地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

自動車・地域交通

自動車・地域交通

住宅費・交通費・医療・買い物環境を10年間で試算

 千葉県勝浦市は、太平洋に面した温暖な地域で、海、漁港、朝市、比較的涼しい夏、東京方面へ直通する特急列車など、移住先として魅力的に見える条件を備えています。特に東京や千葉市などの都市部から移住を検討する人にとっては、中古住宅を比較的低い価格で取得できる可能性があることも、大きな魅力の一つでしょう。

 しかし、観光で数日滞在することと、実際に10年、20年と生活することは同じではなく、住宅価格が安くても修繕費が必要になる場合があるほか、鉄道駅が存在していても、自宅から駅、病院、スーパーまでの移動に自動車が欠かせない地域があります。さらに、60歳時点では問題なく自動車を運転できたとしても、75歳、80歳になったときにも同じ生活を続けられるとは限らないため、高齢期まで視野に入れた生活設計が必要です。

 勝浦市への移住を検討する場合には、「海が近い」「夏が涼しい」「住宅が安い」といった一つの条件だけを見るのではなく、住宅取得費、修繕費、自動車維持費、医療、買い物、災害リスク、さらには将来の住宅売却可能性まで含めて考える必要があります。

 この記事では、60歳前後の夫婦2人が勝浦市へ移住し、中古戸建てを購入して10年間暮らすケースを一つのモデルとして設定し、住宅費、交通費、医療、買い物環境を検討します。なお、ここで使用する住宅価格や修繕費、自動車費などは、勝浦市全体の統計上の平均値を示すものではなく、移住判断のために一定の条件を置いたモデル試算です。

最初に結論~勝浦市は「場所と生活条件を選べば暮らしやすい」

 勝浦市への移住は、すべての人にとって暮らしやすいとはいえませんが、自動車を利用でき、東京へ毎日通勤する必要がなく、住宅の修繕資金を確保したうえで、駅、スーパー、医療機関への距離と災害リスクを確認しながら住宅を選べる人にとっては、有力な移住先になり得ます。

 一方、自動車を利用せずに生活したい人、東京へ週4~5日通勤する人、大型商業施設や多様な専門店を頻繁に利用する人、高度医療機関へ定期的に通院する必要がある人、あるいは住宅購入に資金を使い切って修繕資金を残せない人には、慎重な判断が必要になります。

 特に重要なのは、勝浦市全体を一つの生活圏として考えないことで、勝浦駅・墨名・新官周辺、興津周辺、海岸部、丘陵部、内陸部では、買い物、医療、交通、災害リスク、自動車への依存度が大きく異なります。そのため、移住判断では単に「勝浦市に住むかどうか」を考えるのではなく、「勝浦市のどの場所に、どのような住宅を選ぶか」まで具体化することが重要です。

1.人口減少と高齢化をどう考えるか

 勝浦市の人口は、2026年6月末時点で1万4,678人、世帯数は7,976世帯で、単純計算すると1世帯当たり約1.84人となります。ただし、この数字だけから高齢者世帯が多いと判断することはできず、高齢化の実態については年齢別人口や国勢調査の世帯構成を確認する必要があります。

 2020年国勢調査を見ると、勝浦市では一般世帯のうち高齢者を含む世帯が半数を超えており、高齢化が進んだ地域であることは統計的にも確認できます。このような人口減少と高齢化は、今後、商店、公共交通、医療、介護、自治会活動、空き家、住宅の流動性など、地域の生活基盤に幅広い影響を与える可能性があります。

 人口が減少する地域では、住宅価格が低下して購入しやすくなる場合がありますが、安く購入できることと、資産として安全であることは同じではありません。例えば、1,000万円で購入した住宅を10年後に800万円で売却できれば価格下落は200万円ですが、長期間買い手が見つからず、修繕や残置物処分を行ったうえで400万円でしか売却できない場合には、実質的な損失は大きくなります。

 したがって、勝浦市へ移住する場合には、住宅を最初から「一生住み続ける場所」と決めつけるのではなく、10年後、20年後に売却、賃貸、住み替えが可能かという撤退可能性まで考えておくことが重要です。

2.夏の涼しさは大きな利点だが、湿気も多い

 気象庁の1991~2020年の平年値では、勝浦の8月平均気温は25.9度、日最高気温の月平均は29.0度で、内陸部や東京都心と比較すると夏の気温が上がりにくい特徴があり、暑熱による身体的負担が比較的小さいことは、特に高齢期の生活では明確な利点と考えられます。

 その一方で、勝浦は湿度が高く、6月の相対湿度は86%、7月88%、8月85%で、年間降水量の平年値も約2,000ミリメートルあります。そのため、「夏が涼しいから住宅管理も容易」とは限らず、住宅を選ぶ際には、床下換気、北側の部屋のカビ、収納内部の湿気、屋根や外壁からの雨漏り、窓や壁面の結露、長期間空き家だった住宅の状態、さらに海風による金属部分の腐食まで確認する必要があります。

 また、「勝浦は涼しいので冷房費が安い」と一律に断定することも適切ではなく、実際の冷房費は外気温だけでなく、住宅の断熱性能、日射、室内湿度、在宅時間、エアコンの効率などにも左右されます。したがって、勝浦の気候については、「暑熱負担を抑えやすく、住宅条件や生活状況によっては冷房費を抑えられる可能性がある」と考える方が正確です。

3.住宅価格1,200万円は「平均」ではなくモデル条件

 今回の試算では、60歳前後の夫婦2人が、築25~35年程度の木造中古戸建てを1,200万円で購入し、自動車1台を保有して10年間暮らすケースを想定します。

項目 モデル条件
世帯 夫婦2人
移住時年齢 60歳・58歳
中古住宅価格 1,200万円
建物 木造・築25~35年程度
自動車 1台
居住期間 10年間
年間走行距離 8,000キロメートル
物価 単純化のため一定とする

 1,200万円という住宅価格は、現在の勝浦市において十分あり得る水準ですが、「勝浦市の標準住宅価格」と断定できるものではありません。勝浦市では都市部に比べて取引件数自体が多くなく、勝浦駅からの距離、新官や墨名、興津などの地区、築年数、土地面積、接道条件、海岸からの距離、災害リスク、建物状態などによって価格差が大きいためです。

 したがって、本記事における1,200万円という金額は、統計上の平均住宅を示すものではなく、10年間の費用構造を具体的に考えるための説明用モデルとして使用します。

4.1,200万円の住宅でも入居までに1,400万円以上かかる可能性がある

 住宅購入価格を1,200万円とした場合でも、実際の移住では住宅代金だけを準備すればよいわけではなく、仲介手数料、登記・司法書士費用、不動産取得税、建物状況調査、保険、引っ越し、残置物処分、入居前修繕などが加わります。

費用 モデル額
住宅購入代金 1,200万円
仲介手数料 46万円
登記・司法書士費用 20万円
不動産取得税等 15万円
建物状況調査 8万円
火災・地震保険初期費用 20万円
引っ越し費用 30万円
残置物処分・清掃 20万円
入居前小規模修繕 100万円
合計 約1,459万円

 仲介手数料46万円程度は、1,200万円の住宅であれば制度上不自然な金額ではありませんが、不動産取得税については住宅の築年、床面積、耐震性能、固定資産評価額などによって軽減措置が適用される場合があるため、15万円という数字はあくまでモデル値です。

 また、入居前修繕が100万円で済むとは限らず、屋根、外壁、給湯器、配管、浴室、床、浄化槽、耐震性などに問題があれば、さらに200万~600万円程度の工事が必要になる可能性もあります。このため、「1,200万円で家が買える」ことと「1,200万円で移住できる」ことは、明確に分けて考える必要があります。

5.10年間の住宅維持費は幅を持って考える

 中古戸建てでは、購入時の費用だけでなく、居住後にも固定資産税、火災・地震保険、設備交換、屋根・外壁修繕、シロアリ対策、防湿対策、庭木管理などの費用が継続的に発生します。例えば10年間で、固定資産税等70万円、保険40万円、小規模修繕100万円、給湯器や設備更新50万円、屋根・外壁修繕150万円、庭木管理50万円、防湿・防カビ・シロアリ対策40万円と仮定すると、合計は約500万円になります。

 ただし、この500万円を「勝浦市の平均的な住宅維持費」と考えることはできず、住宅の大きさ、築年数、構造、海岸からの距離、前所有者の管理状態などによって実際の支出は大きく変わります。また、購入時費用として計上した火災・地震保険20万円が最初の契約期間の保険料を含むのであれば、その後の10年間40万円と期間が重複しないように計算する必要があります。

 このような不確実性を考えると、住宅維持費は一つの金額に固定するよりも、低費用、モデル、高費用という複数のケースで考える方が現実的です。

ケース 購入・入居費 10年間維持費 合計
低費用ケース 1,200万円前後 300万円前後 1,500万円前後
モデルケース 1,459万円前後 500万円前後 1,959万円前後
高費用ケース 1,650万円前後 900万円前後 2,550万円前後

 ここで注意したいのは、安い中古住宅ほど低費用になるわけではないことで、築古、長期空き家、海岸近く、傾斜地、管理不良といった条件が重なると、購入価格そのものは低くても、修繕や維持管理を含めた総費用はむしろ高くなることがあります。

6.最初の1~2年間を賃貸にする考え方

 勝浦市への移住では、最初から住宅を購入する必要はなく、仮に月7万円の住宅を10年間借りれば家賃総額は840万円となり、入居時費用、更新料、保険、引っ越し費用などを加えたモデルでは、10年間で約925万円となります。現在の勝浦市では、夫婦2人が住める住宅について月7万円前後という家賃設定は不自然ではありませんが、都市部ほど物件数が多くないため、これを「勝浦市の平均家賃」と考えるべきではありません。

 また、購入と賃貸を比較するときには、駐車場代の扱いも確認する必要があり、中古戸建てでは敷地内駐車場を想定している一方、賃貸住宅では駐車場が別料金であれば、その費用も10年間の比較に加えなければなりません。

 勝浦市に暮らした経験がない人の場合、最初の1~2年間を賃貸として、湿気、交通、買い物、医療、地域関係、騒音、台風、冬の海風などを実際に経験してから住宅購入へ進む方が、移住後に「想像していた生活と違った」と感じるリスクを抑えやすくなります。

7.東京へ直通できても毎日通勤する負担は大きい

 勝浦駅から東京駅までは、特急「わかしお」を利用すると約1時間半で移動でき、東京方面へ乗り換えなしで移動できることは外房地域の中では大きな利点です。しかし、実際の通勤では、自宅から勝浦駅までの移動、駐車、列車の待ち時間、東京駅から勤務先までの移動も加わるため、鉄道の乗車時間だけで生活負担を判断することはできません。

 例えば、自宅から勝浦駅まで15分、駐車と待ち時間に15分、東京駅から勤務先まで30分とすると、片道約2時間、往復では約4時間となります。年間220日勤務する場合には、通勤時間だけで年間約880時間、10年間では約8,800時間となり、これは24時間換算で約367日分に相当します。

 したがって、月数回または週1~2回東京へ出勤する働き方であれば特急の利便性を生かしやすい一方、週5日の東京通勤を長期間続ける場合には、運賃だけでなく時間と体力の負担も含めて考える必要があります。また、勝浦市には一定の要件を満たす通勤・通学者を対象として特急券購入費の一部を補助する制度がありますが、内容は年度によって変更される可能性があるため、移住時点で最新の条件を確認する必要があります。

8.自動車は地域によっては事実上の生活インフラになる

 勝浦駅周辺に住み、生活範囲を駅、市役所、病院、スーパー周辺に限定すれば、自動車依存をある程度抑えられる可能性がありますが、興津、鵜原、部原、丘陵部、内陸部などでは、住宅から駅、スーパー、医療機関まで距離がある場合も多く、自動車の重要性は高くなります。路線バスは存在するものの、都市部のような頻度で運行しているわけではないため、移住後の生活では自動車1台を保有するケースを基本として考える方が現実的です。

 自動車購入・買い替え差額220万円、税金25万円、自賠責・任意保険80万円、車検・修理80万円、タイヤ・バッテリー40万円、燃料100万円、その他20万円と仮定すると、10年間で約565万円、年間平均約56万5,000円となります。もちろん、この金額は車種、保険条件、年間走行距離、燃費などによって大きく変わりますが、地方移住では住宅価格だけでなく、自動車保有費まで含めて比較することが重要です。

 なお、年間走行距離8,000キロメートルの中に日常の買い物や通院を含めるのであれば、その燃料や車両消耗費を別項目として再び計上すると二重計上になります。そのため、市外通院などの追加費用を別に加える場合には、高速道路料金、駐車料金、あるいは通常の年間8,000キロメートルを超える追加走行など、既存の自動車費と重複しない費用だけを計上する必要があります。

9.買い物はできるが「選択肢の少なさ」が問題になる

 勝浦市にはスーパーマーケットやドラッグストアなどがあり、日常的な食品、生活用品、医薬品を市内で購入することは可能であるため、「勝浦市では買い物ができない」と評価するのは適切ではありません。その一方で、千葉市や茂原市などと比較すると店舗数や業態の選択肢は限られており、特定商品が一店舗にない場合には市外へ移動する必要が生じることがあるほか、衣料品、家具、家電、専門用品などを複数店舗で比較して購入したい場合には、不便を感じる可能性があります。

 つまり、この問題は店舗が存在するかどうかという単純な二者択一ではなく、「何種類の店舗を、何キロメートルの範囲で利用できるのか」という生活動線の問題として考える必要があります。例えば、週2回の買い物で往復15キロメートル自動車を利用すれば、年間走行距離は1,560キロメートルとなるため、住宅価格が100万円安い郊外物件を選んでも、自動車移動に伴う時間、燃料、車両消耗が増えれば、10年間ではその価格差の一部が失われる可能性があります。

10.医療は「基本医療」と「高度医療」を分けて考える

 勝浦市には内科、外科、整形外科、眼科、小児科、歯科などの医療機関があり、塩田病院は救急医療機関として地域医療の中心的な役割を担っているため、基本的な外来診療や一般的な救急対応については、市内に一定の医療基盤があると考えられます。

 しかし、医療機関が市内に存在することと、すべての医療が市内で完結することは同じではなく、高度な心臓血管治療、脳神経外科の専門治療、高度ながん治療、周産期医療、特殊な手術、高度救命救急などについては、市外の医療機関を利用する可能性があります。そのため、老後移住では現在健康であるかどうかだけを見るのではなく、10年後に複数の診療科へ通院するようになった場合まで想定しておく必要があります。

 例えば、市外の医療機関まで往復80キロメートルを月2回通院すれば年間1,920キロメートルとなり、本人の身体的負担に加えて、運転する配偶者や家族の時間、駐車料金、高速道路料金なども必要になります。したがって、移住前には、自分の持病を診療できる医療機関があるか、必要な検査設備が整っているか、専門医の診療日や夜間休日対応はどうなっているか、さらに市内で対応できない場合の紹介先病院と、その病院までの交通手段まで確認しておく方が安全です。

11.地区ごとに生活条件は大きく違う

 勝浦駅、墨名、新官周辺では、鉄道、市役所、病院、スーパーなどへのアクセスが比較的良く、自動車を運転できなくなった後にも生活を維持しやすい可能性がありますが、海や河川に近い区域では、津波、洪水、高潮、塩害などを確認する必要があります。

 興津周辺は鉄道駅があり、海岸に近い生活を楽しめる一方、買い物先が限定され、勝浦中心部への自動車移動が増える場合があります。また、海岸部では津波、高潮、塩害、高台では坂道や徒歩移動の負担というように、同じ地域でも住宅の位置によって異なる問題があります。

 海岸部は、景観、釣り、サーフィン、散歩などの生活価値が高い一方で、塩害、湿気、強風、津波、高潮、台風後の修繕などの負担を抱える可能性があります。これに対して丘陵部や内陸部では、津波リスクを避けられる場所があり、静かな住環境や広い敷地を確保しやすい反面、土砂災害、急傾斜地、狭い道路、倒木、停電、自動車依存などが問題になるため、「海沿いだから危険」「高台だから安全」という単純な判断はできません。

12.災害リスクは市単位ではなく物件単位で確認する

 勝浦市では海岸、河川、丘陵地が近接しているため、津波、洪水、土砂災害の危険度は地区ごとに異なり、場合によっては隣接する土地でも条件が変わります。そのため住宅購入前には、津波浸水想定、洪水浸水想定、土砂災害警戒区域、特別警戒区域、擁壁の状態、過去の浸水履歴、道路寸断の可能性、避難所までの距離、夜間の避難経路などを、物件単位で確認する必要があります。

 特に高齢期には、地図上で避難所が近いというだけでは十分ではなく、急坂や階段を歩いて避難できるか、大雨や停電時にも安全な経路を確保できるか、配偶者の介助が必要になった場合でも避難できるかといった、実際の身体条件まで含めて考えることが重要です。

13.10年間の総費用をどう考えるか

 住宅購入モデルでは、購入・入居費1,459万円、住宅維持・修繕500万円、自動車1台565万円を中心に考えると、この三つだけで約2,524万円となります。ここに浄化槽、地域設備、市外通院に伴う高速道路料金や駐車料金など、年間走行距離8,000キロメートルの自動車費と重複しない追加費用を加えると、10年間の関連支出はおおむね2,500万~2,700万円程度になる可能性があります。

 ただし、この金額には食費、通常の光熱費、通信費、医療費そのものは含まれていないため、「10年間に必要となるすべての生活費」を示しているわけではなく、あくまで住宅と移動を中心とした移住関連費用のモデルです。

 賃貸の場合は、家賃・入居・更新等を約925万円、自動車を565万円とすると、追加費用を除いて約1,490万円となり、単純な現金支出だけを比較すれば、10年間では賃貸の方が少なく見えます。しかし、購入した場合には10年後にも土地と建物が残るため、購入と賃貸を比較する際には、住宅の売却可能額も考慮しなければなりません。

14.購入と賃貸の比較では「売却価格」ではなく「売却手取り額」を見る

 例えば10年後に住宅を1,000万円で売却できたとしても、その1,000万円全額が手元に残るわけではなく、仲介手数料、登記関係費用、残置物処分、必要に応じた修繕費などを差し引く必要があります。そのため、「10年間で2,684万円支出し、1,000万円で売却したので実質負担は1,684万円」と単純に計算するのは正確ではなく、実際には「10年間の購入関連支出-10年後の売却手取り額」で考える必要があります。

 さらに、1,200万円で購入した住宅が10年後にいくらで売れるかについても、一つの金額に固定するべきではなく、1,000万円、700万円、500万円、あるいは売却困難という複数のシナリオを置いて考える方が現実的です。勝浦市の住宅購入で重要なのは、購入時に100万円、200万円安い住宅を探すことだけではなく、10年後にも一定の需要が見込める場所と建物を選ぶことだと考えられます。

15.さらに厳密に比較するなら資金の時間価値を考える

 購入と賃貸を経済的に厳密に比較する場合には、単純な支出合計だけでは不十分であり、住宅を現金購入する場合には1,000万円を超える資金を最初に支払うのに対し、賃貸住宅の家賃は毎月少しずつ支払うため、支払い時期の違いも考慮しなければなりません。

 このような比較では、NPV(Net Present Value・正味現在価値)という考え方を使い、将来の支出や売却代金を現在の価値へ換算して比較します。また、住宅を現金で購入すれば、その資金を預金、国債、投資などに使う機会を失う一方、住宅ローンを利用すれば金利が発生するため、購入と賃貸のどちらが経済的に有利かは、住宅価格と家賃だけでは決まりません。

 したがって、本格的に比較する場合には、住宅の購入価格、家賃、修繕費、10年後の売却手取り額に加えて、住宅ローン金利、現金購入した場合の資金の機会費用、住み替え時期などまで含めて判断する必要があります。

16.勝浦市への移住に向いている生活条件

 勝浦市への移住と相性が良いのは、東京への出勤が少なく、自動車を利用でき、海や自然を日常的に楽しみながら、駅、医療機関、スーパーまでの距離や災害リスクを確認して住宅を選べる人です。さらに、高齢になったときに勝浦駅周辺や都市部、高齢者住宅などへ住み替える資金を残しておける人であれば、長期的な生活リスクを抑えやすくなります。

 一方、自動車を運転しない人、高度医療への定期通院が必要な人、毎日東京へ通勤する人、住宅購入で資金を使い切って修繕費を残せない人、あるいは将来も夫婦2人とも自動車を運転できることを前提としている人は、移住後の生活が現在の想定どおり続かない可能性まで含めて、より慎重に検討する必要があります。

17.移住前には「観光」ではなく「生活」を試す

 勝浦市への移住を決める前には、観光地を見るだけではなく、実際の生活を再現するような滞在を行うことが重要です。平日にはスーパー、病院、市役所、鉄道、道路、金融機関、ごみ集積所などを確認し、雨の日には道路の排水、敷地の水たまり、がけや擁壁、建物内の湿気、雨漏り、避難経路を確認すると、晴天時の内覧だけでは分からない問題が見えてきます。

 さらに、夏には室内の湿度、海風、塩分を含む風、観光客による交通量、草木の成長、虫、冷房の必要性を確認し、冬には日当たり、結露、暖房、海風、日没後の道路、坂道などを確認することで、観光旅行では分からない年間を通じた生活条件を把握しやすくなります。

 可能であれば、勝浦市で暮らした経験がない状態で最初から住宅を購入するのではなく、1年間程度の賃貸生活を経験し、自分たちの生活動線や地域との相性を確認してから購入する方が、移住後の失敗を減らす方法として合理的です。

現実的な結論

 勝浦市は、海、自然、比較的涼しい夏、東京方面への直通特急、基本的な医療機関、スーパーマーケットなどを備えており、地方移住先として一定の生活基盤がありますが、その暮らしやすさは、自動車を利用できること、住宅の場所を慎重に選ぶこと、修繕資金を確保すること、高齢期の交通と医療を考えておくことによって大きく変わります。

 住宅について最も重要なのは購入価格そのものではなく、TCO(Total Cost of Ownership・保有期間中の総費用)で考えることであり、1,200万円の住宅でも、購入諸費用、修繕、自動車などを含めれば、10年間の住宅・移動関連支出が2,500万~2,700万円程度になる可能性があります。ただし、この数字は勝浦市の平均的な移住者が必ず負担する金額ではなく、一定の住宅価格、修繕費、自動車利用などの条件を置いたモデル試算であり、住宅の状態、地区、自動車の利用状況、医療、売却条件などによって結果は大きく変わります。

 また、購入と賃貸を比較するときには単純な支出合計だけを見るのではなく、10年後の売却手取り額、修繕費、住宅ローン金利、資金の機会費用、NPV(Net Present Value・正味現在価値)まで含めて考える方が合理的です。

 勝浦市への移住は、「おすすめできる」「おすすめできない」と一律に結論づけられるものではなく、自動車を利用でき、東京への出勤が少なく、駅、医療機関、スーパーに比較的近く、災害リスクの低い住宅を選び、修繕資金と将来の住み替え資金を残せる人にとっては、暮らしやすい移住先となる可能性があります。一方、安価な海沿いの中古住宅を予算いっぱいで購入し、毎日東京へ通勤し、10年後、20年後にも自動車を運転できることを前提に生活設計を組んだ場合には、住宅価格の安さ以上の負担を抱える可能性があります。

 勝浦市への移住で本当に重要なのは、「海の近くで暮らしたい」という現在の希望だけで住宅を選ぶことではなく、10年後にも、その住宅、その交通手段、その医療環境で生活を続けられるかを、移住前に数字と現地確認の両方で確かめることです。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

弊社では、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

数字で比較するサービスを見る

 都市部では、駅に近い場所に住み、鉄道やバスを利用することで、自家用車を所有しなくても日常生活を送れる地域が少なくありません。一方、公共交通が乏しい地方部では、買い物、通院、通勤、子どもの送迎、金融機関や行政窓口への移動など、生活に必要な行動の多くが自動車を前提として成り立っています。地方における自動車は、単なる便利な道具ではなく、住宅、医療、買い物、福祉、雇用と結び付いた生活基盤の一部だと考える必要があります。

 しかし、この仕組みを今後も維持できるとは限りません。人口減少と高齢化に加え、自動車価格や燃料費、整備費の上昇、路線バスの縮小、運転手不足、ガソリンスタンドの減少などが同時に進んでいるからです。これまで地方では「車があれば移動できる」と考えることができましたが、今後は「車を購入し、維持し、安全に運転し続けられる人だけが自由に移動できる」という社会になりかねません。

 国土交通省が2026年に行った調査では、何らかの対応が必要とされた「交通空白」は全国2,740地区、892市区町村に存在し、その地区の人口は約1,721万人に達しています。「交通空白」は一部の山間部だけに存在する特殊な問題ではなく、全国規模の政策課題になっています。本記事では、個人の車選びだけではなく、家計、高齢化、公共交通、医療、買い物、道路、燃料供給、災害、まちづくりまで含め、「地方で必要な場所へ到達できる状態を、どのように維持するのか」という視点から地域の移動を考えます。

地方では自動車が生活基盤になっている

 地方といっても状況は一様ではありません。鉄道駅の近くや中心市街地では自動車がなくても暮らしやすい地域がありますが、住宅が分散し、商店や病院、学校などが離れている地域では、自家用車への依存度が大きくなります。そのため「地方では必ず車が必要」と一括りにするより、「公共交通や生活施設へのアクセスが乏しい地方部ほど、自家用車への依存度が高い」と考える方が正確です。

 実際、国土交通省の資料では、2021年の地方中心都市圏における鉄道とバスを合わせた交通分担率は1.3%とされており、三大都市圏の中心都市とは大きな差があります。また、地方の乗合バス事業者では2023年時点で89%が赤字となっています。路線廃止の理由として利用者減少だけでなく運転手不足も大きくなっており、「バス路線が存在していれば安心」という状況ではありません。

 自家用車を利用できる人は、好きな時間に買い物や通院ができ、仕事や地域活動にも参加しやすくなります。一方、自動車を利用できない人は、家族の送迎、限られた路線バス、タクシーなどに生活時間を合わせなければならないことがあります。つまり地方の移動問題は、単なる交通手段の問題ではなく、「どの程度自由に生活を選択できるか」という問題でもあります。

車の価格ではなく総保有費用で考える

 自動車には購入価格以外にも多くの費用が発生します。税金、自賠責保険、任意保険、車検、点検整備、タイヤ、バッテリー、エンジンオイル、燃料、故障修理などがあり、駐車場を借りればその費用も加わります。さらに、一定期間使用した後には買い替えが必要になります。

 そこで重要になるのが、TCO(Total Cost of Ownership・総保有費用)という考え方です。例えば10年間使用するなら、「10年間の総保有費用=購入価格+税金+保険料+車検・整備費+燃料費+修理費+駐車場代など-売却価格」と考えることができます。10年や15年といった長期間を厳密に比較するなら、将来発生する費用を現在の価値に換算するNPV(Net Present Value・正味現在価値)の考え方を利用する方法もあります。

 地方では自宅に無料の駐車場所を確保できる家庭も多いため、都市部と比較して駐車場代を抑えられる場合があります。しかし、走行距離が短くても税金、保険、車検などの固定費は発生し、通勤や通院で年間走行距離が長い家庭では、燃料費、タイヤ、消耗部品などの変動費が増えます。さらに地方では、夫婦それぞれが異なる時間に通勤や買い物をするため、一世帯で二台以上の自動車が必要になる場合があり、住宅費だけを見れば都市部より安くても、自動車を二台保有すれば税金、保険、車検、整備、買い替え費用も原則として二台分必要になります。地方移住の経済性を判断するときには、住宅価格だけを見るのではなく、「住宅費+交通費」で比較する必要があります。

安い中古車が長期的にも安いとは限らない

 自動車費用を抑える方法として中古車は有力な選択肢です。新車と比較して購入価格が低く、状態の良い車を適切に選べれば総費用を大きく抑えられる場合があります。しかし、購入価格が安いことと、長期間の総費用が安いことは同じではありません。

 年式が古く走行距離が多い車では、タイヤ、バッテリー、ブレーキ、足回り、エアコン、電装部品などの交換や修理が重なる可能性があります。エンジンや変速機など高額部品に故障が発生すれば、購入時に節約した金額を修理費が上回ることもあります。反対に新車は購入価格が高くても、保証期間があり、購入後数年間の突発的な修理費を抑えやすいという特徴があります。したがって「新車が得か中古車が得か」という問題にも一律の答えはなく、購入価格、予想保有年数、年間走行距離、修理費の不確実性、保証、燃費、売却価格まで含めて比較する必要があります。

軽自動車は有力な選択肢だが、安全性は総合評価が必要

 短距離の買い物や通院が中心で、一人または二人で乗ることが多い地域では、軽自動車は非常に実用的な選択肢です。普通自動車より税負担を抑えやすく、狭い道路や駐車場で扱いやすいことも地方では大きな利点になります。ただし、「維持費が安いから軽自動車が最善」と単純に決めることはできず、高速道路や長距離走行が多い、多人数で乗る、大きな荷物を頻繁に運ぶといった条件では、普通自動車の方が適する場合があります。

 安全性についても、「軽自動車だから危険」「安全装備が充実していれば車体の大きさは関係ない」という両極端な判断は適切ではありません。安全性には、衝突被害軽減ブレーキや誤発進抑制装置などによって事故を防ぐ「予防安全」と、事故が発生したときに乗員を守る「衝突安全」があります。また、車両同士が衝突する場合には重量差や車体構造も影響します。車種を選ぶ際には、先進安全装備、自動車アセスメントによる衝突安全性能、車体の大きさや重量、日常的に走行する道路の状況を総合的に評価する必要があります。

ガソリン車、ハイブリッド車、電気自動車は利用条件で比較する

 現在はガソリン車、HV(Hybrid Vehicle・ハイブリッド車)、EV(Electric Vehicle・電気自動車)など複数の動力方式から選ぶことができますが、どれが最も経済的かは利用条件によって変わります。ガソリン車は車両価格を比較的抑えやすく、給油時間が短く、既存の燃料供給網を利用できる利点があります。HV(Hybrid Vehicle・ハイブリッド車)はエンジンとモーターを組み合わせ、市街地走行や発進停止の多い条件で燃料消費を抑えやすい反面、同一車種のガソリン仕様より購入価格が高い場合があります。

 ハイブリッド車が経済的になるかどうかは、燃費だけでは判断できません。年間燃料費は概念的に「年間走行距離÷実燃費×燃料単価」で計算でき、ガソリン車とハイブリッド車の年間燃料費の差を求め、その差を車両価格差で割れば、何年程度で価格差を回収できるかを概算できます。年間走行距離が短ければ、燃費が良くても車両価格差を回収できない場合があります。

 EV(Electric Vehicle・電気自動車)は、自宅で充電でき、毎日の走行距離がある程度一定している家庭では非常に使いやすい可能性があります。一方、自宅で充電できない集合住宅、長距離移動が多い家庭、周辺に充電設備が少ない地域では不便になる場合があります。充電インフラそのものは拡大しており、資源エネルギー庁によると2025年3月時点の充電設備は全国約6.8万口で、そのうち約1.2万口が急速充電器でした。国は2030年までに30万口の整備を目標としていますが、全国平均で設備が増えていても、自宅周辺や日常の移動経路上に利用しやすい充電器が存在するとは限りません。EV(Electric Vehicle・電気自動車)を選ぶ場合には、全国の設置数よりも、自分の生活圏で実際に利用できる設備を確認することが重要です。

ガソリンスタンドの減少は地域インフラの縮小でもある

 地方で自動車を使い続けるには、車そのものだけでなく、燃料供給網を維持する必要があります。全国のガソリンスタンド、SS(Service Station・給油所)は1994年度末の60,421か所をピークに減少を続け、2024年度末には27,009か所となり、約30年間で半分以下になりました。さらに、2024年度末にはSS(Service Station・給油所)が3か所以下しかない市町村が381あり、最寄りのSS(Service Station・給油所)まで道路距離15キロメートル以上となる地域を含めた「SS過疎市町村」は615市町村に達しています。地域によっては、給油するためにかなりの距離を移動しなければならない問題が既に現実化しています。

 ガソリンスタンドは燃料だけを販売しているわけではありません。地域によっては灯油販売、タイヤやバッテリーの点検、車両トラブルへの対応、災害時の燃料供給なども担います。そのため、ガソリンスタンドの撤退は自動車利用者の不便だけではなく、地域の生活インフラが一つ失われる問題として考える必要があります。

電気自動車にも災害時の利点と弱点がある

 電気自動車については、「停電すれば充電できないから災害に弱い」とだけ評価するのも適切ではありません。停電が長期化すれば充電設備を利用できなくなる可能性がありますが、外部給電機能を備えた電動車は災害時に移動式の非常用電源として利用できます。経済産業省と国土交通省は、EV(Electric Vehicle・電気自動車)のほか、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車、燃料電池車などについて、外部給電機能を備えた車両を災害時の電源として活用することを推進しており、実際に災害時の避難所などへの給電に電動車が使われた事例もあります。

 したがって、災害時の自動車選びでは「ガソリンか電気か」という二者択一ではなく、燃料や電力の供給途絶が何日続く可能性があるのか、自宅充電が可能か、外部給電機能があるか、地域の避難計画がどうなっているかまで含めて考える必要があります。

高齢者の運転は「継続か返納か」の二択ではない

 高齢運転者による事故が起きると運転免許の自主返納が注目されます。認知機能、視力、判断力、身体機能などが低下し、安全に運転することが難しくなれば、運転を続ける危険性を軽視することはできません。しかし、公共交通が乏しい地方では、免許返納によって新たな問題が発生する場合があります。買い物や通院が難しくなり、家族による送迎回数が増え、趣味や地域活動への参加が減り、生活範囲が狭くなる可能性があります。したがって、「事故防止のために返納すれば問題解決」とするだけでは、地方の高齢者交通問題を十分に捉えることはできません。

 必要なのは、運転能力と地域環境に応じて段階的に選択肢を用意することです。夜間や悪天候時の運転を控える、長距離や高速道路を避ける、安全装備の充実した車に変更する、家族送迎やタクシーを併用するなどの方法があります。制度面でも、2022年5月から「サポートカー限定免許」が導入されており、本人の申請によって、衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違い時加速抑制装置などを備え、制度上の対象となる普通自動車に限定して運転することができます。警察庁も、自主返納と従来どおりの運転継続との間にある中間的な選択肢として位置付けています。

 もっとも、安全装備があれば誰でも運転を続けられるという意味ではありません。本人の能力、医師や家族の意見、運転環境、代替交通の有無などを総合的に判断し、最終的には運転をやめる時期も考えなければなりません。

家族による送迎にも見えない費用がある

 地方では公共交通で賄えない移動を家族が補っているケースが少なくありません。高齢の親を病院へ送る、車を持たない家族を買い物へ連れて行く、子どもを学校や習い事へ送るといった移動です。家族間では料金を請求しないため、一見すると無料に見えますが、実際には燃料費、車両の消耗、送迎する人の時間、待ち時間、仕事や家事の日程変更などの負担が発生します。通院そのものが1時間であっても、自宅と病院の往復、診察待ち、薬局などを含めれば半日程度を使う場合もあります。

 経済学的には、このような時間にも機会費用があります。送迎のために仕事を休めば所得が失われる可能性があり、仕事を休まなくても、本来ほかの活動に使えた時間が失われます。公共交通が不足したとき、その負担が消滅するのではなく、家族の無償労働へ移転している場合があることに注意が必要です。

路線バスは「残っているか」ではなく「使えるか」で評価する

 地域交通を考えるとき、路線バスが存在するかどうかだけを見ても十分ではありません。バス停まで遠い、一日に数便しかない、病院の診療時間と合わない、買い物後の帰りの便がない、鉄道への乗り継ぎが悪いといった状態では、路線が存在していても日常生活には使いにくいからです。地方では、利用者が減るため減便され、減便によってさらに使いにくくなり、利用者が一層減少するという悪循環が起こり得ます。

 地域交通の目的は「バスを走らせること」ではありません。「住民が病院へ行って帰れる」「買い物を終えて帰宅できる」「鉄道へ乗り継げる」という生活上の結果を実現することです。そのため、公共交通を評価するときには、単純な便数だけではなく、目的地への到達時間、待ち時間、乗り継ぎ時間、運賃、徒歩距離まで含めて評価する必要があります。

デマンド交通も万能ではない

 利用者からの予約に応じて経路や運行時間を調整するデマンド交通は、人口密度が低い地域で効率的に移動を提供できる可能性があります。固定路線の大型バスを低い乗車率で運行し続けるより、小型車両で需要に応じて運行した方が合理的な地域もあります。

 しかし、デマンド交通にも限界があります。予約が必要で、希望時間に必ず乗れるとは限らず、複数の利用者を乗せることで所要時間が長くなる場合があります。利用区域や目的地が限定される制度もあり、電話やスマートフォンによる予約方法が高齢者にとって利用障壁になる場合もあります。したがって、「デマンド交通を導入した」という事実より、何人が利用しているのか、予約が取れる確率はどの程度か、平均待ち時間は何分か、病院や商店まで何分かかるのか、といった利用実績を確認することが重要です。

タクシーは本当に高いのか

 タクシーは一回ごとの料金を見ると、自家用車より高く感じられます。しかし自家用車には、使用しない日にも税金、保険、車検、減価償却などの固定費が発生します。この固定費を無視して「自家用車ならガソリン代だけで移動できる」と考えると比較を誤ります。例えば年間の自動車固定費をF円、走行1キロメートル当たりの燃料・消耗費をC円、年間走行距離をDキロメートルとすれば、自家用車の年間費用は概念的に「F+C×D」と考えることができ、この金額と年間のタクシー代や乗合交通費を比較すれば、どちらが経済的かを判断できます。

 月数回程度の買い物や通院だけに車を使用する人であれば、車を手放し、タクシーや乗合交通を利用した方が総費用を抑えられる可能性があります。一方、毎日の通勤など頻繁に移動する人では、自家用車の方が低コストになる可能性が高くなります。ただし、地方では「料金を払えばタクシーを使える」とも限らず、運転手不足や事業者の撤退によって時間帯によっては配車できない地域もあります。したがって、タクシーについても料金と供給可能性の両方を考える必要があります。

地方移住では住宅費と交通費を一体で考える

 地方移住では、住宅価格や家賃の安さが大きな魅力になります。しかし、「都市部より家が安いから生活費も安くなる」とは限りません。地方では、自動車の購入、二台保有、燃料、車検、修理などの費用が増える可能性があり、高齢になって運転できなくなれば、タクシー、乗合交通、家族送迎など別の費用や負担が発生します。

 移住時には現在の交通条件だけを見るのではなく、10年後、20年後を考える必要があります。現在は夫婦二人とも運転できても、どちらか一人だけが運転できる時期、二人とも運転しない時期が来る可能性があります。そのとき病院、スーパー、駅、金融機関などへどう移動するのかまで確認して初めて、住宅の本当の生活利便性を評価できます。

医療アクセスは病院までの距離だけでは測れない

 地方で暮らす際には医療機関までの距離が重要ですが、地図上で「病院まで10キロメートル」と分かるだけでは十分ではありません。実際の走行時間、道路事情、夜間や休日の受診先、専門医療を受けられる病院までの距離、公共交通の利用可能性、家族送迎の可否などを確認する必要があります。近くに診療所があっても、高度な検査や手術が必要になれば遠方の総合病院へ通院することがあり、高齢になるほど複数の診療科を受診する可能性も高まるため、運転できなくなった後の交通手段が生活の継続可能性を左右することがあります。

 医療施設が存在することと、その医療を実際に受けられることは同じではありません。地域交通は、医療サービスへのアクセスを実質的に保障するインフラの一つです。

買い物問題は店舗、交通、物流を一緒に考える

 地域にスーパーマーケットが存在していても、車を利用できず、徒歩や自転車では遠い人にとっては利用が困難です。そのため、買い物問題は「店舗を残すかどうか」だけでは解決できません。住民を店舗まで運ぶ路線バスや乗合交通、商品を住民のもとへ届ける宅配、移動販売、地域の買い物支援など複数の方法があり、インターネット注文も有効ですが、操作方法、配送料、配送区域、生鮮食品の選択などに課題があります。

 重要なのは、「人をサービスまで運ぶ方法」と「サービスを人のもとへ運ぶ方法」を分けて考えないことです。交通政策と物流政策を組み合わせることで、人の移動回数そのものを減らせる場合があります。

道路の維持も人口減少社会の大きな課題になる

 人口が減少しても、道路や橋の延長が同じ割合で短くなるわけではありません。少数の住民しか暮らしていない地域でも、救急車、消防車、介護車両、宅配車、除雪車などが通行できる状態を維持する必要があります。しかも道路インフラの老朽化は進んでおり、国土交通省によれば、建設後50年以上が経過した橋梁は2018年度末の約13万橋から2025年度末には約24万橋へ増加しています。地方公共団体では修繕への着手が遅れている橋梁もあり、人口減少とインフラ老朽化を同時に考えなければならない段階に入っています。

 今後は、すべての道路を現在と同じ条件で維持できるかという問題も生じます。救急、通学、物流、災害時の代替経路などを考慮しながら、どの道路を優先的に維持するのかを判断する必要があります。地域交通の問題は車やバスだけではなく、道路資産をどのように管理するかという問題でもあります。

地方の道路には地方特有の危険がある

 地方では交通量が少ないため運転しやすいように見える道路があります。しかし交通量が少ないほど速度が上がりやすい道路もあり、事故件数が少なくても、一度事故が起きた場合の被害が大きくなる可能性があります。また、夜間照明が少ない、歩道がない、カーブや坂道が多い、動物が飛び出す、霧や凍結が発生する、救急搬送に時間がかかるといった要因もあります。そのため、安全な車選びでは、自動車そのものの性能だけでなく、自分が毎日走る道路の危険性を把握することが重要です。

災害時には自動車が避難手段にも危険要因にもなる

 地方では高齢者、乳幼児、障害のある人、重い荷物を持つ人などにとって、自動車が重要な避難手段になる場合があります。一方、多くの住民が同時に車で避難すると渋滞が発生し、冠水、土砂崩れ、倒木などで道路が通行不能になる可能性もあります。特に津波避難では、原則として徒歩避難が基本となる地域があり、自動車による一斉避難が渋滞を起こし、かえって避難を遅らせる危険があります。ただし、徒歩避難が困難な人や避難場所までの距離が長い地域などでは、自動車を利用せざるを得ない場合もあります。

 したがって、「車があるから災害時も安心」と考えるのではなく、災害の種類ごとに避難方法を決めておく必要があります。自宅から避難場所までの徒歩経路、自動車を使う場合の経路、道路が使えない場合の代替策、燃料や電力の確保まで平常時から確認しておくことが重要です。

地域公共交通は運賃収入だけで評価できない

 路線バスや乗合交通は、利用者が少なければ事業単体では赤字になる場合があります。採算だけを見れば、廃止した方が合理的に見える路線もあります。しかし、公共交通を廃止したことで別の行政費用が増えるなら、地域全体では必ずしも節約になりません。例えばバスを廃止した結果、高齢者の通院送迎、学校のスクールバス、福祉輸送などを自治体が別々に用意しなければならなくなれば、公共交通への補助よりも総費用が増える可能性があります。また、家族送迎が増えれば、公費には現れない住民負担も増加します。

 この考え方は「クロスセクター効果」と呼ばれ、国土交通省も地域公共交通の評価に利用することを推奨しています。交通には、医療、福祉、介護、教育、雇用、観光、健康、地域コミュニティなど複数分野への効果があるため、運賃収入と運行費だけで価値を判断することは適切ではありません。ただし、これは「赤字なら何でも維持すべき」という意味ではなく、利用者数、代替手段、行政負担、社会的便益を比較し、公共交通を残す場合と廃止する場合の総費用を検証する必要があります。

自動運転は有望だが、技術だけでは地域交通を救えない

 自動運転は、地域公共交通の運転手不足を補う手段として期待されています。2026年度にも国土交通省は地方公共団体が行う37件の自動運転社会実装事業を支援しており、実証だけでなく実際の交通サービスとして導入する段階へ徐々に進んでいます。

 ただし、自動運転車を導入すれば全国どこでもすぐに無人交通が実現するわけではありません。現在の自動運転は、走行区域、道路条件、速度、天候など一定の条件を設定したうえで運行することが基本です。カメラ、レーダー、高精度地図など複数の技術を組み合わせるため、「白線が薄いから走れない」と単純化することはできませんが、狭い道路、豪雨、降雪、路上駐車、歩行者や自転車、農業車両など地域特有の条件への対応は必要です。

 さらに重要なのが経済性です。運転手が不要になっても、車両購入費、システム利用料、遠隔監視、整備、通信、保険、運行管理などの費用は残ります。人口が非常に少ない地域では、自動運転によって人件費を減らしても採算が成立しない可能性があります。したがって自動運転の本当の課題は、「技術的に走行できるか」だけではなく、「誰が所有し、誰が運行し、誰が費用を負担し、何人が利用するのか」という事業設計にあります。

地域ごとに最適な交通手段は違う

 地方交通に全国一律の正解はありません。人口密度、道路、地形、年齢構成、病院や商店の位置、観光需要などが地域によって異なるからです。人口が比較的集中する地域では定時定路線のバスが効率的な場合があり、住宅が広く分散する地域ではデマンド交通や乗合タクシーが適する可能性があります。買い物需要が中心なら移動販売や宅配を組み合わせ、通院需要が中心なら病院の診療時間に合わせた交通を設計する必要があります。観光地では住民交通と観光客交通を組み合わせることで、利用者を増やせる可能性もあります。

 したがって、最初に「バスを導入する」「デマンド交通にする」と交通手段を決めるのではなく、住民が「どこから、どこへ、何のために、何時ごろ、何人移動するのか」を調査することが先です。その需要に応じて交通手段を設計する方が合理的です。

必要なのは「車か公共交通か」という二者択一ではない

 地方交通では、「自家用車中心を続けるのか、それとも公共交通を充実させるのか」という対立的な議論になることがあります。しかし現実には、どちらか一方だけで地域の移動を支えることは困難です。運転できる人は自家用車を利用し、運転が難しくなれば路線バス、乗合交通、タクシー、家族送迎などへ徐々に移行できる仕組みが必要であり、さらに電動アシスト自転車、小型移動手段、福祉輸送なども組み合わせられます。

 また、すべての問題を「人を移動させること」で解決する必要もありません。買い物では移動販売や宅配を利用でき、医療では訪問診療やオンライン診療を利用できる場合があります。住民をサービスまで移動させる方法と、サービスそのものを住民へ届ける方法を組み合わせることで、必要な交通量を減らせる可能性があります。地域交通政策の目的は、バスや車両を走らせることそのものではなく、住民が医療、買い物、教育、仕事など必要なサービスへ到達できる状態を維持することです。

地域交通は数字で評価する必要がある

 地域交通の議論は、「バスは誰も利用していない」「高齢者はみんな車に乗っている」「タクシーは高い」「電気自動車なら安い」といった印象論に流れやすい分野です。しかし、条件が変われば結論も変わります。自動車については、5年、10年、15年の総保有費用を算出する必要があり、ガソリン車とHV(Hybrid Vehicle・ハイブリッド車)は、購入価格差、実燃費、年間走行距離、燃料単価、売却価格から損益分岐点を求めることができます。自家用車とタクシーについても、自動車の固定費を含めた年間費用と、年間のタクシー利用額を比較すれば合理的な判断ができます。

 公共交通についても同様です。利用者数だけではなく、1人当たり行政負担、目的地到達時間、平均待ち時間、予約成立率、運行1回当たり利用者数、家族送迎を代替した時間などを測ることで、サービスが実際に機能しているかを評価できます。交通政策は「制度を作ったか」ではなく、「住民が必要な場所へ実際に到達できるようになったか」という成果で評価する必要があります。

このカテゴリーで今後検証していくこと

 今後の「自動車・地域交通」カテゴリーでは、新車と中古車を10年間所有した場合の総費用、軽自動車と普通自動車の維持費、ガソリン車とHV(Hybrid Vehicle・ハイブリッド車)の損益分岐点、EV(Electric Vehicle・電気自動車)が地方生活に適する条件、一世帯二台保有の実際の負担などを具体的な数字で検証していきます。さらに、高齢者が安全に運転を続けるための車選び、免許返納後に必要となる交通費、自家用車とタクシーの総費用比較、路線バスとデマンド交通の違い、地方移住前に確認すべき交通条件、病院・商店・駅までの実際の移動時間、ガソリンスタンド減少の影響、自動運転の実用性、災害時の自動車利用などについても検討します。

 特定の車種や交通制度を単純に推奨するのではなく、利用条件、家計、道路環境、地域の人口構造、将来の身体状況まで含め、数字を使って比較することを基本とします。

おわりに

 地方において自動車は重要な生活基盤です。しかし、「自動車が必要な地域であること」と「住民全員がいつまでも自動車を所有し、運転し続けられること」は同じではありません。人口減少と高齢化が進めば、車を購入することが経済的に難しい人、身体的に運転できなくなる人、家族に送迎を頼めない人が増える可能性があります。その一方で、ガソリンスタンド、整備工場、タクシー会社、バス事業者、道路など、現在の自動車社会を支えている側のインフラも人口減少の影響を受けます。

 だからこそ、これからの地方で問われるのは「車を持つべきか」という個人の選択だけではありません。「住民が必要な場所へ移動できる状態を、地域としてどのように維持するのか」という問題です。自動車の購入費、維持費、燃料費、公共交通への補助、家族送迎の時間、道路の維持費は、一見すると別々の問題に見えますが、すべては地域で生活を続けるために社会全体が負担している「移動の費用」です。

 自動車・地域交通を考えることは、単に車やバスについて考えることではありません。医療、福祉、買い物、教育、雇用、移住、観光、防災、そして地域そのものを将来にわたって維持できるかを考えることでもあります。これから必要なのは、特定の交通手段を守ることではなく、人が必要なサービスへ到達できる仕組みそのものを守ることです。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

弊社では、住まい・車・移住などの大きな選択を、 費用や将来条件をもとに数字で比較し、判断できる形に整理しています。

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 地方移住の魅力としてよく挙げられるのが、住宅価格や家賃の安さです。都市部では数千万円する戸建て住宅が、地方では数百万円で売られていることもあり、賃貸住宅についても都市部より低い家賃で広い住宅を借りられる地域があるため、「都市部で家賃を払い続けるより、地方で安い中古住宅を買った方が得なのではないか」と考える人は少なくありません。

 確かに、住宅の購入価格や家賃だけを比べれば、地方移住が大幅に有利に見えるケースがあります。しかし、実際の生活では住宅費だけを支払うわけではなく、自動車、固定資産税、住宅修繕、光熱費、庭や敷地の管理、通院や買い物のための移動、さらに将来その住宅を売却したり処分したりする費用まで含めて考えなければ、本当の経済負担は分かりません。

 そこでこの記事では、60歳前後の夫婦2人が都市近郊の賃貸住宅から地方の中古戸建てへ移住するモデルケースを設定し、住宅、交通、自動車、光熱・水道を中心とした10年間の主要生活固定費を比較します。ここで示す金額は全国共通の平均値ではなく、地方移住の経済性をどのように計算すればよいのかを考えるためのシミュレーションであり、地域、住宅状態、車種、年間走行距離、家族構成などによって結果は大きく変化します。

 なお、今回の基本計算では分かりやすさを優先し、金利、物価上昇、家賃上昇、資金運用による収益などの「お金の時間価値」は直接反映していません。また、食費、通信費、医療費、娯楽費などについても個人差が大きいため中心的な比較から外し、都市近郊と地方で差が生じやすい住宅、交通、自動車、光熱・水道を比較します。

住宅価格だけを比べると地方は大幅に安く見える

 例えば、都市近郊で月8万円の賃貸住宅に住んでいる夫婦が、地方で500万円の中古戸建てを購入するとします。都市近郊で月8万円の家賃を10年間支払えば家賃だけで960万円となるため、500万円の地方住宅と単純に比較すると、地方の方が460万円安く見えます。

8万円 × 12か月 × 10年 = 960万円

960万円 - 500万円 = 460万円

 しかし、この460万円をそのまま地方移住による節約額と考えることはできません。地方住宅を購入すれば、不動産取得時の諸費用、入居前修繕、固定資産税、火災・地震保険、屋根や外壁の修繕、給湯器や給排水設備の交換、庭や敷地の管理などが必要になり、公共交通が少ない地域では夫婦それぞれに自動車が必要になることもあるため、住宅価格の差より自動車費などの差の方が大きくなる可能性もあるからです。

 したがって、地方移住の経済性を見る場合には、「住宅がいくらで買えるか」だけではなく、「その地域で10年間生活するために合計でいくら必要になるか」という視点で比較する必要があります。

全国平均の家賃だけでは移住先を判断できない

 総務省統計局の2023年住宅・土地統計調査によると、借家のうち専用住宅の全国平均家賃は1か月当たり5万9,656円で、2018年と比べ7.1%上昇しています。しかし、この数字は全国平均であり、東京圏などの都市部と地方都市、農村部では家賃水準が大きく異なるほか、同じ自治体の中でも駅からの距離、住宅面積、築年数、駐車場の有無などによって条件は変わります。

 このため、実際に移住を検討する際には、全国平均をそのまま当てはめるのではなく、現在住んでいる地域で実際に負担している家賃と、移住候補地の住宅価格や募集家賃を個別に比較することが重要です。今回は比較を分かりやすくするため、都市近郊の家賃を月8万円と仮定します。

今回のモデルケース

都市近郊で暮らし続ける場合

項目 条件
世帯 60歳前後の夫婦2人
住宅 賃貸住宅
家賃 月8万円
更新料等 2年ごとに8万円
駐車場 月1万2,000円
自動車 1台
年間走行距離 6,000キロメートル
買い物 自動車、徒歩、公共交通
病院 自動車または公共交通で20分以内
比較期間 10年間

地方へ移住する場合

項目 条件
世帯 同じ夫婦2人
住宅 中古戸建て購入
購入価格 500万円
建物 築35年の木造戸建て
土地 250平方メートル
入居前修繕 200万円
自動車 普通車1台+軽自動車1台
年間走行距離 2台合計1万5,000キロメートル
買い物 自動車で片道10キロメートル程度
病院 自動車で片道20キロメートル程度
比較期間 10年間
10年後 住宅を売却すると仮定

 このモデルでは、食費や通常の日用品費については都市近郊と地方で大きく変わらないものとして比較から外しますが、実際には近隣店舗の価格、宅配利用、家庭菜園などによって差が生じるため、個別の移住計画では必要に応じて追加して計算する必要があります。

都市近郊で10年間暮らす住宅費

 家賃月8万円を10年間支払えば960万円となり、これに2年ごとの更新料を4回として32万円、2年間で2万円程度の火災保険等を5回として10万円、10年後の退去時負担を10万円と仮定すると、住宅関係の支出は合計1,012万円になります。

項目 10年間
家賃 960万円
更新料等 32万円
火災保険等 10万円
退去時負担 10万円
合計 1,012万円

 賃貸住宅では10年間家賃を払い続けても土地や建物は資産として残りませんが、その一方で、固定資産税や屋根、外壁、給排水設備などの大規模修繕を直接負担する必要はなく、仕事や家族構成、健康状態など生活条件が変化した場合にも比較的容易に転居できるという利点があります。

地方住宅では500万円の住宅が500万円では済まない

 地方で500万円の中古住宅を購入するとしても、実際の初期費用は購入価格だけではありません。登記関係費用、税金、司法書士報酬、不動産仲介関係費用、建物調査などを合わせて80万円、さらに築35年の住宅を最低限安心して使用するための入居前修繕を200万円と仮定します。

入居前修繕 試算額
屋根・雨どい 40万円
外壁補修 20万円
台所 35万円
浴室・給湯設備 45万円
トイレ 20万円
床・内装 20万円
電気・水道 20万円
合計 200万円

 購入価格500万円に購入諸費用80万円、入居前修繕200万円を加えると、入居までに必要な住宅関係費用は780万円となります。

500万円 + 80万円 + 200万円 = 780万円

 低価格の中古住宅では、住宅本体の価格が安いからといって登記、仲介、調査などの費用まで比例して安くなるとは限らず、結果として購入価格に対する諸費用の割合が高くなることがあります。そのため、「500万円の家だから600万円程度あれば十分」と考えるのではなく、購入前に諸費用と修繕費を分けて見積もる必要があります。

地方住宅では購入後も維持費が続く

 住宅を所有すると、購入後も固定資産税、火災・地震保険、敷地管理、小修繕などの支出が継続します。今回のモデルでは、固定資産税等を年間6万円、火災・地震保険等を5万円、草刈りや庭木管理を5万円、浄化槽管理を4万円、小修繕を5万円とし、年間25万円、10年間で250万円とします。

項目 年間 10年間
固定資産税等 6万円 60万円
火災・地震保険等 5万円 50万円
草刈り・庭木管理 5万円 50万円
浄化槽管理 4万円 40万円
小修繕 5万円 50万円
合計 25万円 250万円

 ここで注意したいのは、固定資産税は中古住宅の購入価格から単純に決まるわけではなく、固定資産税評価額、土地や建物の条件、住宅用地に対する軽減などによって変わることです。そのため、実際の購入判断では売主側の課税明細などを確認することが重要であり、下水道が整備されている地域では浄化槽管理費が不要になる一方、上下水道料金や地域特有の負担が生じる場合もあります。

築35年住宅では臨時修繕も考えておく

 中古住宅では、購入時に一定の修繕を行ったとしても、その後10年間に設備の故障や追加補修が発生する可能性があります。今回のモデルでは、購入時に交換していない設備や、その後の使用によって新たに劣化した部分を対象として、10年間で150万円の追加修繕を見込みます。

時期 内容 試算額
3年目頃 空調・給湯関連など 25万円
5年目頃 浄化槽・排水関係 20万円
7年目頃 外壁・雨どい補修 25万円
9年目頃 給排水設備 30万円
随時 その他の故障・補修 50万円
合計 150万円

 実際の修繕額は住宅の状態によって大きく変わり、屋根、基礎、配管などに重大な問題があれば数百万円単位の追加費用になることもありますが、反対に、購入前に十分な改修が行われている住宅であれば今回の150万円を大きく下回る可能性もあります。したがって、築年数だけを見るのではなく、建物の状態と過去の修繕履歴を確認することが重要です。

10年後にいくらで売れるかが大きな変数になる

 持ち家と賃貸を比較するときには、住宅購入に支払った金額だけでなく、10年後にどの程度の資産価値が残っているかも考える必要があります。今回のモデルでは、500万円で購入した住宅を10年後に300万円で売却し、仲介、片付け、登記その他の売却関連費用として50万円かかると仮定するため、売却手取額は250万円となります。

300万円 - 50万円 = 250万円

 ただし、この250万円は保証された金額ではなく、地方住宅の将来価格は人口動態、駅や商業施設との距離、土地価格、接道状況、上下水道、災害リスク、建物状態などに強く左右されます。特に低価格地域では建物価格がほぼゼロになり、土地そのものの価値が住宅全体の売却価格を左右することもあるため、「500万円で購入したのだから10年後にも300万円程度では売れるだろう」と考えるのは危険です。

 実際の移住計画では、国土交通省の不動産情報などを使って候補地域の実際の取引価格を確認し、将来売却価格については強気、標準、慎重という複数の条件で試算する方が安全です。

地方住宅の10年間の住宅負担

項目 試算額
購入価格 500万円
購入諸費用 80万円
入居前修繕 200万円
10年間の維持費 250万円
追加修繕 150万円
支出合計 1,180万円
10年後売却手取 ▲250万円
売却手取控除後負担 930万円

 都市近郊の賃貸住宅が1,012万円であるのに対し、地方住宅は930万円となるため、住宅だけを比較すれば地方の方が82万円少なくなります。しかし、その差は10年間で82万円、1か月当たりでは約6,800円にすぎません。

 最初に「都市近郊の家賃960万円」と「地方住宅の購入価格500万円」だけを比べた段階では460万円の差がありましたが、購入諸費用、修繕、税金、維持管理、売却価値まで含めると差は82万円まで縮小します。このことからも、地方移住の経済性を住宅の表示価格だけで判断すると、実際の負担を大きく見誤る可能性があることが分かります。

地方移住の損得を大きく左右する自動車

 地方移住では、住宅費以上に自動車が家計を左右する場合があります。都市近郊では夫婦で1台を共有し、徒歩や公共交通を併用できる家庭であっても、地方では勤務先、買い物、通院などの時間が異なるため、夫婦それぞれに自動車が必要になることがあるからです。

 政府の家計調査でも、自動車購入、燃料、整備、自動車保険などは自動車等関係費として家計支出の重要な一分野となっていますが、全国平均には自動車を保有していない世帯や購入時期の異なる世帯も含まれます。このため、地方移住を検討するときには平均額をそのまま使用するより、必要な台数と実際の年間走行距離を設定して計算する方が適切です。

都市近郊の自動車・交通費

項目 年間相当額 10年間
車両購入・買替え相当 25万円 250万円
燃料費 8万円 80万円
自動車保険 6万円 60万円
税金・車検 7万円 70万円
整備・タイヤ 5万円 50万円
駐車場 14万4,000円 144万円
公共交通費 6万円 60万円
合計 714万円

地方の自動車・交通費

項目 年間相当額 10年間
2台の購入・買替え相当 40万円 400万円
燃料費 20万円 200万円
自動車保険 11万円 110万円
税金・車検 12万円 120万円
整備・タイヤ 9万円 90万円
駐車場 0円 0円
公共交通費 2万円 20万円
合計 940万円

 この条件では、地方の自動車・交通費は都市近郊より10年間で226万円高くなります。住宅では地方が82万円有利でしたが、自動車・交通費では226万円不利になるため、住宅費と交通費を合わせると地方側が144万円高くなり、住宅価格の安さだけでは自動車2台分の負担を吸収できない結果になります。

940万円 - 714万円 = 226万円

226万円 - 82万円 = 144万円

自動車を2台から1台へ減らせれば結果は大きく変わる

 地方でも夫婦で1台を共有できるのであれば、2台目の車両購入費、自動車保険、税金、車検、整備などを削減できます。ただし、自動車を2台から1台にしたからといって地方で必要な走行距離そのものが半分になるわけではなく、買い物や通院までの距離は変わらないため、燃料費については2台目の費用をそのまま全額削減できると考えるのではなく、1台へ集約した後の年間走行距離を改めて計算する必要があります。

 今回、説明用として2台目を持つことによる追加負担を10年間で約300万円と置けば、地方側の総負担は2,270万円から1,970万円へ低下し、都市近郊の2,046万円より76万円少なくなります。

2,270万円 - 300万円 = 1,970万円

2,046万円 - 1,970万円 = 76万円

 このように、自動車を何台保有しなければならないかは、地方移住の経済性を大きく左右します。「地方だから安いか」という比較よりも、移住候補地で夫婦それぞれに自動車が必要なのか、1台を共有できるのかという生活動線の方が、実際の家計には大きな意味を持つ場合があります。

地方の戸建ては光熱費が安いとは限らない

 地方では住宅価格が安くても、都市部の集合住宅より住宅面積が広くなりやすく、築年数の古い戸建てでは断熱性能が低い場合もあります。環境省の家庭部門の調査でも、戸建住宅世帯は集合住宅世帯より年間のエネルギー支払額が高い傾向が確認されているため、地方へ移住すれば光熱費まで自動的に下がると考えるのは適切ではありません。

 今回のモデルでは、電気・ガス、水道その他を合わせて都市近郊を年間32万円、地方を年間40万円と仮定します。

項目 都市近郊 地方
電気・ガス等 年24万円 年30万円
水道・設備関連 年8万円 年10万円
年間合計 32万円 40万円
10年間 320万円 400万円

 この金額は全国統計から直接導いた平均値ではなく、あくまで今回のモデルにおける説明用の仮定です。実際の光熱費は気候、住宅面積、断熱性能、給湯方式、太陽光発電の有無などによって大きく異なるため、個別の移住計画では現在の実績値と候補住宅の条件から推定する必要があります。

住宅・交通・光熱費を合計すると地方が224万円高くなる

項目 都市近郊 地方
住宅 1,012万円 930万円
自動車・交通 714万円 940万円
光熱・水道等 320万円 400万円
10年間合計 2,046万円 2,270万円

 今回設定した条件では、地方移住後の主要生活固定費は10年間で2,270万円となり、都市近郊の2,046万円より224万円高くなります。10年間で224万円という差は、1年当たりでは22万4,000円、1か月当たりでは約1万8,700円に相当します。

224万円 ÷ 120か月 = 約1万8,700円

 ただし、この224万円は「地方移住すると平均して224万円高くなる」という統計的な結論ではありません。家賃8万円、地方住宅500万円、入居前修繕200万円、自動車2台、年間走行距離1万5,000キロメートル、10年後の売却手取250万円など、今回設定した条件を前提とした結果であり、条件が一つ変わるだけでも結論が逆転する可能性があります。

 したがって、この記事で重要なのは224万円という金額そのものではなく、住宅修繕、自動車台数、光熱費、将来売却価格などのどの要因が、地方移住の負担をどの程度増減させているのかを把握することです。

都市近郊の家賃はいくらなら損益が逆転するのか

 今回のモデルでは都市近郊の家賃を月8万円としていますが、その他の条件を変えず、更新料も家賃1か月分として連動すると仮定すると、地方側の2,270万円とほぼ同じになる都市近郊の家賃は月約9万8,000円です。

 したがって、このモデルでは都市近郊の家賃が月8万円程度であれば地方側の方が高くなりますが、家賃が月10万円前後になると両者の総負担は近づき、それを超えて高くなるほど地方移住が金銭的に有利になりやすくなります。逆に言えば、「地方住宅が500万円だから安い」と判断するより、現在支払っている家賃、駐車場代、自動車台数などを使って自分自身の損益分岐点を計算する方が、実際の移住判断には有効です。

移動時間や住宅管理時間も生活上のコストになる

 金銭支出とは別に、地方生活では買い物、通院、行政手続、庭や住宅の管理に時間を使う場合があります。例えば、地方移住によって買い物に週1時間、通院・薬局に月2時間、行政・金融関係に月1時間、住宅・敷地管理に月4時間の追加時間が発生すると仮定すると、年間136時間、10年間では1,360時間になります。

 この時間を仮に1時間1,500円で評価すると204万円相当になりますが、これは実際に204万円を支払うという意味ではなく、退職後の時間を1時間いくらと評価するかも人によって大きく異なります。そのため、現金支出2,270万円に204万円をそのまま加えるのではなく、10年間で1,360時間を運転や住宅管理に使う生活を本人が負担と感じるのか、それとも庭仕事や運転を生活の一部として楽しめるのかを考えるための参考値として扱う方が適切です。

都市部で通勤している場合は逆方向の時間効果もある

 地方移住によって退職したり在宅勤務へ移行したりするのであれば、都市部での通勤時間が減少する可能性があります。総務省の2021年社会生活基本調査でも、神奈川県、千葉県、東京都、埼玉県などでは平日の通勤・通学時間が長い傾向が示されており、都市近郊で長時間通勤をしている人にとっては、地方移住によって失われる時間より、取り戻せる時間の方が大きくなる場合があります。

 仮に現在の往復通勤時間が1時間30分、年間勤務日数が240日であれば、年間の通勤時間は360時間、10年間では3,600時間になります。

1.5時間 × 240日 × 10年 = 3,600時間

 地方移住によってこの時間が大幅に減るのであれば、買い物や通院のための移動時間が増えても、生活全体の移動時間は減少する可能性があります。そのため、時間を比較するときには、地方移住によって新たに増える時間だけでなく、通勤や混雑など移住によって減少する時間も同時に計算する必要があります。

20年、30年住めば購入が必ず有利になるわけではない

 住宅購入時の登記費用や仲介費用などは一度だけ発生するため、同じ住宅に長期間住めば1年当たりの初期費用は小さくなり、この意味では3年から5年で再移住する場合より20年以上住む方が住宅購入の経済性は高くなりやすいと考えられます。

 しかし、居住期間が長くなるほど、屋根、外壁、給排水設備、浴室、給湯器などの大規模修繕が必要になる可能性も高くなるため、「長く住めば必ず購入の方が安い」と単純には言えません。特に60歳前後で地方へ移住する場合には、10年間だけではなく、その後75歳、80歳となったときにもその住宅で暮らし続けるのか、途中でより便利な地域へ再移住するのかまで含めて考える必要があります。

お金の時間価値を考えると比較はさらに複雑になる

 今回の基本計算では、現在支払う100万円と10年後に受け取る100万円を同じ金額として扱っていますが、金融的には現在のお金と将来のお金の価値は同じではありません。例えば年2%程度の割引率で考えると、10年後に受け取る250万円の現在価値は約205万円となるため、10年後の住宅売却手取を現在の250万円と同じ価値として扱う今回の単純計算は、購入側をやや有利に見せる可能性があります。

 一方で、都市近郊の家賃960万円も全額を現在支払うわけではなく、10年間にわたって支払うため、こちらも現在価値へ換算しなければ厳密な比較にはなりません。より精密に比較する場合には、NPV(Net Present Value・正味現在価値)を用いて各年の支出と10年後の売却収入を現在価値へ換算する方法がありますが、一般的な移住判断では、まず現在価格による10年間の総負担を比較し、必要に応じて金利や資金運用の影響を加える方法でも実用上は十分です。

地方移住の3つのシナリオ

 地方住宅では、修繕費、自動車台数、将来売却価格などの不確実性が大きいため、一つの条件だけで判断せず、楽観、標準、慎重という複数のシナリオを作る方が安全です。

条件 楽観 標準 慎重
入居前修繕 50万円 200万円 400万円
自動車 1台 2台 2台
追加修繕 80万円 150万円 300万円
10年後売却手取 400万円 250万円 50万円
10年間総負担 約1,600万円 約2,270万円 約2,820万円

 標準シナリオ2,270万円に対して、慎重シナリオでは入居前修繕が200万円増え、追加修繕が150万円増え、10年後の売却手取が200万円減るため、10年間総負担は約2,820万円になります。このように、地方移住の経済性は住宅購入価格そのものより、修繕費、自動車台数、売却可能性といった条件によって大きく変化するため、標準条件だけではなく、慎重シナリオになっても家計を維持できるかを確認することが重要です。

地方移住が有利になりやすい条件

 今回の標準モデルでは地方側が224万円高くなりましたが、自動車を1台で生活できる、入居前修繕が少なくて済む、都市部で高い家賃や駐車場代を支払っている、比較的長期間居住する予定がある、将来も一定の住宅価値が残るといった条件が重なるほど、地方移住は金銭的に有利になりやすくなります。

 例えば、都市部の駐車場代が今回の月1万2,000円ではなく月3万円であれば、10年間では360万円となり、今回の条件より216万円増えることになります。この差だけでも標準モデルにおける地方側の224万円の不利の大部分が解消されるため、現在の家賃と駐車場代が高い世帯ほど、地方移住による住宅・駐車費の削減効果は大きくなります。

 反対に、地方でも自動車を2台保有しなければならず、築古住宅で大規模修繕が必要となり、さらに10年後にはほとんど売却できないという条件が重なれば、住宅の購入価格そのものが安くても、総負担では都市近郊を大きく上回る可能性があります。

60歳前後の移住では自動車を運転できなくなった後も考える

 60歳で地方へ移住する場合、今回の10年間比較が終わる70歳前後は、まだその後の生活が長く続く可能性があります。現在は夫婦とも問題なく自動車を運転できたとしても、75歳、80歳となったときに同じような生活を続けられるとは限らないため、現在スーパーまで自動車で15分だから問題ないという判断だけでは不十分です。

 将来自動車を運転しなくなった場合でも食品を購入できるのか、病院や薬局へ行けるのか、タクシーやデマンド交通を利用できるのか、食品宅配や移動販売が利用できるのかといった条件まで確認する必要があります。また、自治体に地域交通制度が存在していても、自宅の地区が運行区域外であったり、利用できる曜日や時間帯が限られていたりする場合があるため、「地域交通がある」という名称だけで判断せず、自宅から病院やスーパーまで実際に利用可能かを確認することが重要です。

移住前には実際の生活動線を試す

 地図上でスーパーまで10キロメートル、病院まで20キロメートルと表示されていても、実際の生活負担は距離だけでは決まりません。道路幅、信号、渋滞、坂道、積雪、夜間の暗さ、ガソリンスタンドの位置、病院や商業施設の駐車場から入口までの距離などによって、同じ10キロメートルでも負担は大きく変わります。

 そのため、移住候補地を訪れる際には観光地だけを見るのではなく、実際に朝の時間帯にスーパーへ行き、病院まで運転し、夜間や雨天時にも道路状況を確認すると、移住後の生活を具体的に想像しやすくなります。可能であれば数日から数週間程度試住し、買い物、通院、給油、ごみ出しなどの日常生活を実際に体験する方が、住宅価格や地図だけを見て判断するより移住後の生活とのずれを小さくできます。

費用が高くても地方移住が合理的な場合はある

 今回の標準モデルでは地方移住の方が10年間で224万円高くなりましたが、これは地方移住に価値がないという意味ではありません。月額に換算すれば約1万8,700円であり、その追加負担によって広い住宅、庭、静かな環境、趣味の作業空間、ペットとの生活、自然環境などが得られるのであれば、その人にとって十分に合理的な支出になる可能性があります。

 一方で、住宅が安いという理由だけで移住したものの、実際には毎日の運転、草刈り、住宅修繕、買い物や通院の移動を負担に感じるのであれば、金銭面だけでなく生活満足度の面でも不利になる場合があります。したがって、移住判断では金額と生活価値を一緒にして考えるのではなく、まず10年間に必要となる金額を計算したうえで、「その差額を支払ってでも得たい暮らしなのか」と考える方が整理しやすくなります。

地方移住で重要なのは住宅価格ではなく総負担

 今回のモデルケースでは、都市近郊の住宅、自動車・交通、光熱・水道を合わせた10年間の主要生活固定費は2,046万円となり、地方移住後は2,270万円となったため、標準条件では地方側が224万円高くなりました。しかし、この差を生んだ主要因は500万円という住宅購入価格ではなく、住宅修繕、自動車2台の保有、戸建住宅の光熱・管理負担であり、逆に自動車を1台で生活できる地域を選び、状態の良い住宅を購入し、現在の都市部で高い家賃や駐車場代を支払っているのであれば、地方側が有利になる可能性があります。

 したがって、地方移住を検討するときに確認すべきなのは「地方の家はいくらで買えるのか」という一点ではありません。現在の住宅費、自動車費、交通費、光熱費を実績から把握したうえで、移住後に必要となる住宅取得費、維持管理費、自動車費、10年間の臨時修繕、さらに10年後の売却や再移住までを同じ条件で比較することが重要です。

 地方移住は必ず生活費が安くなる方法でもなければ、必ず都市生活より不便になる選択でもありません。住宅、交通、家族構成、仕事、年齢、健康状態、地域の利便性、将来の住み替えまで含めて考えて初めて、その人にとって経済的に合理的な移住なのかを判断できます。

 特に60歳前後からの移住では、現在から10年間だけを見るのではなく、70歳、75歳、80歳になったときにもその住宅と地域で暮らし続けられるかという視点が欠かせません。住宅価格の安さは地方移住を考える入口の一つにすぎず、本当に比較すべきなのは、その場所で長く暮らし続けるために必要となる住宅、交通、維持管理を含めた総負担なのです。

参考にした主な公的統計・制度資料

 家賃については総務省統計局「2023年住宅・土地統計調査」、通勤・通学時間については総務省統計局「2021年社会生活基本調査」、住宅形態別のエネルギー支出については環境省「家庭部門のCO2排出実態統計調査」、地域別の不動産取引価格については国土交通省「不動産情報ライブラリ」などを参考にしています。

 ただし、これらの全国統計は個々の移住世帯の費用を直接示すものではなく、実際に移住を検討するときには全国平均よりも、現在の家計実績と移住候補地の住宅価格、税金、交通条件、修繕見積りを使って個別に計算することが重要です。

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