しなければ、本当に安くなったかは判断できません。

結論が逆転する損益分岐点

 今回の基準モデルでは購入920万円、賃貸800万円なので、その差は120万円です。

920万円-800万円
=120万円

 したがって、その他の条件が同じなら、購入側の費用が120万円を超えて改善すれば、金銭面だけでは賃貸800万円を下回る可能性があります。

 基準モデルをさらに整理すると、購入価格100万円、購入諸費用50万円、残置物50万円、10年間の維持費250万円、売却関連費用30万円の合計は480万円です。そのため、

10年間の購入負担
=480万円
+入居前修繕費
+追加修繕費
-10年後の売却価格

となります。

 賃貸800万円と等しくなる条件は、

480万円
+入居前修繕費
+追加修繕費
-売却価格
=800万円

なので、

入居前修繕費
+追加修繕費
-売却価格
=320万円

です。

 つまり、このモデルでは「入居前修繕+追加修繕-10年後の売却価格」が320万円より小さければ購入側が800万円を下回り、320万円より大きければ購入側の方が高くなるという単純な基準を作ることができます。

 基準ケースでは、

340万円+150万円-50万円
=440万円

なので、損益分岐点320万円を120万円上回っています。この120万円が、購入920万円と賃貸800万円との差に一致します。

10年間の単純合計だけでは分からないこと

 ここまでの計算では、1年目の100万円と10年目の100万円を同じ価値として扱っています。しかし金融的には、現在の100万円と10年後の100万円には違いがあります。

 例えば、手元に残した資金を預金や投資へ回せる場合には機会費用が存在し、将来の物価上昇によって修繕工事費や保険料が上昇する可能性もあります。また、賃貸住宅なら家賃が将来改定される場合があります。

 より精密に比較する場合には、NPV(Net Present Value・正味現在価値)の考え方を使い、毎年の固定資産税、保険、修繕費、賃料、10年後の売却代金などを現在価値へ換算して比較します。

 もっとも、一般の住宅購入判断では、まず単純な10年間総額を計算するだけでも大きな意味があります。「100万円で買える」という価格表示だけを見て判断する場合と比べれば、実際の負担構造をはるかに正確に把握できます。

10年間の費用を大きく左右する5つの条件

1.雨漏りと構造部分

 屋根、基礎、柱、梁、床下などに重大な問題があると、修繕費は一気に増加します。見た目が古いだけの住宅と、構造部材が腐朽している住宅では、同じ築年数でも経済的価値は大きく異なります。

2.水回りの利用可能性

 台所、浴室、トイレ、給湯器、給排水管、浄化槽をそのまま利用できるかどうかで初期費用は大きく変わります。水回りをまとめて更新すれば、修繕費だけで購入価格を大幅に上回る場合があります。

3.土地の再利用可能性

 建物が利用できなくなったときに、建て替え、売却、駐車場、事業利用など別の用途へ転換できるかを確認します。接道条件を満たさず再建築できない土地では、将来の選択肢が狭くなります。

4.生活に必要な移動費

 住宅そのものが安くても、スーパー、病院、駅、勤務先まで遠く、自動車が不可欠なら生活全体の費用は上昇します。夫婦それぞれに自動車が必要になれば、住宅費の差以上に自動車保有費が増加する可能性もあります。

5.10年後の出口

 自分が住み続けるのか、家族が利用するのか、賃貸するのか、売却するのか、解体するのかを購入前から考えておく必要があります。出口の選択肢が少ない物件ほど将来の不確実性が大きくなります。

安い空き家を買う前に確認したい地域条件

災害リスク

 洪水、土砂災害、津波、高潮、急傾斜地などのリスクは、生命・身体への危険だけでなく、保険料、修繕費、将来の売却可能性にも影響します。海岸近くなら塩害、山間部なら斜面や倒木、積雪地なら屋根や除雪など、地域固有の条件もあります。

 低価格の理由が単なる建物の古さではなく、災害リスクや土地条件にある可能性もあるため、自治体のハザード情報などを購入前に確認する必要があります。

医療・買い物・交通

 地方では直線距離だけではなく、実際の移動時間や公共交通の本数が重要です。病院まで10キロメートルでも、自動車で容易に移動できる地域と、道路条件が悪く公共交通も少ない地域では生活上の負担が異なります。

 スーパー、病院、診療所、薬局、金融機関、役所、駅・バス停、ガソリンスタンド、避難所などへの移動時間を確認し、自動車が何台必要になるかまで含めて判断する必要があります。

人口と将来需要

 人口が減少している地域では、10年後の買い手や借り手が減る可能性があります。ただし、市町村全体の人口が減っていても特定地区では住宅需要が維持されている場合があるため、市町村全体の人口だけで判断することも適切ではありません。

 可能であれば地区別人口、年齢構成、住宅取引件数、空き家数、移住動向などを確認し、「現在安いか」だけでなく「10年後にも需要があるか」を考える必要があります。

固定資産税が安いだけでは判断できない

 低価格の空き家について、「固定資産税が年数万円なら持っていても問題ない」と考えることがあります。しかし実際の維持負担には、固定資産税だけでなく、保険、草刈り、庭木管理、建物点検、小修繕、交通費、自分の管理時間などが含まれます。

年間の保有負担
=固定資産税等
+保険
+庭・敷地管理
+建物点検
+修繕
+交通費
+管理に使う時間

 また、適切な管理が行われず、そのまま放置すれば特定空家等になるおそれがある住宅は「管理不全空家等」として自治体から指導、勧告の対象となる場合があります。勧告を受けると、敷地について固定資産税等の住宅用地特例が適用されなくなる可能性があります。

 空き家を購入することは、使っている間だけではなく、使わなくなった後も所有者として管理責任を負うということです。

補助金があるから買うという判断は危険

 自治体によっては、空き家の取得、改修、家財処分、移住などを対象とした補助制度があります。ただし、対象地域、年齢、移住元、居住期間、世帯構成、空き家バンク登録、申請時期、市内業者の利用、工事内容、所得などの条件が設けられている場合があります。

 特に注意したいのは、契約や工事着手より前の申請を条件とする制度があることです。購入後や工事開始後に制度を知っても対象外になる場合があります。

 また、補助金50万円を受け取れても、購入した住宅に想定外の修繕が300万円発生すれば、補助金だけで経済性が成立するわけではありません。補助制度は採算性そのものを作るものではなく、条件を満たす場合に一部の負担を軽減するものとして扱う方が安全です。

購入前に確認したいチェックリスト

土地・権利関係

  • □ 土地と建物の所有者が一致しているか
  • □ 相続登記が完了しているか
  • □ 抵当権などが残っていないか
  • □ 境界が確認できるか
  • □ 私道負担があるか
  • □ 接道条件を満たしているか
  • □ 再建築できるか
  • □ 越境物がないか

建物

  • □ 雨漏りがないか
  • □ 基礎に重大なひび割れがないか
  • □ 建物に大きな傾きがないか
  • □ 床が沈まないか
  • □ シロアリ被害がないか
  • □ 屋根の修繕履歴を確認したか
  • □ 外壁・雨どいに問題がないか
  • □ 新耐震基準との関係を確認したか
  • □ 必要なら耐震診断を行ったか

設備

  • □ 水道を実際に使用できるか
  • □ 排水に問題がないか
  • □ 浄化槽の状態と管理履歴を確認したか
  • □ 給湯器が使用できるか
  • □ 電気容量が十分か
  • □ 古い電気配線が残っていないか
  • □ ガス設備の条件を確認したか
  • □ 井戸を使う場合は水質を確認したか

費用

  • □ 購入諸費用の見積りを取ったか
  • □ 仲介手数料を事前に確認したか
  • □ 残置物処分費を確認したか
  • □ 入居前修繕費の見積りを取ったか
  • □ 10年間の修繕予備費を設定したか
  • □ 固定資産税額を確認したか
  • □ 保険料を確認したか
  • □ 草刈り・庭木管理費を確認したか
  • □ 売却費用を想定したか
  • □ 売れない場合の解体費も考えたか

地域・生活

  • □ 病院までの実際の移動時間を確認したか
  • □ スーパーまでの移動時間を確認したか
  • □ 公共交通の本数を確認したか
  • □ 自動車が何台必要か
  • □ 災害リスクを確認したか
  • □ 通信環境を確認したか
  • □ 近隣住宅の管理状況を確認したか
  • □ 10年後の住宅・土地需要を考えたか

購入判断を3段階で整理する

第1段階 重大な問題がないか確認する

 最初に、再建築不可、重大な境界問題、大規模な雨漏り、基礎・構造の重大な損傷、受け入れられない災害リスク、上下水道の復旧困難など、価格以前に購入判断を左右する条件を確認します。

 100万円が50万円になったとしても、将来利用できない土地や数百万円の構造補修を必要とする住宅なら、値下げだけで問題が解決するとは限りません。

第2段階 10年間の総費用を計算する

 購入価格だけでなく、購入諸費用、残置物、入居前修繕、10年間の維持費、修繕予備費、売却または解体費まで集計します。

購入判断用総費用
=購入価格
+購入諸費用
+残置物処分
+入居前修繕
+維持管理費
+追加修繕
+将来の処分費
-将来回収額

 この段階で予算を大幅に超える場合は、「補助金が出るかもしれない」「自分で修理できるだろう」という不確定な条件を前提にせず、いったん購入計画そのものを見直す方が安全です。

第3段階 他の選択肢と同じ期間で比較する

 100万円の空き家だけを見ていると非常に安く感じますが、500万円で主要部分を修繕済みの住宅、800万円で状態の良い中古住宅、月5万円や6万円の賃貸住宅などと10年単位で比較すると、別の結論になることがあります。

 重要なのは、100万円の住宅を「買えるか」ではなく、他の選択肢と比べて「10年間利用する合理性があるか」です。

100万円の空き家を活用しやすい条件

 長期間住む予定があり、建物状態を購入前に調査でき、購入資金とは別に修繕予算を確保し、地域の生活条件を理解したうえで、自動車費や将来の売却・解体まで含めて資金計画を立てられる場合には、低価格空き家を合理的に利用できる可能性があります。

 特に、屋根、構造、水回り、配管などの大きな修繕が不要で、再建築可能な土地に一定の需要が残り、10年以上利用できる住宅であれば、100万円という低い取得価格が経済的な利点になる場合があります。

慎重に判断した方がよい条件

 反対に、貯蓄のほとんどを購入代金へ使ってしまう場合、修繕費を調べず写真だけで判断する場合、数年で転居する可能性が高い場合、遠隔地から管理する場合、庭や建物を管理する時間がない場合、将来の売却・解体方法を考えていない場合などは、低価格であることだけを理由に購入するのは危険です。

 特に「購入に使える予算が100万円だから100万円の空き家を買う」という考え方には注意が必要です。住宅を取得するための予算と、購入後に安全に維持するための予算は別に確保する必要があります。

まとめ

 100万円の空き家は、販売価格だけを見れば非常に安く感じます。しかし、今回設定したモデルでは、購入価格100万円に対し、購入諸費用50万円、残置物処分50万円、入居前修繕340万円、10年間の維持費250万円、追加修繕150万円、売却費30万円が発生し、10年後に50万円で売却すると仮定した場合、10年間の総負担額は920万円となりました。

 ただし、この920万円は全国平均でも予測値でもなく、あくまで一つの仮想シナリオです。修繕費が少ない条件では610万円まで低下する一方、大規模な構造補修、耐震改修、解体などが必要になれば920万円を超える可能性もあります。

 今回の賃貸800万円との比較では、購入側との差は120万円です。入居前修繕費、追加修繕費、将来の売却価格が少し変わるだけでも結論は逆転するため、「100万円」という販売価格は購入判断を決める主要変数ではないことが分かります。

 空き家購入で本当に確認すべきなのは、住める状態にするまでいくらかかるか、10年間の維持管理費はいくらか、追加修繕に対応できるか、耐震性や災害リスクに問題がないか、地域で生活するための移動費まで含めても合理的か、そして10年後に売却、賃貸、継続利用、解体などの出口を確保できるかという点です。

 100万円の空き家でも、状態が良く、修繕費が少なく、土地に一定の需要があり、長期間利用できれば合理的な選択になる可能性があります。一方、雨漏り、構造劣化、水回りの全面更新、旧耐震、接道問題、災害リスク、売却困難などが重なれば、購入価格が無料に近くても経済的負担は大きくなります。

 したがって、空き家購入では「いくらで買えるか」ではなく、「取得してから手放すまでに総額でいくら負担するか」を基準に考えることが重要です。購入価格、修繕費、維持費、税金、管理の手間、生活上の移動費、将来の売却可能性を同じ期間で比較して初めて、その100万円の空き家が本当に安いのかを判断できます。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

弊社では、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る