地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

閉店時間になった瞬間、食品が「ごみ」になるわけではない

 夜のスーパーへ行くと、総菜売場の弁当や揚げ物に20%引き、30%引き、半額といったシールが貼られていることがある。閉店時刻が近づくにつれて商品が減り、最後にはほとんど何も残っていない店もあれば、閉店直前まで弁当や刺身が並んでいる店もある。その光景を見ていると、「結局、残った食品は閉店したら全部捨てられるのだろうか」と思う人もいるだろう。

 しかし実際には、閉店時間を境に、それまで商品だった食品が一斉に廃棄物へ変わるわけではない。売れ残った食品の行き先は、閉店するかなり前から決まり始めており、商品の種類、消費期限や賞味期限、店舗が定める販売期限、保存状態、翌日も販売できるかどうかなどによって扱いが変わる。つまり閉店後の食品売場で行われているのは、「残ったものを全部捨てる作業」というより、翌日へ引き継げる商品と、その日のうちに販売を終える商品を分ける作業なのである。

 なお、以下は農林水産省や消費者庁などが公表している資料と、食品小売業で一般的に行われている商品管理の仕組みをもとに、スーパーの典型的な流れを説明したものである。値引きの時刻や割合、販売期限、寄附、再資源化、廃棄、従業員への提供などの具体的な運用は、企業、店舗、商品、地域によって異なり、全国のスーパーで一律に同じ処理が行われているわけではない。

半額シールは、廃棄ではなく「最後の販売」である

 最も分かりやすいのが、弁当、総菜、寿司、刺身など、その日のうちに売り切りたい食品である。こうした商品では、販売可能な時間が残っているうちに段階的な値引きを行い、できるだけ購入してもらおうとする。私たちにとっては「安く買える時間」だが、店にとって値引きは、需要と実際の販売量とのずれをできるだけ小さな損失で処理するための手段でもある。

 もっとも、値引きは早ければ早いほどよいわけではない。まだ通常価格で十分に売れる時間帯から大幅に値下げすれば、本来得られたはずの利益を失う。一方、値引きを遅らせすぎれば買い手が現れないまま販売できる時間が尽き、商品の価値は急速に失われる。このため店舗では、過去の販売実績だけでなく、曜日、時間帯、天候、気温、来店客数、地域行事などを考慮しながら、どの程度の商品を用意し、どの時点から値引きするかを調整している。

 ここには、小売業が抱える避けにくい問題がある。余らせないことだけを目標にするなら、最初から商品を少なく作ればよい。しかし、それでは夕方や夜に来店した客が「欲しいものが何もない」という状態になり、店は販売機会を失ってしまう。逆に、閉店間際まで十分な品ぞろえを維持しようとすれば、どうしても一定の売れ残りが発生しやすくなる。したがって、閉店前の値引き商品が存在すること自体を、単純に「店の需要予測が失敗した証拠」と考えることはできない。多少の売れ残りを想定してでも欠品を防ぐ方が、経営上合理的な場合があるからである。

閉店後も翌日にそのまま売られる食品は多い

 もちろん、閉店時に売場に残っていた商品が、翌朝には処分されているわけではない。缶詰、菓子、調味料、飲料、乾麺など、賞味期限まで十分な期間があり適切に保存されている商品は、そのまま翌日の販売へ引き継がれる。牛乳、豆腐、納豆などの日配食品や包装された生鮮食品でも、期限や品質、店舗の基準を満たしていれば翌日も販売されることがある。

 ここで重要なのが、「賞味期限」と「消費期限」の違いである。賞味期限は、定められた方法で保存した未開封の商品について、おいしく食べることができる期限を示すものであり、その時刻を1分過ぎた瞬間に食べられなくなるという意味ではない。一方、消費期限は、傷みやすい食品について安全性を考慮して設定される期限であり、期限を過ぎた食品は食べない方がよい。弁当や総菜、サンドイッチなどには、こちらが表示されることが多い。

 さらにスーパーでは、食品に表示された消費期限や賞味期限とは別に、「店頭でいつまで販売するか」という販売期限を設定する場合がある。この販売期限は法律で全国一律に決められたものではなく、販売者が設定するものである。そのため、賞味期限がまだ先であっても売場から外すことがある一方、食品ロス削減の観点から従来の販売期限を見直し、賞味期限まで可能な限り販売する方向へ運用を変える事業者も現れている。

 したがって、「売場からなくなったから賞味期限が切れて捨てられた」とは限らない。私たちが普段あまり意識しないところで、食品そのものの期限と、小売業が商品として扱う期限という2つの時計が動いているのである。

それでも売れなかった弁当や総菜はどうなるのか

 値引きをしても買い手が現れず、店舗が定めた販売可能な時間を終えた食品は売場から撤去される。特に当日製造の弁当、寿司、総菜などでは、翌日にもう一度商品として並べることができないものがあり、その一部が食品ロスとなる。

 しかし、「売場から撤去された」ことと「そのまま焼却された」ことも同じではない。食品関連事業者には、食品リサイクル法、正式には「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」に基づいて、まず食品廃棄物そのものの発生を抑え、それでも発生したものについて再生利用などを進めていく考え方がある。条件が整えば、売れなくなった食品や調理過程で生じた食品残さなどが分別され、飼料や肥料などの原料として利用されることがある。

 ただし、ここでも話は単純ではない。食品の種類、包装材を分離できるか、異物混入の可能性、回収できる量、輸送距離、近隣に処理施設があるかといった条件によって、再資源化できるかどうかは変わる。「スーパーの売れ残りは全部家畜の餌になる」という説明も、「全部焼却される」という説明も、どちらも現実を正確には表していないのである。

フードバンクに渡せばすべて解決するわけでもない

 まだ食べられるのなら、必要としている人へ渡せばよいのではないかと考える人もいるだろう。実際、食品事業者などから提供された未利用食品をフードバンクが受け入れ、福祉団体などへ届ける仕組みは存在しており、食品寄附は食品ロスを減らす重要な方法の1つになっている。

 日本でも制度整備が進み、2024年12月には食品寄附を安全かつ適切に行うためのガイドラインがまとめられ、2026年4月にはフードバンク認証制度が始まった。同年7月には最初の認証団体も誕生しており、単に「余った食品を渡す」という善意だけではなく、食品を安全に受け渡す仕組みそのものを整備しようとする段階へ進んでいる。

 とはいえ、賞味期限に余裕のある加工食品と、閉店直前まで冷蔵ケースに並んでいた弁当や刺身では事情が違う。傷みやすい食品を寄附するには、限られた時間内に回収して配送し、適切な温度管理と期限管理を維持したまま受取先へ届けなければならない。人員も車両も保管場所も必要になるため、「売れ残った食品を全部フードバンクへ渡せば食品ロスはなくなる」というほど簡単ではない。

 だからこそ、食品寄附は大切な出口ではあるものの、最も重要なのは出口を増やすことだけではなく、そもそも必要以上に余らせないことである。発注や製造の段階で余剰を減らせれば、寄附や再資源化、廃棄といった後工程そのものを減らすことができる。

ところで、昔は廃棄の弁当をもらったこともあった

 売れ残った食品の話になると、「店員が持って帰るのではないか」という話もよく出てくる。筆者自身、学生時代にコンビニエンスストアでアルバイトをしていたころ、販売できなくなったパンや弁当をもらったことがある。40年以上も前の話なので、今さら当時の店長に叱られることもないだろうが、少なくとも筆者にとって「廃棄予定の食品をアルバイトがもらう」という話は、都市伝説ではなく実体験である。

 ただし、その経験を現在のスーパーやコンビニエンスストアへそのまま当てはめることはできない。従業員への販売、提供、持ち帰りを認めるかどうかは企業ごとの規定や店舗運用によって異なり、売れ残った食品を従業員が自由に持ち帰れると一般化することはできないからである。40年以上前の筆者の記憶は、現在の制度を説明する証拠ではなく、あくまで昔の小さなエピソードとして受け取っていただきたい。

 むしろ、この40年ほどの間に食品衛生や在庫管理、コンプライアンスに対する企業の考え方が変わってきたことを考えると、「昔、自分のアルバイト先ではそうだった」という経験ほど、現在の一般論にしてはいけないものなのかもしれない。

日本の食品小売業からは年間48万トンと推計されている

 では、日本では実際にどれほどの食品が失われているのだろうか。農林水産省などが公表した2024年度の推計では、日本全体の食品ロス量は461万トンで、そのうち事業活動から生じたものが237万トン、家庭から生じたものが224万トンとなっている。事業系237万トンを業種別に見ると、食品製造業110万トン、食品卸売業9万トン、食品小売業48万トン、外食産業70万トンと推計されている。

 ここでは「推計」という言葉が重要である。48万トンという数字は、全国のスーパーで閉店後に捨てられた弁当や総菜を直接すべて計量して合計した数字ではない。また、スーパーだけの数字でもなく、食品小売業全体について算出された食品ロス量である。したがって、「スーパーでは毎年48万トンの売れ残りが閉店後に捨てられている」と読み替えるのは誤りである。

 それでも、食品小売業だけでこれほどの食品ロスが推計されている事実は重い。しかも店にとって食品を廃棄することは、環境問題である以前に経営上の損失でもある。例えば500円で販売する予定だった弁当が売れなければ、その商品を作るために負担した原材料費や人件費、包装費などを売上によって回収できず、予定していた売上も得られない。さらに処理方法によっては、廃棄物として回収・処理するための費用も発生する。

 ただし、「500円の売上を失ったうえに、さらに原材料費や人件費を500円とは別の損失として加える」と考えるのは正確ではない。売上が得られなかったことと製造原価を回収できなかったことには重なる部分があるからである。それでも、売れない食品を必要以上に作ることが経営上好ましくないことに変わりはない。スーパーには、本来、食品を大量に捨てることで利益を得る仕組みなどないのである。

では、なぜ最初から売れる分だけ作らないのか

 ここまで読めば、「それなら最初から売れる分だけ作ればよいではないか」という疑問が残る。しかし、この問いに完全な答えを出すには、明日の客が何を何個買うかを正確に知る必要がある。

 雨が予報より強くなれば客数が減るかもしれない。逆に、近所の行事が予想以上の人出になれば弁当や飲料が急に売れることもある。給料日前後、曜日、気温、季節、学校行事、連休、競合店の特売など、売上を動かす要因は数多く存在する。過去の販売データからかなり精密な需要予測を行うことはできても、人間が明日どの商品を何個買うかを完全に当てることはできない。

 ここに小売業の難しさがある。夕方に弁当が全部売り切れれば、廃棄は発生しない。しかし、18時に来店した客が弁当売場を見て、何も残っていなければ、その客は何も買わず別の店へ行くかもしれない。店にとっては、それも損失である。一方で、閉店直前まで豊富な品ぞろえを維持すれば、今度は売れ残りが増えやすくなる。

 経営の問題として考えると、重要なのは「廃棄を1個も出さないこと」だけではない。品切れによって失う販売機会と、余らせることによって発生する損失の双方をできるだけ小さくする必要がある。だからこそ、多少の商品が最後に値引きされて残ることは、必ずしも経営の失敗を意味しない。予測できない需要に備えて商品を用意した結果として、一定の余りが生じることは、ある程度避けられないのである。

閉店後の食品売場は、その日の需要予測の「答案用紙」である

 夜のスーパーで半額になった弁当を見れば、私たちはまず「今日は安く買えた」と思う。しかし店側から見れば、その弁当は、予測して用意した数量と実際に客が買った数量との間に生じた、小さなずれの1個でもある。それを半額でも買う人が現れれば、食品は最後まで食品として役割を果たし、店も少しでも売上を得ることができる。それでも買い手が現れなければ、販売可能な時間を終え、店舗のルールに従って売場から撤去される。その後は、条件によって寄附、再資源化、廃棄など異なる道へ進むことになる。

 こうして見ると、閉店後にスーパーの裏側で起きていることは、単純な「余った食品を捨てる作業」ではない。翌日に販売できる商品を残し、その日に販売を終える商品を分け、利用可能なものには別の出口を探し、そして「なぜ今日はこれが余ったのか」という結果を次の発注や製造へ返していく。その繰り返しによって、店は少しずつ翌日の数量を調整している。

 翌朝になると、何事もなかったように新しい弁当や総菜が売場へ並ぶ。しかし、その数が昨日とまったく同じとは限らない。昨日20個余ったなら今日は少し減らし、逆に早い時間に売り切れたなら少し増やす。もちろん、翌日の天候や曜日まで考えれば、単純に20個減らせばよいわけでもない。その小さな計算と修正を毎日繰り返しながら、スーパーは「いつ行っても商品がある便利さ」と「できるだけ食品を捨てないこと」という、完全には両立しにくい2つの課題の間で均衡を探している。

 閉店間際に残った半額の弁当は、単なる売れ残りではない。その日の天候、人の流れ、店の予測、そして最後にそれを手に取った客までが重なった、小売業の1日の結果なのである。

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