地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

人がいなくなっても、土地に「持ち主なし」の札は立たない

 地方を歩いていると、草に覆われた庭の奥に古い家が残り、もう何年も人が出入りしていないような土地を見かけることがある。近所の人に聞けば、「住んでいた人が亡くなり、子どももいなかったらしい」という話が返ってくるかもしれないが、そこで素朴な疑問が生まれる。持ち主が亡くなり、家族も誰も残っていないように見える土地は、最後にはいったい誰のものになるのだろうか。

 感覚的には、所有者が亡くなった瞬間に土地が「誰のものでもない状態」になり、しばらくすると町や国が引き取るようにも思えるが、日本の相続制度はそのようにはできていない。人が亡くなることと、その人が持っていた土地から所有権そのものが消えることは別の問題であり、住む人の姿がなくなっても、土地の法律関係は静かに次の段階へ進んでいく。

持ち主が亡くなると、まず相続が始まる

 土地の所有者が亡くなると、その土地は原則として相続の対象になり、配偶者や子など法律上の相続人がいれば、その権利は相続によって引き継がれる。そのため、登記簿に亡くなった人の名前が残っているからといって、その人が死後も土地を所有しているわけではなく、登記簿の記録と実際の権利関係が一致していないことも珍しくない。

 たとえば祖父が亡くなり、その子が土地を相続したものの登記を変更せず、その子も亡くなり、さらに孫の世代へ相続が続けば、登記簿には祖父の名前が残っているのに、法律上の権利はその先の世代へ移っていることがある。兄弟姉妹が何人もいれば権利はさらに枝分かれし、世代が重なるほど関係者が増えるため、外から見ると「誰の土地なのか分からない」という状態が生まれやすくなる。

 こうした所有者不明土地の増加を抑えるため、2024年4月1日から相続登記が義務化され、自分のために相続が開始したことを知り、さらにその不動産の所有権を取得したことを知った人は、原則としてその日から3年以内に相続登記を申請しなければならなくなった。2024年4月1日以前に発生した相続についても一定の経過措置を経て義務の対象となるため、制度全体としては、亡くなった人の名前を何十年も登記簿に残したままにする状態を減らす方向へ動いている。

「家族が全員亡くなった」と「相続人がいない」は同じではない

 ある家族が全員亡くなったように見えても、それだけで法律上の相続人がいないとは限らない。亡くなった人に子がいなくても、直系尊属である父母などが存命であれば相続人となる場合があり、その人たちもいなければ兄弟姉妹が相続人となる場合があるうえ、一定の場合には、先に亡くなった子の子などが代わって相続する代襲相続も起こる。

 ただし、代襲相続には範囲があり、誰の子孫でも際限なくたどっていくわけではない。子の系統についてはさらに次の世代へ続く場合がある一方、兄弟姉妹については原則としてその子、つまり亡くなった人から見た甥や姪までが代襲相続の対象となるため、「親族がどこまでも相続人になる」と考えるのも正確ではない。

 近所から見れば親族が誰もいないように思える家でも、戸籍をたどっていくと遠方に相続人が見つかることがあり、逆に親戚がいることは分かっていても、その人たち全員が相続放棄をして最終的に相続する人がいなくなることもある。したがって、「登記名義人が死亡している状態」と「法律上、本当に相続人が存在しない状態」との間には大きな違いがある。

本当に相続人がいなければ、家庭裁判所による清算が始まる

 戸籍などを調べても相続人の存在が明らかにならない場合や、相続人となる人が全員相続放棄をした結果として相続する人がいなくなった場合でも、土地がその場で国有地へ変わるわけではない。利害関係人などから申立てが行われると、家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、亡くなった人が残した財産と債務を整理する手続が進められる。

 相続財産清算人は、預金や土地などの財産を管理しながら、借金が残っていないか、代金を受け取る権利を持つ人はいないか、遺言によって財産を受け取る人はいないか、そして本当に相続人が存在しないのかを確認していく。家庭裁判所は相続人を探すための公告を行い、所定の期間を経ても相続人が現れなければ、そこでようやく相続人不存在という状態が法的に確定していく。

 この仕組みを考えると、法律が土地を簡単に「持ち主のいない物」として処理しない理由が見えてくる。亡くなった人には土地だけでなく借金が残されているかもしれず、代金を受け取っていない事業者や金銭を貸していた人がいる可能性もあるため、それらを無視して土地だけを国が受け取れば、亡くなった人と取引していた人の権利を損なうことになるので、まず財産関係全体を清算しなければならないのである。

相続人ではなくても財産を受け取れる人がいる

 相続人がいないからといって、ただちに国だけが次の受取人になるわけではなく、亡くなった人と長年生活を共にしていた人、療養看護に尽くした人など、特別な関係を持っていた人については、特別縁故者として家庭裁判所へ財産分与を申し立てる制度がある。

 たとえば婚姻届を提出していない内縁関係の相手は、原則として法律上の配偶者ではないため法定相続人にはならないが、長期間生活を共にし、亡くなった人の生活を支えてきたなどの事情があれば、相続人が存在しない場合に特別縁故者として財産の全部または一部を受け取ることが認められる可能性がある。ただし、長く世話をしたという理由だけで自動的に土地を取得できる制度ではなく、家庭裁判所への申立てと審理を経て、財産を分与することが相当であると判断されなければならない。

 また、生前に有効な遺言が残され、土地を特定の人や法人へ遺贈する意思が示されていれば、その内容によって財産の行き先が変わることもあるため、「法定相続人がいない」という事実と「財産を受け取る人が誰もいない」という事実は同じではない。

共有している土地には重要な例外がある

 ここで注意しなければならないのが、複数人で1つの土地を共有している場合である。共有者の1人が亡くなれば、通常はその人が持っていた共有持分について相続が起こるため、その人の相続人を調べる必要があるが、相続人が本当に存在しない場合には、一般の単独所有の土地とは異なる結論になることがある。

 民法では、共有者の1人が死亡し、その共有持分を承継する相続人がいない場合には、一定の手続を経たうえで、その持分が他の共有者へ帰属する仕組みが設けられている。特別縁故者への財産分与などが問題となる場合もあるため、死亡した瞬間に自動的に他の共有者のものになるという単純な話ではないが、「相続人のいない財産はすべて最終的に国のものになる」という理解も正確ではない。

 たとえば2人で土地を2分の1ずつ共有しており、そのうち1人が死亡して相続人がいない場合には、その人の持分について相続財産の清算手続などが行われ、それでも他に帰属先がなければ、残った共有持分がもう1人の共有者へ帰属する場合がある。土地の最終的な行き先を考えるときには、単独所有なのか共有なのかによって制度が変わるという点が重要になる。

最後まで残った財産が国庫へ帰属する

 相続人を探し、債権者などへの支払いを済ませ、必要に応じて特別縁故者への財産分与も終わり、それでも財産が残った場合、その残余財産は原則として国庫へ帰属する。ここで初めて、「持ち主がいなくなった土地は最後には国のものになる」という一般的なイメージに近い状態へ到達する。

 ただし、清算の過程で土地が売却され、売却代金から債務などが支払われることもあるため、相続人のいない土地が必ずその土地の形のまま国有地になるわけではない。土地そのものが残っていれば国へ引き継がれることがあり、売却され現金に換えられていれば、最終的に残った金銭などが国庫へ帰属することになるため、国は最初から土地を取りに来る存在というより、他に行き先がなくなった財産を最後に受け止める存在と考えた方が実態に近い。

 また、その土地が存在する市町村へ自動的に移るわけでもない。町の中にある土地だから最後は町有地になると思われがちだが、相続人不存在によって最終的に残余財産が帰属する先は原則として国であり、市町村や都道府県がそのまま所有者になる制度ではない。

「相続土地国庫帰属制度」とは別の話である

 ここで混同しやすい制度として、2023年4月27日に始まった相続土地国庫帰属制度があるが、これはこの記事で扱っている「相続人がいないため最後に国庫へ帰属する」という仕組みとは別の制度である。

 相続土地国庫帰属制度は、相続などによって土地を取得した生きている所有者が、一定の条件を満たす土地について国への帰属を申請し、審査を受けたうえで承認され、所定の負担金を納付することによって土地を国へ引き渡す制度である。つまり、一方は相続人が存在しない財産を清算した最後に国が受け取る仕組みであり、もう一方は相続した土地を所有している人が自ら申請して国へ引き渡す仕組みなので、同じ「土地が国のものになる」という結果であっても、そこへ至る法律上の経路はまったく異なる。

問題は「誰のものになるか」より「そこまで何年かかるか」にある

 法律上の結論だけを見れば、相続人がいなければ清算手続が行われ、債権者への支払いや特別縁故者への分与などを経て、それでも残った財産が国庫へ帰属するという流れは明確である。しかし地域社会にとって深刻なのは、最終的な行き先そのものより、そこへ到達するまでにどれだけ長い時間が必要になるかという問題である。

 裁判所が2026年に公表した資料では、2025年12月31日時点で管理が継続していた相続財産清算人選任事件は15,692件あり、そのうち2年を超えて継続している事件は約38%、5年を超える事件も約13%、さらに10年を超えているものも約4%存在していた。これらは管理継続中の事件についての数字であり、すべての相続人不存在事件に同じ期間がかかるという意味ではないが、「相続人がいなければすぐ国のものになる」というイメージとはかなり異なる現実を示している。

 登記簿上の所有者が30年前に亡くなり、その子も亡くなり、さらに次の世代へ相続が重なっていれば、現在の権利者を確定するためだけでも多くの戸籍を調べなければならない。相続人が全国各地へ散らばっていたり、本人自身が土地の存在を知らなかったりすれば、その間にも山林では樹木が伸び、空き地では雑草が繁り、空き家では屋根や外壁の傷みが進むため、現実の土地管理が法律上の整理を待ってはくれない。

国庫へ帰属する不動産も増えている

 こうした問題は単なる想像上の将来問題ではなく、すでに数字にも現れている。財務省の資料によれば、相続人不存在などによって国庫へ帰属した不動産は、2016年度には30件だったものが、2024年度には226件となっており、年度による増減はあるものの長期的には増加する方向が確認できる。

 2016年度の30件と2024年度の226件を単純に比較すれば約7.5倍であり、これだけを使って将来も同じ速度で増えると予測することはできないものの、人口減少、高齢化、単身世帯の増加、地方の土地需要低下が重なる社会では、相続しても利用されない土地や、最後まで承継する人が見つからない不動産が地域問題として存在感を増していく可能性は高い。

人はいなくなっても、土地の履歴は消えない

 かつて家が建ち、庭木が植えられ、畑が耕され、人の生活が続いていた場所から住民がいなくなると、土地まで社会から消えてしまったように見えることがある。しかし土地そのものは残り、所有権も人の死と同時に消えるわけではなく、1人が亡くなれば相続へ進み、その相続人も亡くなればさらに次の相続へ進み、それでも誰もいないことが確認されて初めて、清算という長い手続の先に国庫という最後の受け皿が現れる。

 したがって、「持ち主が全員亡くなった土地は最後に誰のものになるのか」という問いに対する最も正確な答えは、「原則として、相続人やその他の受取人が誰もいなければ最後には国へ帰属するが、すぐ国のものになるわけではない」というものになる。ただし共有地では他の共有者へ持分が帰属する場合があり、遺言や特別縁故者によって別の人へ財産が渡ることもあるため、個々の土地については所有関係を調べなければ結論を出すことはできない。

 誰も住まなくなった土地に草が伸びていく時間と、法律が相続人や債権者を探しながら所有関係を整理していく時間は、同じ速さでは流れない。その時間差こそが、人口減少社会の土地問題を考えるうえで見落としにくい部分であり、持ち主の姿が消えた土地の向こう側には、相続という制度と地域社会の現実との間に生まれた、長い時間のずれが残っているのである。

※この記事は、2026年9月時点の法令・公的資料をもとに、相続と土地に関する一般的な制度を解説したものです。実際の権利関係や手続は個別の事情によって異なるため、具体的な案件については司法書士、弁護士などの専門家や関係機関にご確認ください。

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