地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

駅前を見ただけでは、その町の現在は分からない

 地方の町を訪れ、駅を降りた瞬間に「ずいぶん寂れた町だ」と感じることがある。駅前広場には人影が少なく、かつて銀行や衣料品店、食堂などが並んでいた商店街にはシャッターを下ろした店舗が目立ち、少し歩いただけでは日用品を買う店さえ見つからない。ところが、そこから数km離れた国道や主要県道へ出ると風景は一変し、大型スーパー、ドラッグストア、ホームセンター、家電量販店、衣料品店、飲食店、携帯電話ショップ、ガソリンスタンドなどが並び、広い駐車場には絶えず車が出入りしていることがある。

 かつて駅は「町の玄関」であり、その周囲が町の中心であることはほとんど疑われなかったが、現在の地方都市では、行政上の中心地と住民が日常的に利用する生活の中心地が一致しない場合が珍しくない。駅前だけを見れば衰退しているように見える町でも、数km離れた幹線道路沿いでは盛んに消費活動が行われており、この違いを理解するには、単純に「地方の人口が減ったから」と考えるだけでは十分ではない。

 重要なのは、人口が何人いるかだけではなく、その人々が毎日どのように移動し、どこを通り、どこで時間とお金を使っているのかということである。町の商業は人口分布だけで決まるものではなく、人の移動経路によって形を変えるため、地方の駅前と国道沿いの明暗は、日本人の生活様式そのものが変化してきた結果として捉える必要がある。

鉄道の時代には駅が人の流れを独占していた

 鉄道が主要な交通手段だった時代には、駅前が栄える理由は非常に明快だった。通勤する人も、学校へ通う学生も、買い物に出る人も、遠方へ出かける人も駅を通り、朝から夜まで一定量の人の流れが生まれていたため、その途中に商店、食堂、銀行、映画館、旅館などが立地すれば自然に客を取り込むことができたのである。

 鉄道そのものに商業を繁栄させる特別な力があったわけではなく、駅前が強かった最大の理由は、多くの人がそこを必ず通過していたことにある。その意味では、駅は巨大な交通装置であると同時に、人を集約する装置でもあった。

 ところが自動車が家庭へ普及すると、この構造が徐々に崩れていった。自宅から勤務先へ車で向かい、帰宅途中にスーパーへ寄り、ドラッグストアで日用品を買い、子どもを迎えに行ってから帰宅するという生活であれば、1日の間に駅前を1度も通らないことも珍しくなく、駅が不便になったというより、住民の生活経路そのものから駅が外れていったのである。

地方では、自動車が生活の中心的な交通手段になった

 この変化は印象論だけではなく、国の交通統計にも表れている。国土交通省が行った2021年の全国都市交通特性調査では、地方都市圏の通勤者が利用する代表的な交通手段のうち自動車が75.6%を占め、鉄道は4.2%だった。一方、三大都市圏では自動車が35.2%、鉄道が37.6%となっており、地方都市と大都市では日常生活を支える交通手段が大きく異なっている。

 2021年は新型コロナウイルス感染症の影響を受けた特殊な年でもあるため、この数字だけを使って地方都市全体を説明することはできないが、それ以前の調査でも地方都市における自動車利用の増加傾向は長期的に確認されている。したがって、地方の商業構造を考えるうえでは、「駅から何分か」という距離よりも、「自動車でどれだけ入りやすいか」「日常の移動経路上にあるか」という条件の重要性が高まったと考える方が現実に近い。

 車で買い物をする世帯にとっては、駅前商店街を歩いて複数の店を回るより、スーパー、ドラッグストア、衣料品店、飲食店などが集まった場所へ車で行き、短時間で用事を済ませる方が便利な場合が多い。雨の日でも荷物を長く持ち歩く必要がなく、米、飲料水、トイレットペーパー、灯油などの重い商品やかさばる商品も運びやすいため、車を利用する生活と郊外型店舗の形態は非常に相性がよいのである。

人口が増えた以上の速度で市街地が広がった

 商業の郊外化を考える場合には、交通手段だけでなく、住宅がどこに建てられてきたのかも重要になる。日本の地方都市では高度経済成長期以降、既存の駅前だけに住宅が増えたわけではなく、郊外へ向かって一戸建て住宅地や団地が広がり、市街地そのものが横方向へ拡大してきた。

 国土交通省の分析では、県庁所在地について1970年から2010年までの変化を見ると、人口は約2割増加した一方で、DID(Densely Inhabited District・人口集中地区)の面積は2倍以上へ拡大している。つまり人口が2倍になったわけではないのに、人々が暮らす市街地の面積は大きく広がったのであり、これは地方都市が次第に低密度で広い都市へ変わってきたことを意味している。

 その結果、駅から徒歩圏に住むことが必ずしも一般的ではなくなり、郊外住宅から職場、学校、病院、商業施設へ自動車で移動する生活が成立した。そこで幹線道路が整備されれば、その道路沿いに店舗が進出し、店舗が増えれば周辺の利便性が高まり、さらに住宅が立地するという相互作用が生まれるようになる。

 もっとも、ここには単純な一方向の因果関係があるわけではなく、住宅が増えたから店舗が進出した場合もあれば、大型店の進出によって周辺の居住価値が上昇した場合もあり、道路整備という第3の要因が住宅と店舗の双方を呼び込んだ場合もある。したがって、「住宅が増えたから国道沿いが栄えた」と一方向に説明するより、住宅、道路、商業施設が互いに影響しながら現在の都市構造を形成したと考える方が科学的には正確である。

駅前の土地と郊外の土地では、店を造る条件が違う

 国道沿いの商業施設が増えたもう1つの理由は、土地の使いやすさにある。歴史の長い駅前には、細かく分割された土地、小さな店舗、住宅、狭い道路などが複雑に入り組んでいる場合があり、そこへ数千平方mの売り場と数百台規模の駐車場を備えた施設を造ろうとすれば、多数の土地所有者との調整や建物の移転などが必要になることがある。

 これに対して郊外では、まとまった農地、工場跡地などを利用できる場合があり、大きな敷地を確保しやすい。そこへ店舗と平面駐車場を一体的に整備し、幹線道路から直接出入りできる構造にすれば、自動車利用者にとって使いやすい店舗を造ることができる。

 もちろん、すべての駅前で土地が細分化され、すべての郊外で土地を容易に取得できるわけではなく、区画整理が進んだ駅前もあれば、郊外でも農地転用や土地利用規制によって開発が難しい地域があるため、この違いはあくまで一般的な傾向として理解する必要がある。それでも、国が既成市街地の再整備において敷地の共同化や集約化を重要な課題としていることからも分かるように、既存中心市街地の土地を大型商業施設向けに再編するには、郊外の未利用地を開発する場合とは異なる難しさがある。

国道は現代の「駅前通り」になった

 こうして考えると、国道沿いが栄える現象は、昔の駅前商店街とは全く異なる出来事ではないことが分かる。人が集まる交通経路の近くに商業施設が集積するという原理は変わっておらず、人の移動手段が鉄道から自動車へ変わった結果、商業の立地場所も駅前から道路沿いへ移動したのである。

 ただし、国道沿いの店舗をすべて同じものとして扱うこともできず、研究では、広域交通を利用する人を相手にする「通過交通型」のロードサイド商業と、周辺住宅地の住民の日常需要を支える「地域生活型」のロードサイド商業が存在することが示されている。

 幹線国道沿いに並ぶガソリンスタンド、ファミリーレストラン、ホテルなどは、地域住民だけでなく遠方から来る交通を取り込む可能性がある一方、住宅地に近い道路沿いのスーパーやドラッグストアは、その地域で暮らす住民の日常生活に密着している。この2つを区別すると、「なぜ人口の少ない町にも大きな店舗が成立する場合があるのか」が理解しやすくなる。

店の客は、その町の住民だけではない

 大型店舗の経営を考える場合、行政区域の人口だけを見ても十分ではなく、ある町の人口が3万人だったとしても、その店舗へ隣の市町村から車で15分、20分、30分程度で来られるのであれば、実際の潜在顧客は町内の3万人だけではない。

 商業施設が成立するかどうかは、単純化すれば「商圏内に何人いるか」「そのうち何人が来店するか」「どの程度の頻度で利用するか」「1回の買い物でいくら使うか」という組み合わせによって決まる。そのため、自治体人口が少なくても、複数の市町村から交通が集まる国道沿いであれば、比較的大きな商圏が形成されることがある。

 また消費者が店を選ぶときには、距離だけでなく、売場面積、品ぞろえ、価格、営業時間、駐車場、道路からの入りやすさ、周辺店舗の集積などが同時に影響するため、駅前の店の方が直線距離では近くても、駐車場を探す必要があり、複数の店を歩いて回らなければならないのであれば、数km離れた大型商業施設の方が利用しやすいこともある。したがって、商業施設にとって重要なのは単純な距離ではなく、消費者が感じる総合的な移動負担と店舗の魅力度との関係なのである。

「大型店は安いから強い」だけでは説明できない

 郊外型店舗の競争力については、価格の安さだけが注目されがちだが、それだけでは現在の消費行動を十分に説明できず、大型店舗が提供している大きな価値の1つは、商品そのものではなく「時間」である。

 かつての商店街では、魚は魚屋、肉は肉屋、薬は薬局というように、店を移動しながら買い物をすることが普通だったが、スーパーやショッピングセンターでは食品、日用品、衣料品などを同じ場所で購入できる。さらに周辺にドラッグストア、100円ショップ、飲食店、クリーニング店などが集積すれば、1回の外出で複数の用事を処理できる。

 特に共働き世帯や子育て世帯では、買い物に使える時間そのものが限られているため、30分や1時間で複数の用事を終えられることには大きな価値があり、その意味で郊外型商業施設は「商品を売る場所」であるだけでなく、「生活に必要な時間を節約する場所」でもある。

駅前の衰退は、人口減少だけでは説明できない

 地方の駅前商店街が衰退した理由として最もよく挙げられるのは人口減少だが、人口だけでは説明できない地域も多い。同じ自治体の中で駅前の店舗が閉店する一方、国道沿いには新しいドラッグストアやスーパーが開業しているのであれば、地域内の消費そのものが完全に消滅したわけではなく、消費される場所が変わった可能性を考える必要がある。

 実際、地方都市を対象とした都市地理学や都市計画学の研究では、郊外への住宅地拡大、大型商業施設の進出、自動車利用の増加とともに、中心市街地の商品販売額や歩行者通行量が低下した事例が報告されており、駅前商業の衰退と郊外商業の成長が同時に起こり得ることが確認されている。

 ただし、「地方経済が駅前から国道沿いへ移動した」とだけ表現するのも正確ではなく、実際には人口減少によって市場そのものが縮小している地域もあり、所得の変化、インターネット通販の普及、周辺自治体への消費流出なども影響している。そのため、地方都市で起きていることは、地域経済全体の縮小と、残された消費の場所が中心部から郊外へ移動する現象とが、同時に進んでいる場合があると考える方が適切である。

国も「郊外への無秩序な拡散」を問題としてきた

 国道沿いへの大型店舗進出は市場の力だけで自由に進んできたわけではなく、日本の都市計画制度とも深く関係している。特に1990年代から2000年代にかけて、大型商業施設が郊外へ進出し、中心市街地の空洞化が各地で問題となったことから、国は都市機能の無秩序な拡散を抑える方向へ政策を転換した。

 2006年の都市計画法改正では、床面積1万平方mを超える店舗、映画館、アミューズメント施設などの大規模集客施設について、立地できる地域が従来より制限された。これは国自身が、商業施設をはじめとする都市機能が郊外へ無制限に広がれば、道路、公共交通、行政サービスなどを効率的に維持することが難しくなると認識したことを意味する。

 一方、大規模小売店舗立地法は、既存の小規模商店を大型店から直接保護する法律ではなく、大型店の立地によって生じる交通、駐車場、騒音など、周辺の生活環境への影響を調整する制度である。そのため、大型店舗の立地については「中心市街地を守る制度」と「生活環境を調整する制度」を区別して考える必要があり、地方商業の変化は市場原理だけでなく、時代ごとの都市政策にも左右されてきたのである。

自動車社会は便利だが、高齢化すると弱点も現れる

 国道沿いに商業施設が集まる都市構造は、自動車を自由に利用できる住民にとって非常に便利であるが、この仕組みには、多くの住民が自分で車を運転できるという大きな前提がある。

 自宅からスーパーまで数km、病院までさらに数km、市役所や銀行も別方向にあるという地域では、車を運転している間は便利でも、高齢になって免許を返納すると生活の自由度が急激に低下する可能性がある。徒歩では遠く、鉄道駅も近くなく、路線バスの本数も少なければ、郊外型の便利さがそのまま不便さへ変わることもある。

 この問題を背景として、国は現在「コンパクト・プラス・ネットワーク」という考え方を進めており、これは住宅、医療、福祉、商業、行政などの都市機能を一定の拠点へ誘導し、それらを公共交通で結ぶことで、人口減少と高齢化が進んでも生活サービスを維持しようとする考え方である。

 ただし、この政策がそのまま「昔の駅前商店街を復活させる」という意味ではない。鉄道駅が生活拠点になる地域もあれば、病院、市役所、バスターミナルなどを中心として新しい拠点が形成される地域もあり、人口規模や交通網によって最適な形は異なるため、高齢化によって駅前が再び重要になる可能性はあるものの、かつての商店街がそのまま復活するとは限らないのである。

国道沿いが栄えていても、地域経済が強いとは限らない

 ここでもう1つ注意したいのは、国道沿いに多くの店が並び、駐車場が車で埋まっているからといって、その自治体の経済が健全であるとは限らないということである。大型チェーン店の売上が好調でも、仕入れや利益の一部が地域外へ流れることがあり、周辺の小規模商店が減少している可能性もあるうえ、その店舗が隣接自治体から多くの利用者を集めているのであれば、駐車場の混雑だけを見ても、その町の住民所得や人口動向までは分からない。

 反対に、駅前に人が少ないからといって、その町全体の経済活動が消滅しているとも限らないため、駅前という1地点から都市全体を判断するのではなく、住宅地、幹線道路、商業施設、病院、行政施設などを含めて、人とお金がどのように移動しているのかを見る必要がある。

駅前から国道沿いへ~変わったのは町ではなく「人の流れ」である

 地方で駅前より国道沿いの方が栄えている町がある理由を一言で説明すれば、商業の中心を決める「人の流れ」が変わったからである。しかし、その背景には単なる自動車の普及だけではなく、市街地の郊外化、住宅地の拡大、幹線道路の整備、大きな土地を利用しやすい郊外の条件、商圏の広域化、買い物時間を短縮したい消費者の行動、そして都市計画制度の変化が重なっている。

 鉄道中心の時代には駅が人を集約し、その人の流れに沿って商業が集まったが、自動車中心の地方都市では、人々は駅を経由せず、住宅地から職場、学校、病院、スーパーなどを直接結ぶようになり、その移動経路となる国道や主要県道の沿道に商業施設が集積したのである。

 その意味では、国道沿いの商業地は昔の駅前と正反対の存在ではなく、人が通る場所に店が集まるという原理自体はほとんど変わっておらず、人が通る場所だけが駅前から道路へ移動したと考えることができる。

 地方の町を訪れたとき、静かな駅前だけを見て「この町は衰退した」と判断するのは早く、数km先の国道へ出れば、夕方にはスーパーの駐車場へ車が集まり、ドラッグストアでは日用品が売れ、飲食店では家族が食事をしているかもしれない。その光景もまた、その町の現在である。

 そして国道沿いを走っていて、大型店舗の看板が突然連続して現れる場所に出会ったなら、そこを単なる郊外の商業地と見るだけでは少し足りない。その道路には通勤、買い物、通院、子どもの送迎、外食という住民の日常生活が重なっており、現代の地方都市では、駅前のロータリーよりも国道の交差点の方が、その町の暮らしの中心を雄弁に語っている場合があるのである。

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