地域分析記事

地域の暮らしと地域課題を数学とデータで考える

※本記事は2026年10月10日、千葉県が公表した2025年度の野生鳥獣統計、第3次千葉県キョン防除実施計画などの最新資料を踏まえ、数値の更新と内容の加筆修正を行ったものです。

 外房の住宅地で暮らしていると、野生動物は必ずしも「山の中にいるもの」ではない。夜、自動車で細い県道や市町村道を走っていると道路脇に動物の姿が見えたり、朝になって庭を見ると植えていた花が食べられていたり、畑の一角が掘り返されていたりすることがある。キョンの独特な鳴き声を聞いたことがある人も少なくないだろう。こうした出来事は、一度だけなら自然の豊かな地域で暮らすことの一面として受け止めることもできるが、それが繰り返され、しかも住民の高齢化が進んでいくと、獣害は単に農作物を守るための問題ではなくなってくる。

 千葉県では、特定外来生物であるキョンの分布が長期的に拡大しており、イノシシについても県内で生息域の拡大や従来は出没していなかった地域への進出が問題となっている。ただし、野生動物の生息数が増えること、生息域が広がること、住宅地への出没が増えること、被害額が増えることは、それぞれ異なる現象である。地域によって増減の方向も異なるため、「外房ではどこでもイノシシやキョンが増え続けている」と考えるのは正確ではない。

 それでも、野生動物と人間の生活圏が重なる場所が広く存在し、その管理を誰が担うのかという問題が深刻になっていることは確かである。ここで考えてみたいのは、単に野生動物が何頭いるかではなく、「その地域で80歳になっても普通に暮らせるのか」という問いである。

キョンは実際にどれだけ増え、外房では何が起きているのか

 千葉県が2026年3月に策定した第3次千葉県キョン防除実施計画によると、県内のキョンの推定生息数は2006年度の中央値で13,264頭だったものが、2024年度には94,093頭に達した。約18年間で7倍以上になった計算であり、長期的な増加傾向は明瞭である。また、定着が確認された市町村も2004年度の5市町から2025年度には18市町へ拡大しており、県全体として分布拡大が続いてきたことも確認できる。

 さらに、千葉県が2026年8月に更新した野生鳥獣対策の統計資料では、2025年度末のキョンの推定生息数は約10万5,700頭、2025年度の捕獲数は12,116頭となっている。ただし、この統計資料では2024年度の推定生息数が約10万600頭とされており、第3次防除実施計画に記載された94,093頭とは一致しない。推計には調査データや統計モデルが用いられ、過去の値が更新される場合もあるため、推計の算出条件を確認せずに異なる資料の数値を単純につなげることはできない。それでも、いずれの資料でも県全体の生息数が高い水準にあることは共通している。

 そもそも推定生息数は、実際にすべての個体を数えた結果ではない。第3次防除実施計画における2024年度の推定値94,093頭には統計的な不確実性があり、95%信用区間は49,480頭から146,006頭と幅がある。これは生息数の推定に相当の不確実性が残っていることを示しており、推定値の細かな増減だけで対策の成功や失敗を断定すべきではないという意味でも重要である。

 一方、外房の市町村別に見ると、県全体とは異なる変化が起きている。第3次防除実施計画における2024年度の推定生息数の中央値は、勝浦市が4,151頭、いすみ市が7,286頭、大多喜町が10,317頭、御宿町が591頭である。勝浦市と御宿町では以前のピークから減少し、いすみ市でも横ばいから減少傾向がみられるのに対して、大多喜町では増加傾向が続いている。県は勝浦市や御宿町などについて、捕獲技術の蓄積や捕獲数の増加によって一定の捕獲圧を確保できたと評価している。

 この地域差は、獣害対策を考えるうえで重要である。野生動物の問題を人口減少だけで説明することも、捕獲を増やせば必ず解決すると考えることも適切ではない。動物の繁殖力や移動、餌となる植物の分布、土地管理の状況、捕獲の実施体制などが複雑に関係しており、実際に一部の地域で生息数が減少しているという事実は、地域の条件に応じた管理が一定の効果を持ち得ることを示している。

獣害は農家だけの問題ではなくなっている

 獣害という言葉から、多くの人が最初に思い浮かべるのは田畑の被害だろう。イノシシによって稲や野菜を荒らされたり、キョンに農作物を食べられたりする被害は、農業経営に直接的な損失を与える。しかし、野生動物が住宅地の近くまで現れるようになると、被害の意味は変わってくる。庭木や花壇への食害、鳴き声による生活上の不快感、敷地の管理負担、動物との遭遇への不安など、農業に従事していない住民にも問題が及ぶからである。

 2025年度の千葉県全体の農作物被害額を見ると、イノシシによる被害は約1億6,983万円、キョンによる被害は約1,374万円となっている。キョンの被害額は2024年度の約622万円から増えており、農業に対する影響も無視できない。ただし、2024年度以降の統計は調査要領が変更されているため、それ以前の数値との単純比較には注意が必要である。また、被害額の増減は動物の生息数だけでなく、作付面積、農作物価格、防護設備、被害の把握方法などにも左右される。

 地域別に見ると、2025年度のイノシシによる農作物被害額は、勝浦市が約753万円、いすみ市が約1,429万円、大多喜町が約1,822万円、御宿町が約49万円である。キョンについては、勝浦市が約207万円、いすみ市が約140万円、大多喜町が約402万円、御宿町が約9万円となっている。4市町の合計では、イノシシが約4,052万円、キョンが約758万円であり、農業経済上の負担には明確な違いがあるとともに、市町村間にも大きな差が存在する。

 もっとも、こうした農作物被害額だけで住民の生活上の負担を評価することはできない。自家消費のための小さな家庭菜園や庭木への被害、住宅周辺の防護設備にかかる費用、動物の出没による不安などは、農作物被害統計に十分反映されない可能性がある。農業被害の少ない地域でも住宅地での問題が存在する場合があり、逆に農業被害が大きい地域であっても、住宅地の危険性が同じ程度に高いとは限らない。

 千葉県の第3次キョン防除実施計画によれば、キョンによる生活環境被害が確認された自治体は、2020年度の調査では4市だったものが、2025年度の調査では9市町に広がっている。そこには勝浦市、いすみ市、大多喜町、御宿町も含まれており、行政も農作物被害とは別に、鳴き声や住宅地周辺の花壇、植木への食害などを生活環境上の問題として把握している。ただし、この数字は生活環境被害を確認した自治体数であって、被害世帯数や一世帯当たりの負担が同じ割合で増えたことを意味するものではない。

高齢者にとって獣害は住宅を維持する負担になる

 例えば、高齢者が一人で暮らしている家を考えてみる。庭には長年育ててきた花や低木があり、朝には庭へ出て水をやり、少し草を抜くことが生活習慣になっている。その庭にキョンが繰り返し入り込み、植木や花を食べるようになれば、対策として防護柵を設けることが考えられる。しかし、柵は一度設置すれば終わりではなく、草が絡めば刈り取る必要があり、傾けば直し、破損すれば交換しなければならない。若いうちは自分でできた作業でも、80歳を超えて杭を打ったり、斜面の草を刈ったり、重い資材を運んだりすることは次第に難しくなる。

 すると獣害は、花が食べられたという直接的な被害だけではなく、その住宅を維持するために必要な費用や労働量を増やす問題へと変化する。地方の戸建住宅で高齢者が暮らし続けるには、屋根や外壁を修理する人、水道や電気を直す人、庭木を剪定する人など、さまざまな仕事を担う人が必要になる。野生動物が頻繁に侵入する地域では、そこに防護柵の点検や補修、敷地周辺の草刈りといった作業まで加わることになり、本人が作業できなくなれば家族や地域住民、専門業者に依頼する必要が生じる。

 ここには金銭的な問題と労働力の問題が重なっている。防護柵の資材費を補助する制度があっても、設置する人がいなければ対策は進まないし、一度設置できたとしても、数年後に補修を担う人がいなければ効果は低下する。年金生活の高齢者にとって、追加的な費用を負担し続けることも簡単ではない。獣害を生活インフラの問題として考えるとは、野生動物を捕獲することだけでなく、人が住み続けるために必要な日常的な管理作業と、それを支える人員や費用まで含めて考えることである。

「怖いから外へ出ない」という被害は統計に現れにくい

 イノシシの場合は、キョンとは異なる安全上の問題もある。イノシシは通常、人を避ける性質を持っているが、至近距離で突然遭遇したり、刺激して興奮させたりした場合には、人身事故につながる可能性がある。したがって、イノシシの存在そのものを過度に危険視する必要はないものの、住宅地や生活道路の近くで出没が繰り返されれば、住民が外出時の安全を気にするのは自然なことである。

 例えば、冬の夕方を想像すると分かりやすい。午後5時を過ぎれば、外房の住宅地でもすでに暗くなっている。80代の一人暮らしの人が、日課の散歩や近所への用事のために家から100メートルほど歩くとする。道路は舗装され、歩行に大きな支障がないように見えても、近くの空き地や竹やぶにイノシシが出ることを知っていれば、その100メートルの意味は変わってくる。実際に遭遇する確率が低かったとしても、不安を感じることで外出時間を変えたり、暗くなってからは歩かなくなったりする可能性がある。

 こうした行動の変化が積み重なれば、散歩の回数が減り、近所との交流機会が少なくなり、高齢者の生活圏が狭くなる要因になるかもしれない。高齢者の身体活動や社会参加には、道路の安全性や近隣環境に対する安心感が関係することが研究でも指摘されている。ただし、野生動物への不安が外房の高齢者の外出を実際にどの程度減らしているのかについては、十分な地域別調査があるわけではなく、ここで述べているのは科学的に考え得る影響であって、すでに定量的に証明された事実ではない。

 さらに、高齢者が外出を控える理由は野生動物だけではない。脚力の低下、道路の暗さ、歩道の不足、交通事故への不安、近隣施設の減少なども行動に影響するため、獣害の影響を調べる場合には、これらの条件を区別する必要がある。それでも、動物への不安から散歩をやめたかどうか、夕方以降の外出を控えるようになったかどうかを調査することには意味がある。農作物被害額や人身事故件数には表れない生活上の不便を把握しなければ、高齢者が安心して暮らせる環境を十分に評価できないからである。

人が減ると野生動物が増えるというより「境界」が変わっていく

 では、なぜ野生動物が住宅地の近くまで現れるようになるのだろうか。これを動物の個体数だけで説明すると、地域で起きている変化の重要な部分を見落とすことになる。人口減少と高齢化が進む地域では、田畑を耕す人が少なくなり、農地が草地へ変わることがある。山際の草刈りが行われなくなれば低木や竹が伸び、空き家の庭が荒れれば住宅地の近くにも藪が形成される。こうした環境は、野生動物にとって身を隠す場所や移動経路となる場合があり、人間の生活圏へ近づくことを容易にする要因となり得る。

 環境省や農林水産省も、人口減少や高齢化による人間活動の低下、耕作放棄地の増加、利用されなくなった里山林の存在などを、野生鳥獣の分布拡大や被害発生に関係する要因として位置づけている。かつて山と住宅地の間には、人が耕す田畑や草刈りされた斜面、農道などが存在し、日常的な人間活動が結果として野生動物の接近を抑える役割を果たしていた場合がある。人口が減って土地の利用頻度が低下すると、地図上の土地の境界は変わらなくても、実際の環境は少しずつ野生動物が利用しやすい状態へ変化していく。

 ただし、人口減少だけが野生動物の増加を決めるわけではない。キョンの場合には繁殖力や周辺地域からの移入、餌となる植物の分布、捕獲による死亡率などが関係しており、イノシシについても繁殖、食物条件、狩猟や捕獲の状況など、複数の要因を考えなければならない。同じように高齢化が進んだ地域でも、土地管理や捕獲が適切に行われていれば被害を抑えられる場合があり、逆に人口が比較的多くても、餌となるものが放置されていれば動物を引き寄せる可能性がある。

 したがって、外房の獣害を「自然が増えた」と表現するだけでは不十分であり、「人間が管理していた空間が減った」という側面からも考える必要がある。ただし、それを唯一の原因とみなすのではなく、野生動物側の生態的な条件と人間側の土地利用の変化が重なった結果として理解することが重要である。

人口が半分になっても、管理する土地は半分にならない

 この問題には、人口減少地域のインフラ維持とよく似た構造がある。人口が1万人から5千人に減ったからといって、道路の延長が半分になるわけではなく、水道管や橋、側溝なども人口に比例して短くなるわけではない。そのため、従来と同じ施設を維持しようとすれば、住民一人当たりの費用負担が増えたり、自治体が維持管理の優先順位を見直さなければならなくなったりする。同じことは、農地や山林、空き地の管理についても考えられる。

 仮に、ある地域に100人の住民がおり、その周囲に100ヘクタールの管理対象地が存在するとする。人口と土地管理の関係を単純化すれば、住民一人当たりに対応する土地面積は1ヘクタールである。人口が50人に減っても土地が50ヘクタールになるわけではないため、一人当たりの面積は2ヘクタールとなり、さらに25人まで減れば4ヘクタールになる。これは土地面積が一定という条件の下では数学的に正しい計算だが、実際の管理負担が人口の減少率に比例して増えるとまでは言えない。

 なぜなら、土地を管理するのは住民全員ではなく、農業者や土地所有者、自治会、専門事業者などであり、それぞれの管理能力も異なるからである。また、森林と農地では必要な管理作業が違い、機械化や外部委託によって少人数で管理できる場合もある。現実の管理能力を把握するには、住民の人数だけでなく、年間に必要な作業量と、地域で実際に確保できる労働量を比較する必要がある。

 例えば、地域の草刈りや見回りなどに年間2,000人・時間の作業が必要だとする。住民や事業者によって年間2,500人・時間を確保できていれば、管理需要を満たす余裕があるが、担い手の減少によって確保できる労働量が1,000人・時間まで減れば、必要な作業の半分しか実施できない。この場合、すべての土地を同じように管理し続けることは難しく、外部委託、機械化、管理区域の重点化などを考える必要が生じる。

 人口減少とは、単に消費者や納税者が減ることではなく、地域を日々管理してきた「作業する人」が減ることでもある。しかも、草刈りや農地管理、捕獲活動は一定の体力や技能を必要とするため、総人口が緩やかに減っている段階でも、実際に作業できる人の数はそれ以上の速さで減少する可能性がある。獣害は、こうした地域の管理能力の変化が生活環境に現れる現象の一つとして捉えることができる。

捕獲を増やせば解決するのか

 もちろん、野生動物の個体数や分布を管理するために捕獲は重要である。千葉県では2025年度にイノシシを34,561頭、キョンを12,116頭捕獲している。ただし、捕獲数が多いことは必ずしも生息数が増えていることを意味せず、捕獲に投入した人員やわなの数、捕獲を実施した期間、事業予算などによっても変化するため、捕獲数だけで生息状況を判断することはできない。

 キョンについては、第2次防除実施計画で年間8,500頭以上という捕獲目標が設定され、2021年度以降は目標を達成していたものの、県全体の推定生息数は減少に転じなかった。このため、2026年度から2030年度までを対象とする第3次防除実施計画では、年間18,000頭以上という捕獲目標が設定されている。2025年度の実績はこの新たな年間目標を下回っているが、目標達成の可否だけでなく、捕獲後の推定生息数や分布、地域別の被害状況がどのように変わるかを継続的に確認することが必要である。

 捕獲には、人手と専門的な技能が必要になる。わなを設置し、点検し、捕獲した個体を適切に処理し、安全管理を行い、必要な法的手続きを進めなければならない。捕獲数を増やそうとすれば、わなの設置数だけでなく、点検や処理に必要な労働時間も増える可能性があり、捕獲を続けるための体制を確保することが欠かせない。

 千葉県の第3次キョン防除実施計画では、県内の狩猟免許所持者数がピーク時の約3分の1となり、そのうち60歳以上の割合が50%を超えていることが課題として指摘されている。ただし、狩猟免許所持者全員が有害鳥獣捕獲に従事しているわけではなく、実際の捕獲能力は従事者数や活動日数、捕獲技術などによって変わる。それでも、担い手の高齢化が進んでいる以上、将来の捕獲体制を地域の経験者の善意や無償に近い協力だけに依存することには限界がある。

 獣害が深刻な地域ほど捕獲を必要とする一方、人口減少によって捕獲を担う人材の確保が難しくなる可能性がある。ここに人口減少地域特有の矛盾があり、対策を長期的に続けるためには、「何頭捕るか」という目標とともに、「誰が10年後も捕るのか」「その費用を誰が負担するのか」という問いを同時に考えなければならない。

自動車があっても獣害からは逃れられない

 外房では、自動車を使えば野生動物との遭遇をある程度避けられるようにも思える。徒歩で暗い道を歩かなければイノシシに出会う機会は減るかもしれないし、買い物や通院も車で移動すればよい。しかし、車社会には車社会なりの獣害があり、道路を横断する動物との衝突や、それを避けようとする急ブレーキ、急ハンドルが交通事故につながる可能性がある。

 特に外房には、街路灯が少なく、山林や田畑の間を通る道路が少なくない。道路脇の草木が伸びて見通しが悪くなれば、動物の発見が遅れる可能性もある。運転者が高齢になるにつれて夜間の視認性や反応能力に個人差が生じることも考慮すれば、野生動物の道路への出没は、高齢者が自動車に依存して暮らす地域にとって交通安全上の検討課題となる。

 ただし、外房において野生動物が関係する交通事故がどの程度発生しているのか、また高齢運転者の事故に占める割合がどれほどなのかについては、地域別の事故データを確認しなければ結論は出せない。動物が道路脇に多く見られることと、衝突事故が多発していることは同じではなく、危険箇所を把握するには、事故記録や道路管理者への通報、出没情報、交通量などを組み合わせた分析が必要である。

 国土交通省も2026年、野生動物との衝突が集中する区間などの情報を活用し、標識や路面表示、道路情報板などによる注意喚起を進める方針を示している。こうした考え方は外房にも応用できるが、道路脇の草刈りや照明の設置がどの場所でも同じ効果を持つわけではない。動物の移動経路や道路構造によっては、侵入防止設備や注意喚起の組み合わせが必要になる場合もあるため、道路管理と獣害対策を連携させ、対策前後の変化を検証することが重要になる。

高齢者が暮らせる町とは、野生動物を一律に排除する町ではない

 ここまで考えると、イノシシやキョンのいる地域では高齢者が安心して暮らせないようにも見える。しかし、そう結論づけるのは適切ではない。外房の魅力の一つは、海があり、里山や田畑があり、住宅の周囲にも緑が残る自然環境にある。野生動物が存在すること自体を否定するのではなく、それぞれの動物の生態や法制度、被害の程度に応じて適切な管理を考える必要がある。

 ここで区別しなければならないのが、イノシシとキョンの制度上の位置づけである。イノシシは在来の野生動物であり、鳥獣保護管理法などに基づいて、被害の軽減や適切な個体数・分布管理が進められている。一方、キョンは特定外来生物に指定されており、千葉県の防除実施計画では、県内の野外から完全に排除することが最終的な目標とされている。したがって、すべての野生動物について同じように共存を目指すという考え方は、現行の制度や生態系保全の方針と一致しない。

 キョンの場合には、農作物や生活環境への被害だけでなく、在来の植物や生態系への影響も懸念されているため、分布拡大を防ぎ、生息数を減らして最終的な根絶を目指すことが基本となる。イノシシについては、人身事故や農作物被害を防ぎながら、人間の生活圏への侵入を抑える管理が中心となる。この違いを踏まえたうえで、住宅地や生活道路、農地など、人間の生活に関係する場所をどのように守るかを考えなければならない。

 つまり、重要なのは野生動物を一律に危険な存在として扱うことでも、自然との共存という言葉だけで被害を受け入れることでもない。動物種ごとの管理目標を明確にし、住民の安全と生活環境を確保できる仕組みを整えることが必要なのである。

「動物が増えた町」の裏側にあるもの

 人口減少について語るとき、私たちは学校がなくなる、スーパーがなくなる、病院が遠くなるといった「施設が減る問題」を考えがちである。しかし地方の暮らしを支えているのは、目に見える施設だけではない。田畑を耕す人がいること、道路脇の草を刈る人がいること、山際を見回る人がいること、空き家の庭を管理する人がいること、野生動物の捕獲に携わる人がいることも、地域の生活環境を維持する重要な条件である。

 ところが人口が減少し、高齢化が進むと、そうした作業を担う人も少なくなる。田畑の一部が使われなくなり、管理されない草地や藪が増え、かつて人が頻繁に出入りしていた場所が野生動物の移動経路や休息場所として利用される可能性が高まる。それを見て私たちは「イノシシが増えた」「キョンが増えた」と表現するが、現象を人間の側から見ると、地域を管理するための活動量が低下したことも関係している。

 ただし、こうした変化を人口減少の必然的な結果として諦める必要はない。土地の管理方法を工夫したり、複数の世帯が共同で防護設備を整えたり、捕獲体制を広域的に構築したりすることで、限られた人員でも一定の管理水準を維持できる可能性がある。むしろ、人口が減ること自体を短期間で変えるのが難しいのであれば、少ない人員でどのように生活環境を維持するかという制度設計の方が、地域政策としては現実的な検討課題になる。

では、外房の獣害をどう解決すればよいのか

 これまでの議論を踏まえると、解決策を「捕獲数を増やす」という一点だけに求めるのは十分ではない。捕獲による個体数管理は必要だが、それだけで住宅地への侵入がなくなるとは限らず、動物を引き寄せる餌や身を隠す場所が残っていれば、周辺から別の個体が入り込む可能性もある。農林水産省や千葉県が進めている鳥獣対策でも、捕獲、防護、生息環境管理を組み合わせる考え方が重視されており、地域の被害を減らすには、これらを一体的に進める必要がある。

 まず考えられるのは、地域全体を一様に守ろうとするのではなく、人間の生活に直接関係する場所を重点的に管理することである。人口が減少していく地域で、すべての山林や農地、空き地をかつてと同じ密度で管理し続けることは現実的ではないため、住宅地、通学路、医療施設周辺、ごみ集積所、主要道路などを重点管理区域として位置づけ、その周囲の草刈り、藪の除去、侵入防止設備の整備、必要に応じた捕獲を集中的に実施する方法が考えられる。

 ただし、重点管理区域を設定する場合には、単に人口の多い場所だけを優先すればよいわけではない。高齢者が少数で暮らす集落であっても、代替の移動手段が乏しい地域や、通院・買い物の経路が限られている地域では、安全を確保する必要性が高い場合がある。また、生活圏の外側を一律に自然へ戻すことにも注意が必要であり、管理を放棄することで特定外来生物が拡大したり、在来の植生に影響を与えたりする場合もある。管理の重点化とは、守る場所を単純に切り捨てることではなく、被害の大きさ、住民の脆弱性、土地の生態的条件、必要な費用などを比較して、限られた資源を合理的に配分することである。

 次に必要なのは、個人宅の問題を個人だけに負わせない仕組みである。高齢者世帯が自費で防護柵を設置し、その後何年も自分で維持するという方法には限界があり、とりわけ高齢単身世帯では、対策方法を理解していても作業を実施できない場合が考えられる。行政が資材費だけを補助する仕組みでは、資材を運び、設置し、点検し、修理するという労働力の問題までは解決しない。

 そこで、複数の住宅をまとめた防護設備の整備や、草刈りと柵の補修を地域単位で請け負う仕組み、高齢者が利用しやすい作業支援サービスなどを検討する余地がある。ただし、現在の鳥獣被害対策に関する国の交付金制度は農林水産業への被害防止を中心としており、一般住宅の庭や防護柵の維持管理を広く公費で賄う制度が整っているわけではない。住宅地への支援を拡大する場合には、自治体独自の制度設計や既存の福祉・住宅施策との連携を検討し、対象となる世帯、所得条件、費用負担、作業の実施主体などを明確にする必要がある。

 さらに、捕獲を地域の善意だけに依存しない体制も重要になる。自治体が捕獲業務を継続的な専門業務として位置づけ、適切な報酬、装備、研修、安全管理、捕獲個体の処理体制を整えることや、複数の市町村が共同で専門人材を確保することなどが考えられる。ただし、捕獲業務には関係法令に基づく許可や資格、安全上の制約があり、住宅地での捕獲には一般の山林や農地とは異なる注意も必要となる。専門化を進める場合にも、法制度と安全確保を前提とした実施体制が欠かせない。

 外房では、一つの市町村だけで対策しても、野生動物は行政境界を越えて移動する。市町村境は人間が決めた線であって、イノシシやキョンの行動範囲とは一致しないため、隣接自治体が捕獲や生息情報を共有し、広域的な管理を進めることには合理性がある。ただし、動物の移動経路や個体群のつながりを正確に把握するには調査が必要であり、捕獲数の分布だけから移動方向を断定することはできない。県と市町村が調査結果を共有し、地域ごとの生息状況に応じて役割を分担することが望ましい。

技術の導入は必要だが、人手が不要になるわけではない

 獣害対策には、センサーや自動撮影カメラ、遠隔監視装置などを利用する余地もある。野生動物がどの場所に、どの時間帯に現れるのかを把握できれば、捕獲場所の選定や重点的な環境管理に役立つ可能性があり、人が広い山林を繰り返し見回る場合と比べて、調査の効率を高められることも考えられる。

 しかし、技術を導入すれば人手が不要になるわけではない。カメラの設置や保守、機器の故障への対応、撮影データの確認、捕獲後の処理などには引き続き人が必要であり、通信環境が整っていない地域では運用上の制約も生じる。また、住宅地の近くにカメラを設置する場合には、住民のプライバシーや画像データの管理にも注意しなければならない。

 技術導入の効果を判断する際には、機器の購入費だけでなく、維持費や通信費、作業時間の削減量、捕獲効率の変化まで比較することが重要である。高価な機器を導入しても、保守を担う人がいなければ数年後に使われなくなる可能性があり、人口減少地域では特に、導入後も継続して運用できる仕組みを重視する必要がある。技術は人間の仕事をすべて代替するものではなく、限られた人員を効果的に配置するための手段として考えるべきだろう。

対策の成果は「何頭捕ったか」だけでは測れない

 獣害対策を長期的に進めるのであれば、成果を測定する方法も見直す必要がある。捕獲数が増えたことは行政活動の実績として重要だが、それだけでは地域住民の生活環境が改善したかどうかは分からない。実際、キョンについては過去の捕獲目標を達成しても県全体の推定生息数が減少しなかった経緯があり、捕獲数と政策成果を区別する必要性が示されている。

 評価に当たっては、推定生息数や分布域の変化、農作物被害額、住宅地への出没件数、生活環境被害の申告件数、捕獲に必要な作業量、防護設備の維持費などを組み合わせて見ることが考えられる。さらに、高齢者の暮らしを政策目標に含めるのであれば、野生動物への不安から外出を控えた経験があるか、庭や敷地の管理に困っているか、対策費用をどの程度負担しているかといった住民調査も有効だろう。

 ただし、出没の通報件数が増えたとしても、必ずしも動物の数が増えたとは限らない。住民の関心が高まり、通報方法が分かりやすくなれば、実際の出没状況が変わらなくても報告数は増える可能性がある。同じように、被害額が減った場合でも、防護設備の効果なのか、作付面積が減ったためなのかを区別しなければならない。

 そのため、対策の効果を確かめるには、できるだけ同じ方法でデータを継続的に集め、対策を行った地域と条件の近い地域を比較することが望ましい。捕獲数、捕獲に投入したわなの数や設置日数、被害発生地点、住民の生活上の不便などを関連づけて分析することで、限られた予算をどの対策へ配分すべきかについて、より客観的な判断が可能になる。

解決の鍵は「動物側の圧力を下げること」と「人間側の管理能力を維持すること」

 以上を整理すると、外房の獣害対策には二つの方向が必要になる。一つは、捕獲や侵入防止によって野生動物が農地や住宅地に与える影響を減らすことであり、もう一つは、草刈り、土地管理、道路管理、住宅支援などを通じて、人間側の生活環境を維持する能力を確保することである。前者だけを進めても捕獲体制が維持できなければ対策は継続せず、後者だけを進めても動物の個体数や分布が適切に管理されなければ被害を抑えきれない場合がある。

 ただし、この二つの方向を組み合わせる際には、イノシシとキョンの管理目標を区別しなければならない。イノシシについては被害防止と適切な個体数・分布管理を進める一方、キョンについては、特定外来生物として分布拡大を防止し、最終的な根絶を目指す必要がある。そのうえで、いずれの動物についても、住民が現在受けている生活上の負担を減らすための対策を同時に進めることが求められる。

 人口減少を前提にするなら、昔と同じ土地管理の状態へそのまま戻すことを目標にするのも現実的ではないだろう。農家が多く、田畑が広く耕され、山際まで人が頻繁に入っていた時代の管理方法を、少ない人口で再現することは難しい。必要なのは、現在の人口構成や財政条件の下で維持できる土地管理の仕組みを設計し、住宅地や生活道路など重要な場所に必要な管理能力を確保することである。

 その際には、自然環境の保全と生活環境の安全を対立するものとして考える必要はない。管理すべき草地や農地を適切に維持しながら、在来の生態系を保全し、特定外来生物の拡大を防ぐという複数の目的を組み合わせることが重要である。野生動物の管理は、動物を減らすことだけでなく、人間がどのように土地を利用し、維持していくかという長期的な地域政策でもある。

獣害対策を生活インフラとして考える意味

 ここでいう「生活インフラとしての獣害対策」とは、鳥獣対策が道路や水道と同じ法的な区分に属するという意味ではない。住民が安全に移動し、住宅を維持し、日常生活を続けるために必要な条件の一つとして、獣害対策を位置づけようという政策上の考え方である。

 例えば、水道管が老朽化すれば修理が必要になり、道路の側溝が詰まれば清掃しなければならない。同じように、住宅地の周囲に動物が身を隠せる藪が増えれば草刈りや環境管理が必要になり、防護設備が破損すれば補修しなければならない。こうした作業は一度実施すれば永久に効果が続くものではなく、点検と維持管理を繰り返す必要があるという点で、生活を支える設備や公共空間の維持管理と共通する性質を持っている。

 さらに、高齢者にとっては、必要な対策が存在することだけでなく、その対策を実際に利用できることが重要になる。補助制度があっても申請手続きが難しければ利用できず、防護柵の資材が支給されても設置できなければ効果は得られない。地域の担い手が少なくなる中では、行政が制度を整えるだけでなく、現場で作業を実施できる体制まで考えなければ、支援が必要な世帯ほど対策から取り残される可能性がある。

 もっとも、すべての個人宅の獣害対策を行政が負担することも現実的ではない。住民の安全に直結する場所、農業経営への被害が大きい場所、特定外来生物の分布拡大を防ぐうえで重要な場所などについて、公共性と費用対効果を比較しながら支援の優先順位を検討する必要がある。そのためには、農林行政だけでなく、福祉、住宅、交通、道路管理、空き家対策などの担当部門が情報を共有し、地域の実情に合わせた役割分担を進めることが求められる。

30年後にも「普通に外へ出られる町」であるために

 水道が出ること、電気が使えること、道路があること、車でスーパーまで行けることは、地方で暮らすための基本的な条件である。しかし、それだけで高齢者が安心して暮らせるとは限らない。家の周囲を普通に歩けること、庭の管理が過度な負担にならないこと、夜の道路をある程度安心して走れること、野生動物が住宅地まで入り込んだときに相談や対応を依頼できる人がいることも、日常生活を維持するうえで無視できない条件だからである。

 外房の30年後を考えるとき、問うべきなのは「イノシシやキョンを何頭減らせるか」だけではない。人口が減少し、高齢者が増え、農地や山林を管理する人が少なくなっていく中で、人間と野生動物の生活圏が重なる場所を誰が、どの範囲まで、どのような費用と仕組みで管理するのかという問題である。野生動物の生息数を推定することは重要だが、それと同じように、地域が管理に投入できる労働力や財源を把握し、将来も維持できる対策を設計する必要がある。

 その答えは、すべての野生動物を排除することでも、昔の里山へそのまま戻すことでもないだろう。在来の野生動物については適切な管理を進め、キョンのような特定外来生物については法制度に基づいて防除を強化しながら、住宅地や生活道路など守るべき場所を明確にする。そして、捕獲、土地管理、高齢者支援、交通安全を個別の課題として切り離すのではなく、限られた人員と財源で暮らしを維持するための一体的な政策として考えていく必要がある。

 獣害を生活インフラとして考えるということは、野生動物の問題を「山の問題」から「町の暮らしの問題」へ広げることである。そこで重要なのは、動物が何頭いるかという数字だけでなく、地域に暮らす人がどのような負担を受け、その負担を減らすためにどれだけの管理能力が必要なのかを具体的に把握することである。

 高齢者が30年後にも玄関を開けて庭へ出て、近所を歩き、日々の用事を済ませ、安心して自宅へ戻れる地域を残せるかどうか。それは野生動物の数だけで決まる問題ではなく、人口減少が進む中でも、暮らしを支える土地と環境を管理し続ける仕組みを地域社会が維持できるかどうかにかかっている。道路や水道を維持することと同じように、人が安心して暮らせる空間を維持することも、これからの外房が考えなければならない重要な生活基盤の一つなのである。

地域の課題を、自分の判断に置き換えて考える

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