地域政経

九条レオンの地域から社会と政治・経済のこれからを考える

関税は産業を守るのか、それとも国民生活と世界経済を傷つけるのか

2026年、世界の通商政策は大きな転換点に立っている。

関税、輸出規制、国内生産への補助金、政府調達における国産品優遇、重要物資の囲い込みなど、各国が自国の産業と安全保障を優先する政策を強めている。

日本の経済産業省も、「通商戦略2026」の検討資料において、保護主義は単なる「台頭」の段階ではなく、「本格化・常態化」していると認識している。同資料は、国際経済秩序の重心がルールから力と威圧へ移り、関税、輸出規制、非市場的措置などが経済的な圧力手段として使われる状況を指摘している。

こうした変化には、一定の理由がある。

新型コロナウイルス感染症の世界的流行、ロシアによるウクライナ侵攻、半導体不足、重要鉱物の供給不安、過剰生産、強制労働、人権問題などを通じて、安価な輸入品だけに依存する危険性が明らかになった。

自由貿易は必ずしも公正な競争を意味しない。政府補助金、低賃金、環境規制の違い、知的財産権の侵害、安全保障上の依存などが存在する以上、何の条件も付けずに市場を開けばよいという考え方にも限界がある。

しかし、保護主義には別の危険がある。

一つの国が国内産業を守るために関税を引き上げれば、相手国も対抗措置を取る可能性がある。輸入品価格が上がれば、消費者だけでなく、輸入原材料や部品を使う国内企業の費用も増える。

さらに、保護される企業が競争力の改善を怠れば、関税は一時的な産業支援ではなく、非効率な産業を恒久的に維持する制度へ変わる。

過去200年の世界史は、保護主義が常に失敗したとも、自由貿易が常に成功したとも示していない。

歴史が示しているのは、対象、目的、期間、国際環境、退出条件のない保護政策が、当初の目的を超えて拡大し、報復と政治的対立を生みやすいという事実である。

1.保護主義とは何か

保護主義とは、外国との競争から国内産業や雇用を守るため、政府が輸入や外国企業の活動に制約を加える政策をいう。

代表的な手段は関税である。

関税は輸入品に課される税金であり、通常は輸入者が政府へ納付する。その費用の全部または一部は、販売価格の上昇という形で、国内の事業者や消費者へ転嫁される。

この点は重要である。

関税は、外国政府から自国政府へ自動的に支払われる罰金ではない。実際の負担は、輸入業者、流通業者、製造業者、消費者、外国の輸出企業の間で分かれる。

保護主義には、関税以外にも次のような手段がある。

輸入数量制限、輸入許可制、国内企業への補助金、政府調達での国産品優遇、技術移転の要求、輸出規制、経済制裁、原産地規則、国内生産比率の義務付けなどである。

日本にも保護的な制度は存在する。

例えば、関税割当制度では、一定数量までの輸入品に無税または低い関税率を適用し、それを超える輸入には比較的高い関税率を適用する。財務省税関によると、2026年度はナチュラルチーズ、革、革靴、豆類、こんにゃく芋など19品目に関税割当制度が適用されている。

したがって、保護主義は特定の国だけが採用している特殊な政策ではない。

問題は、保護するか否かという二者択一ではなく、どの産業を、どの理由で、どの程度、どの期間保護するかにある。

2.19世紀前半~穀物法が示した生産者保護と生活費の対立

過去200年の保護主義を考えるうえで、英国の穀物法は重要な出発点となる。

英国では、国内農業を保護するため、輸入穀物に高い障壁が設けられた。農業生産者や地主にとっては、外国産穀物との競争を抑え、国内価格を維持する効果があった。

一方で、穀物価格が高く維持されれば、パンなどの食料価格も高くなりやすい。保護政策の利益を受ける農業生産者と、食料費を負担する都市労働者や消費者との間に、利益の対立が生じた。

1846年、ロバート・ピール首相の政権は穀物法の廃止を進めた。

当時の英国議会では、保護を急に撤廃すれば農業に深刻な打撃を与えるという反対論と、食料品価格を下げ、製造業を発展させるためには撤廃が必要だという議論が対立した。

ピールは議会で、禁止的な措置と保護関税の緩和を原則として進めると説明する一方、農業への急激な影響を避けるため、一定の移行期間を設ける考えも示していた。

穀物法は最終的に1846年に廃止された。ただし、英国議会の解説によると、廃止後に小麦価格が直ちに暴落したわけでも、欧州産小麦が突然大量に流入したわけでもなかった。

この事例から分かるのは、関税の影響は政治的な主張ほど単純ではないということである。

関税を撤廃すれば、必ず輸入品が国内市場を席巻するとは限らない。一方で、関税を維持すれば、国内生産者だけでなく、食料を購入する多数の国民が負担を負う。

保護政策では、「守られる産業」だけでなく、「価格上昇を負担する側」を確認する必要がある。

3.19世紀後半~保護関税は工業化を成功させたのか

19世紀後半、米国やドイツなどは、英国との工業競争のなかで比較的高い関税を採用した。

この歴史から、「先進国も成長期には保護主義を採用していた」「自由貿易を受け入れる前に、幼い国内産業を保護する必要がある」という議論が生まれた。

これは幼稚産業保護論と呼ばれる。

新しい産業は、技術、設備、熟練労働者、販売網などが未成熟であり、すでに規模を拡大した外国企業と最初から同じ条件で競争することが難しい。そのため、一定期間だけ関税や補助金で保護し、競争力を持つまで育成するという考え方である。

この理論には合理性がある。

実際、重要技術、医薬品、半導体、エネルギー、食料などを完全に外国へ依存することには、経済上だけでなく、安全保障上の危険もある。

しかし、19世紀の関税が米国の工業化を生み出したと断定することはできない。

米国の成長には、人口増加、国土の拡大、豊富な天然資源、鉄道建設、資本蓄積、技術革新、教育など、複数の要因があった。

NBER(National Bureau of Economic Research・全米経済研究所)の研究では、19世紀後半の米国経済成長は人口増加と資本蓄積への依存が大きく、輸入資本財の価格を上げる関税が投資を抑えた可能性も指摘されている。

また、2024年に公表された研究では、19世紀末から20世紀初頭の米国製造業について、関税が全体として労働生産性を低下させたとの推計が示された。一部の先端産業には正の効果があった可能性もあるが、その効果には不確実性が残る。

つまり、「関税が高かった時期に工業化した」という時間的な一致だけでは、関税が工業化の原因だったとは証明できない。

成功した産業だけを見て、保護されたまま成長しなかった産業を無視することも適切ではない。

4.保護政策が既得権益へ変わる仕組み

幼稚産業保護論には、重大な制度上の問題がある。

保護を始める理由は説明しやすいが、保護を終える時期を決めることは難しい。

関税によって利益を得る企業や業界は、制度の維持を求める。政治家に働きかけ、雇用喪失や地域経済への打撃を訴える。

一方、関税によって少額ずつ負担を負う消費者は、個々の商品の価格上昇が小さければ、強い政治運動を起こしにくい。

この結果、少数の受益者が強く制度維持を求め、多数の負担者の意見が政策に反映されにくくなる。

保護政策が長期化すると、企業は技術開発、生産性向上、経営改革よりも、政府からの保護を維持する活動に力を使う可能性がある。

本来は競争力を育てるための制度が、競争を避けるための制度へ変わるのである。

したがって、産業保護を実施する場合には、開始条件だけでなく、終了条件が必要になる。

保護期間、達成すべき生産性、研究開発、国内生産能力、輸出実績、価格水準などを事前に定め、目標を達成できない場合は保護政策を縮小する仕組みが必要である。

5.19世紀末から第一次世界大戦前~世界経済の統合と反動

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、蒸気船、鉄道、電信などの発達により、国際貿易と資本移動は拡大した。

一方で、外国産農産物との競争、労働者の不安、産業間の利害対立を背景に、各国で保護主義も強まった。

ここでも、関税と成長の関係は単純ではない。

19世紀末に高関税国の一部が高い成長を示したことは事実だが、その相関関係だけでは因果関係を証明できない。産業構造、資源、人口、制度、技術導入などの違いを考慮する必要がある。

保護主義は、国内産業の育成だけでなく、政治的な不満を外国との競争へ向ける手段にもなった。

国内の所得格差、失業、地域間格差、技術変化などの問題が、輸入品や外国企業の責任として説明されると、関税は経済政策であると同時に、国民をまとめる政治的象徴になる。

この構造は、現在にも共通している。

6.1930年代~スムート・ホーリー関税法の教訓

保護主義の危険を象徴する歴史として、1930年の米国スムート・ホーリー関税法が挙げられる。

この法律は、米国の農業や製造業を外国との競争から守る目的で、幅広い輸入品の関税を引き上げた。

しかし、法案成立前から貿易相手国は反発し、成立後には報復関税や輸入制限が広がった。米国上院の歴史資料も、相手国が米国製品への関税を引き上げ、国際貿易を停滞させたと説明している。

米国国務省の歴史資料によると、米国の欧州からの輸入額は1929年の13億3,400万ドルから1932年には3億9,000万ドルへ減少し、欧州向け輸出額も23億4,100万ドルから7億8,400万ドルへ減少した。世界貿易は1929年から1934年までに約66%減少したとされる。

ただし、この数字をもって、スムート・ホーリー関税法が世界恐慌の唯一の原因だったとするのは正確ではない。

世界恐慌には、株価暴落、銀行危機、信用収縮、金本位制、需要減少、企業倒産など、複数の原因があった。

貿易減少についても、関税と報復措置だけでなく、各国の所得と需要が急減した影響が大きい。

経済史研究でも、貿易崩壊のうち、関税、所得減少、外国の報復がそれぞれどの程度を説明するかについては検討が続いている。

したがって、正確な評価は次のようになる。

スムート・ホーリー関税法が世界恐慌を単独で発生させたとはいえない。しかし、各国の報復を招き、輸出市場を縮小させ、国際協調を損ない、すでに進行していた経済危機を悪化させた可能性は高い。

特に重要なのは、各国が同時に輸入を減らそうとしたことである。

一国だけなら、輸入を制限して国内需要を自国企業へ振り向けられる可能性がある。しかし、すべての国が同じ政策を採れば、各国の輸出市場も同時に縮小する。

自国だけが利益を得ようとする政策が、全体としてすべての国を悪化させる。

これが「近隣窮乏化政策」の危険である。

7.関税が外交関係を傷つける過程

貿易摩擦は、商品の価格だけに影響する問題ではない。

関税を課された国では、その措置が経済政策ではなく、自国への攻撃として受け止められることがある。

すると、相手国政府は国内世論に対応するため、報復措置を取らざるを得なくなる。

最初は鉄鋼や農産物だけだった対立が、自動車、食品、技術、投資、政府調達、渡航制限などへ広がる可能性もある。

1930年代の保護主義について、米国国務省の資料は、スムート・ホーリー関税を世界恐慌の唯一の原因とはしていない一方、国際協力を促進せず、近隣窮乏化政策の象徴となったと評価している。

経済的な相互依存が平和を自動的に保証するわけではない。

しかし、相互依存を急に切断し、国家間の経済関係を勝者と敗者だけで捉えるようになれば、相手国への不信が強まりやすい。

関税そのものが戦争を起こすと断定することはできないが、経済対立が政治的、外交的な対立を深める経路は存在する。

8.第二次世界大戦後~なぜGATTがつくられたのか

第二次世界大戦後、各国は1930年代の保護主義と経済対立への反省から、多国間の通商ルールを整備した。

1947年には、GATT(General Agreement on Tariffs and Trade・関税及び貿易に関する一般協定)が成立し、1948年に発効した。

GATTの目的は、すべての関税を直ちに廃止することではなかった。

関税を交渉によって段階的に引き下げ、特定国だけを不当に差別せず、突然の輸入制限を抑え、紛争をルールのなかで処理することであった。

1947年から1994年までに、ジュネーブ、アヌシー、トーキー、ディロン・ラウンド、ケネディ・ラウンド、東京ラウンド、ウルグアイ・ラウンドなど、8回の主要な関税交渉が行われた。

WTO(World Trade Organization・世界貿易機関)の説明によると、GATTは1948年から1994年まで世界貿易の主要な規則を提供し、国際貿易が大きく成長した時代を支えた。

ただし、戦後の経済成長をすべて自由貿易だけの成果とすることもできない。

各国は社会保障、産業政策、農業保護、公共投資、教育、研究開発支援などを併用していた。

戦後体制の重要な点は、国内政策をすべて放棄したことではなく、貿易政策を一国の一方的判断だけで運用せず、共通ルールと交渉の対象にしたことにある。

9.自由貿易の利益は均等に分配されなかった

戦後の貿易拡大は、消費者に安価で多様な商品を提供し、輸出企業に大きな市場を与えた。

国際分業によって生産費が下がり、技術や設備の導入も進んだ。

しかし、その利益が国内のすべての地域、産業、労働者へ均等に分配されたわけではない。

輸入品との競争に敗れた産業では、工場閉鎖や雇用減少が起きた。輸出産業や都市部が成長する一方で、特定の製造業に依存する地域が衰退することもあった。

自由貿易によって国全体の所得が増える可能性があっても、損失を受けた労働者が自動的に新しい仕事へ移れるとは限らない。

年齢、技能、居住地、家族、住宅などの事情によって、転職や移住が難しい人もいる。

この調整費用を軽視したことが、保護主義復活の一因になったと考えられる。

自由貿易への反発を、単なる無知や排外主義として片付けるべきではない。

実際に損失を受けた地域や労働者が存在する以上、政府には職業訓練、所得補償、地域投資、教育、産業転換を行う責任がある。

自由貿易を持続させるには、自由貿易の利益を再分配する国内政策が必要なのである。

10.1970年代以降~関税から非関税措置へ

戦後、関税率が段階的に低下すると、貿易摩擦は関税以外の手段へ移っていった。

輸入数量制限、輸出自主規制、国内基準、補助金、政府調達、為替政策などが争点となった。

自由貿易と保護主義は、明確に二分できるものではなくなった。

表面的には関税を低く維持しながら、国内規制や補助金によって外国企業の参入を難しくすることもできる。

反対に、安全、環境、労働、人権を守るために必要な規制が、外国企業からは貿易障壁に見える場合もある。

したがって、現在の保護主義を分析するときは、関税率だけを見ることはできない。

制度が正当な公共目的を持つのか、国内企業と外国企業に同じ基準を適用しているのか、必要以上に貿易を制限していないかを確認する必要がある。

11.2010年代以降~自由貿易から経済安全保障へ

2010年代後半から、世界の通商政策は再び保護的な方向へ動き始めた。

背景には、中国の急速な工業化、政府補助金、鉄鋼などの過剰生産、技術覇権、知的財産権、国家安全保障への懸念がある。

その後、新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、医療用品、半導体、物流などの供給網が混乱した。

さらに、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、エネルギーや食料を特定国へ依存する危険が明確になった。

こうした経験から、各国は効率だけでなく、供給網の強靱性を重視するようになった。

重要物資の国内生産、友好国からの調達、輸出管理、投資審査などは、単純な産業保護とは異なる経済安全保障政策として説明されている。

日本も、重要鉱物などの特定国依存を減らし、恣意的な輸出規制や非市場的な政策へ対応する必要性を国際会議で主張している。

この方向性には合理性がある。

例えば、医薬品、食料、エネルギー、半導体など、供給停止が国民生活や国家機能へ重大な影響を与える物資について、最安値だけを基準に調達先を決めることは危険である。

しかし、「安全保障」という言葉が使われれば、すべての保護政策が正当化されるわけではない。

安全保障の対象を広げすぎれば、ほとんどすべての産業を保護できてしまう。

本当に供給途絶の危険があるのか、代替調達が可能か、備蓄で対応できるか、国内生産の費用はどの程度かを検証する必要がある。

12.令和の現在~保護主義は常態化した

2026年3月のWTOによる世界貿易見通しは、2025年に予想以上の伸びを示した世界貿易が、2026年には減速すると予測した。

2025年の貿易には、関税引上げ前の駆け込み輸入や、AI(Artificial Intelligence・人工知能)関連製品への需要が影響していた。WTOは、関税上昇の影響が2026年に現れることや、中東情勢によるエネルギー、食料、輸送への影響を警戒している。

米国では2026年にも、鉄鋼、アルミニウム、銅、医薬品などに対する関税措置が実施・調整されている。

2026年6月の米国大統領布告では、鉄鋼、アルミニウム、銅の一部製品に50%、一部派生製品に25%などの関税制度が示された。米国政府は、その理由を国家安全保障と国内産業基盤の再建としている。

また、米国通商代表部は、強制労働によって生産された商品の輸入禁止を十分に実施していないとされる複数の国・地域について、通商法301条に基づく調査と関税措置を進めている。

これらの措置には、それぞれ国内産業、国家安全保障、人権、公正競争などの理由がある。

したがって、1930年の政策と現在の政策を、根拠なく同一視することは適切ではない。

現在はWTO、経済連携協定、多国籍企業の供給網、変動相場制などが存在し、1930年代とは制度も経済構造も異なる。

一方で、次のような危険な兆候には共通性がある。

関税の対象が限定品目から広範な品目へ拡大すること、政策目的が頻繁に変わること、相手国が報復措置を取ること、企業が投資判断を先送りすること、貿易政策が国内政治の象徴として使われることである。

13.現在と1930年代は同じなのか

2026年の世界を「1930年代の再来」と断定することは正確ではない。

1930年代には、世界恐慌、銀行危機、金本位制、植民地経済圏、国際機関の弱さなど、現在とは異なる条件があった。

現在の世界経済には、WTO、IMF(International Monetary Fund・国際通貨基金)、地域貿易協定、中央銀行の協調、国際金融支援などの制度がある。

企業の生産活動も、完成品を一国で製造する形から、複数国で部品と工程を分担する形へ変わった。

そのため、現在の関税は外国製品だけを打撃するとは限らない。

輸入部品に関税がかかれば、国内で完成品を生産する企業の費用も上がる。国内企業を守る目的の関税が、別の国内企業の競争力を下げる可能性がある。

現在と1930年代の最大の共通点は、関税率そのものではない。

国内の経済問題を外国との競争だけで説明し、相手国も対抗措置を取らないと想定し、自国だけが利益を得られると考える危険性である。

14.関税の国内負担は見えにくい

関税政策では、保護される工場や雇用は目に見えやすい。

一方で、負担は広く分散する。

輸入品の価格上昇、原材料費の増加、商品の種類減少、設備投資の遅れなどは、一つ一つが小さく見えるため、政策の費用として認識されにくい。

例えば、鉄鋼への関税は国内製鉄業を支援する可能性がある。

しかし、鉄鋼を使用する自動車、機械、建設、家電などの企業にとっては、材料費の上昇になる。

保護対象産業で雇用が増えても、川下産業の生産や輸出が減れば、国全体の雇用効果は小さくなる可能性がある。

関税政策を評価する場合には、保護対象企業の雇用だけでなく、原材料を使用する産業、消費者物価、輸出、投資への影響まで含めなければならない。

15.報復関税は政治的に選ばれる

相手国が報復関税を課す場合、対象品目は無作為に選ばれるとは限らない。

関税を発動した国の政治的に重要な地域、農産物、象徴的な企業や商品が狙われることがある。

これにより、貿易紛争は経済合理性だけでなく、国内政治の争いになる。

1930年代のスムート・ホーリー関税を扱った研究でも、米国へ抗議した国や報復措置を取った国で、米国の輸出がより大きく減少したことが示されている。

報復の対象となる輸出企業は、自国政府が保護しようとした産業とは別の産業である可能性が高い。

一つの産業を守るための関税によって、競争力のある別の産業が輸出市場を失うことがある。

16.関税は交渉手段として有効か

関税には、交渉相手から譲歩を引き出す手段としての機能もある。

大きな市場を持つ国が輸入制限を示せば、相手国は市場へのアクセスを失わないため、関税、規制、投資条件などについて譲歩する可能性がある。

2026年の米国も、複数国との相互貿易協定や投資協定を進めている。

したがって、関税を常に経済的に無意味な政策と断定することはできない。

しかし、交渉手段として有効であるためには、目的が明確でなければならない。

何を改善すれば関税を撤廃するのか、相手国がどの条件を満たせば合意となるのかが示されなければ、関税は交渉手段ではなく、恒久的な障壁となる。

また、関税を頻繁に発動・変更すれば、企業は将来の税率を予測できず、設備投資や調達先の決定を遅らせる。

政策の不確実性そのものが、経済活動を抑える可能性がある。

17.自由貿易と無防備な依存は同じではない

保護主義への批判は、すべての物資を外国から最安値で輸入すべきだという意味ではない。

自由貿易と無防備な海外依存は別の問題である。

食料、エネルギー、医薬品、半導体、通信設備、重要鉱物などは、供給停止時の社会的損失が大きい。

これらについては、国内生産、複数国からの調達、備蓄、代替技術、再利用などを組み合わせる必要がある。

ただし、国内自給率を100%にすれば安全になるとも限らない。

国内災害、不作、設備事故、労働力不足が起きれば、国内生産だけに依存することも危険である。

重要なのは、自給か輸入かの二者択一ではなく、調達先と生産拠点を分散することである。

18.日本にとっての危険

日本は、資源、エネルギー、食料、原材料の多くを海外から調達し、自動車、機械、電子部品、化学製品などを輸出する経済構造を持つ。

そのため、世界的な保護主義の拡大は、輸出市場の縮小と輸入費用の上昇を同時に引き起こす可能性がある。

日本政府は、WTOを中心とする多角的貿易体制を通商政策の柱としながら、CPTPP(Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership・環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)やRCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership・地域的な包括的経済連携)などの経済連携協定も進めてきた。

外務省の資料によると、日本の貿易総額に占めるEPA(Economic Partnership Agreement・経済連携協定)およびFTA(Free Trade Agreement・自由貿易協定)の相手国・地域の比率は、2023年の対日貿易政策検討時点で約8割とされていた。

これは、世界全体の自由貿易体制が弱まるなかで、一定の国々との安定した貿易ルールを確保する政策である。

ただし、日本も保護主義を批判するだけでは不十分である。

国内農業、エネルギー、重要産業をどの程度守るのか、消費者負担をどう評価するのか、非効率な保護をどのように縮小するのかを説明する必要がある。

19.地域経済への影響

関税や貿易摩擦は、国家間の問題に見えるが、影響は地域経済へ及ぶ。

輸出企業の工場がある地域では、相手国の関税によって生産と雇用が減る可能性がある。

輸入原材料を使う中小企業では、仕入れ価格が上昇する。

農産物への報復関税が行われれば、農村地域の所得に影響する。

港湾、物流、倉庫、運送業も、輸出入量の変化による影響を受ける。

一方、輸入品との競争が弱まることで、国内の一部地域では生産が回復する可能性もある。

重要なのは、国全体の貿易収支だけで判断しないことである。

どの地域、どの業種、どの所得階層が利益を得て、誰が費用を負担するのかを確認しなければならない。

20.危険な保護主義を見分ける基準

保護政策のすべてが危険なのではない。

危険性が高いのは、次の条件が重なる場合である。

対象が広すぎる

安全保障上重要な品目に限定せず、ほとんどすべての輸入品へ関税を課す場合、国内の物価と生産費への影響が大きくなる。

目的が変化する

雇用保護、貿易赤字、安全保障、税収、外交交渉など、政策目的が次々に変われば、終了条件が不明確になる。

期限がない

一定期間で競争力を向上させる制度ではなく、恒久的な保護になれば、企業の改革を妨げる。

効果測定がない

雇用、生産性、価格、輸出、川下産業への影響を検証せず、保護対象企業の生産増加だけを成果とする。

報復を想定しない

相手国が何もせず、自国だけが利益を得ることを前提にしている。

政治的な忠誠心を求める

政策の費用を指摘する者を、国益に反する存在として排除する。

国際ルールを軽視する

自国だけが例外的な措置を取り続ければ、他国も同じ行動を正当化し、共通ルールが崩れる。

21.現実的な産業保護の条件

国内産業を保護する場合には、少なくとも次の条件が必要である。

第一に、保護の目的を明確にする。

国家安全保障、供給網の分散、幼稚産業育成、雇用調整、不公正貿易への対抗など、目的を区別しなければならない。

第二に、対象を限定する。

すべての産業を保護するのではなく、供給途絶時の損失、技術的重要性、代替可能性を基準に選ぶ。

第三に、期限を設ける。

一定期間後に、保護の継続、縮小、廃止を検証する。

第四に、成果指標を定める。

生産量だけでなく、生産性、研究開発、価格、輸出能力、雇用、供給安定性を測る。

第五に、消費者と川下産業への費用を公開する。

保護対象だけを見ず、経済全体の負担を示す。

第六に、国際協調を優先する。

不公正な補助金や強制労働などは、一国の関税だけでなく、複数国の共同ルールで対応した方が正当性と効果を高めやすい。

22.歴史が示す最も危険な兆候

過去200年を振り返ると、最も危険なのは、関税の高さだけではない。

危険な兆候は、国内の複雑な問題を外国の責任だけで説明することである。

工場閉鎖には、輸入競争だけでなく、技術変化、経営判断、国内需要、為替、設備投資、教育、人材不足などが関係する。

賃金停滞や地域衰退も、貿易だけでは説明できない。

それにもかかわらず、外国製品や外国人を原因として示せば、政治的には理解されやすい。

関税は、政府が何かをしていることを示す象徴的な政策になる。

しかし、原因の分析が誤っていれば、関税を課しても問題は解決しない。

輸入品価格が上がり、相手国の報復を招き、国内企業の生産費が増えた後も、技術力、教育、設備、人材、地域格差の問題は残る。

結論~保護すべきものは産業だけではない

保護主義には、国内産業、雇用、安全保障を守るという理解しやすい目的がある。

不公正な補助金、強制労働、過剰生産、経済的威圧、重要物資の供給途絶に対して、何の対策も取らないことが正しいとはいえない。

一方、過去200年の歴史は、広範で恒久的な保護政策が、価格上昇、企業の非効率化、報復措置、輸出市場の縮小、国際関係の悪化をもたらし得ることを示している。

スムート・ホーリー関税法は、世界恐慌を単独で引き起こしたわけではない。しかし、自国産業を守るはずの政策が相手国の報復を招き、国際協力を弱め、危機をさらに深刻化させた歴史的事例である。

令和の現在と1930年代は同じではない。

しかし、自国だけが関税によって利益を得られると考えること、相手国の反応を軽視すること、国内問題を外国の責任に単純化すること、政策の期限と検証を設けないことには、共通する危険がある。

自由貿易を守ることは、国内産業を放置することではない。

必要なのは、供給網を分散し、重要産業を限定的に支援し、損失を受ける労働者と地域を支え、不公正な競争には国際ルールで対処することである。

保護すべきものは、特定企業の現在の利益だけではない。

国民の生活、産業の将来の競争力、地域雇用、外交関係、そして予測可能な国際秩序を同時に守る必要がある。

保護主義の影が濃くなる時代だからこそ、関税を支持するか反対するかという単純な二者択一ではなく、誰を、何から、どの費用で、いつまで守るのかを問い続けなければならない。

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はじめに~党首候補を選ぶことは、政治家の人気順位をつけることではない

本稿は、特定の政党や政治家への支持を呼びかけるものではない。

令和8年7月末時点で国会に議席を持つ政党について、現在の党首以外から次の指導者を選ぶとすれば、どのような人物が適切なのかを検討するものである。

ただし、すべての政党について、無理に「現職より優れた人物」を挙げることはしない。

現職党首を交代させる合理性が乏しい政党もある。

後継者候補が十分に育っていない政党もある。

代表選挙を終えたばかりで、新代表の運営を検証すべき段階にある政党もある。

党首候補の評価は、知名度、交流サイトでの人気、演説のうまさ、政治的な好き嫌いだけでは決められない。

本稿では、次の七項目を共通の評価軸とする。

  1. 党の理念と政策との整合性
  2. 政策を制度や法案へ落とし込む能力
  3. 国会で質問や批判に答える説明力
  4. 党内の異なる意見を調整する能力
  5. 他党、官僚、自治体との交渉能力
  6. 誤りや不祥事に対応し、組織を修正する能力
  7. 代表個人に依存しない政党をつくる能力

強い言葉で支持者を集めることと、政党を運営することは異なる。

党首は、支持者の感情を代弁するだけではなく、党内をまとめ、政策の費用を説明し、他党と協議し、必要な場合には妥協や修正を受け入れなければならない。

令和8年7月末の国会勢力

令和8年2月18日時点の衆議院では、自由民主党・無所属の会が316人、中道改革連合・無所属が48人、日本維新の会が36人、国民民主党・無所属クラブが28人、参政党が15人、チームみらいが11人、日本共産党が4人となっている。参議院には、これらに加えて、れいわ新選組、社会民主党、日本保守党などに所属する議員もいる。

以下では、国会に所属議員を持ち、政党として継続的な活動を行っている各党を検討する。


自由民主党~次期総裁候補として小林鷹之氏をどう評価するか

令和8年7月時点の自由民主党総裁は高市早苗氏である。

党役員は、麻生太郎副総裁、鈴木俊一幹事長、有村治子総務会長、小林鷹之政務調査会長、西村康稔選挙対策委員長らで構成されている。

現職総裁を除いて次の候補を考える場合、小林鷹之氏が有力候補の一人になる。

小林鷹之氏を候補とする理由

第一に、政務調査会長として、自民党の政策全体を取りまとめる立場にあることである。

自民党総裁には、外交、安全保障だけでなく、財政、社会保障、医療、農業、地方経済、教育、エネルギーなどを総合的に扱う能力が必要になる。

特定分野で目立つことより、党全体の政策を調整した経験の方が、総裁候補として重要である。

第二に、世代交代を示せることである。

自民党は、長年の政権運営によって行政、業界団体、地方組織との関係を蓄積している。

一方で、特定の長老政治家や過去の派閥構造への依存が続けば、組織の更新が遅れる。

小林氏が総裁候補になることには、従来の自民党の政策基盤を維持しながら、執行部を次世代へ移す意味がある。

第三に、経済安全保障や産業政策を重視する点で、高市路線の一部を引き継ぎながら、より政策実務型の運営へ移行できる可能性がある。

小林氏の課題

一方、小林氏が党全体をまとめられるかは、まだ十分に証明されていない。

自民党には、積極財政派、財政規律派、保守派、穏健派、地方組織、農業団体、経済界など、複数の利害が存在する。

政策に詳しいことと、相反する利害を調整できることは別の能力である。

総裁候補として評価するには、保守的な支持層だけでなく、地方、高齢者、若者、無党派層にも説明できる政治的な幅が必要になる。

自民党に必要な党首像

自民党に必要なのは、高市氏以上に強い言葉を使う人物ではない。

強い衆議院基盤を持っていても、参議院、野党、官僚、地方自治体との調整を軽視しない人物である。

現段階では、小林鷹之氏は有力な次世代候補であるが、総裁としての適性は、党内調整と国会運営の実績によって今後確認される必要がある。


中道改革連合~岡本三成氏は旧来の二つの政治文化を統合できるか

衆議院では、中道改革連合・無所属が48議席を持っている。

この政党にとって最大の課題は、単に党首を交代することではない。

異なる政治文化や支持基盤を持つ議員を、一つの政策政党として統合できるかどうかである。

仮に現職代表以外から選ぶなら、政策調整を担う岡本三成氏が候補となる。

岡本三成氏を候補とする理由

中道を掲げる政党では、右派と左派の中間にいるだけでは不十分である。

どの分野では政府の役割を強め、どの分野では民間活力を使うのか。

安全保障と平和主義をどう両立するのか。

社会保障をどこまで拡充し、その財源をどこに求めるのか。

これらを一つの政策体系として説明しなければならない。

岡本氏のような政策責任者には、旧来の出身母体や支持団体を超えて、党の基本政策を作り直す役割が期待される。

岡本氏の課題

中道政党は、主張が穏健であるだけでは支持を得にくい。

何を守り、何を変えるのかが曖昧であれば、与党と野党の間で態度を決められない政党に見える。

岡本氏が党首となる場合には、生活者重視、立憲主義、福祉、財政、外交について、明確な優先順位を示す必要がある。

また、出身母体の一方だけを代表する人物と受け取られれば、党内統合が難しくなる。

中道改革連合に必要な党首像

この党に必要なのは、テレビで目立つ人物より、複数の政治文化を政策として統合できる人物である。

現段階では岡本三成氏が候補になるが、党名どおりの「中道」を、単なる妥協ではなく政策原理として説明できるかが問われる。


日本維新の会~現職以外の明確な代替候補はまだ育っていない

日本維新の会では、吉村洋文氏が代表、藤田文武氏が共同代表として活動している。党の公式情報でも、藤田氏の共同代表としての会見や、吉村代表と藤田共同代表が並ぶ活動が確認できる。

現在の両氏を除いた場合、直ちに全国政党の代表を任せられる人物は明確ではない。

維新の課題は後継者不足より地域依存である

維新は大阪での知名度と行政実績を強い基盤としている。

しかし、全国政党としては、人口減少地域の医療、農業、鉄道、バス、学校、上下水道など、大都市型改革だけでは対応できない問題を扱わなければならない。

大阪で成立した政策が、財政規模や人口密度の異なる地方でそのまま再現できるとは限らない。

無理に代替候補を挙げるべきではない

党首候補の記事では、すべての政党に一人ずつ名前を挙げたくなる。

しかし、十分な実績が確認できない人物を、形式的に候補とすることは客観的ではない。

維新の場合、現在の代表・共同代表を除くと、全国的な党務、政策、国会運営を総合的に担当した候補者層が薄い。

したがって、現段階で必要なのは交代ではなく、大阪以外の議員を政策責任者や国会責任者として育てることである。


国民民主党~榛葉賀津也氏は玉木依存を解消できるか

国民民主党では、玉木雄一郎氏が代表、古川元久氏が代表代行、榛葉賀津也氏が幹事長、浜口誠氏が政務調査会長を務めている。

玉木代表以外から選ぶ場合、榛葉賀津也氏が最も現実的な候補である。

榛葉賀津也氏を候補とする理由

国民民主党は、政策ごとに与党とも野党とも協議する立場を取っている。

この姿勢には、政党間対立に縛られず、政策実現を優先できる利点がある。

一方で、判断基準が不明確であれば、与党と野党の間で都合よく立場を変えているように見える。

榛葉氏には、党の判断や他党との違いを、比較的明確な言葉で説明する力がある。

また、代表交代によって「玉木氏個人の党」という印象を弱め、組織政党へ移行する意味もある。

榛葉氏の課題

発信力だけでは党首は務まらない。

国民民主党が掲げる減税、手取り増加、エネルギー政策、賃金上昇などについて、社会保障、地方財政、国債、物価との整合性を説明する必要がある。

榛葉氏が代表となる場合、短い言葉で注目を集める能力に加えて、中長期的な制度設計を示せるかが問われる。

国民民主党に必要な党首像

国民民主党が今後さらに議席を増やすには、人気のある代表だけでなく、政策判断の基準を党全体で共有する必要がある。

榛葉氏は有力候補だが、代表個人が変わっても政策が継続する組織を作れるかが重要である。


参政党~吉川里奈氏は党の個人依存を弱められるか

参政党では、神谷宗幣氏が代表、吉川里奈氏が副代表、松田学氏が代表代理、安藤裕氏が幹事長、豊田真由子氏が政務調査会長を務めている。

神谷代表以外から選ぶ場合、吉川里奈氏が候補となる。

吉川里奈氏を候補とする理由

参政党は、神谷氏の発信力、党組織づくり、街頭活動によって拡大した政党である。

しかし、規模が大きくなるほど、創設期の指導者一人に依存する運営には限界が生じる。

吉川氏は副代表として、次の指導者候補に位置づけられる立場にある。

女性、子育て世代、生活者の問題をより前面に出すことで、国家観、歴史、外国人政策などに偏って見られやすい党の政策領域を広げる可能性もある。

吉川氏の課題

副代表であることだけで、党首としての能力が証明されるわけではない。

参政党が掲げる医療、食、教育、農業、主権、外国人政策などには、科学的・法的な検証を要する論点が多い。

党首には、支持者が好む情報だけでなく、反証や専門家の批判も取り上げる姿勢が必要である。

参政党に必要な党首像

参政党に必要なのは、神谷氏以上に刺激的な言葉を使う人物ではない。

党の主張を、統計、法令、財源、政策効果によって検証し、誤りがあれば訂正できる仕組みをつくる人物である。

吉川氏は候補となり得るが、その評価は政策検証と党内統治の実績によって決まる。


チームみらい~古川あおい氏は将来候補だが、現時点で党首交代は早い

チームみらいは、安野貴博氏が立ち上げた政党であり、公式にも安野氏が党首とされている。令和8年衆議院選挙後は11議席を持つ会派となった。

現時点で安野氏を交代させる合理性は低い。

ただし、将来的な候補としては、政務調査会長を務める古川あおい氏が考えられる。

古川あおい氏を候補とする理由

古川氏は厚生労働省、公共政策、データサイエンス、金融機関、技術企業での経験を持ち、令和8年の衆議院選挙で当選後、政務調査会長を務めている。

チームみらいが技術政党から総合政党へ発展するには、行政実務、医療、介護、社会保障などを理解する人材が必要である。

古川氏の経歴は、技術だけでなく社会政策を扱ううえで一定の強みとなる。

現時点では交代させるべきでない理由

チームみらいは誕生から日が浅く、安野氏の理念と組織が強く結びついている。

党の政策体系、組織文化、地方基盤が固まる前に党首を交代すれば、政党の方向性が不明確になる可能性がある。

古川氏は将来候補ではあるが、現在は安野氏の下で政策実績を蓄積すべき段階である。


日本共産党~山添拓氏は世代交代と組織改革を両立できるか

日本共産党では田村智子氏が委員長を務め、志位和夫氏が議長を務めている。

田村委員長以外の候補としては、山添拓氏が有力である。

山添拓氏を候補とする理由

山添氏は法律、憲法、労働、安全保障などについて、論点を整理して説明できる政治家の一人である。

共産党の政策を、従来の支持層だけでなく、若年層や無党派層へ説明する役割を担える可能性がある。

また、長期間にわたって同じ世代の指導部が中心となってきた党において、世代交代を示す意味もある。

山添氏の課題

日本共産党の課題は、委員長一人を若返らせれば解決するものではない。

党内の意思決定、異論の扱い、党員減少、他党との協力、安全保障政策、企業政策などについて、組織全体の見直しが必要になる。

若い指導者を就任させても、従来の意思決定構造が変わらなければ、党の外部からは実質的な変化と評価されにくい。

日本共産党に必要な党首像

共産党に必要なのは、理念を薄める人物ではない。

平和、人権、労働、格差是正という理念を維持しながら、異論を認め、政策変更の過程を公開し、他党と現実的な協議ができる人物である。

山添氏にはその可能性があるが、党首交代と組織改革を一体で行えるかが問われる。


れいわ新選組~山本譲司新代表を中心に、党そのものを再構築する段階に入った

れいわ新選組については、前稿の評価を全面的に改める必要がある。

2026年7月31日に行われた代表選挙では、山本譲司衆議院議員が新代表に選出された。

党の公式活動では「山本ジョージ」の表記も用いられているが、山本譲司氏と同一人物である。

代表選には山本氏、阪口直人前衆議院議員、石井れいこ三鷹市議会議員が立候補し、山本氏が過半数を得た。新代表は、地域の問題を吸い上げて政策を作る、ボトムアップ型の党運営を掲げている。

大石あきこ氏を次期代表候補とする評価が適切でない理由

大石あきこ氏は、山本太郎氏の下で共同代表や政策責任を担った人物である。

しかし、党首候補として評価するには、発信力や支持者への訴求力だけでは不十分である。

党内の異論をまとめる力、他党との政策協議、組織の混乱への対応、選挙結果に対する責任、党外の人々への説明力が必要になる。

れいわ新選組は、令和8年2月の衆議院選挙で山本譲司氏一人の当選にとどまった。党公式の選挙結果でも、比例南関東ブロックの山本氏一人の当選が示されている。

この結果を踏まえれば、従来の執行部の延長線上で党を立て直すより、党運営の原理そのものを再検討する必要がある。

新代表選挙で山本譲司氏が選ばれたことは、党員や構成員が従来とは異なる指導者像を選択した結果と見るべきである。

したがって、現時点で大石氏を代表候補として推す合理性は乏しい。

山本太郎氏の辞任と、れいわの転換点

山本太郎氏は、健康上の問題などを理由として代表辞任と政界引退を表明した。

辞任会見では、自身が代表でなくても党が動く仕組みづくりを進めてきたと説明している。

れいわ新選組は、山本太郎氏の演説力、知名度、個人的な求心力によって成長した政党である。

その功績は大きい。

一方で、代表個人への依存が強かったため、代表の健康問題や活動縮小が、そのまま党全体の危機につながった。

山本譲司新代表に求められるのは、山本太郎氏の話し方や政治手法を再現することではない。

山本太郎氏が一人で担っていた役割を、複数の責任者へ分けることである。

山本譲司氏を評価するうえで避けて通れない過去

山本譲司氏は、過去に秘書給与をめぐる事件で有罪判決を受け、服役した経歴を自ら公表している。

党の公式プロフィールでも、その過去を隠さず、服役中に高齢者や障害者の置かれた状況を知り、その後の福祉活動や更生支援へつながったと説明している。

この経歴をどのように評価するかは慎重でなければならない。

過去に有罪判決を受けたという事実は、政治家として軽視できない。

公金や政治活動に関する不正であれば、特に説明責任が問われる。

一方で、刑を終えた人物が、その経験を基に福祉、更生支援、再犯防止へ取り組むことまで否定すべきではない。

法治国家では、刑を終えた人物の社会復帰も重要な原則である。

したがって、山本氏を評価する際には、過去を隠していないか、責任を認めているか、その後の活動に一貫性があるか、新たな不正がないかを確認すべきである。

過去の一件だけで永久に排除することも、現在の福祉活動を理由に過去の責任を消すことも、どちらも適切ではない。

山本譲司新代表に期待できる点

第一に、福祉や社会的孤立を、理念ではなく現場経験から語れることである。

山本氏は、服役経験や更生支援活動を通じて、刑務所、高齢者、障害者、出所者などの問題に関わってきた。

れいわ新選組が従来掲げてきた「弱い立場の人を切り捨てない」という理念を、より具体的な福祉政策へ発展させられる可能性がある。

第二に、地域の問題を吸い上げるボトムアップ型の党運営を表明していることである。

山本太郎氏の街頭演説を中心とする党から、地方議員、党員、当事者団体、地域組織が政策形成に関わる党へ変わるなら、組織としての持続性は高まる。

第三に、個人中心型の政党から制度中心型の政党へ移行する機会になることである。

山本譲司新代表の重大な課題

第一に、党の信頼回復である。

山本氏自身の過去に加え、党勢の縮小、離党者、内部対立、山本太郎氏への依存など、複数の問題を抱えている。

新代表は、批判を敵意として退けるのではなく、党内外からの検証を受け入れなければならない。

第二に、消費税廃止や積極財政を、標語ではなく制度として説明することである。

山本氏は代表就任時、消費税廃止を引き続き訴える考えを示した。

しかし、消費税を廃止するなら、地方消費税を含む税収減をどう補うのか。

社会保障財源をどう確保するのか。

供給力が不足する局面で物価にどう影響するのか。

国債発行をどこまで許容するのか。

これらを具体的に説明する必要がある。

第三に、攻撃的な政治文化を改めることである。

れいわ新選組の一部の発信では、政府、他党、報道機関、批判者を強い言葉で非難する傾向が見られた。

支持者を熱狂させることはできても、他党との法案協議や幅広い有権者の信頼にはつながりにくい。

山本新代表が掲げるボトムアップ型運営が本物であるなら、党内の反対意見や批判者の声も政策へ反映しなければならない。

第四に、山本太郎氏の影響力との関係を整理することである。

創設者への敬意は必要である。

しかし、新代表の決定が常に前代表の意向によって左右されるなら、代表交代は形式的なものになる。

れいわ新選組に必要な再構築

れいわ新選組を倫理的・論理的に再構築するには、少なくとも次の改革が必要である。

1.責任と権限を明確にする

代表、幹事長、政策責任者、国会対策責任者、選挙責任者の権限を分ける。

誰が何を決めたのかを公開する。

2.代表選挙と役員選任を定例化する

代表交代が危機時だけに行われるのではなく、一定期間ごとに党員が選択できる仕組みにする。

3.政策の費用と副作用を示す

消費税廃止、給付、社会保障拡充などについて、利益だけでなく、財源、物価、地方財政、実施時期を明示する。

4.党内の異論を認める

政策に反対した議員や党員を敵視せず、少数意見を記録する。

5.個人攻撃を禁止する

政府や他党への批判は、政策、法案、予算、発言記録に限定する。

支持者による過度な攻撃にも明確な態度を示す。

6.地方議員と当事者の声を政策へ反映する

ボトムアップを掲げるなら、地域組織から提出された意見が、どのように政策へ反映されたかを公開する。

れいわ新選組の現段階の評価

れいわ新選組については、もはや「現職代表以外なら誰がよいか」を論じる段階ではない。

山本譲司氏が2026年7月31日に新代表へ選ばれた直後であり、まずその運営を検証すべき段階である。

したがって、本稿の結論は次のようになる。

れいわ新選組では、新たな代替候補を探すより、山本譲司新代表がボトムアップ型運営、政策の具体化、組織の透明化、攻撃的文化の修正を実行できるかを見極めるべきである。

山本氏がこれらを実現できなければ、代表交代は人物の入れ替えにとどまる。

実現できれば、山本太郎氏の個人的求心力に依存した政党から、制度によって存続できる政党へ移行する転機となる。


社会民主党~大椿ゆうこ氏は党の世代交代を担えるか

社会民主党では、令和8年4月の党首選挙で福島みずほ氏が再選された。

再選挙では、福島氏が2364票、大椿ゆうこ氏が1792票を獲得している。

現職以外の候補としては、大椿氏が最も自然である。

大椿ゆうこ氏を候補とする理由

大椿氏は党首選で相当数の支持を得ており、党内で実際に後継候補として認められた人物である。

非正規雇用や労働問題に取り組んだ経験があり、社民党の労働、人権、社会保障という理念との整合性もある。

大椿氏の課題

社民党の問題は、党首を交代すれば解決するものではない。

国会議員数、地方組織、資金、候補者育成、政策立案人材が不足している。

また、令和8年の党首選後の記者会見では、大椿氏らへの発言機会をめぐって会見運営が問題となり、福島党首が配慮不足を謝罪した。

少数意見や党内対立をどう扱うかは、社民党自身が掲げる民主主義や人権の理念にも関わる。

社民党に必要な党首像

社民党には、福島氏の知名度に依存する状態から脱し、地方議員、労働運動、若い党員を結びつける人物が必要である。

大椿氏は候補となるが、党内対立を激化させるのではなく、世代交代を組織再建へつなげられるかが問われる。


日本保守党~有本香氏は候補になり得るが、党首交代だけでは個人依存は解消しない

日本保守党では百田尚樹氏が代表・創設者、有本香氏が事務総長を務めている。

現職代表以外から選ぶ場合、組織運営を担う有本香氏が候補になる。

有本香氏を候補とする理由

有本氏は事務総長として、党務、候補者、組織運営に深く関与している。

百田氏の知名度だけでなく、実際の政党運営を理解している人物という点では、後継候補として自然である。

有本氏の課題

日本保守党は、百田氏と有本氏の二人への依存が強い。

代表を百田氏から有本氏へ交代しても、少数の創設者に権限が集中する構造が変わらなければ、組織政党への移行にはならない。

また、保守的な価値観を語るだけでなく、財政、社会保障、医療、地方経済、農業、外交を総合的に扱う政策体制が必要になる。

日本保守党に必要な党首像

日本保守党に必要なのは、百田氏と同じ言葉を使う人物ではない。

保守理念を法案、予算、行政制度へ変換し、党内に複数の政策責任者を育てられる人物である。

有本氏は候補となるが、個人中心型の組織を制度中心型へ変えられるかが評価の中心となる。


各党に共通する最大の課題~代表個人への依存

現在の日本の政党には、代表個人の知名度や発信力に依存する傾向がある。

国民民主党は玉木雄一郎氏。

参政党は神谷宗幣氏。

チームみらいは安野貴博氏。

れいわ新選組は長く山本太郎氏。

日本保守党は百田尚樹氏。

こうした人物の発信力が、政党の成長に貢献したことは否定できない。

しかし、その人物が離れたときに党が機能しなくなるなら、政党として成熟しているとはいえない。

成熟した政党には、少なくとも次の機能が必要である。

  • 党の理念を説明する代表
  • 政策を設計する責任者
  • 国会を運営する責任者
  • 選挙と候補者育成を担う責任者
  • 地方組織をまとめる責任者
  • 財政、法令、統計を検証する専門組織
  • 代表に反対意見を述べられる幹部

最も優れた党首とは、自分以外の有能な政治家を排除する人物ではない。

自分が退任しても機能する政党を残す人物である。

令和8年の日本に必要な党首の共通条件

第一に、利益だけでなく費用を説明できること

減税、給付、防衛、教育、医療、公共交通、社会保障には費用が伴う。

誰が利益を得るのかだけでなく、誰が負担するのかを説明できなければならない。

第二に、支持者以外へ説明できること

支持者だけを喜ばせる政治家は、党内の人気者にはなれても、国全体を率いることはできない。

反対する有権者の疑問に答えられる人物が必要である。

第三に、誤りを修正できること

一度示した政策を絶対に変えないことが、信念の強さとは限らない。

事実や環境が変われば、政策も修正する必要がある。

第四に、地方の生活基盤を理解していること

大都市では市場で維持できるサービスも、人口減少地域では維持できない。

病院、学校、鉄道、バス、上下水道、介護などを、採算性だけで判断しない人物が必要である。

第五に、党内の異論を排除しないこと

党首の意見に反対した議員を敵視する政党は、政策の誤りを修正できない。

少数意見を記録し、議論できる組織が必要である。

総合評価

現職党首以外を前提にした場合、現段階の候補は次のように整理できる。

自由民主党では小林鷹之氏。

中道改革連合では岡本三成氏。

国民民主党では榛葉賀津也氏。

参政党では吉川里奈氏。

日本共産党では山添拓氏。

社会民主党では大椿ゆうこ氏。

日本保守党では有本香氏。

日本維新の会は、現在の代表・共同代表を除く明確な全国党首候補がまだ育っていない。

チームみらいでは古川あおい氏が将来候補になり得るが、現時点で安野貴博氏を交代させる合理性は低い。

れいわ新選組では山本譲司氏が2026年7月31日に新代表へ選ばれたばかりであり、次の候補を探す段階ではない。

山本新代表が、党の透明化、ボトムアップ型運営、財源を含む政策説明、個人依存からの脱却を実現できるかを検証すべき段階である。

結論~望ましい党首は、支持者を最も熱狂させる人物ではない

党首は、政党で最も有名な人物である必要はない。

最も攻撃的な人物でも、最も交流サイトで拡散される人物でもない。

必要なのは、党の理念を政策へ変え、費用を説明し、異論を調整し、他党と交渉し、誤りを修正できる人物である。

また、現職党首以外の名前を挙げること自体が目的であってはならない。

代替候補が育っていないなら、その事実を指摘すべきである。

新代表が選ばれた直後なら、その人物の実績を確認するべきである。

現職が党の発展に必要なら、交代を急ぐべきではない。

れいわ新選組の代表交代は、この問題を象徴している。

山本太郎氏の強い個人的求心力によって成長した党が、山本譲司新代表の下で、制度と組織によって存続できる党へ変われるのか。

これは、れいわ新選組だけの問題ではない。

日本のすべての政党に共通する課題である。

党首交代が政党の危機になるのではなく、党首交代によって政策と組織が更新される。

そのような政党が増えることが、議会制民主主義を安定させるために必要なのである。

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